『ハドラー対バラン』(2021.10.23)

  
 


《粗筋》

 ハドラーの放つ魔法の光に、思わず怯むダイとバラン。
 が、それは牽制ですらない囮だった。二人が魔法に気を取られた一瞬の間に、バランの後ろへと回り込んだハドラーは両の拳を組み合わせ、渾身の力でバランに殴りかかる。

 不意を突かれ、床に叩き落とされるバラン。驚くダイに対して、ハドラーは不敵な笑みを浮かべる。
 ダメージを受けている様子のバランを見て、怒りを感じたのかハドラーに向き直るダイ。

 ベギラマを放とうとするダイだが、バランはダイの名を呼ぶことでそれを制止した。
 ハッとして魔法を消したダイだが、そこにすかさずハドラーの拳が叩き込まれ、壁に叩き飛ばされるダイ。

 自分のすぐ近くに落下してきたダイに、思わず目をやるバランだが、その時にはハドラーは両手を広げてベギラゴンの魔法の体勢に入っていた。
 魔法を自制しているダイ達にとっては、ハンデがありすぎる状態だ。

 だが、ハドラーは容赦なくベギラゴンを叩き込んでくる。
 業火がダイとバランを包み、部屋一面が煙に覆われた。だが、魔法を放ち終わった後も微塵も油断することなく、煙が薄れるのを身構えたまま待つハドラー。

 その顔には、わずかに勝利の喜びが浮かんでいた――が、煙が薄らぐにつれ、その顔が警戒に引き締まる。
 ダイとバランは、それぞれ竜の紋章を光らせて自分の体を覆うぐらいの大きさの球体状のバリアーを張っていた。

 バリアーを解除して立ち上がったバランを見て、ハドラーは親子そろって竜闘気で防御したかと、忌々しげに呟く。





 一方、玉座で戦いを見物していたバーンは、バランが黒の核晶に気がついたことを察知していた。
 ミストバーンに対して、バーンは良かったなと言葉をかける。
 竜の騎士の必殺技は威力が強すぎるため、黒の核晶を誘爆させる可能性が高い。それを恐れて力を抑え続けるのなら、ハドラーにも勝ち目があるかもしれない。
 
 それを聞いて、ハドラーに改めて注目するミストバーン。
 ミストバーンの見つめる水晶玉の中で、ハドラーがダイ達の前に降り立っていた。





 ダイ達の前に降り立ったハドラーは、なぜ本気を出さないのかと二人に向かって怒りをぶつけていた。
 ハドラーはダイの力を引き出そうとするかのように、アバンのことに触れ、師の恨みを忘れたのかと挑発さえする。

 だが、それを悔しく思っても、ハドラーが自分で自分の胸を殴りつける仕草を見て、思わず身を竦めるダイ。
 何も無いことに安堵しながらも、ダイはハドラーが爆弾についてなにも知らないことに気づく。

 爆弾のことをハドラーに教えれば戦わずに済むかもと思ったダイは、意を決してハドラーに話そうとする。
 が、バランが思念派で教えてはいけないと止めた。

 どうして、と問うダイに、バランは説明する。
 黒の核晶は制作者の意志で、随時爆破させることが可能。もし、ハドラーが真相を知って反旗を翻した場合、彼が黒の核晶ごと自分の所に戻ってくることを拒むためにバーンは黒の核晶を爆破させると予想するバラン。

 また、バランは自分とダイは竜闘気で生き残れる可能性があるが、地上にいるダイの仲間達は絶対に助からないと断言する。
 事情が分からぬまま、急かすハドラーに対し、ダイは暗い表情で黙り込むばかりだ。

 何か企んでいるのかと、業を煮やしたように近づいてくるハドラーに対して、それをキッパリと否定したバランはギガディンの呪文を唱えた。
 バランの手にした真魔剛竜剣が、雷気を帯びて輝き出す。
 それを見て、ダイは驚きの表情を、ハドラーはそれを喜んでいるかのような表情を浮かべる。

 これまではハドラーの力を見ていただけだといい、最強剣で勝負すると言い切るバラン。
 その説明に納得し、ハドラーもまた腕から剣を生み出し満足そうに笑う。

 事情を知っているダイは、突然、戦う意志を見せるバランに戸惑うが、バランはハドラーの黒の核晶をこの場で爆発させると決めた。
 ハドラーの首を一瞬で落とせば、誘爆を防げる。バーンが爆破させるにしても、間が生じる。
 その隙に黒の核晶を竜闘気で押さえ込んで、爆破のダメージを最小限で押さえ込む作戦だ。

 無茶だと反対するダイ。
 それにはすぐ応えず、ただ、ハドラーと向かい合うバラン。
 バランは前を見据えたまま、ダイに自分を信用しているか、と問う。少しためらうダイに、バランは重ねてどうなんだ、と問いかけた。

ダイ『(強さだけなら、誰よりも……)』

 ダイの答えに満足し、ダイを信頼していると告げるバラン。
 ダイの成長を褒めるバランだが、この作戦は自分にしか実行できないから信頼して欲しいと頼む。
 ダイは万が一に備え、仲間達を撤退させるようにと告げるバラン。

 ギガディンで天井に開いた穴から地上に飛ぶようにと言うバランに、ダイも上を見上げる。大きく開いた穴からは、暗雲の空が垣間見えた。
 ハドラーは自分が引き受け、バーンとの戦いはダイに託す……それが、バランの結論だった。
 必ず勝てと言い残すバランは、その時、初めてダイに目を向ける。
 
 その後、バランはダイの返事を待たずに正面を向き、戦いに備えて闘気を高めだした。ハドラーもそれに呼応するように、やはり闘気を高める。
 二人の吠えるような雄叫びがこだまし、闘気の余波により床が割れ、破片が舞い上がり出す。
 それを、呆然と見るだけしかできないダイ。

 お互いの力の高ぶりを実感し、ハドラーはさも楽しげに現状を語り出す。
 互いに必殺の一撃を持つ自分達の戦いに、二撃目はない、と。先にどちらが当てるかの勝負になると語るハドラーは、これが本望とばかりに高揚感に溢れている。

 見守っているダイは、自分も力を貸した方がいいのではないかと考え出す。手にした剣を鞘に収め、竜の紋章を手に浮かべて黒の核晶爆発を抑えるための準備を始めた。

 しかし、バランは振り向きもせずにそれを止めた。
 タイミング勝負なだけに余計な真似をされると、失敗の公算が高くなる。それでも食い下がろうとするダイに、自分を信頼しているのでは無かったのか、と問いただすバラン。

 ダイは一瞬迷うように俯き、それから決意を決めた目で顔を上げた。
 一旦脱出し、ポップ達を逃がしたらすぐに助けに来ると告げるダイ。その目には、強敵へと挑む背を向けたままの父親の姿が映り込んでいた。
 絶対に失敗しないよね、と念を押すダイの言葉に、力強く頷くバラン。

 その時、空に浮かんでいた床の欠片のいくつかが、落下して堅い音を響かせた。

 そして、ついにバランはハドラーに攻撃を仕掛ける。
 ダイに行くように促しながら、ハドラーへと向かっていくバラン。同時にハドラーも、バランめがけて踏み出した。

 両者が激突する前に、ダイは空中へひょいと跳び上がるが、その目は二人の姿に釘付けにされたままだ。気になって仕方が無いのか、空中で動きが止まる。

 バランのギガブレイクと、ハドラーの超魔爆炎覇が同時に打ち出される。ハドラーの魔炎気に一瞬怯むバラン。
 それを好機と斬りかかろうとするハドラーだが、バランが顔につけたドラゴンファン具を毟り取り、それをハドラーの腕へ突き刺した。

 腕を切られた痛みに、今度はハドラーが怯み、一歩後ずさる。
 その隙を逃さず、バランの必殺の一撃がハドラーを捉える。

 天井の穴から出る寸前だったダイも、それを見て思わず振り返った。だが、その目が驚きに見開かれる。
 驚愕していたのは、バランも同じだった。

 バランの必殺の一撃は、確かに狙い通りハドラーの首を捉えていた。だが、刃がわずかに首に食い込んだだけで、致命傷とはほど遠い。
 怒りの目で自分の傷を一瞥したハドラーは、左手から地獄の爪(ヘルズクロー)を出現させ、身構えた。
 危ないと、思わず叫ぶダイ。

 拳を握りしめ、バランヘと爪を向けるハドラー。
 その時、赤い血が激しく噴き上がった。
 バランの、そしてハドラーの顔にも血飛沫が飛ぶ。
 その血の源は、バランを庇うように割り込んだダイだった。ハドラーの必殺の爪は、ダイの腹部に深々と刺さっていた。

ハドラー「ダ……ダイ……ッ!?」

 戸惑うようなハドラーの爪から、ダイの身体が抜け落ちて落下していく。ゆっくりと落ちる我が子の姿を見て、バランは我を忘れて叫んでいた。

バラン「ディ……ディーノ!?」






 驚きの表情を浮かべた後、苦痛に顔を歪めながら落下していくダイ。
 驚き、必死に下を見るバランが何か叫んでいるのか口を動かしている姿が見えるが、声は聞こえなかった。
 浮くことも出来ず、床に叩きつけられたダイは、そのまま動かない。

 意外な成り行きに戸惑いと怒りを感じるハドラーだったが、バランのそれはハドラー以上だった。苛立りのままにハドラーを蹴り飛ばし、壁に叩きつけるバラン。

 ハドラーがその後どうなったのか目も向けず、バランは落下よりも速い速度でダイの元へと舞い降りる。真魔剛竜剣を床に突き立て、バランはダイを抱え上げて必死に「ディーノ」と呼びかける。

 返事も出来ずにぐったりしているダイの傷の深さに、さすがのバランも焦りを感じる。
 その時、ダイがやっと意識を取り戻した。
 「ディーノ」という呼びかけが自分のことだと気づくのに一拍かかるダイは、見るからに弱っていた。

 バランの失敗を責めることなく、前に戦った時のギガブレイクとの威力の差を疑問に感じるダイ。
 だが、それを喋るだけで血を吐くような重傷のダイを気遣い、バランはダイに回復呪文をかけ始める。

 が、その時、背後にハドラーが降り立った。
 切られたはずの首を押さえ、なぜ切り落とされなかったのかと疑問を感じるハドラー。
 バランならば、それぐらい出来ると確信しているだけに納得いかず、苛立つハドラーは「なぜだ」と叫びながら壁を叩く。

 その質問に答えると言いながら、床からヌゥッと現れたのはキルバーンだった。
 ダイの治療を続けながらも、バランはキルバーンがまだ生きていたことに驚く。

 死神が殺されちゃ洒落にならないと、ふざけて応えるキルバーン。
 確かに胴切りにしたはずだというバランに、それが良くなかったと説くキルバーン。

 キルバーンの血液は魔界のマグマと同じ成分であり、金属に対する腐蝕能力がある。そのせいで、真魔剛竜剣の切れ味は半減していた。
 雑魚相手ならいざ知らず、ハドラーぐらい実力が拮抗した相手には、通用しないと言ってのける。

 これは自分の呪いだと言うキルバーンの目は、冷たい光を放っていた。
 そして、打って変わって軽い口調でハドラーに止めを刺すように唆すキルバーン。

 ハドラーはキルバーンに不信感を持っている様子だが、キルバーンはピロロにハドラーの傷を治すようにと言いつける。
 断るハドラーに、まとわりついて回復魔法をかけるピロロ。

 治療中、キルバーンはフェアな勝負を望むハドラーが仏心を出さないよう、念を押して釘を刺す。
 真魔剛竜剣が復活するまで時間がかかる上、ハドラーにはそれを待つだけの時間が無いことを思い出させる。

 秘密を知られていることに激昂しかけるハドラーだが、わざとらしくもピロロが治療が終わったとはしゃいだせいで遮られる。
 また、ピロロはまだ傷があると言いながら、ハドラーの胸の傷も癒やし始めた。

 それを見て、目を見開くバラン。
 小悪魔らしからぬ表情でほくそ笑むピロロを見て、バランは彼らの真意を悟る。
 彼らもハドラーに黒の核晶が仕掛けられていることを知っており、ハドラーに手柄を譲ったのは巻き添えを避けるためだと――。

 ふざけた口調で激励の挨拶を残し、キルバーンは立ち去った。
 残されたハドラーは、キルバーンのおこぼれでの勝利に不服を感じている様子だった。

 しかし、それでもハドラーに迷いはない。
 バラン達が万全の態勢になるまで待てないと、ここで勝負をつけるつもりでいる。両手からイオナズンの魔法力を滾らせ、バランへ勝負を挑もうとするドラー。

 だが、バランは立ち上がろうともしない。
 ここでダイの治療を止めたら命に関わると思えば、戦うことも出来ない。覚悟を決めたのか、ハドラーに背中を向けてダイの回復に専念するバラン。

 瀕死の息子を庇うバランが無防備になると分かっても、ハドラーに手を抜く気は無い。
 ダイはバランに、自分に構わず戦うようにと促すが、バランは応えない。イオナズンの魔法が打ち込まれる間も、バランはただ、ただ、ダイだけを見ていた。

 ハドラー渾身のイオナズンは、破けた天井の穴から地上にまで轟くものだった。
 魔法を撃ち終わったハドラーは、驚きに目を見張る。

 イオナズンに耐えたのは、未だにハドラーに背を向けたままのバランでは鳴く、瀕死ながらも立ち上がったダイの紋章の力によるものだったからだ。
 
 苦しそうなダイの腹には、まだ深々と傷が穿たれたままだ。
 無茶をするダイを、思わずのように怒鳴りつけるバラン。だが、ダイは平気だと強がる。

 それでもダイに無理をするなと言うバランだったが、ダイはこんなのは嫌だと訴える。
 遠慮し合い、かばい合うよりも、本当の意味で一緒に戦いたいと訴えるダイ。
 自分の傷の深さが分かっているダイは、親子だからこそ最後に力を合わせたいと考えている。

 それを聞いたバランは、ドラゴンファングを無言のまま見下ろした。
 ダイはハドラーと戦うため、勢いよく声を上げ、駆け出す。だが、どんなに気力で補っても身体がついていかず、その場にバッタリと倒れ込むダイ。
 それでも、文字通り這いずって前に進むダイを見て、ハドラーはその闘志に恐れを感じ、バランは息子に対する思いを新たにしていた。

 ダイを見詰めるバランの目に、フッと優しさが宿る。
 が、バランに背を向けているダイは、それに気づかない。肩で息をしながらも立ち上がったダイに、バランは声をかけた。

バラン「分かった。おまえの言う通りにしよう」

 それを聞いて、嬉しそうな顔で振り返るダイ。
 が、その額にバランの指先が当てられた。魔法力が輝くその指に触れたとき、ダイの目の色から光が一瞬消える。
 それを見て、驚くハドラー。

 戸惑い、ふらつくダイに、バランは問いかける。
 
バラン「ダイ。おまえのその名前は、誰がつけてくれたのだ?」

ダイ「それは……じいちゃんが……」






 それは、ダイ自身は覚えていない、ブラス伝手に聞いた回想。
 暴れざるやキラーパンサーが見守る中、壊れたプレートのついた赤ん坊用の揺り籠を抱きかかえたブラスの姿があった。
 愛おしそうに籠を抱え、中を見ているブラス。





ダイ『おれがデルムリン島に流れ着いて……おれの揺り籠……そこにあったプレートが、Dの文字しか無かったから……じいちゃんは本当の親のつけた名前と、頭文字だけでも……一緒にって……ッ。なんでこんなに……眠いんだよ……』

 必死で眠気に抗うダイに、バランは彼に催眠魔法をかけたことを明かす。戦いは自分に任せてゆっくり眠れというバランに、猛反発するダイ。
 一緒に戦いたいと思うダイはバランを非難するが、バランもまた、親として譲る気は無い。もう、これ以上は決して譲歩しないとばかりに目を瞑る。

 とうとう立っていられなくなって、崩れ込むダイはバランの膝に取りすがる。
 こんなのは嫌だと言い、自分も戦うとまだ言いつのるダイ。
 バランは、『ダイ』と言う名前がいい名前だと褒める。

バラン「だが、私とソアラがつけた名も、心の片隅で覚えておいてくれ」

 彼が思い出すのは、揺り籠に眠っていた頃のディーノの姿だった。テランの小さな小屋で、ソアラが台所仕事をしてる間、バランは揺り籠で寝ているダイを見守っていた。
 ソアラに何か頼まれ、若き日のバランは笑顔で頷く。
 その頃のバランの目には、今の狷介さは微塵もない。未来を無条件に明るい物と信じているような、希望に満ちた輝きがあった。

バラン「ディーノ……アルキード王国の言葉で、強き竜という意味だ」

 森の中にぽつんとある、王宮などとは比べるのもおこがましいほど小さな小屋。
 だが、それでも灯がともり、煙がたなびくその小さな小屋は、バランとソアラにとっては幸せな場所だった――。






 バランの思いに気づくことなく、ダイはバランに取りすがったまま、泣く。アバンもバランも同じ事を自分にするのが、ダイには悔しくて仕方が無い。
 それを聞いて、バランはアバンと同じ事をしたと聞き、最後の最後で人間らしい感情が芽生えたのかもしれないと呟いた。

ダイ「これが……最後なんて……いやだ……ッ! こんなの……ないよ……」

 必死にバランに膝にすがるダイの手から、力が抜け落ちる。
 泣きながら、ダイは後ろへと倒れ込んだ。見上げる父親の姿も自らの瞼によって閉ざされ、ダイの意識は暗闇に包まれる。

 倒れ込むダイを、バランは優しく抱き留める。
 ダイを、どこか悲しい目で見つめるバラン。涙の残るダイの寝顔を見ながら、バランは思い出していた。
 

若き日のバラン「そぉーら、おやすみ、ディーノ。眠っておくれ」

 呼びかけるも、揺り籠でわんわん泣き続ける小さな赤ん坊のディーノ。

バラン「おやすみだよ、ディーノ」

 内心焦りながらも、ディーノの両脇を手で支え、高い高いを繰り返すバラン。だが、ディーノは身をよじらせて泣くばかりだ。

バラン「どうしたんだい、ディーノ?」

ソアラ「はぁ……それじゃ、逆効果よ」

 苦笑しつつ、ソアラはディーノを優しく胸に抱き、横に揺する。

ソアラ「さあ、お休み、ディーノ……おやすみなさい」

 若い娘とは言え、母でもあるソアラの手にかかるとあっと言う間にディーノはすやすやと寝息を立てる。
 その後、ソアラは困ったように眉を寄せ、言った。

ソアラ「もう、あなたったら。寝かしつけるの、いつまで経ってもヘタなんだから」

 そう言ってから、ソアラはとびきりの笑顔で笑った。






 眠ってしまったダイを大事そうに両手で抱き上げ、バランは心の中で呟く。

バラン(ああ……そうだよ、ソアラ。相変わらず、寝かしつけるのがヘタだな……)

 ダイを壁際、床に突き立った真魔剛竜剣の後ろへと移動させるバラン。愛おしげにダイを見つめるバランだが、完全に寝入ったダイはぐったりとうな垂れたままだ。

 しかし、その優しい目は、すぐに一転して鋭い目へと取って代わる。
 振り返ったバランの額には、竜の紋章が浮かび上がっていた。

 親子の時間が終わったのを見て、ハドラーが前へと進み出てきた。
 バランもまたハドラーに向かって歩を進め、ドラゴンファングを握り込んでいた手を高々と上げる。
 ハドラーに覚悟しろといい、最後の力を使うと言うバラン。

 その手からは、すでに赤い血がしたたり落ちていた。
 落下するその血は、途中から青色へと変化する。
 バランの筋肉が膨れ上がり、その肉体構造が変化していく。
 ダイを眠らせたのはその身を案じたからではなく、この姿を二度とあの子にだけは見せたくなかったからだと言い放つバラン。

 見る間に、バランは竜魔人へと姿を変えていく。
 さすがに戦くハドラーだが、それを見てなお心を奮い立たせ、戦いに挑む強さが今のハドラーにはあった。

 先手必勝とばかりに、バランに襲いかかるハドラー。
 が、バランはハドラー突進に微動だにせず、逆に彼のみぞおちに痛烈な一打を当てる。

バラン「死ね、ハドラー。私も地獄まで付き合ってやる!!」

 苦痛に喘ぐハドラー。
 魔王と、竜魔人の戦いが始まる中、ダイはそれも知らぬまま深い眠りの中にいた――。


《感想》

 息もつかせぬ、圧倒的なド迫力バトル!
 純粋に戦いを望むハドラーの高揚心に、ダイだけは守りたいと強く思うバランとの戦いにかける気迫に、心底惚れ惚れしました。
 ああ……いいなぁ、素晴らしい迫力。……主役のはずのダイが、イマイチパッとしませんでしたけど(笑)

 ところで、冒頭の戦いの時にハドラーが見せた魔法の際、原作ではダイが「なにっ!?」バランが「イオ……!?」と口にしていましたが、アニメではここがカットされていましたね。
 より、スピーディーになった印象でいい感じです。

 ダイとバランのバリアー、原作では足がはみ出ていましたが、アニメでは全身がきちんと隠れる大きさになっていました。
 それに、ちゃんと球形になっていましたね。原作では、多分球形だろうけどもしかしたら円型の盾なのかなとも思っていたのですが、球形で間違いないようです。

 バーンとミストバーンの会話で、原作でミストバーンが「え!?」と聞きかえす台詞と、バーンの「いざとなったら〜」の部分がカットされていました。
 欲を言えば、バーンの台詞の後でのミストバーンのカットにもう少し間をかけて、ハドラーの勝利を望みたいが、彼にとっては屈辱的な理由の正気に複雑な思いを寄せている彼の葛藤を見てみたかったです。

 でも、ミストバーンの見つめる水晶玉の光景から、現実のハドラーの動きに合わせていく場面転換は、実にいいですね♪

 ハドラーがなぜ手加減すると怒るシーンも、台詞が大幅カットされていました。特にダイがモノローグで(おっ、おじけづきもするよっ!! 誰だって敵と一緒に吹き飛びたくなんかない……っ!)とのぼやきがカットされたのが残念。

 でも、ハドラーが自分の胸を叩くのにビビるダイがしっかり出てきたのは、嬉しいですね。冷静に考えればそれぐらいで爆破するわきゃないんですが(笑)

 一瞬、目を閉じたダイの視点に合わせ、画面全体が瞬きをするように暗転する演出も良かったです。
 ただ、原作ではここで「ふぅ……自分が爆弾入りとも知らないで……」とのモノローグがあったのが、カットされていました。安堵のため息だけ、演出されていましたね。

 (いくらあいつだってだって自爆させられて死ぬのは嫌なはずだっ!!)の部分もカットされていましたし、ダイの思考に関する部分はずいぶんとカットされている印象ですね。

 バランの説明もカットや改変が多かったのは予測していましたが、残念だったのは地上にいる仲間達が助からないというシーンで、ポップ達の出番までカットされていたこと!

 代わりのようにハドラーの目に映るダイ達親子のカットが挿入されていましたが……短くともなかなか手が込んでいい絵ではありますが、ポップの出番が欲しかったのにー。
 ダイのモノローグはとことんカットされまくっていましたしね。

 バランのギガディン、海底でも通用するんですね(笑)
 まあ、現実でも雷が海へ落ちることは多いそうですが、水中では威力が拡散しやすいそうですが、魔法の雷は術者の指定場所までは威力が減じないのでしょう、多分。

 バランがダイに信用について問いかける所は、たっぷりと間をとっていていいですね。
 原作では一度きりの問いなのに、アニメではなかなか応えないダイを促す台詞も改変されています。

 ダイの返答の時の表情も原作をベースとしながらも、ちょっと反抗的な雰囲気を漂わせているのがなんとも言えません!

 ダイとバランとのやり取りも、間を大切にとっている印象が実に良かったです。特に、ダイの目にバランの後ろ姿が映り込むシーンがお気に入りです。

 バランとハドラーの斬り合い、ド迫力!
 ただ、技名を言わなかったのと、演出が目立たなかったためハドラーが魔炎気でバランを怯ませたシーンは、アニメだけだとなんでバランがあそこで「うぬ!?」と声を上げたのか分からなかったです。

 ダイがバランを庇って傷つくシーン、血が飛び散るシーンは派手な割には、ダイに爪が刺さったシーンでの出血はほぼ皆無でしたね。原作ではショッキングなほどの流血量でしたが、アニメではすごく抑えめでした。
 ダイの落下シーンも、上から見た図ではなく下から、つまり背中から見上げる角度での落下になっていました。

 ですが、スローモーションのような緩やかな落下と、ダイを思わずディーノと呼ぶバランの取り乱した表情が、重傷差を間接的に表現していていい感じですねえ。
 と、思ったら、CM後からは流血表現がマシマシになっていました(笑)

 ダイの表情が驚きから、目の光が消え、苦痛の表情へと変わっていく変化が細かいです。
 バランがハドラーを蹴飛ばすシーン、原作と比べてアニメの壁の穴の方がはるかに大きいですね。

 バランが真魔剛竜剣を床に突き立てるシーン、原作ではダイに回復魔法をかけるタイミングで発生しますが、アニメではダイを抱き上げる前にやっています。

 キルバーンの登場、相変わらず不気味でいい味を出していますね。
 彼が登場の度に流れるBGMも、独特のリズムで好きです。しかし、登場にBGMを伴うキャラとして、アニメのチウとキルバーンに共通点が結ばれました(笑)

 キルバーンとピロロのコンビでの動きは、いつ見ても怪しげでいい感じです。

 バランがダイを庇いながらイオナズンを受ける時、バランの目にダイの顔が映り込む演出は良かったですねえ。
 ハドラーのイオナズンが地上部分にまで噴き上がる演出も良かったですけど……どうせ改変するなら、なぜ、ここでそれを見て驚くポップのカットが入らないのか!?(泣)

 ダイの傷跡、アップにすればするほど、血の量を最低限に抑えているせいで重傷さが感じられないのが残念ですね。原作と同じに、とまでは言いませんが、もう少し間接的な描写でいいから重傷さをアピールして欲しいです。
 出血を抑えるなら、傷口を直接見せるよりも布を押し当て、その布に血が滲む表現などでもよかったのでは?

 そして、出血は抑えられるだけ抑えるのに、ハドラーのヘルズチェーンで負った縛られた後のようなうっ血の後だけは、やたら律儀に描かれているのですが(笑) 出血は駄目で、緊縛痕はOK? いやいや、シリアスな回にそんな疑問を抱いちゃ駄目ですね、うん!

 ダイがバランに一緒に戦おうと訴えるシーン、ハドラーがダイが話し始めた頃に、画面の隅でスッと身を引くように構えを解いていたのが印象的でした。
 バランの剣の復活を待てないと言いながらも、ダイとバランの親子の会話を邪魔せずに待ってくれるハドラーの義侠心が好きです。

 後、原作ではバランはドラゴンファングを手に握り込んだままでしたが、アニメではいつの間にか床に落としていますね。

 バランのラリホーマシーンで、ダイがバランの服にしがみつくシーンはアニメの改変ですが、その必死なしがみつき方がいじらしくて泣けてきます!
 両手を揃えて服を引っ張る手つきが幼い感じで、回想シーンと相まって泣かせ二来ていますよ!

 ブラスじいちゃんの回想シーンを、ダイ自身に語らせるとは。
 ブラスのモノローグか、島の怪物達相手に語るのかなと思っていたのですが、違いましたね。
 揺り籠を覗き込むブラスじいちゃんの目がキラキラしていて、すごく優しい感じなのがいいです!

 バランの回想シーンも、実にいいですねえ。
 しかし、ソアラさんが忙しそうに家事をしている中、バランは赤ん坊を見ているだけなのには笑いましたが(笑)

 そして、全く揺れもせずにテーブルの上に固定されているあの籠では、揺り籠とは呼べないような気もしましたね。というか、赤ん坊を寝かせるのならせめてもう少し大きめにして、寝返りぐらいは出来るサイズにしてあげて!
 あれはむしろ、母親が作業する際に抱っこする時用の籠ではないかと思えるピッタリ感でした。

 しかし、それ以上にいいなと思ったのは、ダイを眠らせた後の回想シーン。
 バランがダイを眠らせるシーン、ソアラに語りかける言葉に妻と我が子への深い愛を感じます♪

 でも、回想でのバランの寝かしつけ……思いっきり高い高いをしてますよっ!? それは、退屈してむずがっている子供の気の反らす時に有効な技っ。
 密かに冷や汗をかきつつ頑張っているのは分かりますが、寝かしつけには身体を密着させ、出来れば心臓の鼓動を聞かせつつ、ゆったりとしたリズムに引き込んで落ち着かせてあげて!

 と、余分な咆哮にツッコみたくもなりましたが、若き日のバランとソアラの愛に溢れるやり取りには実に感動しました!

 原作では、ソアラはちょっと怒ったようにダイをバランからひったくっている描写があったので、意外と気が強い感じの人かなとも思っていたのですが、アニメのソアラのもの柔らかさ、思い出の中の彼女に言い返すバランの声の優しさが、実に感動的です。

 原作ではバランはダイを支え、すぐに壁にも垂れかけさせた印象でしたが、アニメではダイをお姫様抱っこして数歩、歩いていますね。
 ……このアニメ、女性よりも男性の方がお姫様抱っこされ率、高い気がしてきたのですが(笑)

 いや、それは置いておいて!
 ダイに向ける優しい目と、戦いに向ける険しい目の落差が非常に良かったです!
 
 最後のシーンで、眠っているダイの上に竜魔人の影が覆い被さる形になっていたのが、実に格好良かったですよ!

 最初から最後まで戦い満載で実に見応えのある回でしたが……個人的に不満が一つ。
 ポップの出番が、全くないとは……っ。
 ダイがポップ達が爆発に巻き込まれる予想をするシーンがなくなっていたのが、残念! 一瞬、仲間達の顔を回想するだけでもよかったのに〜。

 予告でさえ、ポップ達と親衛騎団の戦いと言いつつ、映っていたのはハドラーとバランでしたし! 後、バーン様がさりげに目立っていました。

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