『魔界の神』(2021.11.13)

 

《粗筋》
 
 空に悠然と浮かぶ、バーンパレス。
 その上では、キルバーンとミストバーンに手出しをさせず、自分自身が戦ってやろうと勇者一行に褒美を与える大魔王バーンの姿があった。

 完全に自分達を見下した発言に、ダイ、ヒュンケル、クロコダインがさすがに顔を険しくする。
 だが、バーンは喜ぶ様子を見せない彼らを不思議に思っているかのような表情すら見せる。

 ダイはたとえ三人一緒でも戦うと意気盛んだが、勇者の意気込みなどバーンは気にもとめる様子も無い。
 飽くまで余裕綽々に相手をしようと言った後で、バーンは何か面白い物でも見つけたとばかりに、わずかに首を傾げた。

 バーンが指さしたのは、すでに倒れ、二度と目覚めることの無い眠りに就いたバランだった。
 バランの戦いぶりを褒め称えながらも、彼の心は人間に近すぎたと揶揄するバーン。

 人間に相応しい最後を与えようと、バーンが指先から放ったのはほんの爪の先程の、小さな魔法力の粒だった。ふわふわと緩やかな動きを見せるその魔法を、ポップもマァムもそのまま見送ってしまう。
 それが『何』なのか分からないだけに警戒しつつも目を追うだけで、それ以上の行動には出られなかったのだ。

 だが、バランの真上に飛んだその魔法の粒が炎を発しだしたのを見て、ポップは顔色を変える。
 
ポップ「みんな、避けろ! メラゾーマだ!」

 唯一、魔法の正体を見切ったポップが避難勧告を叫ぶが、その時はもう遅かった。バランの胸の上に落ちた炎は、業火となり巨大な火柱を上げてバランを焼き尽くす。

 あまりの光景に、思わず父の名を呼ぶダイ。
 他の仲間達にとっても、その光景は衝撃的だった。

バーン「フハハハハ……気にいらんか? それとも、自分で弔いたかったかな?」

 涙を流しながら激昂し、ダイはバーンへと殴りかかる。ポップがよせと止めたが、その声すらダイの耳には入っていなかった。
 そして、殴りかかったダイを、バーンは軽く手を伸ばして迎撃する。

 対して力が入っていたとも言えない一撃に、ダイの身体は呆気なく吹き飛ばされ、彼は地面に仰向けに倒れ込んだ。開いたままの目はうつろで、明らかに意識は無い。

 勇者が真っ先に死んでしまったと、バーンはどこか残念そうに呟く。これでもう、自分の身体に傷をつけられる者はいないと断言するバーンは、始まる前から勝負が終わってしまったと解釈している様子だった。

 だが、それを目の当たりにしたポップ達はまだ事態を受け入れきれず、目を大きく見開くばかりだ。

 バーンは拍子抜けで終わった戦いにカタをつけようとしたのか、ダイに父の後を追うかと言葉をかける。
 それを聞いて、マァムはハッとしたように仲間に呼びかけた。

マァム「みんなっ、動いてっ!!」

 言うやいなや、その場を駆け出すマァム。その動きから一歩遅れて、彼女の髪をまとめた青いリボンがひらりと舞う。
 その間もバーンは指鉄砲で遊ぶような軽い仕草で、またも光の粒を生み出していた。

 動き出した仲間達の中で、先頭を走るのは魔法力の光に覆われたポップだった。マァムを先んじてダイの前へと回り込み、杖を構えた。
 杖を思いっきり振り下ろしてメラゾーマを放つポップ。
 それに対し、バーンは笑みを浮かべ、爪の先程の大きさの炎の粒を発射させる。

 ポップの生み出した巨大な炎の塊と、バーンの生み出した小さな炎の粒は真正面からぶつかった。
 杖から呪文を放ちながら、ポップはいまのうちにダイを助けるようにと仲間に呼びかける。

 ヒュンケル、クロコダインはすでにポップのすぐ後ろ、ダイをかばえる一へと立ち、マァムはゴメちゃんを伴ってダイを抱き起こしたところだった。それを見ていたポップは、魔法の炎から聞こえてくる奇妙な音に気づき、そちらに目をやる。

 ポップの目の前で、彼が生み出した炎の塊が呆気なく消え、代わりに小さな炎の塊が現れた。
 自分の魔法を貫通した炎に驚くポップに、ぴたりと炎の粒が貼り付く。

 その瞬間、悲鳴と共にポップは業火に包まれた。バランと同じように巨大な火柱に巻き上げられ、悲鳴を上げるポップ。それを見て、仲間達の悲痛な呼び声が重なる。

 幸いにもというべきか、炎の火柱は長くは続かなかった。火柱からはじき出され、その場に倒れるポップ。
 いつになく取り乱した声を上げ、ポップに駆け寄るヒュンケル。
 彼を抱き起こしたヒュンケルは、驚きを隠せない。

 炎に対して絶対的な強度を誇るパプニカの法衣が焼け焦げ、無残に破けていた。

 それに一番驚いているのは、法術で編まれた服の効果を誰よりも良く知っているポップ自身だった。
 あんなに小さな火の粉だったのに、大魔王のメラゾーマはポップの何倍もの威力なのかと、怒り交じりに吐き捨てるポップ。

 だが、そんなポップに対し、バーンは淡々と訂正した。

バーン「今のはメラゾーマではない……メラだ」
 
 同じ魔法であっても、使う者の魔法力の絶対量により差があると、バーンは諭すかのようにいう。まるで、出来の悪い生徒に優しく言い聞かせているかのように……。

 あまりの実力差に愕然とするポップ。そして、バーンもまた、これほどの実力差があったのかと嘆いてさえいた。
 ある意味、バーンは勇者一行を買いかぶっていたと言える。

 さきほどのダイに対する攻撃も、バーンにしてみれば相手にあわせて軽く闘気を放ったに過ぎない。
 軽く、それを再現してみせるバーン。

 だが、当てる気など無いその闘気弾はポップ達にとっては避けずにはいられない、とてつもない威力の攻撃に等しかった。
 全員でなければ太刀打ちできないと考えるクロコダイン。ポップは焦った口調で、マァムにダイの様子を尋ねる。

 さっきから治療を続けているマァムだが、ダイは目覚めない。
 心臓は動いているものの、元々ダメージを受けていたところにさらに攻撃を受けてしまったのが響いているのだ。

 早く治せと急かすポップも、やっているわよと応えるマァムも、どちらも苛立って落ち着きをなくしていた。

 そんな彼らに、バーンは優しいと言っていい声音で言葉をかける。
 力なき者に半端に希望を与えた自分が間違っていたと言い、慈悲として彼らに止めを刺そうとする。

 苦しまずに死ねるようにと、バーンは手から炎を生み出した。それを見て、思わず身をのけぞらすポップ。

 手から生み出された炎は、今度こそメラゾーマ……見る間に膨れ上がり、鳥の姿へと変化する。目を開き、まるで意志を持つ生き物であるかのようなそれは、カイザーフェニックスと呼ばれる超魔法だった。

 バーンが押しやるように放つと、カイザーフェニックスは一直線にポップ達へと襲いかかる。
 それを迎え撃とうとするポップだが、その前に割り込んだのはヒュンケルだった。

 ヒュンケルを案じ、彼の名を叫ぶマァム。
 魔法を弾く鎧を着ているヒュンケルは、その防御力を活かして時間を稼ぐつもりでいた。今のうちにダイの回復をと叫ぶヒュンケルだが、その時、バーンの手には二撃目のカイザーフェニックスが生まれていた。
 
 あまりにも早過ぎる追撃に目を剥くポップ達。
 しかし、バーンは無造作に二匹目のフェニックスを解き放つ。一撃目を抑えていたヒュンケルは、避けることも出来ず炎に巻かれた。

 二体の炎の鳥は一体となり、巨大な炎が一行全員を襲う。耐えきれず、悲鳴を上げるみんな。
 その中で、マァムはそれでもダイを守ろうと必死に抱きしめていた。

マァム「回復どころじゃないわ……っ!」

ポップ「く……っ、……みんなぁっ、逆に攻撃だぁ!」

 炎の中でポップがそう叫んだ瞬間、みんなの目に闘志が宿った。






 

 苦痛に喘ぐ勇者一行の姿も、外部からみれば巨大な焚き火も同然だった。バーンは燃え上がる炎の塊を、佇んだままじっと見やる。
 が、その炎の中に人影が見えるのを見て、わずかに警戒の色を強めた。

 炎を切り裂いて現れたのは、槍を持ったヒュンケル。左右に、マァムとクロコダインもいた。

ヒュンケル「大魔王……覚悟ォ!」

 ヒュンケルのその雄叫びを、バーンは至って冷たい目で聞いていた。
 バーンめがけて、一直線に走り出すヒュンケル。マァムもクロコダインもそれに続く。その背後の炎の中では、ポップがダイを抱えて移動していた。

 走る勢いのまま、ヒュンケルはブラッディースクライドをバーンの目にめがけて放つ。
 だが、バーンは二本の指先でそれを受け止めてしまった。
 高速回転する槍が見る間に弱まり、指先の中で停止するのをいて目を見張るヒュンケル。

 そんなヒュンケルを間近で見たバーンは、澄んだ目が気に入らないと呟き、昔の方が魅力的だったと評価する。
 バーンが完全に動きを止めた隙を狙って、雄叫びを上げたクロコダインの斧が、マァムの閃華裂光拳が左右から同時に襲いかかる。

 先手のマァムの攻撃を容易く躱し、バーンは片手から闘気を生み出しつつ、指先の力だけでヒュンケルをマァムへと投げ飛ばした。その巻き添えを食って、地面に倒れるマァム。

 クロコダインの攻撃よりも早く、生み出した闘気で彼も吹き飛ばす。壁に叩きつけられたクロコダインを案じるマァムだが、そんな彼女に向けて闘気弾を放とうとするバーン。

 それを見たヒュンケルは、とっさに彼女を庇い、背中からまともにその攻撃を受けてしまった。鎧にヒビが入り、その場に倒れ込むヒュンケル。
 ヒュンケルを心配し、彼の方だけを見ているマァムは気づかなかった。彼女の背後にいるバーンが、再びマァムを狙って手から闘気を生み出そうとしていたことを――。

 だが、そこで気迫の入った声がバーンを呼ぶ。

ポップ「待てッ、バーン!」

 闘気の放出を止め、そちらに目を向けるバーン。
 そこには、メドローアを引き絞るポップの姿があった。その魔法に興味を引かれたとばかりにバーンは完全に攻撃の手を止め、ポップへと向き直る。





 堂々と射貫く姿勢を取りながらも、ポップの内心は不安に揺れていた。
 この呪文で効果が無ければ、もう大魔王に通じる呪文は無い。効いてくれと願うような気持ちで、メドローアを放つポップ。

 その魔法を見たバーンは、満足げな笑みを浮かべる。
 次の瞬間、バーンの胸元に光の壁が輝き、一気に広がった。何事かと驚くポップに、バーンはそれが魔法返しの呪文……マホカンタだと教えてやる。

 

光の壁に当たった魔法はものの見事に反射し、ポップに向かって跳ね返ってきた。
 それに動揺するポップだが、後ろにクロコダインとダイがいるのをチラッと見て、相殺するしかないと覚悟を固める。

 手から氷と炎の呪文を浮かび上がらせ、跳ね返ってきたメドローアを受け止めるポップ。皮肉にも、自分自身の放った呪文の勢いに推されるポップ。
 それを見て、ヒュンケルに肩を貸す形で担ぎ上げたマァムは、ポップの名を呼ぶ。

 まだ、マホカンタの呪文が解除されないわずかな時間の攻防。
 それでもポップは、なんとか自分自身のメドローアを相殺することに成功した。
 黒煙を上げる自分の手を見ながら、その場にぺたんと座り込むポップ。

 そんなポップに、心配そうに無事を問うマァム。
 が、ポップは魔法力を消費し、もうメドローアを打てない事を嘆く。いつの間にマホカンタを用意したのかとぼやくポップに、ヒュンケルは大魔王には溜めがないことを看破する。

 次元が違う相手だからこそ、バーンはこちらが一つの動作を取る間に、二つに動作が取れるのだという。こちらの攻撃に対し、攻撃と防御、両方の動作が取れてしまう……それを聞いたポップは、ちらりと後ろを確認し、まだ気絶したままのダイとクロコダインの様子を確かめる。

 小声でマァムに話しかけたポップは、ルーラで撤退しようと持ちかける。バーンには絶対に勝てないと見切ったポップの説得、それを後押しするようなヒュンケルの首肯を見て、マァムも撤退に応じた。

ポップ「集まれ……あばよっ!」

 ポップの合図に、マァムがヒュンケルを抱えたまま彼の側に寄った。戸惑うバーンの目の前でポップは一度、ダイの側に飛び、そのままクロコダインの所へと移動して呪文を唱えた。

ポップ「ルーラ!」

 空へと飛び上がった光は、空の一点で縫い止められたように動けなくなる。そして、空中に出現したポップ達はそのまま真っ逆さまに落下した。
 驚愕の悲鳴を上げつつ、落下するポップ。

 全員が地べたに叩きつけられる。何が起こったのかと、身を起こすポップに対し、キルバーンは同情ともからかっているとも取れる言葉を投げかけた。

キルバーン「かわいそうに……ますます絶望的な状況になっちゃって♪」

バーン「……知らなかったのか……? 大魔王からは逃げられない……!」

 まるで面白がっているかのように、バーンは断言した。





 バーンパレスには、結界が張られている。
 バーンパレス内ならともかく、外部からの侵入も内部からの脱出も不可能であり、特別な呪法をかけられた魔王軍の戦士以外は出入りができないと説明するキルバーン。

 逃げようとするより、まだ攻撃した方がマシだったとからかいながらも、キルバーンはどちらにせよ同じかと決めつける。
 ポップやマァムは辛うじて立ち上がるも、ヒュンケルは身を起こすのがやっと、ダイやクロコダインに至っては意識すら戻っていない状態だ。

 全滅だとはしゃぐピロロに対して、向きになって鳴き返すゴメちゃん。ゴメちゃんのその鳴き声に応じるように、倒れていたダイの指がピクッと動いたことに、この時は誰も気づかなかった。

 止めを刺そうと進み出たバーンは再び手から炎を出すが、その炎が突然消え、灰色になった手にヒビが入った。
 それを見て、マァムはハッとして自分の手を見る。

 最初の攻撃の時、閃華裂光拳がかすっていたのだと確信するマァム。それを聞いて、表情を明るくするポップ。

 バーンは日々の広がる手を見下ろし、こともなげに色が変わった部分を手刀で切断した。床に落ちた手は、灰となって崩れ落ちる。
 それを、楽しんでいるかのように「奇跡だね」と、見物するキルバーン。

 マァムは自分の技が通じると気づき、戦いの気迫を高めていた。
 そんな彼女の心を読んだかのように、バーンが「やってみるかね?」と挑発する。

 確かに、これは千載一遇の好機だとバーンは諭す。
 片手ではいくらバーンでも動きが鈍る上、側近には手出しをさせない……だが、魔族は身体が再生できるとも告げる。

 実際、切り落とされたはずのバーンの手はすでに再生紙始めていた。ぐずぐずしているとチャンスを逃すと唆され、マァムは覚悟を決める。
 この場から逃げられず、まともに戦えるのはもう自分しかいない……マァムはがむしゃらに走り出した。
 それを追って、手を伸ばすポップ。

 その瞬間、バーンの手が瞬時に復活した。辛うじてマァムの足にすがりつくポップ。そのおかげで姿勢を崩したのが幸いして、バーンの攻撃はマァムの頭をかすっただけだった。

 それはまさに紙一重の差で、マァムの髪をまとめていた布が飛ばされ、以前より伸びた髪が風になびく。その直後に、凄まじい爆音が背後の壁を打ち崩した。

 ポップに引き倒されて伏せる体勢になったマァムは無傷で済んだが、まともに食らっていたら命を失っていたのは明白だ。
 
ポップ「ダメだ、マァム……あいつがそんな、まともな手でやれると思うのか!?」

 ポップの忠告の正しさは、敵であるキルバーンの方が正確の評価していた。ポップの勘の良さを、揶揄するようにからかうキルバーン。

 が、マァムはバーンの戦い方に火がついたように怒りだし、相手を生殺しみたいな真似をして面白いのかと、激しく非難する。

 だが、バーンはあっさりとそれを肯定した。
 鍛え上げた強い力で弱者を踏みにじる楽しさを語るバーンの言い分を、まるっきり理解できない言葉を聞いたかのように受け付けられないマァム。

マァム「……何を言ってるの……?」

 呆然とするマァムに構わず、バーンは力こそは正義だという自分の理屈を語る。だが、マァムはそれを受け入れず、力がある者が他人を踏みにじる権利はないと説く。

 しかし、それを聞いて、バーンの目が冷たく凍りつく。
 さすがのマァムも怯えるような殺気を放ち、バーンは人間達が神々の力によって支えられていることを暴露する。

 バーンの故郷、魔界……地上のはるか下に位置する魔界は、マグマの滾る不毛の大地だという。太陽の無いその世界に魔族と竜族を押し込め、脆弱な人間に太陽と地上を与えたのは神々だった。

バーン「人間達が脆弱であるというだけの理由でだ……それを正義というのなら、我らの力もまた正義!」

 バーンの言い分に、激しい衝撃を受けるポップとマァム。
 数千年かけて地上消滅の準備を進めたバーンは、地上を消して魔界に太陽を注がせることが目的だった。
 その時こそ、自分は魔界の真の神になると宣言するバーンは、手を握りしめる。

 まるで、太陽を握り込んだかのように見えるその姿は、すでに神の風格があり、神々しい。

 バーンの理屈を理解したポップは、今度こそ勝ち目がないと絶望する。
 考えのスケールが違いすぎると、どう足掻いても越えられない敵を前に、ただの人間の自分達が勝てるわけが無いとポロポロと涙をこぼすポップ。

 ポップとマァムが俯き、言葉をなくすのを見て、バーンは今度こそ終わりだと宣言する。思ったよりも楽しめたと言い、彼らに止めを刺そうとするバーン。

 だが、その時、諦めないと言う声が聞こえた。
 消沈していたポップ達も、思わずその声に振り返る。気力を失っていたヒュンケルも、顔を上げた。

 世界中の人が諦めても、自分だけは諦めないと言い、立ち上がった小さな勇者。

 その行動や発言に、バーンは驚くと言うよりも呆れているように見えた。
 ダイの発言を問いただすも、ダイはやはり諦めないと主張する。
 バーンの力を知ってもなお、ダイは力が正義だというバーンの言葉を認める気は無い。

 ブラスやアバン、父であるバランから教わった正義とは違うと言い切るダイ。
 お前は絶対に間違っていると言い張るダイに、ポップは驚き、マァムは喜びの表情を浮かべた。

 そしてヒュンケルはクロコダインもダイに引きずられるように立ち上がり、仲間達は戦う気力を取り戻す。

ミストバーン「立った……あの半死半生だった仲間達が……」

 驚くミストバーンに対し、バーンは淡々とダイの影響力を認める。だが、バーンは魂の力では自分には勝てないと言い放った。
 ダイの正義を語るのならば、飽くまで力で語れと挑発するバーン。

 ダイは己の魂を示すがごとく、竜の紋章の輝く手でダイの剣を抜き、バーンへと斬りかかっていく。
 それをカイザーフェニックスで迎え撃つバーン。
 炎の鳥は、物の見事にアバンストラッシュで切り裂かれた。

バーン「……遅い」

 しかし、剣を振り抜いた体勢を戻す間もなく、バーンの二の手が放たれる。姿勢を崩したままのダイに、二発目のカイザーフェニックスが襲いかかる。
 炎に包まれたダイを見て、悲痛に彼の名を呼ぶマァム。

 勝利を確信して笑うバーンだったが、その時、一陣の攻撃がバーンの頬を切り裂いた。ほんのわずかな傷とは言え、自分の頬を伝う血を見て驚くバーン。

 見れば、黒煙が薄れる中、アバンストラッシュを放った体勢のままのダイがいた。
 それを見て驚いたのは、キルバーンやミストバーンの方だった。

 バーンの二撃目にも反撃を間に合わせ、わずかとはいえバーンにも検圧を与えたダイの実力を認めた大魔王は、両手からイオラの光を放つ。
 そのまま、続けざまにイオラを放つバーン。

 ダイはそれを剣で払いのけることで対処するが、あまりにも数が多すぎる。バーンは術のランクを落とし、数で勝負を仕掛けてきたのだ。しかし、それでも一発一発にイオナズン級の威力が備わっている。
 周囲にいるポップ達まで押される威力である。

 嵐のような猛攻に、ダイはよく耐えた。
 押され気味なダイを心配して、またも彼の名を叫ぶマァム。だが、ダイはそれに応じる余裕もない。
 徐々に後ろへと下げられつつあった。

 そんな中、ミストバーンは心の声だけでバーンへと忠告する。
 遊びを止めて、全員で攻撃すべきだと進言するミストバーンだが、バーンはそう問われたこと自体が不満とばかりに、さらなる集中攻撃をダイに向かって放った。

 飴のようなイオラの嵐が、ダイへと降りかかる。
 ダイの名を、大声で叫ぶポップ。
 ダイもまた吠えるような声を上げ、己の竜闘気を解き放つ。それに弾かれたイオラが、逆にバーンへと降りかかった。

 両手から魔法を生み出して防御するも、数の多さが災いしてバーンの周囲の壁に当たり、爆発を起こす。
 黒煙が視界を遮ったその瞬間を好機と捉えたダイは、攻撃態勢に入った。

ダイ「今だ! いっけぇええ!」

 ダイの放ったアバンストラッシュが、初めてバーンをまともに捉えた。それに驚愕する、キルバーンやミストバーン。

 眩い閃光の後、そこには無残なまでに黒焦げとなったバーンの姿があった。驚愕の叫び声を上げた顔、上げかけた手のままで朽ち果てたように燻されたバーン。

 剣を振り抜いた姿勢のまま、強い意志を感じさせる目で睨みつけるダイ。
 一拍の間を置いて、バーンの身体は枯れ木が朽ちるようにバタリと倒れる。それを見届けてから、ダイは初めて姿勢を正した。
 倒れたバーンの手は、ボロボロになりながら薄い煙を放っていた――。

 
 


《感想》

 大魔王様の名台詞が、次々とっ♪
 ずっと聞いてみたかった『メラゾーマではない……メラだ』とか『知らなかったのか? 大魔王からは逃げられない』を直に聞けた感激に打ち震えています!
 圧倒的なラスボス感! すっごい絶望的な状況がアニメで再現される日がくるだなんて……!

 バーンがバランを焼くシーン、バーン様は原作では「これは失礼……火葬より土葬の方がお好みだったかな?」と発言していましたが、アニメではさすがに改変されていますね。

 原作では葬式については触れていないのですが、一般的な中世ヨーロッパでは火葬自体が罰として扱われる例が多かったそうです。
 魔女は必ず火刑にするのが決まりだったぐらい、神に反した最上級の罰になっていました。罪の重さを周知させるため、別件で死刑にした後でわざわざ遺体を火刑にした例もあるぐらいですしね。

 ポップとバーンの魔法合戦!
 ものすごい実力差に、唖然とします。ポップのメラゾーマの炎の方が明らかに大きいのに、バーン様の極小なメラの圧勝とは。

 それにしても、ポップを助けに駆け寄った時のヒュンケルの声が、珍しく動揺している感じですっごくよかったです。
 ポップが立った後も、彼を庇うようにすぐ後ろに付き添っている辺り、兄心をかんじますねえ。

 ポップの服、もっと黒焦げになるかと思っていましたが、色はほぼ変わらないままなんですね。
 まあ、高温で一気に焼いた方が色の劣化は発生しにくいと言いますし、温度が高すぎたんでしょう。

 バーンのメラゾーマ、発動の段階からポップが驚いているのが印象的でした。原作でもそうでしたが、アニメだと動きがある分、より際立ちますね。

 そして、原作では棒立ち(笑)感が強かったポップですが、アニメではカイザーフェニックスに対抗するかのように身構えたり、ヒュンケルが割って入ったのに驚く表情を見せていたのが嬉しかったです。
 かなわなかったとしても、戦おうとする姿勢を見せてくれるのがアニメの嬉しい点ですね。

 ポップの声をきっかけに反撃に転じるシーン、原作では入っていたモノローグがなくなり、台詞も改変されていましたね。

原作ポップ「み、みんなァアッ、攻撃だああッ! 攻めないとこのまま全滅しちまう!」

アニメポップ「く……っ、……みんなぁっ、逆に攻撃だぁ!」

 基本的に台詞が削られるのには反対派ですが、この台詞に限っては短い方が切迫感があっていいなと思いました。
 防御も回復も無駄だから攻撃に専念しろ、ポップが判断した瞬間ですね。

 それにしても、バーン様が炎に包まれた皆を見ているシーン、アニメでは手を構えたままなのには恐れ入りました。原作ではバーンの手は映っていなかったので不明ですが、アニメではバーン様はあそこまで優勢なのにも拘わらず、戦いの姿勢を崩していないんですよ!
 強すぎる上に油断もしないなんて……強敵すぎる!

 ヒュンケル達の反撃シーン、炎を切り裂いて登場するヒュンケルらがかっこよかったです♪ 炎を背景に、走り出す三人、いいですねえ。

 しかしみんなが攻撃に打って出た中、言い出しっぺのポップがダイを抱えてこそこそと避難しているのには笑っちゃいました。い、いや、避難は大事ですよね!

 原作ではこのシーンではポップの攻撃どころか出番も無かったですが、後でダイとポップが場所移動していることを思えば、こうだったとしか思えませんし。

 バーンとの息もつかせぬ猛攻、大迫力でしたが、マァムを庇ってヒュンケルが倒れた際……筆者は見逃しませんでした!
 ヒュンケルの名を叫ぶマァム――その鉄壁の黒パンストが破けていますっ♪♪♪
 破け方、ものごっつ色っぽくないですか?(笑) こ、ここでお色気要素を持ってくるとは! 

 ザムザ戦の時は絶対強度を誇っていたのに。カイザーフェニックスにも平気だから炎にも強いと思っていたけれど、バーンパレスの床との擦過には弱かった、と……メモメモ(笑)

 メドローア発射時、ポップは不意打ちよりも仲間を助けることを優先していますね。
 バーンの魔法の溜めが必要ないと知らなかったとは言え、あそこでマァムやヒュンケルを犠牲にしてもメドローアを確実に当てる選択肢が選ばないところが、いかにも彼らしいです。

 バーン様のマホカンタ、呪文が当たった瞬間に消えなかったことにビックリ。てっきり、ゲームと同じで呪文が当たると同時に解除される魔法かと思っていましたが、ポップがへたり込むまでずっと光っていましたよ!

 ポップがへたりこむシーン、アニメでは膝をついてから腰を落とす感じで、へにゃっといきなり座り込む原作のポーズの方が好きだったなぁとちょっと残念。
 アニメと原作では、へたり込み直後のセリフも違いますね。

原作ポップ「ちくしょう……二発分の魔法力を使っちまった……もうメドローアは撃てねえ……」
 
アニメポップ「ちくしょう……マホカンタで呪文を跳ね返された。もうメドローアは撃てねえ……」

 原作では魔法力的にメドローアを撃てなくなったと嘆いていますが、アニメではバーンに反撃の手があるので撃てないと嘆いています。

 ポップがルーラで逃げるシーン、原作では『集まれ』の後、全員が集合した後で『あばよ』と言っていますが、アニメではまとめていますね。

 大魔王からは逃げられないと宣言するバーン様、小首をちょっと傾げている辺りがあざとい……(笑)
 ゲームでラスボスから逃げようと失敗し、全滅した過去を思い出しますねえ。

 そして、懐かしのファミコン版DQ4の裏技、逃げるを8回繰り返すと会心の一撃の連発になる技をふと思い出しました。確かこれ、初期ロッド版だけだったような気もしましたが、筆者は結構活用していましたっけ。いや、どうでもいい思い出なのですが(笑)

 CM後のキルバーンの説明、微妙に改変されていました。

原作キルバーン「フフフッ……魔宮の門がそうであったように、このバーンパレスもバーン様の偉大なる魔力によって封印されているんだ。ルーラで逃げようったって無駄なのさ」

アニメキルバーン「フッフッフ……このバーンパレスにはバーン様の結界が張られているんだ。ルーラで逃げようったって無駄なのさ」
ピロロ「べーだっ」

 あまり変わりが無いようですが、原作の言い方だと魔宮の門と同様に突破可能と解釈されそうなので、アニメでは結界を強調したのかなと思いました。
 ……しかし、印象としてアニメ版キルバーンの方が不敬というか、バーン様を持ち上げる態度が減じている気がしますね(笑)

 ピロロとゴメちゃんのやりとりが、可愛いです♪
 カットされるかと思っていましたが、こういう小技な部分は残るどころかおまけすらつくとは(笑)

 バーンがマァムを挑発するシーン、後ろ姿のマァムと相対するバーンの姿がジワジワと大きくなっていく演出が、怖すぎでしたっ。
 しまいには、小さなマァムの上に覆い被さるシルエットのみが広がるシーンなど、台詞とは裏腹に『おまえには絶対に勝てっこない!』と言わんばかりでしたよ。

 絶対に勝てない感がヒシヒシと感じられる演出で、これで戦う気になったマァムの気丈さに拍手したいです。

原作バーン「グズグズしていると機を失う……」

アニメバーン「グズグズしているとチャンスを逃すぞ……」

 バーン様の台詞、アニメだと分かりやすく改変されていますね。原作通りの渋い言葉遣いもいいなと思いますが、話し言葉で聞くと古語的表現って意外と聞き取りにくいので、仕方が無い改変かと思いました。

 バーンの攻撃で髪がほどけるシーン、よかったです。
 マァムの髪の毛、前よりも長くなっているーっ。ストッキングの破け具合を相まって、より色っぽい感じに。
 そう言えば、ポップの服も思いっきり破けまくっていましたが、破け部分がオーバージャケットのみだったのでお色気シーンとはなりませんでしたね。

 それはさておき、バーンの語る力による正義に対して、原作のマァムが無言で言葉に詰まったのに対し、アニメのマァムが言い返しているのは面白い改変だと思いました。

 原作のマァムは、バーンの言い分に腹を立てつつも、一応理解はできるのに対し、アニメでは完全に理解の範疇を超えているという印象ですね。
 いい意味でも悪い意味でも、アニメのマァムの方がよりお嬢さんというか、箱入り娘なんだなぁと実感しました。

 バーン様のお言葉も、原作とアニメでは少し違っていますね。
 自分も敵も正義だと言いきるアニメバーンの言葉、なんか好きです。

 ダイがバーンに反論するシーン、原作ではブラス、アバン、バランのシーンはセリフもありましたが、残念なことにアニメではセリフはカットされて顔だけでしたね。

 ミストバーンが「立った……」と、驚くシーン、つい、アルプスの少女ハイ○のように『クララが立った!』とパロしたくなりました(笑) いや、シリアスなシーンなのですが!

 バーンのイオラの嵐、めっちゃ迫力ですっ。
 マァムだダイを呼ぶシーンは原作通りですが、原作には無かったポップがダイを呼ぶシーンが追加されていたのが、地味に嬉しかったです。

 マァムは心配の余り叫んでいた印象ですが、ポップのあの叫びもそうなのか、それともポップが持ち前の勘でここが勝負所だと見切っての呼びかけだったのか……想像の余地が膨らみますね♪

 ダイの攻撃時の台詞、原作では「この瞬間しかチャンスは無いっ!!」が省かれていました。……やがり、ダイの台詞って脳筋方向に改変されている気が(笑)

 バーンの死体っぷり、思ってた以上に無残な感じでビックリです。ザムザはもう少しソフトな感じだったのに……。
 やっぱり血が出ないと、これぐらいやってもいいと思っているんでしょうかね?

 後、キルバーンの驚きの表情、ちょっと笑っているように見えてしまうのは筆者の邪推でしょうかね?(笑)

 それにしても予告で、バーン様が倒されたことがまるっとリセットされているのですが(笑) 復活すると、すでに教えているよーなものですよ、あれじゃ!
 ついでに、親衛騎団を出したことで、意外な救世主のネタばらしをしたも同然ですよ〜。

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