『意外な救世主』(2021.11.20)

 

《粗筋》

 ダイの起死回生の一撃が見事に決まり、バーンは朽ち木のように燃え尽きた姿で倒れた……!
 それに、喜びの声を上げるポップ。
 対して、キルバーンとミストバーンは信じられないとばかりに目を見張る。

 一瞬の喜びの後、表情を引き締めたポップはマァムに声をかける。回復のチャンスは今しか無いと叫ぶポップだが、その時、明るい光が彼らを照らした。
 倒れたバーンから発しているのは、全回復呪文……ベホマの光だった。

ポップ「急げ! 今すぐ……ッ」」

 マァムを急かすその言葉を言い終わる前に、枯れ木のようだったバーンの手が上へと上げられる。
 そして、灰となった薄皮を吹き散らし、脱皮のごとく生気に満ちた手へと取って代わった。

 驚愕するマァムの目の前で、バーンは起き上がる。
 あまりにもあっさりと起き上がった姿からは、すでに先程のダメージは感じられない。服さえも完全復活させた驚異的な回復力に、ポップもマァムも驚きを隠せない。

 バーンを憎々しげに睨みつけ、ヒュンケルは灰の中から蘇る不死鳥を思い出す。
 ダイもまた、悔しげにバーンを睨み返す。

 復活したバーンは、ダイの力を認めた。素手では勝てないと言い、自分も武器を使わせて貰うと言って右手を横に広げる。
 バーン伸ばした手の先に、紫色の歪みが生じる。空間を渦巻くように現れた紫色の靄の中に、バーンはためらいもなく手を突っ込んだ。






 一方、パプニカ城のテラスではロン・ベルクが暗雲の立ちこめる空を見て、バーンが最悪の武器を手にしたことを悟っていた。
 彼の後ろには、アポロ、マリン、バダックが控えている。
 なぜ、それが分かるのかと問うバダックに、ロン・ベルクは自分が作ったと告げる。
 それに、驚くアポロ達。





 その頃、ダイ達はバーンが不思議な空間から武器を引き出そうとするのを見守っていた。
 誰よりも警戒の色合いが強いのは、ダイだ。

 渦から取り出した武器で、バーンは床をつく。
 黒い靄に覆われていたその武器から、溶け落ちるように靄が薄れ武器の全貌が明らかになった。

 バーンの身長ほどもあり、蛇のように絡みつく装飾が特徴的な杖……降魔の杖。
 武器を手にしたバーンは、結果が見えたと宣言する。
 互いにロン・ベルクが作った武器を手にした以上、本来の実力差が物を言う、と。

 だが、ダイはロン・ベルクがバーンの武器を作ったと聞き、動揺して嘘を言うなと怒鳴りつける。
 しかし、バーンはロン・ベルクが元々魔族であり、人間に武器を与えた方が珍しいと語った。





 時を同じくして、パプニカではロン・ベルクが昔のことを語っていた。
 鎧の魔剣と同時に、いくつかの武器をバーンの献上した時、バーンが自分用に選んだのが降魔の杖だったと言う。

 どんな武器かと問うアポロに、ロン・ベルクは一定の魔法力を打撃力に変える理力の杖の進化形のような武器だと説明する。
 わずかな魔法力しか攻撃力に変換できない理力の杖と違い、降魔の杖には際限が無い。膨大な魔法力を持つ大魔王が手にした時、最強最悪の武器となる。





 空の上では、バーンが言葉ではなく、その身をもって降魔の杖の説明を果たしていた。

バーン「見るがいい……! 奴の最高傑作を……!」

 わずかに上にかざすと降魔の杖は光り輝き、装飾の縄が命を得たように動き出した。それはバーンの腕に蛇のように絡みつき、バーンの魔法力を吸い上げる。

 魔法力に応じて降魔の杖の光が強まり、先端部分が変形する。そのまばゆさに、思わず顔をしかめるダイ。
 やがて、降魔の杖の先端からはノヴァのオーラブレードを思わせる、光の刃が生み出された。

 だが、その色合いはノヴァの刃と違い、やや黒みを帯びた金色だった。
 杖を両手で握ったバーンは、明らかに打撃に向けた姿勢で身構える。

バーン「さあ……試してみるがいい……!」

 武器を手にしたバーンを前に、ダイはどこかためらっている様子だ。
 バーンから立ち上る見えない気迫は、巨大な影のように広がっていく。それに息をのみ……その圧をはね除けるように、ダイは駆け出した。

 それは、アバンストラッシュでは無かった。
 走りながら両手で剣を構え直し、全力で振り下ろすダイ。それに応じるバーンもまた、全身をひねって勢いをつけ、上に向かって剣を振り抜いた。

 両者の武器がまともにぶつかり、その余波が周囲に噴き荒れる。
 鍔迫り合いに対する両者の反応は、対照的だった。さらにムキになって力で押し切ろうとするダイに、冷淡な表情で押し返すバーン。
 ぶつかり合った二つの刃のうち、ヒビが入ったのはダイの剣の方だった。

 呆気なく砕ける、ダイの剣。
 それを、驚愕の目で見るダイ。だが、バーンの表情に驚きは無い。さも、それが当然とでも思っているかのように、微塵の揺らぎも無かった。
 折れたダイの剣はクルクル回りながら跳ね上がる。

 それを驚いたように見上げるダイは、反動で後ろへと跳ね飛ばされていた。尻餅をついたダイの背後に、突き刺さるように落下するダイの剣……いや、折れた刀身。

 それを目の当たりにして、ポップ達は驚かずにはいられない。
 オリハルコンで出来たダイの剣が、折れた――その事実は、ダイの心もへし折っていた。

 座り込んだまま呆然とするダイの目は、色を失っていた。ダイの手には、柄だけが残るダイの剣が握られたままだが、その手は力なく緩んでいた。

 完全に総意喪失したダイを、つまらなそうに見やるバーン。
 だが、それでもここまでの時間、大魔王と戦ったと言う事実を誇れとの言葉を投げかける。
 それはすでに挑発では無い。最後を告げる、弔いの言葉だった。

 突然、ポップがダイに向かって立てと怒鳴りつける。動かないダイを叱咤する叫びだが、隣で聞いているマァムが驚くような大声にもダイは全く反応を見せない。

 そんなおまえを最後に見たくねえと言うポップの叫びは、怒りと言うよりも死に際の足掻きとも言える切実さが込められていた。
 気持ちが分かるだけに、無言のままそれを聞いている仲間達。

 だが、バーンはそれさえも断ち切るように、勇者一向に最後の光景を突きつける。
 身体を一回転させ、魔法力を込めて降魔の杖で一撃を放つ。

 カラミティーウォール……文字通り、壁状に広がった衝撃波がダイめがけて放出される。避ける気もなくすほどの広範囲に亘る攻撃は、全員を飲み込んであまりある大きさだった。
 床を削りながら迫り来るその技は、見ているだけでも恐るべき威力があるのかを予測させるには十分だった。

バーン「身をもって知れ……!」

 迫りくる攻撃を前にしてポップ達は怯えを見せるが、自失したダイはそれでも動かなかった。
 だが、その前に太い足が立つのを見て、ダイは初めて目に光を取り戻す。

 ヒュンケルとクロコダインが自分の前に立ち、挑むような姿勢で身構えているのに驚くダイ。
 弱々しい声ながら、ヒュンケルとクロコダインの名を呟くダイ。

 だが、ヒュンケルは振り返らず、隣にいるクロコダインに向かって話しかける。

ヒュンケル「おまえも同じか……クロコダイン……」

クロコダイン「ああ……この命、もともとダイ達にもらっただからな……」

 二人が何を覚悟しているのか、薄々察するポップとマァム。ダイもそれは同じで、二人にどくようにと呼びかける。
 だが、ヒュンケルは振り返りもしない。

 どうせ死ぬのなら、ここで死にたいと彼は言う。一秒でも一瞬でも、ダイを庇いたい――それが、ヒュンケルの意志だった。クロコダインもまた、死に場所ぐらいは好きに決めさせてくれと言い放つ。

 二人の言葉を、辛そうな表情で受け止めるダイ。反対しようにも、それ以上の言葉はかけられなかった。

 迫り来る超攻撃を前に、雄叫びを上げるヒュンケルとクロコダイン。
 真っ先にその攻撃を受けた彼らは、耐えることも出来ずに吹き飛ばされてしまった。

 それでも、バーン達のいる前方の壁へ吹き飛ばされた彼らとは正反対に、ダイはポップの後ろ側へと飛ばされたのは、彼らの尽力のおかげだったのか――。

 振り返ったポップは、岩壁に吹き飛ばされたダイが気絶し、横倒しになるのを見た。呼びかけても、ダイは反応を返さない。
 そんなポップに対して、バーンは一度放ったカラミティーウォールは誰にも止められないと宣告する。

 迫り来る壁にクロコダインの真空の斧が巻き込まれ、あえなく破壊されるのをマァムは目撃した。
 そんなマァムに向かって、ポップが声をかけてきた。

ポップ「頼みがある……手を……最後の瞬間まで、おれの手を離さないでいてくれ……」

 いつになく真剣な声音で頼む間も、ポップの目は迫り来る攻撃から離れない。自分を見ないまま頼む魔法使いの少年の手に、マァムの手が静かに重ねられる。

 手を握り合いながら、それでもまだ真正面を向いて最後の時を待ち受けるポップとマァム……勇者一行の最後の姿を見やるバーンの顔には、それを楽しんでいるかのような笑みが浮かんでいた。
 だが、突如、攻撃の気配を感じるバーン。バーンがそちらに目を向けた時、割り込んできた何かが床を砕いた。地割れは見る見るうちに伸び、カラミティーウォールよりも速い速度でバーンパレスの床を切断する。

 その衝撃に飲まれ、悲鳴を上げるポップとマァム。
 皮肉にも、床ごと落下したせいでカラミティーウォールの直撃から逃れることはできた。
 落ちながら、ポップは今の攻撃を仕掛けた人影を発見する。マァム、ゴメちゃんと抱き合いながら、息をのむポップ。

 ポップの一カラは後ろ姿しか見えなかったが、見間違いようがなかった。ハドラーが自分達を助けたことに、驚愕するポップ。
 バーンもまた、不機嫌そうに眉をひそめる。






 バーンパレスの一部が大きく壊れ、破片が落下していく。
 海に落下したポップとマァムだが、次々と岩が落下してくるため、波にもまれて危うい状態だ。海から飛び出したゴメちゃんも、警告の鳴き声を上げる。

 






 そんな海上での騒ぎも知らぬげに、バーンパレスではバーンがハドラーに声をかけていた。
 ハドラーが生きていたこと、勇者達の味方をしたことに驚いているバーン。

 だが、ハドラーは味方をしたわけではないという。自分以外の者に、ダイが殺されるのが我慢できなかったと言い放つハドラー。
 我が身を魔物に変えた意味も、生きる目標もなくなるのが許せないと言うハドラーに、バーンは冷酷に告げた。

 おまえはもうすぐ、死ぬ、と。
 血肉の一部となっていた黒の核晶を摘出したせいもあるが、バーン自身がハドラーを処刑するつもりだからだ。
 バーンの処刑宣言を、身震いしながら聞くハドラー。






 その頃、バーンパレスの一角では、瓦礫を蹴飛ばして登場したハドラー親衛騎団の姿があった。彼らもまた、ポップ達と同じように地中に篭もって衝撃をやり過ごしたようだが、脱出に時間がかかったようだ。

 外に出てすぐ、シグマがハドラーの気配を感じ取る。
 四人はすぐさまルーラで移動した。そこは、ハドラーとバーンが対決しているのを上から見下ろす位置だった。

 なぜ、バーンとハドラーが戦っているのか分からず、戸惑うヒム。だが、ハドラーへの絶対の忠誠心を持つアルビナスは、瞬時にハドラーへの加勢を決断する。

 が、彼らの背後にいきなりミストバーンが出現する。
 闘魔滅砕陣をしかけ、親衛騎団の動きを封じるミストバーン。ただ一人、浮き上がって陣の範囲から逃げ延びたアルビナスだが、首元に伸びてきた死神の鎌がその動きを止める。
 背後にいるキルバーンが、動くと急所を刺すと脅しつけてきた。

 下にいたハドラーも、それに気づいていた。
 動きを封じられながらも、ヒムはミストバーンに事情を問う。
 ミストバーンは淡々と、告げる。ハドラーが勇者ダイ達をバーンから救い、逃がした罪で、処刑されることを。

 驚くヒムに、加勢を諫め、主の最後を見届けるようにと命じるミストバーン。

 バーンは降魔の杖を持ち直し、身構える。それを、ハドラーは堂々とした態度で見据えていた。

 身動きの取れない親衛騎団の目の前で、バーンがハドラーに迫るのが見えた。一瞬で間合いを詰め、降魔の杖を振りかざす。

バーン「死ね、ハドラー……」」

 それを、身動きできないまま歯がみするヒム。
 アバンの使徒とやり合うことなく、こんなところで死ぬのかと悔しさに身震いするヒムの目の前で、バーンの刃がハドラーの首めがけて振り下ろされる。

 だが、その瞬間、ハドラーが目を見開いた。
 次いで、バーンも驚愕に目を剥く。
 ハドラーの首をはねようとした光の刃を、彼は両手を合わせて受け止めていた。真剣白刃取り――生半可な技量ではなしえない技を見せつけたハドラーは、不敵に言い放つ。

ハドラー「……あなたに二度殺されるのは、御免こうむる。どうしても私の命を奪うというのなら、この場であなたを倒すのみだ!」

 突如、反逆の意志を見せ始めたハドラーに、バーンは怒りの感情を抑えきれない。
 だが、ハドラーの気迫はそれ以上だった。
 全身を燃え上がらせるような気迫をみなぎらせ、彼は吠えるように叫ぶ。

ハドラー「オレをなめるな! 大魔王ォオ!」

 怒りに満ちたハドラーの闘気が、バーンを跳ね飛ばした。





 壁に叩きつけられたバーンは、ハドラーの見せた力に驚いていた。
 ハドラーには元々、死ぬとより強くなって復活する能力をバーンが与えていた。だが、それはバーンが暗黒闘気を注ぐことで成立するものであり、超魔生物となった今は失われた力のはずだった。

 よろめきながら身を起こすバーンは、こちらに向かって歩いてくるハドラーを見つめつつ、彼が自力で死の淵から蘇ったのではと推察する。自分を超える力を手に入れつつあると、苛立ちながら思うバーン。

 ハドラーを止めるため、ミストバーンとキルバーンが部下達を人質に脅しをかける。
 しかし、ハドラーは微塵の動揺も見せなかった。

ハドラー「構わん! 好きにするがいい」

 さすがに驚くキルバーン達だが、ハドラーの決意に揺るぎは無い。
 ハドラーが死ねば、その分身である親衛騎団もどうせ死ぬ。自分達は一心同体だと言い、目的のために命を惜しむ部下はいないと堂々と断言した。
 手から覇者の剣を生み出すハドラー。
 ハドラーのその決意を、ヒムは自分の心を代弁してくれたとばかりに喜ぶ。

ハドラー「バーン! 死ぬのはあなたの方だ!!」

 殺意を剥き出しに、バーンへと襲いかかるハドラー。
 その踏み込みの速さに驚愕するバーン。立ち上がる間もなかったものの、バーンは降魔の杖でハドラーの剣をきっちり食い止める。

 力を得て増長し、自分に刃向かう部下に対し、怒りの言葉を投げつけるバーン。
 しかし、ハドラーは冷静に自分とバーンの力を量っていた。
 
 無尽蔵に魔法力を吸い上げる降魔の杖を手にしたバーンは、それだけで魔法力を失いつつある。
 力比べで、ハドラーはバーンを押しつつあった。

 それは、実際に戦っているバーンも実感していた。同じオリハルコン製なのに、ダイの剣は折れたのにハドラーの覇者の剣を折ることは出来ない……それは、バーンの魔法力が低下していることを意味する。

 パワー勝負では、ハドラーに分がある。
 二人の鍔迫り合いを見て、危機感を覚えたミストバーンが動こうとする。だが、それに待ったをかけたのは、闘魔滅砕陣で囚われているシグマだった。

 今、束縛を解いたら自分達は何をするか分からない……そう脅しをかけることでミストバーンを牽制し、動きを封じる。
 囚われの身のままでいながら、主君のために協力しているのだ。

 アルビナスもキルバーンを牽制し、動きを封じる。どちらが人質を取っているか分からないほど不遜な態度を見せる女王の言葉に、キルバーンの軽口も苦々しげだ。

 ジリジリと力で押し切ろうとするハドラーを、バーンは蹴り飛ばすことで弾き飛ばした。
 距離を取った隙に立ち上がり、片手を高々と掲げたバーンはカイザーフェニックスをハドラーへと叩きつけた。

 炎の怪鳥が、ハドラーへと襲いかかる。
 それを、両手で受け止めるハドラー。なんと彼は、炎を力尽くで握りつぶし、カイザーフェニックスを散らしてしまう。

 これには、さすがのバーンや側近二人も驚いた。
 本来ならこの一撃だけで黒焦げになると、ハドラーも考えていた。だが、やはり魔法力が衰えていると判断したハドラーは、この気を逃さないと自身の剣に炎を呼び起こす。

 超魔爆炎覇でバーンへと斬りかかるハドラー。
 その一撃が決まると思った瞬間、紫色の光が鞭のようにハドラーの身体に巻き付いた。

 唐突な邪魔に驚くハドラーや親衛騎団。
 その術を放った先には、耳障りな笑い声を上げるザボエラの姿があった。サボエラが手から放つ魔法力を、ハドラーは振り切ることはできなかった。

ザボエラ「無駄じゃ……ワシも動けぬが、貴様も動けぬ」

 ザボエラの横入りにヒムは激怒するが、彼もまた動けない。
 喜び勇んで、大魔王に合図を送るザボエラ。

 ザボエラを短く褒め、バーンは降魔の杖を一度床に突き立てた。蛇のような装飾がバーンの腕から離れ、元通り杖へと巻き付く。その杖を、構えるバーン。

 ハドラーを案じて名を呼ぶアルビナスだが、キルバーンは大鎌を彼女の喉元に突きつけ、形勢逆転だと勝ち誇る。

 ヒムはシグマもハドラーを心配する中、ブロックは静かにハドラーを見つめていた。

 身構えたバーンは、目を見開き、全身の力をフルに使って降魔の杖を投擲する。
 悔しげな表情を見せるハドラーに、心配そうに彼を見つめる親衛騎団――その時、突然、ブロックの身体に線が走り、光り輝いた。
 その勢いに押されるように、ミストバーンが弾き飛ばされる。
 
 巨体が正中線から真っ二つに割れ、中から細身の人型のオリハルコン戦士が現れる。
 思わずブロックの名を呼ぶ仲間達。





 その間も、降魔の杖はハドラーに迫っていた。身動きも出来ないまま、自分に迫る武器を睨みつけるハドラー。
 だが、その刃先を受け止めたのはハドラーではなくオリハルコンの戦士――ブロックの本体だった

 さすがのバーンも、これには驚く。
 胸に杖が深々と刺さっているブロック――その後ろにはハドラーはいなかった。ハドラーの姿を探すバーンは、空中に浮かぶ球状の物体の中にハドラーと残りの親衛騎団がいることに気づく。

 ハドラー自身も驚いたようにブロックを見下ろしていた。
 ザボエラもいつの間にか消えた魔法に、戸惑って自分の手や周囲を見回している。

 ハドラー達を保護するかのような球状の物体は、ミストバーンやキルバーンを押しのけて空高くへと飛び上がる。
 ブロックの名を呼ぶハドラー。

 それが聞こえたのか、胸を貫かれながらも後ろを振り返ったブロックは軽く片手を上げ、仲間達への別れの言葉をかける。

ブロック「ミンナ……ハドラー様ヲ……頼ム」

 どこかぎこちない言葉だが、彼の顔にはかすかな笑みが浮かんでいた。挨拶のためにあげた手を握りしめ、ブロックはそれで空を指した。その方向へと遠ざかる球状の物体。
 ハドラーが再度、ブロックの名を叫んだ。

 それに答えぬまま、ブロックの身体は爆発する。それは、バーンパレスの頭頂部を根こそぎ消し飛ばすような大爆発だった。





 その爆破を目の当たりにしたヒムは、悪態をついて仲間を失った激情を紛らせようとする。

ハドラー「……ブロック」

 ハドラーの目は、どこか悲しげだった。
 ハドラー達を保護した球状の物体は、見る間に遠ざかって見えなくなっていった。





 バーンパレスの頭頂部では、大きなクレーターの中に降魔の杖だけが無傷で突き刺さっていた。
 逃がしたかと呟くバーンの左右に、ミストバーンとキルバーンが移動してくる。

 キルバーンの言葉からブロックが城兵(ルーク)の駒だと思い出したバーンは、チェスのルールに城兵と王を入れ替えるキャスリングがあることを思い出し、ミストバーンに説明する。
 ならば、ブロックにその能力があっても不思議では無い。

 杖に近寄ったバーンはそれを引き抜いた。
 しかし、チェックメイト後のキャスリングは、反則……止めを刺される寸前で邪魔をされたことに腹を立て、頭だけ転がっていたブロックの残骸に思いっきり投げつける。
 粉々に砕け散るブロックの残骸。

 まだ怒り収まらぬバーンだったが、そこに上から光が差し込んできた。空を見上げたバーンの目には、雲間から差し込む太陽の光が輝かしく映る。





 一方、落下物は収まったものの、未だに荒波に揉まれているポップ達。ポップはダイの名を呼びながら、必死に周囲を探している。

ポップ「ダイ!! ダイはどこなんだよっ、おれ達と一緒に落ちたと思ったのに!!」

マァム「まさか……ハッ!?」

 ポップとマァムは、そろって空を見上げる。
 バーンパレスよりは小さい者の、巨大な白い竜が空を飛んでいた。眩いまでに輝く白い竜は、優雅に滑空する。
 それがヒュンケルが言っていた話を思いだすポップ。


 同じ竜を見ながらも、バーンは確信を持ってそれが聖母竜マザードラゴンだと断じる。
 ミストバーン達も感心したように、その竜を見上げる。
 
 竜の騎士がその生涯を終える時に現れる竜……よくよく見れば、その竜は手に大きな白い球を抱え込んでいるのが見える。
 それを見て、バーンは自分の勝利を確信する。





 翻って飛ぶマザードラゴンを見上げたマァムは、あれを見るようにとポップを促す。
 マァムが指さす先には、マザードラゴンが抱え込んだ白い球があった。うっすらと見える人影は小柄で……紛れもなくダイだった。

 思わずマザードラゴンを呼び止め、ダイは死ぬわけはないと叫ぶポップ。だが、その声が聞こえているのかいないのか、マザードラゴンは遠くへと飛んでいく。

 ポップは必死にそれを追おうとするが、とても追いつける速度ではない。
 ダイを連れて行くなというポップの懇願が、悲痛に響き渡る。






 同じ頃、パプニカにいるロン・ベルク達は沈痛に俯きあっていた。
 その中、アポロが何かを見つけて顔を上げる。それに釣られて全員が顔を上げた時、二つの光る物体がルーラのように突っ込んできた。

 派手な土煙の後、そこに突き立っていたのはボロボロになった鎧の魔槍と、折れた痕跡があからさまなダイの剣だった。

 武器が持ち主ではなく、ロン・ベルクのもとに戻ってきたことに驚くバダック達。不安がるマリンをよそに、ロン・ベルクはじっと二振りの武器を見つめていた。






 そして、バーンパレスではバーンが降魔の杖の光を消し、元の形へと戻した。
 もう、バーンの行いに水を差す者は現れないのだから。
 
 聖母竜が新たな竜の騎士を誕生させたとしても、それが一人前になるまでには十数年の年月がかかる。が、バーンの地上攻略は十日はかからないとバーンは踏んでいた。

 後はハドラーの捨て鉢な反抗にだけ気をつければいいと言い、バーンは一同を率いて歩き出した。

バーン「行くぞ、みなのものよ。世界に……破滅をもたらすために」

 
 



《感想》

『ハドラー、かっこいい! おっさん、かっこいい!』と、心の底から叫びたくなるような回でした♪ 主役は誰やねん(笑)

 バーンの復活っぷり、実に鮮やかでお見事でした。しかし、バーンが復活した時に「一瞬、マジで心配しちゃいましたよ」と軽口を叩くキルバーンのセリフがカットされていたのは残念!

 バーンの降魔の杖、最初は黒い靄に覆われていたのにそれが剥がれ落ちていく演出は、アニメの改変ですね。思っていたよりもかっこいい武器の出現となりました。

 しかし、ロン・ベルクの説明シーンを思いっきりはしょったのには納得がいきませんとも!
 バダックさんがロン・ベルクに食ってかかるシーンが無くなったのが、無念でッ。っていうか、バダックさん、台詞を一言も喋っていませんが(笑)
 
 それにロン・ベルクの説明からも、バーンがなぜあの武器を選んだのか疑問に思う気持ちが省かれたこと、「最強最悪の武器へと変わる……そう、変わるんだ」との決め台詞がなくなったのも残念でなりませんッ。
 
 でも、バーンが降魔の杖を手にした時の改変台詞は、いいですね。
 降魔の杖をロン・ベルクの最高傑作と解釈し、それをダイに見せつけるかのような態度に、バーンのロン・ベルクへの執着心を感じます。

 ダイとバーンの激突シーン、原作よりもたっぷりと時間をかけて丁寧に描写しているのがすごいです!

 ことに感心したのが、ダイが剣を持ち返るシーン。
 原作では半端な持ち手から両手持ちに変化して斬りかかっているのですが、アニメではアバンストラッシュ特有の逆手持ちから普通に持ち替え、更には両手での攻撃になっています。

 無意識にアバンストラッシュではなくギガブレイクで攻撃しようとしていたように見えて、父親の強さをすがろうとするダイの思いが感じられるような気がしてなりません。

 原作では一瞬であっさりと折られたように見えた対決が、アニメでは力押しで負けて砕けた描写になっているのに、ちょっと驚き。思っていたよりも、バーン様が武道派(笑)

 また、ダイが剣を失った後の手の改変にも、注目です!
 原作では普通に柄を握っていましたが、アニメでは柄を握る手に明らかな緩みが見えます。武器を手放すまいとする心まで失っている表現の細かさに、脱帽です♪

 ロン・ベルクの解説シーンがまるっとカットされていたのが非常に残念ですが、ダイが剣を折られた段階で戦意喪失したように、ポップやみんなもあの時点で勝機が消えたと悟っている感がすごくでていますね。

 バーン様のカラミティーウォール、アニメでは放つ際に一回転していましたよ! 意外と、アクションが派手だったんですね(笑)

 ポップとマァムが手を繋ぎ合うシーンが、いいなぁ。
 よくよく見ると、原作とは握り方が違いますね。原作ではポップは震える手を伸ばす形でしたが、アニメでは掌を上に向けてマァムの手をより受け止めやすくしていました。

 原作では下げた手を握り合っているだけでしたが、アニメでは二人とも手を肘よりも高い位置に持ち上げているので、より強く手を握り合っている印象があります。

 落下シーンも、原作では手を繋いでいましたがアニメでは抱き合うような格好になっていました。
 しかし、それ以上にハドラーのかっこいいこと!

 原作では視点的に前からの姿になっていましたが、アニメではポップ視点に会わせて後ろ姿になっていましたね。ハドラー、後ろ姿までかっこよくなっていますよ……!

 それにしても、ハドラー親衛騎団の台詞のカット具合、多すぎませんか!? ブロックが密かに活躍していたことを示唆するシーンが、思いっきりスルーされているのですが〜っ。
 少しどころか、大いに悲しいです。

 でも、ハドラーとバーンの対立っぷりはお見事! 
 ミストバーン&キルバーンと親衛騎団戦も短いながらいい感じでしたし、バーンに対抗するハドラーは実に迫力がありました♪ ハドラーを我がことのように応援するヒムの熱心さも、いい感じです。
 ……って、これ、今回のダイとポップ以上に熱烈な絆を感じるのですが(笑)

原作バーン(そして今や、余に匹敵するほどの力を手に入れつつあるのでは……?)

アニメバーン(そして今や、余に匹敵する強さを手に入れつつあるというのか!?)

 ハドラーの実力に対してのバーンの推測、原作とアニメではやや改変があります。アニメバーン様の方が焦っている感じなのが、面白いところ。
 そう言えば、原作ではバーンとハドラーは立ってやり合っていますが、アニメではバーンが壁にぶつかって腰を落とした体勢のままやり合っていますね。立ち上がりが遅い! ……もしや、アニメのバーン様、腰痛持ち?(笑)

 ミストバーン、キルバーンと親衛騎団のやりとりはいい駆け引きという感じで、実に良かったです。シグマ、やっぱりいい声をしていますねえ♪
 アルビナスのハスキーボイスには、心底ゾクゾクっ。

 盛り上がる対決シーンで、割り込んできたザボちゃん……展開は知っていたのに、思いっきり「邪魔すんなよっ」と叫んでしまいましたとも(笑)
 それにしても原作を読んだ時から思っていましたが、ザボちゃんが使っていた魔法って、超魔生物を捕縛する専用魔法じゃないのかなーと疑っています。

 自分以外を改造するなら、いざという時に取り押さえるための準備はザボエラなら用意しておいて不思議はないと思うんですよね。だから、あのハドラーでも振りほどけなかったんじゃないか、と。ま、ただの個人的推理ですが。

 アニメでは改変台詞があったので、単に自分と相手の動きを封じる諸刃の杖的な魔法なのかもしれませんね。信頼できる仲間がいれば有効な呪文ですが……ザボちゃんに限ってはほぼ使い道が成さそう(笑)

 バーン様にお手柄アピールするザボちゃん、不覚にも可愛いなと思ってしまいました。声が弾んでますよっ。

 そして、キルバーンの「形勢逆転だね」の台詞の後の「あー、ホっとした〜」というピロロの台詞がカットされていました。

 バーンが杖を投げるシーン、バーンの目が一瞬、くわっと見開くカットが混じっているのには感心しました。時折、バーン様の目がホラー風味たっぷりに見開かれるシーンはアクションシーンに紛れている感じで、見るのが楽しみです。

 ブロックの入れ替わりシーン、原作ではブロックは普通にハドラーの前に立ちはだかって攻撃を受け、その瞬間にハドラーはブロックの抜け殻の方へと移動していました。

 アニメでは、ブロックは瞬間移動し、ハドラーに杖が当たる時には両者の入れ替えが完了しているイメージですね。杖が当たる寸前、ハドラーがぐるりと時計回りに回転する演出もあったせいで、入れ替わりがスムーズな感じでした。

 それにしても、ブロックの最後の台詞、感動的でした。
 ハドラーも何回ブロックを呼ぶの!? と言いたくなるぐらい、彼の名前を連呼していましたね。最後の最後で存在感が爆上がりです!

 しかし、バーンはザボエラが決闘に割り込んだことは褒めていたくせに、自分が反則されるのは嫌だというわがままさん(笑)
 ブロックへの最後の攻撃は、憎しみが篭もっていましたね。
 血が出ない残虐シーンは、なぜかカットされません。

 ハドラー親衛隊達が、有利、不利に拘わらずに決闘に割り込むのは良くないという倫理観を持っているのとは対照的だと思いました。バーンにとってはやはり力が正義=最強である自分そのものが正義であり、自分の決めたルールさえもその原則を上回ることができないらしいですね。

 ところで海に落ちたポップ達、台詞が改変されていますね。
 後、原作ではなんとなくマァムの側を飛んでいたゴメちゃんが、ポップの頭に貼り付いているのが可愛かったです♪

 夢にまで見たマザードラゴン、ついに降臨っ! 白銀が実に美しくて、色合いに感動♪ 飛び方もどこか優雅で、うっとりしました。

 ほとんど翼を動かさない品のある飛び方を見ていると、エンディングのドラゴンは翼をバタバタさせていて、余り飛び慣れていない子供っぽさがあるなと妙に実感しましたよ。

 次週予告、……予告の段階でダイ達がどうなるのかバラしまくっているのですが(笑)
 いや、ネタばらし早すぎでは?

 ポップが仲間の無事を祈る立場って、なんだかポップに主人公適せ二斤が押しつけられたような感じです。ダイが場面に映っているんだから、ダイ君主体のコメントにした方がいいような気がするんですが……ああ、どこまでも予告でネタばらししていくスタイルですね。

 そして、予告での聖母竜にちょっとガッカリ。
 飛んでいる時はあんなに優美に見えたのに……近くで見ると、体格がごつい上、顔立ちがイマイチ怖いのですが……これが気のせいであって欲しいです。

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