『聖なる継承』(2021.12.25

  
 

《粗筋》

 床の崩壊に巻き込まれたレオナ達は、下の階に落ちてしまった。
 とりあえず全員無事とは言え、フローラは困ったように、もう手も届かなくなってしまった一段上の階の階段を見上げる。
 床に落ちたロウソクは、すでに完全に消えていた。

 時間もちょうど10時間が経過し、帰還を始めなければならない時間だ。戻らなければと言うフローラに、レオナが強い口調で前進を提案する。
 フローラやマァムは驚くが、レオナは10時間以内に確実に帰還方法を見つけられるか分からないなら、ミナカトールを手に入れる方に賭けようという。

 輝聖石が二つしか無くても、ミナカトールを使えばこの洞窟の邪気ぐらいは払えるはずだから、リレミトの呪文で脱出できると主張するレオナ。
 それは奇跡に近い成功率だと躊躇するフローラだが、レオナは打倒バーンという大きな奇跡を起こそうとしている以上、小さな奇跡ぐらい起こせて当然と、笑顔で言い切った。

 レオナのその自信に、フローラを初めとした仲間達も微笑みを誘われる。
 が、メルルはハッとして目線を迷宮の奥へと向けた。武器を持った彷徨う鎧達が、群れを成してこちらに迫ってくる。

マァム「相手をしているヒマはないわね」

 打ち合わせもしないまま、全員が一斉にモンスターとは反対方向に向かって走り出した。明るい声で号令をかけるレオナを見ながら、フローラは彼女の資質と自分の目の正しさを確信する。
 道具袋から新しいロウソクを取り出し、火を灯すフローラ。

フローラ(後10時間……必ず、ミナカトールを手に入れましょう!)
 
 四人は、洞窟の奥へ向かって駆けだしていった――。






 その頃、地上ではダイが特訓中だった。
 すでに暗くなっている中、アバンストラッシュをノヴァめがけて放つダイ。ノヴァはアロータイプのストラッシュをまともに受け止めるのではなく、剣で弾くようにして受け流す。

 弾かれた剣戟が近くの木々を爆破した。ダイは続けざまに、またもストラッシュを放つ。
 その攻撃は、光となって森の外からでもよく目だった。

 ノヴァはアロータイプをかなり連射できるようになったと褒めるが、ダイは納得していない。
 これでは、大魔王バーンに対抗できないから、と。

 バーンのカイザーフェニックスに対抗した時、ダイが無意識に使ったのはブレイクタイプだった。
 ダイの剣が無くなった今、アロータイプの速射性とブレイクタイプの攻撃力がある技がないと不利と考えるダイ。

 だが、頭を掻きむしったダイは、ふと閃く。
 ノヴァに身構えるように頼んで、距離を取ったダイはひどく嬉しそうな顔で新しい必殺技を思いついたと言う。

 戸惑いながら、第三のアバンストラッシュを編み出したのかと問うノヴァ。
 そんな大げさなものじゃないと言いながらも、ダイはノヴァにオーラブレードのパワーを最大にして構えて欲しいと頼む。

 戸惑いながらも、ダイの望み通りに闘気を高めるノヴァ。彼の剣が光を放ち出す。
 ダイもまた、闘気を高め、アバンストラッシュの構えを取った。
 それを冷静に見据えるノヴァ。

ノヴァ(一見、今までと同じ構えにしかみえないが……いや……)

 いつもよりもやや身を乗り出し、強い気迫を感じさせるダイに、ノヴァも気迫を高めて応じる。
 やがて、ダイが踏み込んでくるのを見たノヴァは、大きくうろたえた。逃げ道を探すように一瞬目を泳がせるも、寸前で気迫を込めて闘気を高める。

 瞬間、周囲が真っ白に染まった。
 森の外からも、先程とは比べものにならない発光と揺れに木々が荒れ狂う。

 攻撃の余波が収まり、森が静まりかえった後、ノヴァは強ばった表情で固まっていた。彼の手にした剣が、根元から砕けおちる。
 ダイは技を放った後の格好のまま、それを見ていた。

 腰を落とし、木の根元に座り込むノヴァ。その背後の木々は呆れるほど見事に切り倒されていた。しかも、奇妙なことになで切りにされたのでは無く、切り口が右から斜め切りにされたもの、左から斜め切りにされたもの、中には左右から斜めに切られた痕跡の残る木もあった。

 あまりに破壊力にノヴァが強い調子で抗議するも、あまり深刻に考えてないのかダイの謝罪は極めて軽い。
 気休め程度だが新しい戦力が増えたことを喜ぶダイに、ノヴァは呆れるばかりだ。

 ノヴァの目には驚異の新必殺技と見えるのだが、ダイは無頓着だ。そんなダイを見て、ノヴァは彼と張り合おうとしていたことを思い出し、苦笑する。

ダイ「いやぁ〜、そんな……でも、まだタイミングがイマイチだ」

ノヴァ「ああ、さらに特訓だな!」

 ノヴァは近くの荷物置き場へ行き、新しい剣を手に取る。それを待ちかねたように、ダイは再び剣を持って踏み込んだ。

ダイ「それじゃいくぞ! どぉおおーーっ」







 その頃、破邪の洞窟では半分以下に縮んだロウソクを手に、レオナ達の探索は続いていた。
 狭い廊下を降りる彼女の達の影が、大きく広がって壁に映り込む。
 フローラを先頭に、明るい光の広がる階へ移動する一行。階層の入り口で、全員、一旦足を止める。

フローラ「ここが、地下25階……ミナカトールがあるとされている階層よ」

 決意したような目で、その階層を見つめるレオナ。
 そこには、円柱に支えられた儀式場じみた場所があった。メルルはスッと指をあげ、花形の魔法陣が刻まれた中央の石を指す。

メルル「あの中央部、なにか不思議な力を感じます」
 
フローラ「きっと、あれが儀式の祭壇なのでしょう」

レオナ「ふぅーん」

 レオナ、勢いよく走り出す。

レオナ「ここで祈るんですね?」

 一人だけ円柱の儀式場に入り込んだレオナは、フローラを振り返って確認を取る。

フローラ「そうみたいね。アバンのしるしを」

レオナ「はい」

 レオナは腰からアバンのしるしを取り出し、それを首にはめる。ペンダントをつけた後で、レオナは髪を後ろに払いのけた。ふぁさりと、彼女の長い髪が美しくなびく。

レオナ「では!」

 魔法陣の中央に立つレオナ。

フローラ「いよいよね」

 フローラ達も魔法陣のすぐ近くにまで、歩み寄ってくる。

レオナ「はいっ」

 手にした本を握りしめ、レオナを見つめるメルルだが、不意に表情を強ばらせて息をのんだ。

メルル「モンスターの気配が……!」

 メルルの声の後で聞こえてきた地響きに、全員がそちらを向く。その時には、すでにマァムは両手を構えていた。

マァム「ま、当然よね」

フローラ「レオナ」

 フローラはレオナに向き直って、言う。

フローラ「モンスターは私達に任せて。あなたは儀式を」

レオナ「はい」

 頷くレオナと、しばし見つめ合うフローラ。
 レオナは両手を胸の前で組み合わせる。そして、目を閉じた。

メルル「来ます!」

 暗い部屋の入り口から、壁を押し崩す勢いで現れたのは、サイクロプスだった。それと見た途端、マァムは地を這うような低い姿勢でモンスターめがけて飛び出した。

 殴りかかると見せかけて、フェイントで身を翻して滑り込み、怪物の脚の間をくぐり抜ける。見事に後ろをとったマァムは、脚を踏ん張って背後から正拳突きを打ち込む。
 体格の差のせいで、敵の膝の後ろに当たる一撃。
 
 だが、サイクロプスには全くその攻撃は効果は無かった。
 全くダメージを感じさせない動きで振り向いたサイクロプスは、巨大なこん棒を手にして高笑う。

マァム「こいつッ!!」

 今度はサイクロプスが棍棒でマァムを横殴りにしようとするが、彼女はその場で高く跳び上がり、全体重をのせた回し蹴りを敵のたった一つの目に当てた。

 さすがのサイクロプスもこれは堪えたのか、後ろに倒れ込む。着地を決めたマァムは、拳を構えたまま大きく息を吐いた。
 しかし、呼吸を整える暇は無い。

メルル「まだ来ます!!」

 切迫したメルルの悲鳴に、マァムは新たなる敵に目を向ける。
 サイクロプスにシルバーデビル、ゴーレム……数え切れないほどの敵が目の前に現れた。

マァム「すごい歓迎ぶりね」

メルル「人間の神の作った洞窟に、なぜこんなにもモンスターが……?」

フローラ「大昔の賢者は、この破邪の洞窟の最下層が魔界に繋がっているかもしれない……と書き残しているわ」

 二匹のシルバーデビルがジャンプするのを見て、マァムは叫ぶ。

マァム「近寄らせるもんですかっ!」

 低く身構えてから、一匹に跳び蹴りを、一匹を殴り飛ばすマァム。ゴーレムの巨体すら、マァムは真正面から蹴り飛ばしてしまう。
 その奮闘を心配そうに見つめるメルルは、すがるような目でレオナを振り返る。

メルル「……レオナ姫……」

 ずっと目を閉じたままのレオナの胸元、アバンのしるしが光り出した。
 継承に儀式が始まると告げるフローラ。
 レオナの身体が光に包まれ、輝き出す。その光は魔法陣全体から立ち上る光の柱となり、レオナは神に祈りの言葉を捧げる。

 だが、ミナカトールの伝授を祈った途端、レオナの足下から激しい炎が噴き上がった。炎に巻かれ、悲鳴を上げるレオナ。
 フローラもメルルも、それを見て顔色を変える。

 ゴーレムと戦っていたマァムも、レオナを気にして一瞬振り返るが、そのスキに敵の攻撃を受けそうになり、飛びずさった。

 レオナの名を呼ぶメルルを、フローラは手で制する。
 魔法陣の中のみで噴き上がる炎は本物では無く、精神エネルギーに過ぎないと看破するフローラ。

 厳格なのかと問うメルル。
 だが、実際に炎に焼かれているレオナは苦しそうにうめいている。それは神が残した試練の炎であり、レオナがミナカトール習得に失敗すればそのまま焼き尽くしてしまうだろうと推理するフローラ。
 それ聞き、ショックを受けるメルル。

 その間も、マァムは一人、戦い続けていた。
 意外と動きの素早いゴーレムのパンチをジャンプして避けも、後ろからシルバーデビルに殴られるマァム。一瞬よろけるも、マァムはすぐに回し蹴りを相手の顎に蹴り上げる。 

 続けざまに襲ってくる怪物達に、全身でぶつかるように戦い続けるマァム。
 その合間にも、マァムは振り返ってレオナの名を叫ぶ。
 フローラは苦痛にのたうつレオナを見つめながら、静かに声援の言葉を呟く。

 精神的な炎は実際にはレオナの身体を焼かず、彼女の髪や服は舞い上がるだけで焼け焦げていない。だが、苦痛は実際の炎に焼かれるのと大差ないのか、声を抑えきれずに呻き、身をよじり続けるレオナ。

 その炎を背後に背負い、マァムは息を切らしながらも仁王立ちになる。床石にヒビが入るほど強く踏みしめたのは、ここから先には決して通さないという不退転の覚悟の表れだ。

 だが、モンスターの数の多さのせいで押され、怪物達は儀式場の円柱にまで迫っていた。前にマァムがいるとは言え、魔法陣の前に陣取るフローラとメルルも、すでに怪物の攻撃範囲にいるも同然だ。
 警戒の表情を見せ、怪物を睨むフローラとメルル。
 その間も、レオナは炎に巻かれ続けていた――。







 炎の熱さに喘ぐレオナの耳に、誰のものとも分からぬ声が響く。
 ミナカトールを求める者に、魂を示せと謎の声は問いかける。突然の質問に戸惑いながらも、レオナは自分の心を正直に打ち明ける。

 破邪の力が必要な理由は、一つだけ……信じているからこそ、だ。
 今まで育った国や人々を信じるからこそ、自分達が受け継いだものが正しいと証明するため、力が欲しい……それだけだと言い切るレオナ。

 レオナが堪える間も、戦いは続いていた。
 マァムは一人でサイクロプスの豪腕を押さえ込みながら、ゴーレムのパンチをなんとか手で払う。。
 フローラは背後にメルルを庇いながら、シルバーデビルに火炎呪文を放って敵を牽制していた。

 レオナが強く、言い放った直後、彼女の胸のアバンのしるしが輝いた。
 その輝きは、儀式の場全体を照らし出す。空中に浮き上がって輝くしるしを、レオナは目を見張って見つめていた。

 その眩いまでの白い輝きが、炎を蹴散らした。
 その光景に、驚愕するフローラとメルル。ゴーレムを力尽くで押しやろうとしているマァムも、その光に驚いていた。

 真理を強く看破し、善を貫く気持ち……レオナの力である正義の光だと見抜くフローラ。
 光の柱の中で、レオナの身体が美しくきらめく。

 その光に、怪物達は耐えきれないとばかりに目を背ける。悲鳴を上げ、怯む怪物達。

 レオナはみんなに向かって、自分のところへ来るように言う。
 それを聞いたマァムは身を翻して駆けだし、フローラ、メルルも同じく駆ける。

 レオナの伸ばした手につかまるメルル。そして、メルルが差し出す手と、フローラの手に、マァムが両手を伸ばしてしっかりとつかんだ。
 それを確認したフローラが、優雅にレオナの手をつかみ、4人の円が完成した。

 力強く、ミナカトールの呪文を唱えるレオナ。
 その瞬間、一段と強い白光が彼女達を包む。一瞬の影の揺らめきを残し、すべては白に覆われた。







 地上。
 森の中でアバンストラッシュの構えを取っていたダイの後方で、巨大な光の柱が立ち上った。

ノヴァ「光の……柱?」

 もしかしたらレオナ達のものかもと察したダイは、ノヴァと一緒に急いで戻ることにした。特訓を止め、光の柱に向かって駆け出すダイとノヴァ。






 空に届くほど強く輝く光の柱は、遠くからでもよく見えた。だが、その光も長くは続かずフイッと消えてしまい、森はまた闇に包まれた。
 暗い岩山で、ポップは肩で息をつきながら這いずり、光が見えた方向をみやる。

 ポップの格好はボロボロで、激戦の後のような姿だった。
 苦しそうに息をしていたポップは、その場にばったりと倒れ込む。ポップの周辺には、大呪文の痕跡が刻み込まれていた。山が大きく抉られ、クレーターがボコボコ開いていて、まだあちこちから土煙が立ちこめていた。

ポップ「ベタン……!」

 苦しそうに呪文を唱えたポップの身体が、魔法の光に包まれる。紫色の重力が上から降ってきて、ポップを直撃した。その衝撃に声を上げるポップ。
 やがて、ポップは息を荒げながら、ようやくのように身体を起こす。

 震えがちの声で、ポップは嘆く。
 どんなに魔法力を全開にしても、身体を痛めつけても、ポップのアバンのしるしは光らない。
 今にも泣き出しそうな目で、手に握り込んだしるしを見つめるポップ。

 手を握りしめようとして、どこかに苦痛を感じたのか顔をしかめるポップ。握り損ねたその掌から、こぼれ落ちるようにアバンのしるしが落下し、地面に落ちる。

 地面に落ちたアバンのしるしに、一滴の滴が降りかかり、それは見る間に雨となって地面を叩き始めた。
 暗雲から降りしきる雨の中、ポップは身動きもせずに座り込んだままだ。アバンのしるしを拾いもせず、ただ座り込んでいたポップは、肩を揺らして笑い出す。

 雨に濡れたポップの顔を、幾つもの滴が伝う。その中で、目を伝う水滴は雨では無かった。
 
 雨の中、ポップは仲間達のことを思う。
 同じ仮免扱いでも、ダイは竜の騎士子であり、レオナはパプニカの王女、マァムは両親ともにアバンの仲間だった。ヒュンケルは子供の頃から、善と悪両方の指導を受けた戦闘のプロ。

 両拳で地面を叩き、ポップは自分だけがみんなと違うと叫ぶ。血を吐くようなポップの叫びは、誰の耳にも届かない。
 雨に打たれたアバンのしるしにも、まるで泣いているように水滴が伝っていた。

 しばらくそうしていたかと思うと、突然、ポップはルーラを発動させる。光の軌跡が空へ舞い上がり、流れ星のように尾を引いて暗闇の向こうへ飛んでいった――。






 場面転換し、ポップは暗い表情で俯いていた。ロウソクの陰影が、さらにその顔の影を強める。そんなポップを見やるのは、マトリフだった。
 そこは、パプニカの海岸にあるマトリフの洞窟。

 通り雨だったのか、地理的な関係か、マトリフの洞窟あたりは雨は降って折らず、月明かりが海を明るく照らしていた。

 まるで謝罪でもするかのように、膝を揃えて床に座り込んでいるポップに対し、ベッドの上で身を起こしているマトリフは何かぬかせと話しかける。
 ぶっきらぼうな口調ではあるが、ポップが相談事があるからここに戻ってきたと見抜いたマトリフは、弟子が話しやすいように水を向けてやっていた。

 顔を上げ、何かを言いかけるポップ。
 マトリフは確かにそれを待っていた。しかし、ポップは首を強く振って、いくら師匠にでも言えないと否定する。

 しゃべれねえ相談になんか乗れないと呆れたように言うマトリフだが、軽口めかせたその口調にはどこか優しさがあった。
 
 ポップもこれが師匠に相談してどうになる問題ではないと、承知している。自分自身の問題……、いや、自分自身でもどうしようも無いかもしれないと述懐するポップ。
 最後の最後で、越えられない一線が来たのかもしれないと、力なく呟く。

 それでも、せめてみんなには迷惑をかけたくないとポップは訴える。どうしていいのか分からなくて、気がついたらここに来ていた、と――。

 話を聞いたマトリフは、肩をふるわせて笑う。
 それを謝りながらも、マトリフは機嫌良さげだ。妙に嬉しいのだと、彼は言う。

 師匠の意図がつかめず、戸惑うポップ。
 そんなポップに、マトリフは弟子の成長を実感したからこそ味わうむずがゆさを伝える。

 半人前と思っていた弟子が、いつの間にかここまで成長したことで味わえる、嬉しいような、寂しいような気持ち……妻も子も持たなかったマトリフにとって、子を持つ親の気分のようだと語る。

 メドローアを授けた以上、ポップの戦力は自分以上かもしれないと考えているマトリフ。『マトリフのしるし』があるなら、とっくにやっていたと屈託無く笑う師匠の姿に、ハッとするポップ。

 ポップが立ち上がる気配を感じ、訝しげな表情を見せるマトリフ。マトリフに背を向けたまま、ポップは自分でなんとかするという。精一杯の強がりで震えている声は頼りなかったが、それでもポップは部屋から出て行こうとした。

 それを、呼び止めるマトリフ。
 そのまま聞けと言いおいてから、最後のアドバイスを弟子に与える。

『自分を信じろ』

 それが、マトリフからポップへのアドバイスだった。
 生まれや素質に恵まれないからこそ、アバンに憧れたポップのこれまでの努力を見てきたマトリフだからこそ、弟子のすべてを肯定する。

 ポップの強さを認め、オレの自慢の弟子だと告げる。
 振り返らないポップだが、それでもコクンと頷いた。かすかに鼻をすすり上げ、ポップはそのまま駆け足で去って行った。
 それを、黙って見送るマトリフ。

 マトリフには、ポップの悩みがおおよそ読めた。それが、ポップの人生にとって一番の壁だとも予想はついている。
 だが、それを乗り越えたら、ポップはもう自分の手の届かないところにいってしまうのだろうと、考えるマトリフ。

 寂しそうでいて、それ以上に満足そうに笑うマトリフは、ポップが必ずその壁を乗り越えると確信しているかのようだった。
 一人、取り残された部屋で、マトリフは苦しそうに咳き込んだ――。







 夜のカールの砦。
 兵士達の集まる広間で、フローラは宣言する。

フローラ「大破邪呪文ミナカトールを手に入れました!」

 フローラ、マァム、メルル、レオナの側に、ダイとノヴァがいて、彼らを取り囲む兵士達が大きくどよめく。






 暗い廊下を歩いていたポップは、広間の様子を物陰からそっと伺う。

フローラ「ヒュンケル達の救出作戦を成功させ、その勢いのままバーンパレスへ勇者達を送り込みます!」

 フローラの力強い演説に、兵士達は「おおーっ」と声を揃えて呼応する。
 レオナ達が無事に帰ってきたことを確認するポップ。

 ダイは嬉しそうにレオナを祝福し、レオナもガッツポーズで結構楽勝だったと仲間達を振り返る。が、マァムやメルルは無理に浮かべたような苦笑をするばかりだ。

 フローラは、その輝聖石がレオナ姫のためのアバンのしるしとして輝きを放つでしょうと、満足げに告げる。
 レオナも今や堂々とアバンのしるしを胸に下げ、大切そうにそれを指でつまんでいた。

レオナ「でも、大変だったのよぉ」

 楽しげに騒ぐ仲間達の声を遠くに聞きながら、ポップは王家の姫でさえ努力したのだから、自分もその十倍ぐらい頑張らなければと、強く思う。
 中に入らず、走って元来た方向へ引き返すポップ。






 そんな頃も知らぬまま、レオナはダイに修行の成果を訪ねる。
 ノヴァは新必殺技を編み出したことを呆れ半分に吹聴する。レオナにも褒められ照れるダイだが、竜闘気を伝わらせられる剣があればとぼやく。
 
レオナ「ダイ君の、ダイの剣があればねぇ……」

 そこに一人の兵士が駆け込んできて、フローラに魔族とおぼしき者が砦に近づいてきていることを報告する。
 途端に、その場の緊張感が増す。






 砦の外側では、槍を構えた数名の兵士が後ずさりながらも攻撃姿勢を取っていた。暗闇の森から、足音だけが響いてくる。
 そこに、ダイとノヴァを先頭にした兵士達が、門を開けて出てくる。
 だが、ハッとした表情を見せたダイが、待ってと言って前に進み出た。

 武器を納めながら、その人は敵じゃないと兵士達を止めるダイ。
 突きつけられた槍を、やんわりと手で押さえながら現れたのはロン・ベルクだった。

 ロン・ベルクの後ろからは、憤慨したように文句を言うバダックも登場する。
 ダイが歓迎の意思を見せたことで兵士達は武器を納めないまでも、敵意をみせなくなった。

 それをいいことにロン・ベルクは堂々と歩き、荷車を引いたバダックがそれに続く。
 フローラやマァムと並ぶレオナを発見したバダックは、嬉しそうに彼女に駆けよって挨拶する。

 一方、ロン・ベルクはダイを向き合い、大魔王が『アレ』を使ったなと確認をする。
 降魔の杖と戦った事に頷くダイ。
 ロン・ベルクが降魔の杖を作ったのは本当かと問うダイに、今度はロン・ベルクが頷いた。

 降魔の杖を手にした大魔王バーンが無敵だからこそ、ロン・ベルクはわざわざやってきたのだという。
 よくここが分かったと不思議がるレオナに、ロン・ベルクはこいつに聞いたと、背負った剣を指す。

 ロン・ベルクにとっては小さすぎるようにみえるその剣は、布に包まれている。
 それを地面に下ろし、彼はそれが自分の元へ来た次第を告げる。

 ヒュンケルの魔槍とダイの剣は、より強い力を求めてロン・ベルクの元に来たのだと言う。だから、ロン・ベルクもそれに堪えた。
 布を引き破ると、中から現れたのは新しい鞘に覆われたダイの剣だった。

 新たに蘇ったダイの剣を、抜いてもいいかと許可を取るダイ。ロン・ベルクはニヤリと笑い、こいつに聞いてみろと剣を指す。
 頷き、大切そうにダイの剣を手にするダイ。

 手に吸い付くような感触を懐かしみながら、ダイは剣に呼びかける。すると、鞘に仕掛けられた鍵が外れ、宝玉が輝いた。
 その輝きを仲間達は驚きの目で、ロン・ベルクは落ち着いた目で見守る。

 鞘から引き抜かれた剣は、傷一つ無かった。鮮烈な輝きを見せる剣を、ダイは驚いたように見上げた――。







《感想》

 女の子達の戦い、いいですねえ♪
 しかし、前回のお話でロウソクは岩の下敷きになってつぶれたはずなのに、無傷で落っこちていましたよ(笑)

 マァムの「相手をしているヒマはない」の台詞、アニメの改変ですね。

原作マァム「……進みましょう! あいつらの相手をしているだけで、何時間かすぐたっちゃいそうよ」

原作メルル「……そうですね!!」

 というやり取りの後、レオナの号令で一斉に逃げ出しています。

 後、フローラ様の台詞にも改変が。

原作フローラ(後10時間……すべて前進のために使いましょう……!!)

 洞窟を4人が走って行く構図は同じですが、原作では暗い洞窟だったのが、アニメでは洞窟の奥から光が差し込み、光に向かって走るという演出になっていたのが実に美しかったです。

 洞窟という場面上、画面全体に暗さをかける演出をしていたので、灯りに満ちた演出が映えますね。

 ダイとノヴァの特訓、原作では省略していたアバンストラッシュシーンが追加されていました♪

 しかし、ダイの台詞で「あ〜あ、無理だよなぁ、だから一長一短っていうんだもん! いいところだけあわせるわけには……」という長台詞がまるっとカットされたのは残念。

 ダイが思いついたと得意げなシーン、黄色い字に水玉が広がるファンシーな画面になっていました。原作では日の出風の背景は、基本的にこのパターンに変換されるようです。

 続くダイとノヴァの会話のやり取りも、一部が省略されていますね。
 特にノヴァがダイの構えを見る際、『通常よりもやや前傾姿勢……かっ?』の台詞がついていますが、アニメではダイが実際に構えをやや変える姿勢や、気迫の描写で見せる形でこの台詞を省略しています。
 バトルに関しては、言葉よりも動きや絵で見せる主義ですね♪
 
 ダイの新必殺技、技の全貌を見せない展開は原作と同じとは言え、アニメではダイとノヴァのパートをそのまま続けるように改変されています。
 原作では技を放った直後からレオナ達の洞窟シーンに移行していましたが、アニメではつなぎ目や場面転換はかなり違いがありますね。

 まだ修行を望むダイとノヴァの会話は、アニメの改変です。後、武器やら荷物を近くに置いてあるシーンも、実はアニメの改変ですね。
 ちゃんと武器を複数用意しておくあたり、ノヴァは準備がいいです(笑)

 原作ではノヴァが苦笑した直後にレオナの修行完了の光が見えるのですが、アニメでは時間軸が少し違っています。

 破邪の洞窟の描写、改変部分が多くてワクワクしました!
 特に階段を降りるシーン。原作とも言うべきトルネコでもシレンでも、階段は上に乗れば音がして即移動なので、階段自体があんなに吹き抜け風で長いだなんて、思ってもいませんでしたよ。

 レオナがアバンのしるしを身につけず、腰に隠していたのにちょっと感心しました。首に提げていた方が無くす可能性が引くそうですが、まだ自分はアバンの使徒ではないと言う遠慮から、身につけるのを躊躇していたのかなと思うと萌えます。

 レオナが首飾りをつけた後、髪を払うシーンが実に綺麗でした。マァムやメルルの着替えの時も髪を払うシーンがありましたが、原作には無いこんな細かな仕草をアニメで見せてくれるのはいいですね。

 マァムのアクションシーンに、感激!
 相変わらず鉄壁スカートですが、久々のマァムのカンフーアクションにテンションが上がります。
 サイクロプスがやけに表情豊かで、敵として手強い描写なのもいいですね。

 しかし、フローラ様っ、こんなところで破邪の洞窟の最下層の秘密を明かすとはッ!?
 え、ええー、その話、サイトの魔界編を書く前に聞きたかった……(笑)

 それはともかく、原作ではいきなりボロボロ状態のマァムと、それを心配するメルルの会話から始まる継承の儀式が、アニメではずいぶんと改変されていますね。
 心配するメルルと、メルルに来てはダメと強く言うマァムのやり取りがスキだったので、そこが削られたのはちょっと悲しいですが。

 レオナを焼き尽くそうとする炎、はっきりと色がついていない擬似的な炎かとなんとなく思っていたので、普通の赤い炎なのには驚きました。漫画だと色がついていないので、こんな思い込みはアニメで見てから初めて自覚します。

 CMではダイのスマホゲーム『魂の絆』やクロブレが多いのがちょっと嬉しいです。
 
 ミナカトールの謎の声、男性声とは意外でした。てっきり、竜水晶と同じような声かなーと思っていたので。
 フローラ様、火炎呪文を使っていましたね。意外な気がしましたが、よく考えたらロウソクに火をつけたのも多分、メラだったので、彼女は火炎呪文は使えるようです。

 ただ、あまり大きさは無かったので、メラだけか、良くてもメラミぐらいしか使えそうも無いですが。

 レオナの力の発動シーン、原作ではレオナが白光してシルエットのみになる演出でしたが、アニメでは光を被せる演出になっていました。
 女の子達が手を繋ぎ合うシーン、良かったです。特に、マァムが真正面から二人の手につかまるシーンが可愛くて好み♪
 
 ダイの特訓、まだ続いていたのかと感心。ストラッシュの構えを取ったダイの剣、ちゃんと光っていました。

 そして、ポップの苦悩が、しみじみといい感じ。
 自分にベタンをかけるシーンはアニメの改変ですが、なんて無茶で無意味な特訓を……っ。

 嘆くポップの声、声優さんの演技力に痺れます。
 雨の描写も、実にいいですねえ。原作とは顔の向きが逆になっていますが、丁寧に描かれた表情の変化や、雨の滴と混じり合うようなポップの涙の表現と言い、拘りを感じます♪

 ポップがひとしきり嘆いた後、上から見た俯瞰図からのルーラという演出も良かったですし。闇へ溶けるようなルーラの演出も、ゾクゾクするぐらいいいですね。

 マトリフの洞窟を、ロウソクの明かり調の押さえたセピア色がかった色合いにしたのも好印象です。
 それにしてもマトリフ師匠って寝間着姿だと体格が貧相で、病を感じさせますね。

 このシーンでも原作とはポップの顔の向きが逆になっていますが、やっぱり表情の変化や構図がきめ細やかでナイスです。
 マトリフを見上げる、まるですがりつくような上目遣いのポップの顔が可愛いですねえ〜♪♪♪

 悩みの真っ最中にいるポップの声の演技も、枯淡の雰囲気を漂わせるマトリフの声の演技も素晴らしすぎます!
 マトリフに自慢の弟子だと言われたポップが、鼻をすすっているのは感心しました。声にしないまま表現する声優さんの演技力って、すごいですね。

 マトリフがポップの悩みを読めたと、モノローグで呟くシーンで、ポップが走っている姿が映し出される改変はいいですね。

 フローラが広間で演説じみた声を上げるシーンは、アニメの改変です。アニメでは本当に、彼女の指導者誇示が目立ちます。

 また、アニメのポップは広間に入らずに様子を伺っていますが、原作では広間に入って、仲間達に近づかないで兵士達の後ろに隠れたまま事情を伺っています。

 それにしても、カールの砦というかカール城は広間や使用している部屋はともかく、廊下までには明かりが行き届いていないあたり、戦時中の不備を感じます。灯りのせいで敵に気づかれやすくなるのを恐れているのか、単に物資不足かは分かりませんが、いずれにせよ手入れが行き届いていないですね。

 原作では場所による明るさは画面からは伝わりにくかったので、アニメになってから強く意識するようになりました♪

 ダイとレオナがダイの剣について語るシーン、ダイの説明は省略されていますが、珍しいことにレオナの台詞が大目に改変されています。原作では単に、ダイの剣があればねえと言っているだけなのに、アニメでは念を押すように増やされていました。

 アニメは基本的に、長い台詞を短めに改変する傾向が強いので、今回のダイ君のダイの剣のように長引かせる改変は珍しいです!

 魔族が現れたと騒ぐシーンで、原作ではダイとノヴァが目を見交わしあい、兵士達が武器を手に走り出すシーンがありますが、アニメではカットされていますね。結構カッコイイシーンだったのに。

 ロン・ベルクとバダックさん、久々の登場。
 ダイの剣、バージョンアップな鞘に。
 まあ、個人的には最初のシンプルな鞘の方が好きですが、アニメだと鞘の変形アクションが際立っていい感じです。

 ダイの剣でラストを締める硬派な終わりに感心♪ 次週はお正月でお休みなので、寂しいです。

 次週予告、映像とナレーションは武器に傾きがちな感じでしたが、マァムとエイミが出ているあたりが恋愛展開予告になっていて、どっきどき♪
 

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