『もうひとりの勇者』(2021.5.14)

  

《粗筋》

 超魔ゾンビに攻撃したロン・ベルクの剣は砕け散った……その事実に、驚愕する一同。その中にはフローラや、メルルを抱えて治療中のエイミの姿もあった。
 勝ち誇る超魔ゾンビから、目の光がフッと消える。
 それと同時に胸の中央部分にある宝玉の中で肉塊が蠢き、ザボエラの姿が見えるようになった。

 驚くクロコダインやノヴァ。
 紫がかった宝玉ごしのせいで、いつもよりも顔色が悪く見えるザボエラは、得意げに超魔ゾンビの自慢をする。

 衝撃を吸収する超魔ゾンビの身体は、いかなる武器でも切断は不可能……完全無欠といい、自分の頭脳が怖いと自画自賛するザボエラ。
 それを、悪魔の頭脳と表現するフローラ。

 獣王遊撃隊達が怯える中、自信満々に前に進み出たのはチウだった。
 超魔生物の天敵がこちらにいると言いきるチウを、訝しげに見るザボエラ。
 チウは老師……では無く、ビースト君に閃華裂光拳を出すようにかっこつけて指示を飛ばす。

 が、老師は情けない声で「ダメじゃ」と答える。
 閃華裂光拳は生命活動が停止しているゾンビには効かないとの説明を聞いて、思いっきり驚くチウ。

 ザボエラはチウに向かって、前回の課題を全部クリアして、改良と言うんだと勝ち誇る。
 唯一の弱点はザボエラの魔法力を断つことだといいながら、またも肉塊を蠢かして宝玉の奥へと沈み込むザボエラ。

 こうやってボディーの奥に隠れてしまえば弱点は消えたと言うザボエラ。実態が隠れたのと同時に、超魔ゾンビの双眸に光が復活する。
 攻撃の意志を見せた超魔ゾンビに、クロコダインは斧を身がまえつつ、呪文で攻撃するように味方に檄を飛ばす。

 斧から豪火を生み出すクロコダインに、フォブスターも両手から炎を撃ちだして続く。兵士達の中で魔法を使える者は、彼らに比べれば小さいながらも同じく炎の呪文を放っていた。

 全身に炎を浴び、燃えさかる超魔ゾンビ。
 だが、それは全く効いてはいなかった。纏う炎をものともせず、高笑いするザボエラ。

 そんなザボエラの様子を、空中に浮かんだままのミストバーンは見物していた。宙に浮くバーンパレスを背景に浮かぶミストバーンは、一人、呟く。






ミストバーン「フッ、あの古狸め、叩かれてやっと手の内を見せおった。……後は……」

 頭上のバーンパレスを見上げたミストバーンの身体が、フッと消えた。







 炎が消えていく超魔ゾンビの腕が、大きく映し出される中、苦痛を訴える絶叫が響く。
 よく見ると、その腕は一人の兵士を掴んでいた。
 ちょうど、子供が遊ぶ人形ぐらいのサイズ差があるため、超魔ゾンビの手の中に握り込まれた兵士はなすすべも無く絶叫するしかない。

 爪の生えた足元には、潰されたカールの騎士の姿があった。うつ伏せに倒れ込んだ彼は、ピクリと動かない。

 超魔ゾンビの毛並みには、うっすらと緑の血に染まった剣が何本も突き刺さっていた。刃こぼれしたその剣の惨状は、兵士達の奮闘をそのまま現している。が、どの剣も刺さりが浅く、致命傷を与えていないのは一目で分かる。

 地面には、何人もの兵士達が倒れ、折れた剣や壊れた武装が転がっていた。ひどい怪我を負っている者も多く、中には緑では無く赤い血に染まった剣もあった。

 そんな中、超魔ゾンビは平然とその場に立っていた。
 ハリネズミのように身体にあちこちに剣や槍が突き刺さっているが、どれも浅い。せいぜい、刃先が表皮に潜り込んだ程度だろう。

 一方、クロコダインやノヴァは戦う気迫はあるものの、苦しそうに肩で息をしている。獣王遊撃隊も同様だ。

 刃が恐ろしいまでにボロボロになったグレイトアックスを手に、クロコダインはこの武器でさえ刃が立たないことに内心、驚いていた。
 超魔ゾンビを囲んで戦う兵士達を、光の魔法陣の中から見ているフローラとエイミ。

 超魔ゾンビは、これだけの攻撃を受けてもダメージを受けないことをはしゃぎ、手にした兵士を握りつぶさんばかりに力を込める。苦悶する兵士を見て、悲痛に叫ぶチウ。

 ロン・ベルクは隣にいた兵士から槍を奪うように取りあげ、大きくジャンプして超魔ゾンビの腕へと投げつけた。
 その彼の背後から、間髪入れずノヴァが光り輝くオーラブレードを振り上げ、ロン・ベルクが攻撃したのと全く同じ場所に追撃をかける。

 それに対し、超魔ゾンビは空いた片手を無造作に動かし、ノヴァを横殴りにした。ひとたまりも無く、吹き飛ばされるノヴァ。
 が、地面に叩きつけられる寸前、素早く移動してきたロン・ベルクがノヴァの身体を受け止める。

 二人の攻撃は無駄ではなく、ザボエラの手に握られていた兵士は握りつぶされること無く、投げ出された。

 ザボエラはロン・ベルクの攻撃でさえ効かないのに、人間の攻撃など無駄だと決めつける。
 それに激昂し、再び飛び出そうとするノヴァ。

 が、その肩に手を置き、落ち着くようにと諭すロン・ベルク。
 ザボエラの言葉を肯定し、どんな攻撃も効かないと断言するロン・ベルク。ショックを受けるノヴァに、ロン・ベルクは淡々とこの場にいる誰にもどうにも出来ないと語る。
 と、わずかに愁いを含ませ、彼は目を伏せた。

ロン・ベルク「……もっとも、それ以上の力と速度で、究極の武器を持ってすれば、分からんが……」

 それを聞いて、ダイの剣を連想するノヴァ。ロン・ベルクもそれに頷くのを見て、ノヴァはなにやら考え込む。
 が、それを邪魔するような音が響き渡った。

 ハッと目を見開いたノヴァは、超魔ゾンビがゆっくりと前進し始めたのに気づく。
 魔法陣をかき消すために近づいていく超魔ゾンビ。
 フローラを中心にした魔法陣には、後退した兵士達が集まりつつあった。バウスン将軍は兵士と共に、フローラを守るように彼女の前に立ちはだかる。

 思い足音を響かせながら進む超魔ゾンビだが、その動きが突然止まる。不審げに下を見やる超魔ゾンビ。
 それを見ていたフローラも、目を見開く。

 そこには、自分を遙かに上回る巨人の足にしがみつくクロコダインの姿があった。全身の力を込め、超魔ゾンビの膝にしがみついて動きを止めたクロコダインは、やけに小さく見える。
 両者の対比で言えば、大人と子供……いや、巨漢と幼児ほどの体格差があった。

ザボエラ「クロコダイン……」

 この中で超魔ゾンビと格闘できるのは自分しかいないと自負しているクロコダインは、必死だった。
 だが、ザボエラはそんな彼をしみったれていると嘲笑う。

 以前の自分がクロコダインの目線からは、こんな風に小さく見えていただとうと思い比べることで、優越感を新たにしていた。
 クロコダインの頭を掴み、そのまま持ち上げる超魔ゾンビ。

チウ「獣王遊撃隊、かかれ! クロコダインさんを助けるんだ!」

 敵を指さし、指示を出したチウは、そのまま先陣を切って駆けだした。それに釣られたように、兵士達も動き出す。

 ノヴァは無い物ねだりをしている場合ではないと、ダイと同じぐらいの力を出して戦わなければならないと意気込むが、ロン・ベルクはどこまでも淡々と、それは不可能だと指摘する。
 この場には奴を倒せる武器がないというロン・ベルクの言葉に、武器を脳裏に思い浮かべるノヴァ。

物向いて考え込んでいたノヴァは、何かに気づいて目を見開く。

ノヴァ「……あるッ……!」

 その発言に、驚くロン・ベルク。
 ノヴァは拳を強く握りしめ、苦痛に耐えるような表情で言った。

ノヴァ「ボクの……この生命だ!」

 それに少し意外そうにするも、ロン・ベルクはノヴァの決意をただの特攻と思い、無駄死をたしなめる。
 だが、ノヴァはただ生命を賭けるのではなく、武器にするのだと言う。命そのものを武器にすると説明するノヴァ。

 その間も、仲間達は戦っていた。
 超魔ゾンビの角にくっついているビースト君は、それを引き抜こうとしているのか目一杯踏ん張っている。

ロン・ベルク「あのモンスターに剣は利かんぞ」

ノヴァ「わかっていますッ!」

 地面に落ちた剣の刃を、ノヴァは直接にぎりこんで拾い上げる。それを強く握りしめたせいで、ノヴァの手から血が噴き出す。

バウスン「ノヴァ!?」

 魔法陣にいるバウスンとフローラも、それを見て目を見張る。
 剣の刃で自分の手が傷ついているのも構わず、血を滴らせながらも強く握りしめたノヴァは、身がまえ、気合いを入れる。
 
 生命エネルギーを振り絞るノヴァの身体が白く発光し、手から虹色の光が生じて剣に伝わった。光は伸びて剣となり変わる。
 その様子を見ていたエイミは、思わず声を上げていた。

エイミ「ああっ!?」

 ノヴァの顔が見る見るうちに痩けていく。頬骨が尖り、眼下が落ちくぼむその有様は、急速に年老いていくようだった。
 だが、それと引き換えのように虹色の輝きは強まり、光の剣は勢いを増す。

 それを見たエイミは、剣に全ての精気を奪われていくみたいだと、不安そうな表情を浮かべる。
 実際、髪は艶を失ってパサつき、皮膚は張りを失って皺すら浮いていた。
 あれを続けたら……と不安を強めるエイミ。

 不安を感じているのは、彼女だけではなかった。
 バウスン将軍は焦りの滲んだ声で、ノヴァを制止しようとする。

 驚愕に目を見張るロン・ベルクの目の前で、ノヴァはさらに剣の光を強めた。
 生命の剣を身がまえるノヴァ。
 驚いてそれを見ていたロン・ベルクは、何かを決意したように表情を引き締める。

 わずかな間に幽鬼のように面変わりしたノヴァは、この剣で敵に斬りかかると宣言した。わずかでも中のザボエラが露出すれば、それを倒して超魔ゾンビを停止させられるかもしれないと考えたのだ。

 そのノヴァの前に回り込み、彼を止めるロン・ベルク。
 どいてくれとノヴァは言うが、ロン・ベルクも百パーセント失敗すると分かっている攻撃をさせるわけにはいかないと、一歩も引かない。

 その言葉に、ショックを受けるノヴァ。
 ロン・ベルクは、ノヴァの攻撃にはザボエラを露出させるだけの力が無いと断言する。

 それを聞いたノヴァは、静かに目を閉じる。
 だが、それでもまだ輝きを失わない虹色の剣を見つめながら、止めるように促すロン・ベルク。そのままでは生命力は尽きてしまうと言うロン・ベルクは、口調はきついもののどこか優しさが感じられる。

 離れた場所から、静かにそのやり取りを見守るバウスン将軍とフローラ。
 
 目を閉じたままのノヴァは、わずかに表情を和らげる。かすかだが、その口元には微笑みが浮かんでいた。

ノヴァ「……いいんです、それでも」

 諦観にも似た、どこか満足そうな響きでそう言うノヴァ。
 その答えに、ロン・ベルクだけでなくバウスン将軍やフローラも驚く。

 ノヴァは力強い声で、一撃で倒せると最初から思っていないと言い切った。生命の剣ならば絶対に折れることはないからこそ、命尽きるまで叩いて、叩いて、わずかな傷でも残せればそれでいいト、強く主張するノヴァ。
 見開かれた彼の目には、強い光が宿っていた。

 それは無駄死にだと、怒るように止めるロン・ベルク。
 が、ノヴァは無駄ではないと言い張った。
 たとえ自分が死んでも、必ず何かをみんなに残せるはずだから、と――。

 それは、かつて勇者を名乗ったことのある自分の勤めだと言い放つ。

ロン・ベルク「勇者……?」

 ロン・ベルクを挑むような目で見返すノヴァ。
 その脳裏に、思い出す光景があった。






 白光の後、思いだすのは森の中の光景。
 太陽の差し込む木立の中で、剣の修行をしているダイとノヴァ。火花を散らす稽古は、実践さながらの激しさだ。
 しかし、傍目にもダイの方が優勢と見える。
 
 しばしの打ち会いの結果、ノヴァの剣は跳ね上げられ宙を舞った。飛び上がった剣が、太陽の光に照らされて煌めく。






 剣を立てかけた岩の上に、俯いて座り込んでいるノヴァ。近づいてきたダイが、不思議そうに声をかける。

ダイ「どうしたんだ、ノヴァ?」

 目を開け、自分の右手をジッと見つめるノヴァ。

ノヴァ「こんなに……こんなに、強さに差があったんだな……ボク達……!」

 頼りなく開かれていた手が、ぎゅっと固く握りしめられる。
 ノヴァは本物の勇者であるダイに対抗心を燃やしたことを恥じ、過去の自分の行動が嫉妬から生まれたものだと思い知らされていた。
 それを聞きながら、岩の上に桶を置くダイ。

 許して欲しいとダイに謝罪するノヴァだが、そんなことはもういいと言うダイは全く気にした様子がない。
 力の差なんか対したことがないと言い、一番強い奴が本物の勇者だと言う考えもおかしいと言う。

 戸惑い、どういう人物が本物の勇者かと問うノヴァ。
 聞かれたダイも戸惑い、腕を組んで考え、次は顎に手を当てて考え、更にはそのポーズのままアキレス腱でも伸ばすように身体全体をひねってまで考え込む。

 あまりに悩むダイを見かね、ノヴァがもういいと止めにかかる。

ノヴァ「スマン、難しいこと聞いちゃって……」

 目を閉じ、頭を下にした逆立ち姿勢を取ったダイは、よくわかんないけどと、前置きしてから、ただ力とか勇気とかが強い奴だけじゃないことだけは確かだと言う。
 パチッと目を開けたダイは、何かを思いついたようだ。

「あ!」

 足を曲げ、手を一切使わずに身体のバネだけで上に跳び上がったダイは、ノヴァの前に降りたって嬉しそうな笑顔で言う。
 みんなが自分を勇者と言ってくれるけど、ノヴァも故郷で北の勇者で呼ばれていたことを確認したダイは、それでいいと言ってノヴァの左手を掴む。

 両手でノヴァの左手を取り、ダイは笑顔で言った。
 力が少し差があっても、それで救われた人がいるのなら、自分もノヴァも勇者だ、と。

ダイ「どっちも勇者なんだよ!」

 屈託のない笑顔のダイに、ノヴァの顔にも笑みが浮かぶ。
 ダイに礼を述べるノヴァ。なんだか自信が湧いてくるようだと思い、それによって彼は『答え』を見いだす。

ノヴァ(そうか……これが……!)







 白光の後、回想は現実へと取って代わる。
 ノヴァはロン・ベルクに向かって、あの時得た『答え』を語る。
 真の勇者とは、自らよりもむしろ、みんなに勇気を与える存在なんだ、と。自分が命尽きて倒れても、後から攻めていけるだけの勇気を残してあげられるなら、自分もダイの代わりが出来ると熱弁するノヴァ。

 衰えきったノヴァの顔に、穏やかな表情が浮かぶ。

 それを見ていたバウスン将軍の目から、涙が溢れ、鎧へと落ちる。
 自分勝手だった我が子が、いつのまにか成長していることに感涙するバウスン将軍。

 気迫を取り戻して身がまえたノヴァは、フローラに後を託す。

ノヴァ「女王様……後は頼みます。そして、号令を! 『全員、あの攻撃に続け!!』と!」

 気迫を込め、超魔ゾンビに向かって駆けていくノヴァ。
 フローラやバウスン将軍が彼の名を叫ぶが、ノヴァは振り返らない。鬼気迫る表情で一直線に駆けていく。
 だが、彼の行く手を遮って、フッと人影が降ってきた。
 
 顔は見えないが、長身と長い黒髪はロン・ベルクのものだ。
 突進していたノヴァは、彼を避けられなかった。虹色に輝く剣が、ロン・ベルクを貫く。
 彼の背から、緑色の血が噴き出した。

 その時になってからようやく自分のしたことを悟り、驚愕するノヴァ。
 ノヴァは、ロン・ベルクの左肩をその剣で刺し貫いていた――。







 浅からぬ傷を負っても平然と立っているロン・ベルクに対し、驚愕し、震えるノヴァ。
 そんなノヴァに、ロン・ベルクは穏やかな口調で力を抜くように促す。

 その言葉に、ようやく剣から手を離してよろめくように後ろに下がるノヴァ。
 ノヴァの手が離れた途端、生命の剣は虹の輝きを失って小さくなっていく。そして、ノヴァの身体も変化していった。
 痩せ衰えた皮膚が見る間に張りを取り戻し、髪にもツヤが戻る。
 元通りの若い姿を取り戻したノヴァは、当惑したようになぜそこまでするのかとロン・ベルクに問う。

 肩にささった刃を無造作に引き抜きながら、ロン・ベルクは今までノヴァを見損なっていたと言い、感心すると同時にどうあっても死なせたくなくなったと告げる。

 赤と緑の血にそまった刃を手にしながら、ノヴァは流れる血の色は違っても、自分達の命の価値は同じだと断言し、微笑む。
 それに、驚きを隠せないノヴァは、思わずのように彼の名を呼ぶ。

 同じ命を削るなら、長く生きた自分の方がいいと言い、ロン・ベルクは折れた刃を投げ捨てる。
 懐を探りながら、ロン・ベルクは自嘲するように、自分にノヴァほどの覚悟があれば最初からあの程度の敵に手こずらなかったと呟く。

 ロン・ベルクが取り出したのは、掌に収まる程度の小さな塊だった。短い鎖がつき、棘がついたそれを、ロン・ベルクは勢いよく空中に放り投げて旧力の兵器を召喚する。

 空中で爆発したそれからは、奇妙な紫色の光が生み出され、空の高い位置で渦巻いた。
 それを、驚きの目で見上げる超魔ゾンビ。

 紫色の渦の中から、巨大な岩石の塊のようなものが下降してくる。それに驚愕するチウ。
 それは、大きく口を開けて牙をむき出す、悪魔に似た形をしていた。
 頭を掴まれた苦しい姿勢ながら、新しい敵かと警戒するクロコダイン。

 だが、ロン・ベルクはみんなに危ないからどくようにと注意する。
 空に出現した巨大な岩石の塊を、恐れの視線で見上げるノヴァ。究極の超兵器とは想像もつかない、無骨な形の岩に戸惑っている様子だ。
 フローラもまた、不思議そうに空を見上げる。

 岩の塊は重力のままに落下し、地面に突き刺さる。土煙を上げるそれを見やり、いまさらどんな武器を持ちだしても無駄だと豪語するザボエラ。
 手にしていたクロコダインを投げ出し、群がる獣王遊撃隊を蹴散らして、岩石の塊へ向かって走り出す超魔ゾンビ。

 彼が手を握りしめると、手の甲部分に鋭い刃物が生み出される。ハドラーの破邪の剣と同じ出現方法だ。
 動かす前にたたき壊してくれると、岩石に襲いかかる超魔ゾンビ。
 それを、驚いて見ているチウ。

 岩石に両手で切りつける超魔ゾンビ。が、その刃はあっさりと砕け散った。それを見て、ニヤリと不敵な笑みを浮かべるロン・ベルク。
 自分の刃の方が壊れたことに驚き、岩の中になにかとてつもない物が潜んでいると推察するザボエラ。

 その時、岩にヒビが入った。
 余裕の表情で目を閉じているロン・ベルクは、ヌケヌケと言った。

ロン・ベルク「悪いな……助かったぜ。こじ開ける手間が省けた」

 日々はどんどん増え、中から光が漏れ始める。その光が強まったとき、まるで火山が爆破するように岩が砕け散った。
 その中に見えたのは、交差した形で突き刺さる二本の剣だった。

ノヴァ「おおっ!!」

 驚くノヴァの目の前で、ロン・ベルクはゆっくりと剣に向かって歩いて行く。逆光のせいで、彼の表情をうかがい知ることは出来ない。

 クロコダインもまた、驚愕の表情でそれを見つめていた。

クロコダイン「剣だっ!!」

チウ「しかも、二本!!」

 ロン・ベルクは迷いのない動きで、二本の剣を左右に握る。

ロン・ベルク「名付けて……星皇剣!」

 その名を、驚愕の表情のまま呟く仲間達。
 ノヴァも、この二本の剣がこの人の究極の兵器かと、目を見開く。

 ザボエラは大仰な名だとヒステリックに怒るが、ロン・ベルクは落ち着き払った口調で、自分が百年以上かけて作り続けてきた究極の兵器であり、世界唯一のロン・ベルク専用武器だと語る。
 
 手にした二本の剣を、ゆっくりと振り回すロン・ベルク。
 二刀流の動きを、驚きと怯えの入り交じった様子で見守るザボエラ。やがて、二本の刃先が合わさった時、ロン・ベルクは鋭い眼光で気迫をぶつける。
 その鋭さに、怯えを見せるザボエラ。

 ロン・ベルクの気迫の凄さは、見物しているノヴァにも理解できた。
 だが、あの超魔ゾンビに通じるのか、案じるノヴァ。
 長すぎるほど長い剣を、まるで背負うように背中で交差させる独特の構えを取るロン・ベルク。

 一方、ザボエラは腸のような肉塊の奥で、剣など恐れる必要はないと自分で自分に言い聞かせるように思っていた。

 怯えを振り切るように、ロン・ベルクに拳を打ち込む超魔ゾンビ。
 剣を構えたまま微動だにしないロン・ベルクだが、拳が当たる寸前に動く。結果、超魔ゾンビの拳は地面に大穴を開けるにとどまった。

 そして、ロン・ベルクは超魔ゾンビの横へ回り込み、先程と同じ構えを取っている。ハッとして腕を振り回すゾンビだが、ロン・ベルクは高々と飛んでそれを軽く避けた。

 続く攻撃を、ロン・ベルクはまるで踊るような動きで横っ飛びに避け続ける。
 そして、どんなに動いても剣の構えは崩さない。

 腕を振り回し続けたことで消耗したのか、息を荒げる超魔ゾンビ。
 ザボエラは逃げ回るロン・ベルクを見て、実は剣に自信が無いと決めつけ、嘲った。

 気分良く相手を蔑んでいたザボエラだが、ロン・ベルクの目を見て息をのむ
 凄みの感じられる目が、まっすぐにザボエラを射貫く。思わず、怯むザボエラに、ロン・ベルクは確かに怖いと、恐怖を認めた。

ロン・ベルク「ただし、威力のなさが、ではない。そのあまりの破壊力が、だ……!」 

 ロン・ベルクの身体から、闘気が煙のように立ち上る。
 その自信に、気圧されるザボエラ。
 ロン・ベルクは、この剣の攻撃は左右一発だけだと断言する。剣が、ロン・ベルクの気迫に呼応して、光を帯びた。

 それを放ったら、自分もただではすまないと言い放つロン・ベルクには、凄絶なまでの凄みが宿っていた。
 体格で勝っているはずなのに、完全に気迫負けしてうろたえる超魔ゾンビ。

 だからこそ、一撃で相手の身体を十字に裂くと宣言するロン・ベルクに、肉塊の奥に埋もれているザボエラは完全に怯えきっていた。
 怯えが強いからこそ、それを与える対象に憎しみを感じたのか、怒りに顔を歪めたザボエラは、雄叫びを上げつつ超魔ゾンビでロン・ベルクに襲いかかる。

 足を踏ん張ってから走り出すロン・ベルク。
 高く跳び上がり、二つの剣を十字に重なるように振るった。

ロン・ベルク「星皇十字剣!」

 十字の光が超魔ゾンビを貫き、その光を追うようにロン・ベルクは超魔ゾンビとすれ違う。
 十字の光は、確かに超魔ゾンビの身体の上をよぎっていた。

 驚く兵士達の前で、ロン・ベルクは着地する。
 ちお、思ったのもつかの間、その場に膝かレクずれ込んでしまった。剣も支えきれず、地面につけてしまい鈍い金属音が響く。

 蹲るロン・ベルクの背後では、超魔ゾンビが自身のダメージを図るように、手を上げて確かめていた。
 大丈夫だと笑い、自分の推測通りだと勝ち誇るザボエラだが、その声は引きつっていた。

 そして、ゾンビの顔面に一筋の線が走り、多量の血と共に切断される。悲鳴を上げるザボエラ。
 斬れたのは、顔だけではない。
 十字の横切りの栓に合わせ、血が噴き出していた。

 文字通り、十文字に切り裂かれた超魔ゾンビの体内では、周囲の肉塊から血が吹き出て、焦るザボエラの姿があった。流れる血と、膨れ上がる肉塊に飲まれるザボエラ。

 断末魔を思わせる悲鳴と共に、超魔ゾンビの肉体は十字に切り裂かれていた。
 それを、ロン・ベルクは冷徹な目で見ていた。

ロン・ベルク「あの世でせいぜい自慢しろ。オレがくれてやった、その十字の餞別をな……」

 傷口から大量の血がボタボタと広がり、半分の顔面になったかが左右に分かれながら落下していく。
 その動きを目で追う、ノヴァと兵士達。

 轟音を立て、緑色の血の海の中、超魔ゾンビは倒れた。その身体は、無残なまでに四つに切り裂かれている。
 それを見て、歓喜の表情を浮かべるノヴァと兵士達。

 喜ぶ人間達を見て、満足そうに微笑むロン・ベルク。
 が、その時、ロン・ベルクが握りしめたままの剣に、ヒビが入った。二つの剣に同時に刻まれたヒビはどんどん広がり、剣そのものを木っ端微塵に砕いてしまう。

 衝撃波それにとどまらず、ロン・ベルクの両腕にも及んだ。目を見開き、わずかに呻くロン・ベルク。

 暗闇の中に浮かぶ、二本の腕。
 灰色のその腕が、一瞬で粉々に砕け散る。

 象徴的なその映像の中、ロン・ベルクの目がこれまでに無いほど強烈に見開かれ、顔が歪められる。
 目から光が消え、白目に取って代わった。

 そして、投げ出されるように、その場に倒れ込むロン・ベルク。
 それに驚くフローラとバウスン将軍。歓喜に沸いていた兵士達も、動揺してざわめく。

 座り込むロン・ベルクの腕は、無残なほどに黒焦げになっていた。それを見て驚くノヴァとチウ。

 だが、ロン・ベルクはまたやってしまったと、落ち着き払っていた。
 小刻みに震える腕とは裏腹に、ロン・ベルクは至って冷静に、こうなることは分かっていたと語る。

 あの剣を使えば、剣ごと自分の腕が砕けることは彼は承知していた。
 
ロン・ベルク「200年近く前にも一度、同じように両腕の機能を失った……。星皇十字剣は……あまりにも強力すぎる技だ。それを試した瞬間、オレの両腕は剣と共に壊れた……さっきのように」

 無言で、ロン・ベルクの言葉を聞くフローラを初めとする兵士達。

ロン・ベルク「オレは自分の強さよりも、武器の弱さを憎んだ。オレが武器屋になったのは、オレ自身が全力で戦える武器を生み出すためだったんだ」

 星皇剣こそその結果だが、まだ未完成だった。
 こんなことならば完成させておけば良かったと、苦笑するロン・ベルク。ダイの剣を作って以来、すっかりあの連中の世話に没頭していたと語る彼を、ジッと見つめるノヴァ。

ロン・ベルク「オレがダイの剣にあれだけ入れ込めたのも、武器が自分についてこないもどかしさってやつに共感したからだろうな」

 語りながら、無我夢中でダイの剣を作っていた時のことを思い出すロン・ベルク。

 話を聞いたノヴァは、ロン・ベルクが破滅しないため、今までずっと力をセーブして戦ってきたと知り、動揺する。
 そんなノヴァを見て、軽く笑うロン・ベルク。

 自分達のためにそうしてくれたと知り、ノヴァはついに耐えきれずに泣き出す。
 が、ロン・ベルクは気にした様子もなく、おまえみたいな若いのが無駄死にするよりマシだと言う。

ロン・ベルク「ただ、唯一の心残りは、おまえ達にもう武器を作ってやれないかもしれないってことだ。このダメージは当分治らん。おまえ達の生きている間には、もう……」

 その言葉を聞いて、ノヴァは目を開ける。
 ロン・ベルクの傷ついた左手に、自分の左手を重ねるノヴァ。驚いて、ノヴァを見るロン・ベルクに向かって、彼は言う。

ノヴァ「ボクの……ボクのこの手を使ってください……! あなたの傷が癒えるその日まで……!!」

 命を救われた礼に、星皇剣を自分が完成させてみせると言うノヴァ。

バウスン「ノヴァ……」

 息子の突然の発言に、驚くバウスン将軍。

ノヴァ「あなたは強いだけじゃない……尊敬に値する人です。できるなら、これからも多くを学びたい……!!」 

 ノヴァの真意を見極めようとするように、じっとノヴァを見るロン・ベルク。その目を、ノヴァもしっかりと見返した。

ロン・ベルク「……じゃあ、さっそく頼もうか」

 目を伏せ、苦笑するような笑みを浮かべて、ロン・ベルクは自分の懐の酒瓶を開けるよう、ノヴァに頼む。
 それに、この上なく嬉しそうに頷くノヴァ。

 そんな息子を見て、バウスン将軍は心から仰げる師と道を見つけたことを喜ぶ。

 酒瓶を取り出したノヴァだが、栓がなかなか開けられずに苦戦していた。それを見て、ロン・ベルクは大げさに嘆いてみせる。

ロン・ベルク「やれやれ……おまえにはまず、酒瓶の栓の開け方を教えなきゃならんようだな」

 その言葉に、後ろにいた兵士達は一斉に笑い出す。酒瓶を抱え込んだノヴァはちょっと恥ずかしそうだ。

 明るい雰囲気に満たされた人間軍の後ろでは、超魔ゾンビがかすかな煙をゆくらせていた。
 




そして、超魔ゾンビから少し離れた岩山に視点が映る。

 聞こえるのは、かすかな音……何かを引きずるような音だった。
 その音の元は、這いずるザボエラから発せられていた。文字通り地べたをはいながら、ザボエラは必死に逃げようとしていた。

 あちこちから血を流し、肩で息をしながらも前に進むザボエラ。
 その先に待ち受けていたのは、青空の下に見える兜だった。這いずるザボエラの前に、たくましい足が立ち塞がっているが、顔を上げる余裕のないザボエラはすぐには気がつかない。

 が、違和感に気づいてようやく顔を上げたザボエラは、間抜けなほど目を見開く。そこには、見上げるような巨漢の大男……クロコダインの姿があった。

ザボエラ(ク、クロコダイン……!)


《感想》
 
 ついに、ノヴァの見せ場がやってきましたっ!
 目立ちまくった初登場でいきなり噛ませ犬になって以来、北の勇者の最初にして最後の見せ場です♪

 剣が折れるシーンは前回からの使い回しですが、みんなが驚いた後でフローラ様とメルル、エイミのいるカットが追加されたのが嬉しかったです。驚くフローラ様の後ろで、目を瞑ったままのメルルを庇うようにしているエイミさんの健気さが、いい感じ。
 きつい表情で敵を睨むエイミさん、気丈な感じが素敵です。

 ザボちゃんの移動に合わせ、超魔ゾンビの目の光がついたり消えたりする演出が細かくていいですね。原作でも表現されている設定なのですが、アニメだと光の明滅演出がすごく分かりやすいです。
 原作だと、最初にザボちゃんの移動で目の光が消えるシーンなどは、いつ消えたのか分からないほど控え目な演出でしたし(笑)

 ザボちゃん、今回めっちゃアップが多いですな。しかも、宝玉に顔を押しつけた変顔も披露したりと、サービス(?)されてますし。……まあ、ちっとも嬉しくはないですけど(笑)

 チウが老師に戦いをけしかけるシーンで、目を閉じて左手を顔の前にかざし、格好をつけまくるポーズを取っているのに爆笑しました。
 な、なんか、原作よりもずっと派手なポーズになっとりますよっ。

 厨二病臭が漂うジ○ジョばりのポーズと言うべきか、歌舞伎の大見得にどっか似ていると言うべきか、迷っちゃいますね。

 飛ばしているチウとは逆に、ブロキーナ老師の返事が弱気だったのが意外でした。
 ビースト君のシーツ顔のまま、バックに暗い色合いの雷が走っているような描写でショックを演出していたのが、妙に可愛かったです。

 ザムザ戦のイメージからどんな戦況でも飄々としているタイプかと思っていたのですが、今回、思っていたよりも動揺していました。性格は違えど、どんな戦況化でも不敵に振る舞うマトリフ師匠の同類かと思っていたのですが、中身は割と常識人かもと思うと親近感が湧きましたよ♪

 マトリフが感情を切り捨てて第三者視点で戦況を把握し、不敵な態度で敵には威圧を、味方には安心感を与えている風なのに対して、ブロキーナ老師は勝ち確な戦いでは穏やかに弟子達を見守っていられても、不利な状況にはつい動揺してしまうという、良くも悪くも素直な方だったんだなぁとアニメで初めて実感しました。

 原作ではブロキーナは徹底して目や表情を隠しているので、台詞からはそこまでの動揺は感じ取れなかったのですが、アニメで声の演技が加わったことで彼の人間味が深まった気がします。
 確かにこんなにも心情を隠せないタイプなら、目や表情を隠したくなる気持ちも分かるかも(笑)

 チウの驚き顔、落書きチックですごく笑えました。
 シリアスな回なのに、ちょいちょい笑いをぶっこんでくれます。

 ところで超魔ゾンビの色合いは、鈍い赤色の肉体をベースに、骸骨な顔と毛並みは鈍い灰色、角は黄色です。一見、派手な組み合わせになりそうな色ですが、どれも抑えた鈍い色彩なので馴染んだ印象があり、全体的にすごく抑えめな色彩です。

 原作ではカラー未登場だったので、個人的には全身が白に近い骸骨的なイメージを抱いていたので、赤が目立つカラーリングは意外でした。

 肩の宝玉が紺、胸の宝玉が紫ですが、光り輝くと言うほど輝いていないので、むしろつや消しをしているような控え目な印象さえあります。
 ですが、地味な印象の怪物ではなく、不気味でインパクトを与える存在感のある容貌と言えそうです。

 超魔ザムザが元の怪物の色そのままの原色バリバリのカラフルさだったのに比べ、超魔ゾンビはわざわざ色彩に統一感を持たせているのも、ザボちゃんの言う『改良』だったのかも。……あのド派手な色彩に実は不満があったんですね、ザボちゃん。

 宝玉の中に肉が動くシーン、肉の膨らみ方やザボちゃんがそれにちょっと潰されながら埋もれていく動きなど、妙に凝りまくっていてとってもブッキー。……なぜにここに全力を尽くす!?(笑)

 復活の目の光、ちゃんと瞼を開くような動きで光がともっています。単に点滅させない辺り、凝っていますね。

 クロコダインを筆頭に魔法攻撃シーン、一般兵の中にも魔法の使い手がいるのがお気に入りシーンです。ノヴァが参加しないのは、彼の得意が氷系魔法だからでしょうか。

 まあ、不死系怪物にはメラ系が利くというのはDQでは常識レベルの認識なので、クロコダインの音頭に合わせた一斉の炎攻撃は正しいと思います。
 
 炎を纏った超魔ゾンビ、意外なぐらいにかっこよくてちょっと癪な気も(笑)
 原作では細身の身体が骸骨っぽい印象ですが、アニメでは禍々しさ以上の猛々しさを感じます。

 ミストバーンのセリフ、原作だと「これでなんとか地上はおさまるかもしれんな」と言っていますが、アニメではカットされています。
 アニメ版ザボちゃんの方が期待されていないというか、信頼度が低いのかもしれません(笑)

 兵士達が倒れているシーン、原作とほぼ構図が同じですが、赤い血に染まった剣が一人の兵士の側に突き刺さっているのが気になるところ。

 超魔ゾンビの血の色は緑なので、これは人間の血と言うことになります。
 もしかして、剣を弾き飛ばされるかなにかして、自分の剣でダメージを負ってしまったのか……?
 せめてこの色が緑なら、倒されながらも敵に一矢でも報いたと思えたのに〜。

 クロコダインのボロボロになった鎧、肩当ての部分にボコッとへこんだ部分が再現されていたのには、感動しました!
 原作では斧が邪魔になって肩当てが見えないシーンですが、後で出てくるクロコダインの鎧の壊れ方をきちんと統一しているんだなぁと、嬉しくなりました。

 ロン・ベルクの攻撃、原作ではただ投げただけのように見えましたが、アニメでは大きくジャンプしてから渾身の力を込めて投げています。
 しかもジャンプした際、背景にバーンパレスを背負う形になり、翻るマントも相まってヒーローのごとき格好良さ!

 青空にバーンパレスを背負って宙に浮くシーンは、ちょうど先程のミストバーンと同じ構図になっていて、動きを止めていた『静』のミストバーンと、躍動感溢れる『動』のロン・ベルクの行動がいい対比になっていました。

 続くノヴァの追撃もカッコいいですが、そのすぐ後に殴り飛ばされたノヴァを助けたことを思えば、着地という動作が混じっている分、アニメのロン・ベルクがよく動いているのが分かります。

 ゾンビに握られていた気の毒な兵士は、原作ではボトッとその場に落とされていますが、アニメでは放り投げられていますね。

 超魔ゾンビに食らいつくクロコダイン、やっぱりカッコいいですね!
 前回から薄々そうじゃないかと思っていましたが、キャラ同士が密着していると原作よりも超魔ゾンビが巨大化しているのがはっきりと分かります。

 原作ではクロコダインと超魔ゾンビの身長差はほぼ倍ぐらいで、クロコダインは立った姿勢で太股に手を掛けて引き留めていました。
 が、アニメではクロコダインの倍どころか、もう少し大きそうです。
 クロコダインが立った状態で、膝に手を掛けるのがちょうどいいぐらいでした。

 でも、動きとしては太股狙いよりも、膝関節辺りを狙って相手の動きを止めようとしている辺りが、合理的だと思います。

 そして、ザボエラが動きが止まってから違和感に気づいたところを見ると、超魔ゾンビは痛覚を通さない分、触覚も鈍らせてあるみたいですね。これでは、武器を握りしめての攻撃など無理っぽそうです。
 ザボエラの攻撃が雑だと感じていましたが、触覚がないのなら大雑把になりますよね〜。

 アニメでは頭を掴んでクロコダインを持ち上げる改変がありましたが、原作ではクロコダインの頭を掴んでぐりぐりと下へ押し下げるような動きをとっていました。

 ここで、チウがクロコダインを助けようと声を上げ、動き出したのはアニメの改変です。
 チウの号令で、ビビっていたクマチャも動いていたので、チウはホントに体調として信頼されているんだなと嬉しくなりました。

 ノヴァが生命発言する際、アニメでは拳を握りしめる改変がありました。
 ですが、それ以上に表情の変化の方が印象的です。
 原作のノヴァは覚悟を決めた、毅然とした表情を見せていますが、アニメのノヴァは無理をしているというか、苦痛を乗り越えているような表情をしています。

 これは、親衛騎団との戦いで惨敗を喫した経験から、ノヴァが敗北の怖さを知り、戦いへの恐怖を感じているんじゃないかと推察します。
 以前のノヴァなら、自分なら勝てると根拠もなく思って戦いに挑んだでしょうが、今のノヴァは強い敵に対して負けてしまう現実を知っている……だから、その恐怖を乗り越えようとしているのかなと感じました。

 しかし、シリアスなロン・ベルクとノヴァの会話の中、ビースト君の無駄な攻撃が可愛い! 角にのぼって、引っこ抜こうとしたり、手でぽかぽか殴ったりしていますよ(笑) 
 原作でも小さなコマの背景に近いところで、確かにやっていましたけどっ。アニメでは、ずいぶんと目立つところでやっていました。

 ロン・ベルクとノヴァの会話は、アニメの改変ですね。
 ノヴァがこの場で刃を握るのも、同じくアニメの改変です。原作では一度、父親の場所へ移動し、父親の剣を譲ってもらい、その剣を折ってから握りしめています。

 他の人ではなく、わざわざ父親の剣を譲り受けたのは、これで自分が死ぬことを覚悟した上での決意の表れだと思っていたので、アニメでカットされたのは残念でした〜。
 まあ、この激しい戦いの中、バウスン将軍が離れたところにいる我が子を気に掛けている描写があったのが、救いと言えば救いですかね。

 ノヴァの手から血が出るシーン、アニメではかなり控え目になっています。
 でも、その分、ノヴァが消耗して痩せこけていく部分はすっごくリアル! 血が出なければ、残酷なシーンも手加減なしですね。

 消耗するノヴァの外見変化にも感心しましたが、なによりもノヴァの目に感心!
 目だけは、ギラついたような強い光を保っているのがいいですね。

 年老いた顔の中で、目の輝きだけが変わらないのが印象的。以前、映画用の特殊メイクで外見は皺だらけの老婆になった大学生ぐらいの女の子が、目の光だけは妙に強くて違和感があったことを思い出しました。
 
 ノヴァの生命の剣、虹色の輝きがハドラーの剣を思い出させます。
 人間でも魔族でも、同じ色合いなのに感心♪ 

 ロン・ベルクの説明も、一部改変されていました。
 原作では、五分もかからずに生命力が尽きると言っていましたが、アニメでは明確な時間は口にしていません。

 回想シーンのダイとノヴァの稽古、見ていて楽しかったです。
 よく見るとノヴァの攻撃をダイは避けているのに、ダイの攻撃はノヴァは避けきれず、剣で受けているんですね。

 ダイの方が動きが大きくて隙がありそうに見えて、ダイの攻撃の方が一撃一撃が重い感じなせいか、結局ノヴァはそれについていけずに剣を跳ね上げられています。

 原作ではノヴァの『なんという力の差だ』と言うモノローグがありますが、アニメでは動きでダイを圧勝させていますね。

 ダイとノヴァのやり取り、一部がカットされています。
 それよりもダイが手に何かを持っている風なのを、ちゃんと見せてくれないのが残念!
 
 原作では、ダイが水の入った桶をえっちらおっちら持ってきているのですが、アニメでは運ぶところは柄杓の一部っぽいところしか見えないし、岩の上に置くシーンも音しか聞こえていないし!
 ダイの運び姿が可愛かったから、アニメでも見てみたかったのにーっ。

 ダイとノヴァのやり取り、すごく可愛かったです!
 元々素直なダイに釣られたのか、棘が抜けて素を出している感じの子供っぽいノヴァが実にいい感じに可愛いですよ!

 ノヴァの言葉に思いっきり悩むダイには爆笑しちゃいました(笑)
 ダイとポップのやり取りだと、ダイのボケた言動にポップがすかさずツッコむ感じになりますが、ダイとノヴァだと真面目すぎて変にボケまくっていますね。

 ダイの頭の倒立からジャンプするシーン、まさか手も足も地面につけずに身体のバネだけであんなに飛び上がるなんて……!

 そして、ノヴァの左手を両手で握り込んでいるのに注目したいです!
 エンディングでもダイはノヴァと左手で握手をしていましたが、右手での握手を拒否することから始まった二人の諍いが、左手で解消されている感じがして気に入っています。 

 ダイはマトリフに、勇者の武器は勇気だと言われたことはあっても、勇気をそれほど重視していない風なのが面白いですね。
 ノヴァの勇者に対する結論は、ダイとポップの関係に繋がっている気がします。

 一番強い勇気を持つのはポップでも、そのポップに勇気を与えたのはダイ。そして、ポップもまた、ダイに勇気を与えることができる……ダイ大のテーマはこれだと思います!

 ノヴァがロン・ベルクに向かって、勇者のあり方を語るシーン……感動的なんですが……なぜここに、超魔ゾンビを足で踏み踏みするビースト君のカットを混ぜたっ!?(笑)

 突き刺さっている槍につかまってゲシゲシと踏みつけるシーン、可愛い割にシーツ風衣装からはみ出た足が妙にリアルで嫌なんですけどっ。
 チウが一生懸命にクリンチ攻撃じみた超接近からの殴りつけしているシーンは頑張っている感があるのに……。

 っていうか、人間達はノヴァの話に聞き入って攻撃を止めちゃっていますよ。もしかして頑張っているの、遊撃隊だけ?

 ノヴァの成長にバウスン将軍が感涙した後で、ノヴァの突撃宣言にフローラとバウスン将軍が驚いた表情を見せるカットがありましたが……これ、使い回しシーン?

 バウスン将軍が泣いていない表情なので、寸前の感涙シーンと続けてみると不自然な気が……。
 ここは、バウスン将軍の表情だけでも変えて欲しかったです。

 その後での突撃シーンでは、フローラ様とバウスン将軍の叫びシーンはちゃんと表情は動いていましたが、涙がもう少し残っていてほしかった気が。

 CM後のロン・ベルクが肩の刃を抜くシーン、原作ではあっさりと抜いた印象でしたが、アニメでは刃を揺らしつつ引き抜く動きが妙にリアルで痛々しかったです。
 血の色の差のせいか、原作よりも出血が派手だし……。

 ロン・ベルクが剣をしまっておいた魔法道具、紐がついている大きさや形から見てストラップかキーホルダーに見えてなりませんが(笑)、古風な彼の見た目から言って根付けかなにかなのかなと予想。

 ロン・ベルクを遠巻きにする兵士達の数、なんか一気に増えたような……(笑)、いや、気のせいですね♪

 岩石の塊を見上げるフローラ様のシーンはそのままですが、モノローグがまるっとカットされています。

原作フローラ(……こ……この不気味な物体に、どんな力が……!?)

 このフローラ様の感想には心の底から同感なので、残っていて欲しかった台詞ですね。
 原作では怯え気味だった表情が、アニメでは不思議そうな感じにとどめられたのも、改変部分です。

 ザボちゃんが岩に斬りかかる時、原作では岩の前にいたロン・ベルクがサッと避けて場所を空けていましたが、アニメではロン・ベルクの立ち位置が違っているせいか、このシーンがなかったのががっかりです。

 剣を前に立つロン・ベルク、カッコいいです!
 星皇剣に驚く仲間達のアップのシーン、原作ではごく小さいコマをさらに三カットに分けて描き込んでいましたが、アニメでも同じコマ割で再現されていました。

 エイミさん、フローラ様とバウスン将軍、ゴメスと見知らぬ兵士という組み合わせでしたが、よくみたら兵士の顔が原作と違っていますね(笑)
 エイミさんとフローラ様がアップで映っただけで、なんか満足です。
 ゴメスは横顔から正面向きになっていました。

 ロン・ベルクが二本の剣をスローモーションで振り回すシーン、ゆったりとしていて綺麗でした。
 その直後の、彼の目を暗闇の中で白い線画で描くアップから、波紋のように気迫が広がる表現、カッコいいですねえ〜。

 ロン・ベルクの剣の構え、随分と風変わりで面白いです。
 二刀流と言えば宮本武蔵を思い浮かべますが、その構えとは全然違っていますね。

 剣を構えたまま、横っ飛びで拳を避けるロン・ベルクの動きが、なんとなくバレエダンサーのジャンプに見えました♪
 
 ロン・ベルクが剣の威力について語るシーン、暗い背景の中、水色の線画としてロン・ベルクの顔のアップが描かれる演出、いいですねえ。

 しかし、ザボちゃんが隠れている体内、なんとなく腸の中に無理矢理潜り込んでいるような不気味さを感じるのですが。

 怯えるザボちゃんと、落ち着き払ったロン・ベルクを交互に映す演出、よかったです!
 原作では超魔ゾンビしか描かれていなかったシーンが、ザボちゃん本人の表情を出すことで、彼の感情が分かりやすくなっています。
 怯えた後、怒りに転じる表現に感心しました♪
 
 原作では、ロン・ベルクに怯える余り、やけっぱちになって逆襲したのかと思っていましたが、アニメでは恐怖を与える対象に怒りを感じ、攻撃している風でした。

 ロン・ベルクの必殺技がまた、カッコいいですね。
 ザボちゃんを斬った後、すれ違うように自身も飛んですれ違うシーン、好きです。

 ロン・ベルクが着地した時に周囲にいる兵士達……なんか、ヘタレっぽい感じの人揃いですね(笑)
 このモブ達の顔、回によって差が激しい気がします。
 超魔ゾンビが倒れて喜ぶノヴァの表情も、ちょっと不満を感じますし。

 しかし、超魔ゾンビ、原作以上に出血が激しいですね。血の色が変わると、ここまで大量出血になろうとは。

 ロン・ベルクの腕が砕けるシーン、原作では現実のロン・ベルクの腕に半ば被せるような形で砕けていましたが、アニメでは幻っぽい腕のみがアップになった状態で砕ける改変がされていました。

 ロン・ベルクの腕の焦げ具合、ザムザの末期の肌の色があんなかなと想像していたのに似ていました。

 しかし、原作ではロン・ベルクは「魔界に生まれて十年もしないうちに最強の剣技を極めた」と語っていましたが、アニメではその辺はカットされています。

 ヒュンケルが7才前後、ダイが12才そこそこでアバンから卒業を認められたことを思えば、若すぎる天才はアリだと思いますが、省いても問題が無いと言えば問題が無いですしね。

 みんなが話を聞いている中、フローラ様の真後ろにフォブスターを発見。……魔法を放った後は見かけないと思ったら、いつの間にこんなところに(笑)

 ロン・ベルクの説明台詞は、かなり大幅にカットされていますが、分かりやすくスッキリした印象。
 鍛冶屋風景が挿入されているのが、お気に入りポイント。
 原作にもあるシーンですが、原作以上に細かく描かれています。

 ノヴァがミストバーンの台詞を思い出すシーンも、カットされていますね。
 ロン・ベルクが腕が治らない期間について語るのにも、アニメではぼかされています。原作では70年と時間をはっきりさせています。

 ノヴァがロン・ベルクの手を握り、剣の完成を誓うシーンは人物の描き方に感心しまくりました。

 大勢の人に囲まれ、中央にノヴァとロン・ベルクがいるのは原作通りですが、アニメでは手前側にも人がいるようにかいてあります。

 遠近法を使って手前側の人物を大きく書き、置くほど小さく描いていますが、一番手前のキャラは黒く塗りつぶしたシルエットにして印象を殺し、奥にいる人々はぼんやりとぼやかして印象を薄めているため、結果的に色が明白なノヴァ達が目立つという手法を使っています。

 あなたを尊敬すると発言するノヴァの手が、かすかに震えているのもアニメの改変ですね。

 弟子入りを認められ、喜ぶ姿や、瓶に苦戦する姿、恥ずかしがる姿など、ノヴァの可愛いシーンの連続です♪
 ノヴァとロン・ベルクのやりとりが、丁寧な描写で描かれていたのが素晴らしいです!

 這いずって逃げるザボちゃん、執念深い表情がものすごっ。
 しかし、クロコダインの兜や足で先にいる人物を先に明かす演出は、ちょっと残念でした。

 原作ではザボちゃんが這いずって、何かの影の中に頭を突っ込み、それをいぶかしんで顔を上げ、クロコダインを見つけるという演出でした。
 これを、アニメならではのザボちゃん視点でやって欲しかったですよ〜。

 たまに、誰かの視点で動いたり走ったりする移動視点をアニメで表現するシーンが好きなので、ここもてっきりそうなるかと思っていました。
 最後の最後、ザボちゃん目線から見るクロコダインが鬼のよう。
 驚くザボちゃんの顔芸で終わりましたが、クロコダインアップの方で終わって欲しかったですねえ。

 次回予告、ヒムちゃんの再登場どころか、髪が伸びるシーンまでもが思いっきり暴露されちゃっとりますが!? 

 今回の話を見たのなら、まず気になるのはクロコダインとザボちゃんの決着だと思うのに、なぜそこはワンシーンすら映さないのか!?
 相変わらず、全力でネタバレしていく予告スタイルです(笑)

78に進む
76に戻る
アニメ道場に戻る
トップに戻る

inserted by FC2 system