H.8.7.29(月)No35 『響く闇からの声』

 

 響き渡る轟音――地上破滅の時を前にして、ポップは深い絶望を味わっていた。
 思うのは両親であり、師や王達であり、そして何も知らずに地上で暮らしている人々……彼らがもうすぐ消えてしまう。
 自分達には何もできなかったと、ポップは自分の無力さを嘆く。

 そんなポップをよそに、バーンは後5分ほどで地上が消える感激に浸っていた。
 そんな折、バーンに掛けられる声――。
 幻影として浮かび上がる姿と声に、バーンとポップは目をやる。それはかつてバーンと魔界を二分した、冥竜王ヴェルザー。

 ダイの父バランと戦ったその名には、ポップも聞き覚えがあった。
 魔界から動けぬ彼を揶揄する様なバーンに、怒りをむき出しにするヴェルザー。不死身の魂を持つヴェルザーは、竜の騎士との戦いがなければよみがえるはずだった。

 だが、バランに破れ、天界の精霊達に封じられたヴェルザーは、石となってしまった……。地上を破壊しようとしたバーンよりも早く、地上に出ようと焦ったばかりに……。
 あのキルバーンも死んだと聞かされ沈黙するヴェルザーに、バーンはこの賭けは自分の勝ちだと言い切った。

 思わず言葉につい口をだしたポップを、バーンは冷たく一瞥する。
 神々に愛でられた人間であるポップに事情を語ることで、せめてもの鬱憤を晴らすがごとく、バーンは語る。

 バーンもヴェルザーも神々を憎む思いは同じ――魔族、竜族を冷遇し、人間だけに平穏を与えた神々が許せない。
 それゆえに、二人は神を目指したのだ。

 バーンとウェルザは数百年前に敵対を止め、各々の戦略を進め、成功した者に敗者が従うという賭けを行った。
 そして今、バーンの前で宿敵ウェルザーまでもが彼の恐ろしさを認める。

 勝利者の余裕からか、自分が地上を消した後、天界へ攻め入ってヴェルザーの封印を解いてもいいと言うバーンに、ヴェルザーはプライドを傷つけられたのか姿を消していく。 高笑うバーンに、ポップはもはやかける言葉すら思い付かない。

 桁の違い過ぎる、雲の上の会話はポップには手の届かないものだ。
 消えゆくヴェルザーは、ダイに目を止める。自分を殺したバランの息子――だが、今のダイは回りに一切関心を持たぬ、抜け殻状態だった。

 そんなダイを見て、ヴェルザーは父には遠く及ばぬと言い残して消えていく。
 抜け殻の様になったダイの耳にも、バランの名はかすかにひびいた……。
 しかし、ヴェルザーの言い分は、実際にダイと戦ったバーンには負け惜しみには聞こえなかった。

 バランより、あらゆる点でダイの方が優れている。強いて言うのなら、殺気……バランの持っていた底しれぬ殺気はダイにはないものだが、それも今は意味がない。
 バランはすでに死に、古からの宿敵も、神が創りし邪魔者であるダイも、全てがバーンの前に平伏した。

 やっと実感の沸いた勝利感に、バーンは一人、勝ち誇る。
 刻一刻と迫る滅亡の時――放心し続けるダイ、蹲るポップ……もはや、何の手立てもない絶望にあえぐポップの耳に、声が響く。

『……あきらめないで……!!』


《タイムスリップな感想》

 どうなるっ、どうなる世界の運命っ?!
 謎の声の主って、メルルなのか、フローラ様なのか、それともマザードラゴンとか…? にしても、世界を救う決め手になるのって、もしかしてダイじゃなくてポップなのか?! 正直、そこに最大に驚いたっ。
 
 

次へ続く
36巻に戻る
タイムスリップ日記部屋に戻る
トップに戻る

inserted by FC2 system