H.8.8.5 (月)No36 『起って…!!』

 

 あきらめないで、とポップに呼び掛ける声――その声の主に思い当たったポップは、驚きに震える。
 まさか……だが、それは間違いなくメルルの声だった。

 そのことに驚いたポップは、つい口に出して言う。みんな、生きているのか、と。
 バーンを初めとしたみんなが、その言葉を聞きとがめた。
 メルルは爆発の寸前に危険を予知して目覚め、地上の仲間達を避難させたのだ。

 だが、なぜメルルがバーンパレスでの状況を知り、ポップに話しかけることができるのか?
 前に、メルルの瀕死をきっかけにポップが自分の力を開放させたように、メルルもまた秘められた力を解き放ったのだ。

 意識を失っていた間、メルルはポップが見たこと、知ったことを全て感じていた。だから、ポップの恐怖が最大限に弾けた時に目覚めたのだ。

 ダイのラィディンの粘りも無駄ではなかった。だからこそ、みんなが逃げ延びる時間が稼げた。
 なぜ、こんなことが起きたのか――。

「……きっと……ポップさんのことばかり考えていたからです…」

 メルルのストレートな答えに、ポップは赤面する。
 彼女はポップ達の追い込まれた絶望を知り、それでも諦めないでと訴えるメルル。
 ――だが。

 魔力で地上にいるメルル達の生存を映し出してみたバーンは、それは死が一時伸びただけだと嘲笑う。
 それが、ポップをさらなる絶望に突き落とす。

 もう、手がない。
 力が足りなくてごめんと泣く様に言うポップに、メルルはまだ手があると訴えた。ロン・ベルクとノヴァが柱にいき、黒の核晶をヒャドで凍り付かせていたのだ。

 魔法で誘爆するとはいえ、黒の核晶は基本的には機会仕掛けの爆弾だ。作動しなければ、爆発もしない。全部を凍り付かせれば――だが、バーンはそんな努力を悪足掻きを決め付け、ロン・ベルクに話しかける。

 1つ2つ凍らせても無駄。凍らせるなら6つ全部を凍らせなければ、爆発は止められない。後5分たらずでできるわけがないと笑うバーンに、ロン・ベルクは無言のままだ。
 バーンはロン・ベルクだけは助けてやってもいいと、大魔宮へ誘いをかけるが、彼は素っ気なく断った。

 バーンの下にいた時が、ロン・ベルクが最も恵まれ裕福だった時だが、同時に一番退屈で自分が腐っていくのを実感した日々だった。
 それに比べれば、ダイ達と出会ってからの数週間が、もっとも充実した日々だった。

 同じ過ちを繰り返すぐらいなら、ロン・ベルクは人間達と運命を共にするつもりだ。それを聞いて、嬉しそうな顔をするノヴァ。
 だが、その発言はバーンのプライドを傷つけた。よりいっそうの魔力を込めようとしたバーンの隣で、ポップが立ち上がる。

 何のつもりかと問うバーンにではなく、ポップはダイに寝ている場合じゃないとはっぱをかけた。
 動かないダイの身体が、かすかに震える。

 可能性がゼロではない以上、自分も手伝うとルーラで飛び出したポップの身体が、宙で何かに弾き飛ばされる。光の魔法円が消滅した今、バーンパレスは再びバーンの魔力で閉ざされたのだ。

 まともに床に落ちたポップの額から、血が流れる――バーンは、冷たく言い放った。
 可能性はゼロのままだ、と……。


《タイムスリップな感想》

 おっ、何ヵ月振り……いや、下手をすれば何年ぶり(笑)かにメルルの出番だっ。ああ、無事で良かった〜♪
 それにしても、黒の核晶を止めるにしても、ノヴァが故郷リンガイアに行けるとしても、他はどうなんだろ?

 ……エイミさんが、ルーラ覚えていてくれればなぁ。うう、ポップだったらほとんどの国に間違いなく行けるのに〜っ。
 ミナカトールの効果までなくなっているだなんて、反則だっ。
 
 

次へ続く
36巻に戻る
タイムスリップ日記部屋に戻る
トップに戻る

inserted by FC2 system