H.8.11.25 (月)No52 『さらば! 愛する地上よ』

 

 レオナはふと、気付いた――空から落ちてくる人影に。
 たちまち大騒ぎになる皆は、ダイの姿を確認する。気を失っているのか…ダイは無防備に落ちてくる。――このままでは、頭から地面に激突する!!

 それを受け止めようとマァムとラーハルトが飛び出すが、その二人よりも早くポップが飛ぶ。
 この役目ばかりは、誰にも渡したくはないから。

 宙に飛び上がってダイを抱きとめたポップは、そのままもつれ合う様に落下したが、その時もポップはダイをしっかりと庇っていた。
 恐る恐るダイに呼び掛けるポップ……ゆっくりを目を覚ましたダイは、笑顔を見せる。それだけでポップはダイの勝利を悟っていた。

 勇者が魔王を倒したと言う朗報に、静かに感動するポップ。だが、そんな彼にダイは年相応の、心配そうな表情を浮かべて尋ねた。
 自分は、どこか変ではないか、と。

 大魔王さえ倒した勇者は、自分の姿が化け物になったかどうか……、友達に嫌われるのではないかと心配しているのだ。
 思わず、涙を零してしまうポップ――だが、ポップは持ち前の明るさで、ダイはいつものダイだと保証する。

 ダイを抱き上げ、はしゃいで振り回して、勇者様の凱旋だと親しみの籠った手荒さで歓迎し、みんなに向かって突き飛ばす。
 いささか過激な歓迎っぷりに、軽く文句を言いつつも心底楽しそうなダイ。

 アバンに対する皮肉も含め、勇者がどこかに消えないようにしっかりダイをつかまえなさいとレオナに忠告するフローラや、アバンを冷やかすポップやクロコダイン――誰もが和やかに笑う中、レオナはそっと、不安そうに問い掛ける。

 どこにも行かないよね、と。
 それに対し、ダイは頷いた。地上が一番好きだ……そう答えるダイ。
 喜びの中、帰ろうとするフローラ断ちに、一言、祝福の言葉を述べたいと近寄る影……片腕がなく、一本きりの腕で己自身の首を抱えた死神が現れる。

 たちまち緊張する一行の前で、ピロロを連れたキルバーンは無造作に首を付け直す。実際に彼の首が落ちるところを目撃していたアバンには、驚きも大きかった。
 首が千切れて生きていられる生物はいない……アバンの言ったセリフをなぞる死神に、アバンはハッと気がついた。

 キルバーンとは死神のことではなく、常に彼のそばにいた小さな使い魔だった。
 漆黒の道化師はただの人形……だからこそ、不死身だった。ピロロの手で、始めて素顔を見せたキルバーンは黒の核晶を顔面に埋め込んだ機械人形だった。

 キルバーンの本当の主は冥竜王ヴェルザー……欲深く地上を欲する主君のために、バーンを倒す密命を負ったキルバーンは、バーンを倒したダイ達を地上の人間ごと消し去るため黒の核晶のスイッチを入れる。

 とっさにレオナがヒャダルコで凍らせようとするが、マグマで動く死神人形にヒャドは通用しない。後10秒程で爆破すると予告し、キルバーンは魔界に帰ろうと死神人形からひょいと離れる。

 その瞬間、弾かれた様にダイ、ポップ、マァム、アバンが動いた。
 アバンがフェザーでキルバーンの動きを止め、ダイとポップは二人そろって死神にしがみつく。驚愕するキルバーンに、マァムが閃華烈光拳でとどめを刺した。

 ダイとポップは力を合わせ、トベルーラで死神の身体を上空へと運ぶ。悔しがりつつ、息絶えるキルバーン。
 だが、マァムやアバンは緊迫した面持ちのまま、飛んでいった二人を見上げていた――。


 一方、恐るべき爆弾を抱えて飛ぶ二人は、もう手放す時間はないと知っていた。ダイと一緒に死ぬのも悪くないと、覚悟を決めているポップ。
 だが、ダイは――。

「……ごめん……、ポップ……!!」

 一瞬戸惑うポップを、ダイは力いっぱい蹴って突き飛ばした!!
 ショックを受け、なぜだと叫ぶポップを置き去りにして、ダイは一人でキルバーンの身体を抱えて飛んでいく。

 ダイは、親友と共に死ぬのではなく、友を庇うために命を懸けることを選んだのだ。父、バランや母、ソアラのように――ダイは、自分の使命に殉じようとしていた。
 そして、爆破が訪れる。

 ポップの涙ながらの叫びと同時に、凄まじい爆破が起こり――それから数週間、ポップ達は世界中を探し回ったが、ダイの行方を掴むことはできなかった。
 ダイが見つからないまま、見晴らしのよい崖の上に、ダイの剣を記念碑のように立てられた。

 その剣の前に集まるポップ達……普通の村人風の服を着たマァムは、ダイの剣に向かい、ダイに向かって語りかける様に話しかける。同じく、村人風の服を着たポップは、墓の様で縁起が悪いとおかんむりだ。

 しかし、レオナはそれがダイの墓ではなく、目印だと言い切った。
 驚く一同に、ロン・ベルクは自信たっぷりに説明する。ダイのために作ったダイの剣は、ダイが死ねば宝玉の光が消えるのだ。

 だが、今、宝玉は光っている。
 ダイは生きている――だが、彼がどこにいるのかは、全く分からない……。
 でも、ポップはどこでもいいと言った。
 生きてさえいれば、また会える。ダイが戻ってくるところは、ここしかないのだから――。

 だから、ダイが戻るまで自分達が世界を守っていこうと、みんなは心を決めた。いつか、ダイを見つけても、また、ダイが自分から戻ってきたとしても、美しい大地や平和な人々を見て、これが自分の守った地上だと胸を張れるように。
 いつか、勇者が帰ってくる、その日のために――。
                                  《終わり》


 


《タイムスリップな感想》

 ……………………ダイは?

 

 


《時を越えた感想&おまけ》

 連載当時は、あのラストは相当以上にショックでした。
 七年もの間、ずーっと大好きで毎週見続けた漫画の最終回に対して、たった一言しか感想がかけなかったあたりに、愕然感があらわれていますね(笑)

 数年経ってから、あの終わりが感動的でしかも綺麗にまとまっている上に、読み手に想像の余地が与えてくれる素晴らしいラストだと思える様になりましたが、ずいぶん長い間、ダイとポップがその後どうなったか気になって気になって、あれこれ考えまくった覚えがあります。

 つーか、未だに現代進行形ですが(笑)
 ダイやみんなが幸せになって、どんな形であれ、ポップ、マァム、ヒュンケルの三角関係にケリが付いたのなら、その後何年もかけて続きを考えたり、考察しまくって恋愛関係の答えを探そうとしようとも思わなかったでしょうね。

 今から思い返せば、あの最終回こそがダイ大二次創作の活動の源だった気がします。
 しかし、あれから考えに考えまくっているのに、未だにどんなラストだったら最良だったのか決めかねています。

 だからこそ、色々な分岐パターンや設定で、あれこれ書きまくっているのですが。
 まったく、何が幸いするか分かったものじゃないです。

 ところで連載当時、最終回は巻頭カラーでした!
 ちょうど『こち亀』千回目だったので、表紙や特集がそちらに奪われ、こじんまりとした最終回だったのが、哀しかったです〜。

 旧コミックス37巻の表紙が最後のカラーだったのですが、呷り文句は
『子供の頃から勇者を夢見た少年は今、伝説になる…!!
 幾多の冒険を乗り越えて、堂々感動の最終回…!!』
 でした!

 んでもって、最終回は作者様がものすごーく切羽詰まっていた回だったようで、ジャンプにしては珍しく未完成のコマがあった回だったりしました(笑)
 どう見ても鉛筆がきのままで、ペン入れをしていないコマが二コマあったんです。

 ダイの剣を前に、ポップが『だってあいつの帰ってくる所はよ……!』と言うシーンは、ラフでした。そのページの最後のコマ、レオナのアップもラフのまま。
 というか、ジャンプ版ではポップが着ていた村人の服やら、エピローグのみんなの服がほぼ真っ白だった辺りに、相当に切羽詰まっていた修羅場を感じましたね(笑)

 村人ポップだけでなく、ラストのマァムの服、アバンの服、ラーハルト、エイミさんの服は眩いまでに純白でした。
 コミックス化に当たって、トーンが張り足されていたんです、実は。 
 
 

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