9 プライドを傷付けた、魔法使いのボウヤ

 

 ミストバーンがヒュンケルに執着し拘っているように、キルバーンにも拘りのあるアバンの使徒がいる。それは誰かと言えば――彼等の最大の敵である勇者ダイではなく、魔法使いのボウヤ……ポップだったりする。

 元々キルバーンは魔王軍の中では出番が遅い方だが、ちょくちょく紙面に登場する割には、ダイ達の前に姿を見せた回数は少ない。

 ダイ達との初顔合わせは、対バラン戦直前にダイの正体を確かめるためと冷やかし半分の忠告をするために、ダイ、ポップ、レオナの前に姿を現したのが最初だ。

 面白いことに、キルバーンが他人に見縊られがちなポップの実力を見抜いていたように、ポップもまた、その直感力で初対面のキルバーンの恐ろしさをなんとなく感じとっている。……後々の因縁を象徴するような一コマだ。

 出会いの時はダイにメッセージを伝えるのみで、特に彼等にちょっかいを出すことはない。

 だが、ダイ達がかなりレベルアップを果たし、魔王軍にとって驚異的な存在になり出した頃、再び姿を現した。対鬼岩城戦で怒りの余り暴走しかけたミストバーンを止めにくると同時に、ついでにポップをわざと怒らせ自分達の後を付けさせるように仕向けた。

 ここで注目したいのが、キルバーンが抹殺しなければいけない魔王軍の裏切り者――ヒュンケルとクロコダイン――には目もくれず、ポップだけを狙って罠を掛けたことだ。

 しかもその場にいたメンバーの中でポップだけが瞬間移動呪文が使えることや、挑発すれば自分達を追ってくることを予測していたことを考えれば、恐ろしいほど正確にポップの性格や実力をつかんでいると言える。

 ミストバーンと並んでダイ達をこっそり観察することの多いキルバーンは、誰をどうやって殺すのが最も効果的か散々考えていたに違いない。
 そして、その結論として、勇者一行のムードメーカーであるポップを真っ先に死んでいただきたい男として選んだのだ。

 飛び出したポップを追ってきたダイとクロコダインの援護により、ポップはからくもキルバーンの手を逃れたが、初めて同じ獲物に二度も逃げられたことで、キルバーンはポップに個人的な恨みを持ったようだ。

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