19 ダイVSザムザ戦(6) |
ザムザに牽制的な魔法を仕掛けた後、ポップはすぐさまダイの元へ駆け寄ろうとしている。だが、この時、ザムザの攻撃にポップは寸前で気がつき、大きく後ろに飛んで避けている。 ポップはダイやヒュンケルのように的の気配を察知する能力は高くはないので、咄嗟の判断と言うよりは敵の攻撃に備えて警戒心を持ち続けていた、と解釈するのが適当だろう。 しかし、攻撃があることまでは予測していたとしても、無傷のザムザの姿を見てポップは手放しで驚いている。 この傷の回復方法は、なかなか面白い。 残念ながら手のハサミが回復している所は描写されていないが、完全に壊れたはずのハサミまで元に戻っている。 人間を初めとする高等生物は多少の怪我ならば元通りに修復されるが、身体の一部が欠損した場合はその限りではない。手どころか、指を失ったとしても、それが元に戻ることはないのだ。 だが、原始的な生き物である単細胞生物に近い生物ほど、強い復元能力を持つ。 幸いにも、と言うべきかザムザの回復能力は極めて早いものの、分裂するような力はないらしい。 しかし、復元能力にくわえてこの驚異的な回復速度こそが超魔生物の一番のポイントのようだ。戦いの最中なのにも関わらず、ザムザは得意げにそれを説明している。 ザムザに言わせれば、超魔生物の肉体は9割方完成しているとのことだが、変身すると魔法が使えなくなるのが問題らしい。ザムザはたいした問題ではないとばかりにそう言っていたが、本来、超魔生物が魔法使いの肉体強化のための研究であることを考えれば、根本的な問題であり、割と致命的な気がするのだが。 が、ザムザは自分の研究の欠点を認めたくはないようだ。 しかし、その倒し方に変な歪みというか、拘りがあるようだ。 竜の騎士の力の使い方に不慣れなダイは、言わば自滅する形で倒れてしまったのだが、弱ったダイに一方的な攻撃を加えることにザムザは全く躊躇しなかった。 その際、止めようとしたポップを闘気技で突き放している。魔法が使えないため、闘気を集中させて放つという遠距離攻撃を使ってまで邪魔を嫌い、ザムザはダイを丸呑みした。 ここで注目して欲しいのは、ザムザがダイを殺さずに丸呑みした点だ。 ザムザの行動は十分に理性的であり、明らかな意図と意思が感じられる。 『生きたまま丸呑みしたが……オレの体内の強力な分解液によって、すぐさま溶けてしまうはず……!!』 ダイを食べた後、ザムザはこう発言している。 となると、誰から聞かされたかという疑問が発生するが、これは答えは一人しかいない。 今回のザムザの捕食行動には、ザボエラの思惑が見え隠れしている。 だが、これはどう考えても肉食獣にしては少なすぎる数だ。そもそも超魔ザムザの腹の口は、開閉すらしていない。ポップの不意打ち的な攻撃を受けても開けっ放しだったし、ダイを食べる時でさえこの口は一度も噛もうとはしていないのだ。 この構造は、むしろ肉食獣よりも蛇に似ている。 蛇の口は立派な牙があるが、実は咀嚼には適していない。 毛や骨ごと丸呑みしても消化してしまう蛇の胃液は極めて優秀ではあるが、即効性には欠ける。蛇の種類によっては獲物が生きたままでもお構いなしに飲み込んでしまうので、胃の中に入ってもしばらくの間生きていることがある。 胃の中には、酸素はそう多くは存在しない。 だが、どうも超魔ザムザの胃の構造は、肺呼吸生物としては不自然すぎる構造になっているようだ。 ポップが後で看破したように、ザムザが腹の口からも呼吸可能だったことをあわせて考えれば、彼の腹に飲み込まれた獲物の所にも僅かながらも空気を取り入れられた可能性も高い。 ダイの身体がなんらかの液体で濡れ、多少皮膚がただれている描写があったので、溶解作用のある液体に触れていたのは間違いはなさそうだが、致命的なほどのダメージは受けてはいなかった。 となると――どうも、その伝聞自体が間違っていたのではないかという疑いが発生する。 ザムザは腹に飲み込んだ生物はすぐに死ぬと聞かされていたが、実際には違う効力を持っていたのではないかという疑問が浮かぶ。 だいたい、溶解液で相手にダメージを与えたいだけならば、腹の口から噴射する仕組みでも作っておけば済むだけだ。それをわざわざ体内に取り入れるという機能をつけ、強い獲物を丸呑みするように指示されていたのではないかと思える。 事実、ザムザはダイの次にポップも飲み込もうとしている。 敵を殺すよりも、腹の口に入れる方を選びたがる……そう考えると超魔ザムザの腹は胃ではなく、齧歯類の頬袋のようなものと考えればいいのかもしれない。 齧歯類の中には、頬の部分に餌を蓄えてしまいこむ習慣を持つものがいる。頬袋にしまい込んだ餌は出し入れ自由であり、場所を移動させるために頻繁に利用する。 口に含んではいても、必ずしも食べるためにそうしているのではないのだ。 実際にダイにダメージを受けていたことを考えると、溶解液が分泌される仕組みにはなっているようなので、安全確実に獲物を捕獲するための仕組みではなさそうだ。 むしろ、溶解液にも耐えうる強い獲物を選りすぐるための一時的な保管場所と考えた方が当たっているような気がする。後でダイが簡単に吐き出されたことを考えれば、尚更だ。 この考えが当たっているとすれば、超魔生物の研究に勤しむザボエラにとっては非常に便利な機能だろう。なにせザムザが強いと判断した相手を、半死半生の状態で手に入れられるシステムなのだから。 しかし、この方法には大きな欠点が存在する。 そのリスクを、ザムザは全く認識していない様子だ。 また、ザボエラの性格から言っても、ザムザの身の安全を考慮していたとは思いにくい。 自分にとって得となる点を重視し、ザムザに非常な命令を下したとしても何の不思議もない。自分が利用されている事実を、ザムザがどこまで把握していたかは定かではないが……。 いずれにせよ、筆者はザムザは食欲などの本能的な理由からではなく、ザボエラの命令や思惑を重視した結果、ダイを食べようとしたのだろうと考える。 |