24 ダイVSザムザ戦(11)

 さて、ここで視点をマァムへと移してみよう。
 生体牢獄に閉じ込められたマァムと武術大会出場者達は、当然のことながらこの大がかりな罠に驚き、警戒を見せている。

 その中で、真っ先に行動に出ているのは挌闘士ゴメスだ。
 魔王軍に捕まりたくないと、壁を両手で殴りつけている。しかし、この行動はどう考えても考えなしとしか言いようがない行動だ。

 この時点では、彼等は自分達を閉じ込めた「もの」の正体を知らない。未知の存在をいきなり素手で殴りつけるなど、危険行為としか思えない。ものの材質によっては、拳にダメージを受けるだけである。

 攻撃を仕掛けるにしても、相手は動きもしない壁なのだし、まずは強度を確かめてから攻撃しても良さそうなものだが、ゴメスにはそんな慎重さは感じられない。

 だが、幸いなことにと言うべきか、生体牢獄の壁はひどく弾力性に富んだゴム状の物質でできていたらしく、ゴメスの拳は跳ね返されるだけでダメージは受けなかった。

 その様子を見て、剣を手にゴメスを押しのけて攻撃を仕掛けたのが、騎士バロリアだ。

 彼の攻撃は、ある意味で的確だ。
 わざわざゴメスにどけと叫び、彼が攻撃したのと同じ場所を狙っている。
 攻撃は集中すべしと言う鉄則通りに、剣の切っ先を深々と壁に叩き込んでいるのだ。

 だが、この攻撃も無効化されている。
 壁は驚くべき弾力性を持っているようで、壁には穴一つ開かず、剣先までも跳ね返されている。それも加えた力をそのまま押し返す力があるらしく、バロリアは剣が戻されるのと同時に後ろへと跳ね飛ばされている。

 そんな二人とは別に、魔法使いフォブスターが壁に向かって魔法(おそらくは炎系)を放っているが、これも全く効果はない様子だ。
 ここまでの段階を踏んで、彼等はようやくこの檻がただの檻ではないとの認識を持った。

 しかし、この時の彼等は全くと言っていいほど協調性がない。
 それぞれが違うタイプの攻撃をしかけ、檻の特性を察知したとは言え、彼等の行動は打ち合わせをしたものではない。

 さすがは武術大会決勝進出者と言うべきか、パニックに陥っている人間が一人もいないのは立派な物だが、それぞれが独立独歩の意識が強すぎるようだ。

 彼等は互いに協力する気などまるでなく、各自が檻から脱したいと思って単独に行動しただけの話だ。その際、自分の前の行動を取った人の攻撃失敗を見ながら行動を取っているから、情報が共有されているだけの関係である。

 その中で、異彩を放っているのがゴースト君である。
 彼は、壁に攻撃を仕掛けた様子もなく指で軽くつついただけなのに、檻が生きていると発言している。

 原作ではゴースト君がなぜ檻の正体を見破ったのか説明されていないが、筆者は回復魔法によるものではないかと考えている。

 回復魔法は生物に対して効果が発揮される魔法であり、器物には効果がない。軽く回復魔法をかけてみれば、相手が生物か無生物か見分けるのは簡単ではないかと思うのだが、まあ、これは私見にすぎない。

 確実に言えることは、この時点でゴースト君は他のメンバー以上の情報を持っていて、尚且つ極めて冷静なのにも関わらず、リーダーシップを取る気が全くないと言うことだけだ。

 ゴースト君は檻が生き物だという情報はそのまま発しているものの、だからどうすればいいとは一言も言っていない。それに、この発言は全員に向けて言っていると言うより、一番近くにいたマァムへの言葉のように取れる。

 だが、この時点では彼等の間には会話が発生する余地がなかった。
 通常なら、同一条件下で閉じ込められた人間達は、ある程度協力し合って危機を乗り切ろうと考えるものだ。

 しかし、そのためにはリーダーシップを取る人間が必須となる。何人か人数がいれば、コミュニケーション力の高い人間や、強引に他人を引っ張る力のある人間がいるものだが、生憎と言うべきか先程言った通り、決勝進出者達は良くも悪くも個人主義者が多かった。

 ついでに言うのなら、生体牢獄は壁自体は薄いのか外の声が丸聞こえの状態なので、マァム達はザムザが人間達を蔑む言葉や、勇者達の苦戦も聞こえているのが、悪い方向に働いているとしか言いようがない。

 外部からの情報を気にして、意識をそちらに集中させてしまっているのでは、檻の内部の人間達とコミュニケーションを取る余裕ができるはずがない。
 結果、マァム達は各自がバラバラに行動してしまっている。

 最初のシーン以外にもそれぞれが壁に向かって攻撃を仕掛けているらしき描写が見られるが、彼等の行動に連携は見られない。特に、ゴースト君などは変なポーズを決めて檻の中央に突っ立っているだけだ(笑)

 各自が個別に壁に挑戦した結果、誰の攻撃も効果がなかったため彼等は早々に諦めてしまっている。攻撃を止めただけでなく、檻の中央部に集まっている辺り、本気で脱出の望みを捨ててしまったとしか思えない態度だ。

 その中で、一番諦めが悪いのがマァムだ。
 他のメンバーが攻撃を止めた後も、彼女一人だけは果敢に壁に殴りかかっている。しかし、マァムの攻撃は単調に壁を殴っているだけのものだ。ゴメスの攻撃と大差はない。

 それを見ていたゴメスが、マァムに向かって無駄なことは止めておけと忠告している。

 この時のゴメスの忠告は、上から目線のものだ。自分がやっても効き目がないのだから、女の子の力では無理だと決めつけている。バロリア、フォブスターも自分達の攻撃が全く効かないと意気消沈し、抵抗を一切放棄している。

 彼等の抵抗放棄は、力尽きてしまったからではない。
 折れてしまったのは、心の方だ。
 自分達が魔王軍に捕まったこと、実験動物として利用されることを知った段階で、彼等はすでに敗北してしまった。

 一通りの攻撃は効き目はなかったとは言え、まだ完全に自由を奪われたわけでもないのに、彼等は抵抗しても無駄だと思い込んでしまった。死に物狂いで暴れる気力もなくしたどころか、唯一抵抗の気力を見せるマァムを見ても、応援や期待もできないほど心を弱らせている。

 同時期に檻の外で、ポップやチウが徹底抗戦していたことを思えば、勇者一行と一般人の差がはっきりと分かる。実戦力以上に、戦いに対する心構えという点で、彼等と勇者一行には差が存在しているのだ。

 しかし、その点をマァムは全く考慮していない。
 諦めてしまった決勝進出者達を、容赦なく叱り飛ばしている。

 マァムには、正しいと思ったことをはっきりと他人に宣言できる気丈さがある。かつてポップやクロコダインの間違いを指摘し、非難したように、マァムはこの時も決勝進出者達の弱腰を非難している。
 しかしマァムの発言は、常に問題提起のみで終わってしまう。

 そこが、レオナとの大きな差だ。
 レオナも他人の間違いを指摘していくタイプだが、彼女は自分一人の力では戦うことはできないと知っている。

 だからこそ、彼女は他人に呼びかけ、共に戦うようにと働きかけることができる。自分だけでは勝てないのならどうすればいいのか、思考を巡らせることに長けている。

 しかし、マァムは自分だけで戦うことに慣れている。
 協力し合って戦うよりも、自分だけの力でなんとかしようと考える傾向があるのだ。

 この時も、マァムは決して諦めないと生体牢獄を殴り続けている。
 この諦めの悪さと、愚直なまでの一途さが彼女の長所と言えば言えるが、これはこれで問題がある。

 具体的な脱出手段について考えず、思考停止していると言う点に置いては、マァムも決勝進出者達と同じだからだ。

 彼等が思考停止して動きを止めたのとは逆に、マァムはとにかく攻撃を仕掛け続けるという方向性に思考停止しただけだ。声が聞こえてくるはずの外へ呼びかけ、仲間と協力しようという発想も彼女にはない。

 この時、檻の外でポップがチウの長所を見抜き、共闘していたことを考えると、手段を考えず、他人への働きかけもしないマァムとの戦略差がはっきりと分かる。

 転職により、マァムは確かに以前より物理攻撃力が高くなった。しかし、精神面での成長はほとんど見られないのが露呈してしまったシーンである。

 

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