27 ダイVSザムザ戦(14)

 

 マァムの一撃により、ザムザの腹から飛び出てきたダイは多少は酸によってダメージは受けていたものの、ほぼ無事だった。
 ポップはダイのダメージが軽微だったのは、レオナからもらった新しい装備のおかげではないかと推測しているが、筆者はそうとは思えない。

 ダイの新しい装備はノースリーブのシャツとズボンがベースになっており、腕や顔は剥き出しだ。にもかかわらず、腕や顔部分にも被害は及んでいないのだから、服のおかげとは思いにくい。

 人体で、酸で最もダメージを受ける箇所は、目だ。だが、運良く腹に呑まれていた間は気絶状態だったダイは、ずっと目を閉じていたためか視力には全く影響を受けなかった。

 だが、よく考えればこれもおかしな話だ。
 目を閉じていたとしても、全身が液体の中に沈んだのだとすれば多少は目に入り込んでしまうだろう。が、目を覚ましたダイは目を痛がる素振りは全く見せていない。

 これは、装備品の効果と言うよりも、ダイ本人の資質のおかげではないかと思える。

 マァムやブロキーナが回復魔法を身体に張り巡らせて毒素を防いだように、ダイも無意識に竜闘気を利用して身体に害のある存在を防いでいたと考えれば、胃酸がたいして効いていなかったのも頷ける。

 そして、ダイは何の手当てもされていない状態で、自然に目を覚ましている。単に、タイミング良く目を覚ましただけとも取れるが、敢えて深読みするのならばこれもまた竜の騎士の生存本能だと考えるのは穿ちすぎだろうか。

 熊などの動物が周囲の環境変化に適応し冬眠をして冬を乗り切ろうとするように、竜の騎士にも周囲の変化に合わせて最も適切な対応を取れる本能があるのかもしれない。

 まあ、どちらにせよ、ここで注目したいのは目覚めた後のダイの反応だ。
 目を覚ましたダイは、落ち着き払っている。すぐ近くにポップとチウがいたから安心できたと言うのもあるかもしれないが、周囲を見回し、ザムザとマァムの戦いに目をとめる余裕がある。

 ここで抜きんでているのは、ダイの戦況判断力の確かさだ。
 当たり前の話だが、人間は短い時間でも意識を失った場合、目を覚ました後に混乱を感じるのが普通だ。

 自分がどうなったのか、ここはどこなのか、何があったのか――それらの情報を得ようとするのが普通だし、もしそれらの記憶が気絶する前と少しでもずれがあればより混乱も強くなることだろう。

 が、ダイの状況判断は戦闘に特化している。
 ダイは自分自身のダメージを確認するよりも、ザムザとマァムの戦いに注意を払っている。マァムの閃華裂光拳の説明を聞いてもいないのに、ダイは彼女の攻撃がインパクトの瞬間のみに魔法力や力を込めていることを見切っている。

 その戦いっぷりに感心するダイには、戦いに不必要な感情など浮かびもしない。

 例えば、敵に完全に負けた敗北感や、味方とは言え仲間が自分以上に急成長したのを目の当たりにして、追い越されたと言う焦りの感情などは、人間ならば感じても不思議はない気持ちだ。

 が、ダイはそんなことなど欠片も思わなかった様だ。
 マァムの戦い方を見て、ダイは自分の今までの戦いぶりと比較し、より効率的に戦う方法を考えることだけに夢中になっていたとしか思えない。

 ポップとチウが回復道具を巡ってちょっとした漫才じみたやりとりをしている間も、ダイはその会話に加わっていない。

 その間も単身でザムザと戦っていたマァムは、両手を奇妙な粘液で封じられて技を使えなくなってしまうのだが、それを見たポップやチウが慌てているのにも関わらず、ダイは終始落ち着いている。

 ポップはマァムが劣勢になったのを見て焦り、自分でもダイでもいいから回復させるアイテムを出すようにと強くチウに迫っている。その挙げ句、チウが出したものが『涙のどんぐり』と言う、体力をわずかに回復させるだけのアイテムなのを知り、ひどくがっかりとしている。

 が、ダイの反応はポップとは正反対だ。
 マァムではザムザに勝てないことを最初から分かっていたように落ち着いていて、体力をほんの僅か回復させられればそれでいいと判断し、チウに覇者の剣の所まで連れて行ってくれと頼んでいる。

 ここで気心の知れた仲間であるポップではなく、チウに頼む辺りがダイの目の確かさだ。魔法力切れと同時に体力も使い果たしたポップでは、自分を運べないと判断しているのだから。

 しかも、運んでもらう立場なのにダイは体力温存のためにチウに任せっきりにしている。自力で動く力すら惜しんでいるダイは、戦いに対してのシミュレーションに余念が無い。

 マァムの様に一瞬に力を込める戦い方を目指すダイは、力をより効率よく発揮させるために剣の場所さえ利用するつもりでいる。

 チウの負担を考えれば、ダイを剣の場所に運んでもらうより、覇者の剣を取ってきてもらった方がよかったはずだ。が、ダイは剣の置いてある場所からの高低差も戦力として組み込んで作戦を立てている。

 この時、マァムがザムザに苦戦していることを考えれば、驚く程の冷静さだ。

 仲間のピンチにすぐに駆け寄るよりも、最適な戦闘方法を優先する――ダイ本人も意識していないだろうが、無意識であればあるほど、感情に左右されずに戦闘に特化した思考をとれるのが彼の最大の強みだ。


《超個人的な心の痛み♪》

『軍隊アリ相手に、薬草5つも使うんじゃねえっ!!』

 作品中、ポップがチウに向かって放つ叱責ではあるが、この言葉は筆者にとってはとある思い出を蘇らせてくれる言葉だったりする。

 そう、あればゲーム初心者だった頃…、まだレベル1だった勇者はとあるRPGでドラキーレベルの雑魚に出会った。

 そやつはHPは低いのだが、こちらの攻撃を避けるという嫌な特殊能力があり、レベルが低いうちはこっちの攻撃が当たりにくく、空振りしてしまう。ある程度レベルが上がるまではそやつの相手はせず、スライム的な怪物を相手にした方がいい、と当時のファミコン情報誌で情報も得ていた。

 が、その記事をしっかりと読み込んでいたにもかかわらず、敵に攻撃を躱されたのに腹を立てた筆者はムキになって攻撃を続け、空振りを連発しつつ、敵に攻撃を食らいまくりながら手持ちの薬草を8つ全部を使って戦ったことがあった。まあ、なんとか辛うじて勝ったものの、ゲーム的には大赤字!

 序盤でゴールドがほとんど無かったのに薬草を使い込んでしまったせいで宿屋さえも泊まれなくなり、次の戦いで死ぬしか無かったという非常に悲しい思い出が(笑)

 もう、こんなミスは二度とすまい――そう心に強く誓ったものだが、結果的には何度かこのパターンのミスをやらかしている気がするので、人間、なかなか本質は成長しないものである。

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