31 人間達の情勢(1) |
ザムザとの戦いが終わり、一同の中で主導権を取ったのはロモス王だった。 ダイやポップだけでなく決勝進出者達を一室に集めたロモス王は、彼等に対して世界会議(サミット)の決定を知らせている。 ここで注目しておきたいのは、室内の各所にいる兵士達の反応だ。 ここでロモス王は、魔王軍と人間との戦いについて詳しく説明している。 そして、7つの王国のうちオーザム、リンガイア、カールの3王国はすでに完全に滅ぼされてしまった。この時、ロモス王は口にしていないが、ロモス、パプニカも魔王軍の猛攻を受け、壊滅寸前にまで追いこまれた過去を持つ。 それは、別に不自然な話でもない。 婚儀を取り結ぶことで同盟関係を築いても、実はその同盟関係もさして強固とは言えない。せいぜい数年から十数年レベルの、一時的な同盟ぐらいの軽さだった。 他国に対し、政治、軍事的な不干渉を取り結ぶのは中世の国策としてはごく一般的な物だった。たとえ隣国同士で戦いを行っていたとしても、自国に戦火が降りかからない限り第三者の立場を貫くのが当たり前だった時代だ。 国と国が和平を結ぶ際にせいぜい教会が仲立ちをするぐらいのもので、基本的に他国に関わり合ったりはしない――それが常識の世界で、世界会議の必要性を訴え実現させたのは、パプニカ王女レオナ。 人間達にとって圧倒的に不利なこの状況下で、各国や最高指導者が集まり全員で力を合わせて戦うために会議を執り行う――これが、世界会議の主旨だ。発案者はパプニカ王女レオナ……ダイやポップは、この時点でレオナがこれまで密かに準備していたことを察することになる。 ポップはレオナのスケールの大きさに感心、ダイは彼女の頑張りに思いを馳せているが、実際問題としてレオナがこの世界会議を取りまとめるのは相当な苦労があったと思われる。 そもそも、レオナは王ですらない。 王が不在時の女王は王に成り代わって権力を施行できるが、王女は飽くまで王位継承権を持つだけの女性だ。いずれは嫁ぐことで何らかの国益をもたらすことを期待される役割なだけに、未婚の間はほとんど政治力を与えられない場合が多い。 いかに戦時下とは言え、まだ弱冠14才の王女が前代未聞の提案を他国に向けて発信し、それが通ったことに驚かずにはいられない。それを成し遂げたレオナの度量が並外れているのは言うまでもないが、この提案を受け入れた側の王達の度量もまた、たいしたものだ。 ロモス王は徹底して、善意の王だ。 ザムザに裏切られた直後だというのに、ダイ達だけでなく武術大会決勝進出者達全員を集めて世界会議の件を打ち明けたのがいい例だ。 この決勝進出者達は、正直に言えばこの戦いの段階では全く褒められた存在ではなかった。 彼等はロモス王が発布した武術大会の志に共鳴して集まったわけではない。明らかに商品目当てと思われる発言をする者が多数だったし、いざ魔王軍が攻めてきた際にもろくな対応もできず、抵抗もしないまま諦めてしまっていた。 どう見ても勇者とはほど遠い行動を取っているのだが、そんな彼等に対してもロモス王はダイ達と平等に扱っている。 これまで決勝進出者達は個々に武道の腕は磨いてはいても、その先の目標や行動方針は持ってはいなかった。 しかし、魔王軍という明確な敵の存在を知り、それと戦う力が必要とされていることを知った。もし、決勝進出者達の心が弱ければここで戦いに巻き込まれるのを恐れ、逃げ出してもおかしくない。 だが、決勝進出者達には期待を寄せ、信じてくれる存在……ロモス王と、戦いの場に置いて自分達を引き離した強さを持つ本物の勇者達がいた。 明確な目標となる存在がいて、さらに自分を信じ、後押ししてくれる存在がいる――この二つの条件が揃ったからこそ、決勝進出者達の意識は高められたのだと考えられる。 彼等は戦いの後、ガラリと大きく態度を変えている。ダイ達の実力を認め、尊敬すら感じさせる態度で彼等に感謝を述べている。さらには、魔王軍との戦いまでに修行を重ね、戦いに挑む決意を新たに抱いている。 ザムザに騙されて多大な被害を受けたとは言え、ロモス王が望んだ通り武術大会は魔王軍と戦う決意と力を備えた強者を選出することに成功した。皮肉な話だが、ザムザが建前として利用した武術大会は、勇者一行とその協力者達の絆を深める結果に終わったわけだ。
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