32 人間達の情勢(2)

 戦いの後、ダイ達は他の決勝進出者とは少し違う選択肢を選ぶことになる。
 世界会議についての説明を受け、それを初めて知ったまでは他のメンバーと同じだが、ロモス王は明日の夜にパプニカに向けて船で移動することを打ち明け、同行するかと問いかけている。

 ロモス王は明言はしていないが、これはダイ達勇者一行には世界会議に直接参加するだけの資格があると考えた上での誘いだろう。

 世界会議の主催者であるレオナは会議そのものをダイ達に教えなかった上、移動や行動に特に制限もつけていなかったのだからダイ達の参加を望んでいたとも思えないのだが、これはこれで悪くない選択肢だ。

 ロモス王と共に行動することで、ダイ達がパプニカ王国のみならず、ロモス王国でも勇者と認め、世界を救う鍵となると考えていることを他国に向けてアピールできるのだから。

 また、勇者達がどんな人物かを理解してもらえれば、信望や賛同も集めやすくなる。
 しかし、残念ながらと言うべきか、ダイを初めとする三人は世界会議に全く興味を感じていない様子だ。

 異なる考えを持つ複数の人々の意見をすり合わせるには、話し合いはどうしても欠かせない。現代社会でも会議が全く行われない会社などないように、責任のある立場の人間ほど話し合いを重視する。

 だが、まだ子供の年齢の上に今まで実戦で活躍してきたダイ達には、話し合いの重要性はピンときていない様子だ。優れた戦闘能力を持っていることと、しっかりとした指揮力を持つことは、必ずしもイコールではないと言う実例と言えるだろう。

 世界会議に参加したい等とは欠片も思っていなさそうだし、武器探しの方がよほど気になっている様子だ。

 元々ダイ達がロモスに来た目的は、覇者の剣だった。それを手に入れられなかった段階で、彼等は別の伝説級の武具を探す必要に迫られているが、そのための手段についてもあまり深く考えている風でもない。

 ここで、アイデアを口にしたのはマァムだった。
 彼女は世界の要人が集まるならば、今、パプニカに戻れば勇者の剣の情報が手に入るかもしれないと考えたのである。 

 ダイやポップはなまじずっとパプニカにいたからこそ、そこで得られる情報は入手済みだという先入観があったため思いつかなかったことを、さらりと思いつけるのがマァムの素直さと言うべきか。

 他人の善意を信じている彼女は、分からないことを素直に人に尋ねるのに躊躇しない。最初から、誰もが協力してくれると思い込んでいるような無邪気さが感じられる。

 ベンガーナデパートで、他人の命がかかっているのにドラゴンキラーを貸すのを渋った男のような存在など、マァムは最初から考えてもいないのだろう。

 そして、ダイもまた、実体験したにも関わらず我欲を優先させる人間への危惧はないらしい。マァムの意見に、いいことを聞いたとばかりに目を輝かせ、早速パプニカへの帰還の意思を固めている。

 ただし、ダイの目当てはあくまでも武器なので、ロモス王と同行するつもりはない。ポップの瞬間移動呪文で一足先に帰ると宣言するダイを、ロモス王は大らかに受け入れている。

 ダイの言動は、正直で率直ではあるのだが、ある意味では無礼極まりない。
 なにしろロモス王からのせっかくの誘いを断っているし、新しい情報が欲しいから他の国王達に会いに行来たがると言うことは、言い換えればロモス王よりも他の王の方が情報通で頼りになると見なしているも同然の言動なのだが、ロモス王はどこまでも寛大だ。

 人のいいロモス王は、自分の提案を無碍にされても気にした様子もないし、情報集めのために早く動きたがるダイを見て、相変わらずだと相好を崩している。

 ダイの性格もそのまま受け入れ、そっくり認めてくれる懐の深さこそがロモス王の最大の魅力と言えるだろう。

 この時、移動を翌日に定めたのは、戦いで魔法力を使い果たしたポップの回復待ちが主目的だろうが、幾分かでも時間の余裕ができたため、決勝進出者達との友好も深める結果に繋がっている。

 だが、勇者一行や決勝進出者達が意識を高めてる中、一人、うじうじとしているのがチウだ。
 チウは決勝進出者達と違って、現状に大いに不満を感じている。

 決勝進出者達がダイ達に感謝を述べているのに、自分には誰も声をかけてこないのが気にくわないのだ。

 客観的に判断するのなら、この場に呼ばれたチウも決勝進出者同様にロモス王から勇者候補の一人と認められたのだし、決して悪い扱いを受けているわけではない。

 むしろ、きちんと評価されていると言うべきだ。他の予選敗退者達が姿も見せていない扱いに比べれば、破格と言ってもいい好待遇である。

 ただ、チウが一番活躍したのは、決勝進出者達が生体牢獄に閉じ込めれた間のことなので、彼等にとって印象が薄いのも致し方がないだろう。
 戦いの最中に一緒にいたポップはチウの活躍を認め、一応は褒めていたのだが、自己評価が高いチウにとってそれだけでは到底物足りない。

 その上、決勝進出者と違って、チウはダイ達を目標として捉えてはいない。
 目標どころか、チウにとってマァムやダイは自分とほぼ同レベル、ポップに至ってはおそらく自分以下と考えているのだ。チウの主観で言えば、彼等がちやほやされるのなら、自分はそれ以上にちやほやされなければおかしい。

 その不満を抑え込めるほど成熟していないチウは、恥ずかしげもなく周囲に不満をぶつけ出すが、それを諫めたのがゴースト君改め、正体を暴露したブロキーナ老師だった。

 マァムと違って師の変装に全く気がついていなかったチウは、怒られると怯えていたが、ブロキーナは彼を優しく諭してる。

 格好良さばかりを気にしていたチウを軽く窘め、なりふり構わずに戦ったチウの努力を認め、褒めている。そんなブロキーナの言葉に釣られたように、決勝進出達もチウを認める言葉を投げかけてくれるのを聞き、チウは師に抱きついて大泣きしている。

 この辺りを見ると、チウが子供だというのがはっきりと分かる。
 感極まって誰かに抱きつきたいのなら、この時はマァムもすぐ近くによってきていた。

 ダイ、ポップ、マァムは何も言わないものの、チウを見守る場所にいたのだ。はっきり言って、マァムに抱きつくには絶好のチャンスだ。異性を強く意識するお年頃ならば、このチャンスを逃す手はない。

 が、チウが抱きついた相手はブロキーナだ。
 この選択に、チウとブロキーナの間に存在する意外なぐらい強い師弟関係を見て取ることができる。

 まあ、チウの場合、師弟関係と言うよりは疑似親子関係と言った方がいいのかもしれない。

 誰かに認められたい、褒められたいと考えるのは、社会生活を営む動物特有の欲求だ。
 そして、子供の承認欲求は、まずは親に向かって発揮されるものだ。

 幼稚園児や小学校低学年の子供は、学校での出来事を親に向かって報告する。幼児期の子供にとって、親こそが世界の中心だからだ。

 だからこそ、嬉しいことや悲しいこと、がっかりすることなど様々な感情で揺れ動く気持ちを親に訴えかけてくる。成長するに従って、認めて欲しい対象や存在が変化していくものだが、まず、最初に子供を全肯定して心を育んでやるのが親の勤めだ。
 その意味で、ブロキーナは申し分ないほどチウの親役を果している。

 マァムとチウの上達具合が気になって、こっそり武術大会に参加したとブロキーナは言っているが、彼の関心はどうやらマァムよりもチウに大きく比重がかかっているようだ。

 客観的に見て、今回活躍したのはチウよりもマァムの方なのだが、両者への扱いの差は明らかに違う。

 マァムにかけた言葉と、チウに費やした言葉の差は圧倒的であり、昔から諺で言われてきた『出来の悪い子ほど可愛い』と言うが、まさにその通りだと思ってしまうシーンだ。

 

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