34 人間達の情勢(4) |
パプニカに戻ってきたダイ達は、真っ先にクロコダインと合流している。 各国の王達の招集状態だけでなく、世界会議の行われる場所まで彼は知っている。 国家機密とも言える情報をさらりと手にしている点から、クロコダインに対するパプニカ側の信頼の厚さが感じられる。この場合、怪物であるクロコダインを信頼するパプニカ側の度量の広さも褒めるべきだろう。 パプニカ王国で用意した世界会議の場は、パプニカ大礼拝堂。海辺にそびえる荘厳な建物だ。高い尖塔を備えた巨大な建物であり、港からの距離も近そうだ。 天井を高く取った部屋はいかにも豪華であり、王族を招くのに相応しい品格を備えた建物だと言えるが、正直、戦闘向きの建物とは思えない。バルジ島での塔と同じく、この建物は飛行能力を持つ敵を多数備えた魔王軍に対しては不利になる構造なのだ。 大礼拝堂をダイ達が尋ねた時、レオナは三賢者に加えバダックと相談しているところだった。王女であるレオナとその側近の三賢者は分かるが、一介の兵士であるはずのバダックも加わっている辺りに彼への信頼度が窺える。 レオナが本音を空かすほど親しいだけあって、バダックは見た目以上に発言力を持つ重要人物なのかもしれない。 再会を喜ぶダイ達だが、本題からちょっと逸れた注目点を一つ。 ダイとレオナが仄かに想いあっているのは随所で見られるが、まだまだ二人の仲が友達以上に進んでいないことがよく分かる。 ついでに言うのならば、ポップは軽口を叩いてレオナを怒らせると言うやりとりを披露している。双方共に恋愛感情はなさそうだが、いいケンカ友達という親しさが感じられるシーンだ。 それはさておき、ここで滅んだ王国の王達の情報が初めて知らされる。 レオナが尊敬している人物で、レオナもきっと彼女が生きていると希望的な意見を述べている。 そんなやりとりの中、チウは外から聞こえる変な音に気がついている。 このやりとりの最中、チウの出番は一切ない。彼にしてみれば、パプニカ勢には誰一人として知り合いがいない。レオナやエイミ、マリンと言う美女が揃っていても、マァムに一途なチウにしてみれば興味はない。 親戚連中が集まって大人同士で挨拶を交わされているも同然の、自分には関係のないつまらない会話としか思えなかっただろう。会話に興味がない分、他に注目するのは自然な話だ。 変な音の正体を確かめるため、ベランダから下を見下ろしたチウは、変な物が見えたとみんなを呼び寄せている。この辺も、退屈している子供が大人の注意を引きたがる行動と大差がない。 ここで登場するのが、ベンガーナ王とその軍隊だ。 それもそのはずで、ベンガーナ王は自国の軍隊でどうやって魔王軍を倒すかと言う議題の会議だと認識している。世界を救うのはベンガーナ自慢の戦車隊だと自負し、剣や魔法の力を軽視しているベンガーナ王にしてみれば、彼自身こそが世界を救うべき救世主だ。 自分を中心に振る舞うのは、彼の中では正当な権利であり、当然だ。 困っているダイ達に、それならばテラン王に相談するといいと教えてくれたのはアポロだ。テラン王は世界中の伝説に通じており、知識量が並外れているとの口添えもしてくれている。 このアポロのお薦めは、非常に重要だ。 だが、アポロはダイの新しい剣にはやはり伝説級の物が相応しいと考えた。その判断が、ダイ達の剣探しの方向に後押ししている。 ダイとポップがテラン王と面識があったのも、幸運だった。 ところで大礼拝堂から出たダイ達は、入り口にいるクロコダインと顔を合わせている。 自身が怪物であることを自覚している彼は、王達が集まる場に足を踏み入れないようにと自戒しているのだろう。クロコダインの大人びた配慮が感じられるシーンだ。 クロコダインはベンガーナ戦車隊の物々しさや、不遜な態度にあまり感心していないようだが、それでも表だって対立せずに見守るにとどめている。戦車隊を見張るがごとく佇むクロコダインの姿は、意味深長だ。 作中では触れられてはいないが、会議の進み具合によってはこの軍隊がそのままパプニカや他の王家に向けられる武力になりかねない危険性もある。それを承知の上で戦車隊を見張っているかのような頼もしさを感じるのは、気のせいだろうか。 いずれにせよ、クロコダインはパプニカの守りを快く引き受け、ダイ達に心置きなく剣探しをするようにと送り出している。いかにもクロコダインらしい、度量の広さと気遣いを感じられるシーンだ。 ダイ達と再会した際、クロコダインがダイ達が帰ってくることどころか、マァムの帰還やロモス武術大会での活躍ぶりまで知っているような一言を告げている。 これは二通り解釈できて、ダイ達が戻ってきた際に直接その事実を出迎えてくれた人に告げ、仲間への連絡を頼んだと言う解釈。 本編の考察では敢えて無視したが、もし後者の場合ならば伝達者がロモス王本人はありえない。 ダイ達に先んじて夜に船でパプニカに向かったはずのロモス王は、この時点ではまだ航海中でパプニカに到着さえしていない。つまり、彼から直接情報を聞いたわけではないと言うことだ。 となると、考えられるのは王族間での緊急連絡網が確立していると言う事実だ。 電波通信が一般化した現代で暮らしているとつい忘れがちだが、一昔前までは遠方にいる者同士が連絡を取り合うのは一苦労だった。自動車が発明されるまでは馬での移動が一番早かったが、馬と言うものは自分だけできちんと決められた場所に行くような生き物ではない。 人間が騎手として馬に騎乗しなければならない上、人も馬も長時間走り続けることなどできない。 が、機密性の高い情報のやりとりをする時には、関わる人数を極力控えたいのは当然だ。 情報漏れの危険性を覚悟の上で情報の通達を最優先するか、それとも機密性重視で連絡が多少遅れても良いから連絡員の数を減らすか――昔の情報員達はさぞや悩んだことだろう。 特に今回のように、海路を含んだ通達では馬の機動力も活用しきれない。 鳩による通信は、古くから利用されていた。 しかも、騎馬による連絡よりもずっと目立ちにくいという利点もある。 また、完全に余談になるが、ドラクエ3のゲームの公式派生本で伝書鳩を使った連絡手段が登場している。 鳩による通信は個人的には非常に気に入っていて推したい設定ではあるが、残念ながらダイ大本編の中では王国間の連絡手段は明らかにされていない。 実際に緊急の連絡時には脇役の移動呪文の使い手達が活躍しているのだからこちらの方があり得そうだが、少なくともパプニカ王国では気球船や色の違う通信弾を利用していることから考え、魔法だけに頼らない連絡手段を模索しているのは間違いなさそうだ。
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