39 剣を探して(4)

 ダイが目をつけた剣は、最近知り合った魔族の作った物だと事も無げに話すジャンクに、全員が魔族という言葉に反応して驚きを見せる。魔族と言う存在は、やはり人間世界では珍しい……と言うよりは異端の存在なのだろう。

 しかし、ジャンクは魔族に対して偏見がないのか、ごく淡々としているのが印象的だ。

 魔族をロンと気安く名前で呼んでいるが、この名に対して強い反応を見せたのがポップだ。
 その魔族の名がロン・ベルクかと強い口調で問いただしている。

 ポップは、ヒュンケルの魔剣や魔槍を作った名工の名前がロン・ベルクだと知っているからこそ驚いたのだが、他のメンバーは特に驚いた様子もない。仲間から離れていたマァムや、加わったばかりのメルル、チウはともかくとして、ダイまで初耳とばかりに戸惑っているのでこの情報は勇者一行全員が共有していたものではなさそうだ。

 元々、ヒュンケルの魔剣がロン・ベルク作の物だと発言したのはラーハルトだったし、戦いの中でちらりと名前を聞いた可能性があるのはその戦いに関わった者だけだ。

 当時、ポップもヒュンケルとラーハルト戦の場に居合わせたので、ラーハルトの言葉を直接聞いた可能性もあるが、この時ポップは『ヒュンケルから聞いた』と明言している。

 ならば、バラン戦の後でポップはヒュンケルの武器が変わった件に対して興味を持ち、本人から事情を聞いたと言うことなのだろう。ダイが知らないところを見ると、ヒュンケルが自分から話したのではなく、ポップが自分から聞き込んだ可能性が高い。

 戦士の持っている武器の詳細を聞いたところで魔法使いの役には立ちそうもないし、むしろ勇者のダイの方が興味を持った方がいいような気がするのだが、気になることや興味を持ったことに関してはポップはかなり探究心が強いようだ。

 それも、相手はヒュンケルだ。
 決して仲がいいとは言えない相手なのだが、ポップにしてみれば話したくないと毛嫌いしているわけではないし、好奇心の方が嫌悪感よりも強いらしい。

 それだけならただ好奇心の強い人だが、ポップの強みは自分の知っている情報をきちんと組み合わせて実際に役立てられる点だろう。
 同名をただの偶然と思わず、本人に問いただすより前に状況証拠やジャンクの証言からその魔族がロン・ベルクに違いないという推論を立てている。

 ここで面白いのは、ジャンクが息子の推理を全面肯定している点だ。
 ロン・ベルクを伝説の名工と決めつけ、彼に会わせてほしいと望む勇者一行を森へ道案内するジャンクは、こう発言している。

『あいつがそんな偉えやつだったとはなあ』

 ロン・ベルクの剣の出来映えから彼がただ者ではないと察していたせいもあるだろうが、ポップの意見を信じていなければこの発言は出てこない。もし、ジャンクが息子の意見をまったく信じない頭の固い親父ならば、ポップに対して嘘をつくなとか、何かの勘違いではないかと言うところだろう。

 根性無しだと息子をさんざん貶しているようでいて、ジャンクはポップが嘘をつかないことや人を見る目があることだけは認めているようだ。

 ところでロン・ベルクの小屋に向かう際、ジャンクは道に苦労している。
 少なくとも、剣に関して頼んだりする程度のやりとりはあるのだし、初めて行く場所でもなさそうなのに、ずいぶんと道に迷っているのか同じような場所を何度も回っている。

 これはワンダリングと呼ばれる現象で、森や山で遭難する際よくやることだ。

 ジャンク曰く、人に会うのが嫌いで入り組んだ所に住んでいるので行きづらい場所にあるらしいが、後でスティーヌが単独であっさりとついているところを見ると、ジャンク自身が森に不慣れな印象を受ける。

 見た目は山男そのものなのに少し意外だが、公式プロフィールではジャンクはベンガーナ出身なので、町育ちで自然にはあまり親しんでこなかったのかもしれない。

 迷うジャンクに、チウが鼻をひくひくさせて『ぼくの鼻によると、あちらが怪しい』とアドバイスしている。

 が、メルルが別方向をさして、そちらから強い力を感じるとアドバイスしたため、ジャンクを初めとしたみんながそちらに行ってしまって面目丸つぶれになってしまったのだが。

 チウはよほど自分の鼻に自信を持っていたのか、後でメルルにこっそりとクレームをつけている。

『おい、キミ! ぼくの立場を考えて行動してくれなきゃ困る……!!』

 チウ的には、自分は注目を集めている立場であり、格好良く振る舞わないといけないという思い込みがあるようだ。――武術大会後のブロキーナの説諭や、ポップの悪戯混じりのお仕置きがまったく身に染みていないようである(笑)

 だが、チウの主観はさておき、メルルの行動は十分以上にジャンクを気遣った思慮深いものだ。

 森の中の強い気配を感じることができるのなら、メルルはもっと早い段階でみんなを道案内することができたはずだ。しかし、彼女はジャンクの道案内に大人しく従い続けている。

 口を出したのは、チウの助言で一行が道を大きく踏み外しそうになった時だった。

 決して本人の意向に口を出さず、控えめに振る舞い、要所でのみ口を挟んで手助けをする――メルルのこの精神は、占い師としての彼女の振る舞いと通じるものがありそうだ。

 個人的にはチウの鼻が何を嗅ぎつけていたのか気になるので、そちらにちょっと寄り道して欲しかったのだが。

 

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