49 勇者一行VS鬼岩城(1) |
人間側、魔王軍側の情勢を考察した後で、視点を再び勇者一行に戻したい。 この時、いち早くパプニカへの帰還を提案したのは、ダイだ。だが、この時の一行の手綱をしっかりと握ったのはポップだった。 ダイの思考は、良くも悪くも直感的だ。敵の強大さを瞬時に感じ取ったからこそ、仲間を心配し即座に行動しようとしている。このダイの瞬間的な判断の速さ、仲間を何よりも大切にして守ろうとする姿勢は、戦いの場ではこの上なく心強いものだ。 ――が、残念なことに、ダイの能力は極端なまでの戦闘特化型だ。戦いの場から離れた、複雑な状況に対応するのはやや不得手なようだ。 しかし、ポップはこの時、真顔で考え込んでいる。 ダイを剣の完成のためにダイ本人はこの場に残し、残りのメンバー全員でパプニカに帰って魔王軍を防ぐ。 この選択は、確かに合理的だ。勇者の力こそが今後の戦いでの要だと判断し、ロン・ベルクの意向を尊重した上でパプニカの危機も救おうとしている。 そして、この作戦がダイの望みを実現させるものだという点にも注目したい。パプニカを心配するダイを説得すると同時に、ポップは仲間達全員も納得させている。 生真面目で仲間思いのダイに対しては強く叱責する口調で諫め、戦いに不向きな女の子やチウに対しては気を引き立てるような明るい口調で説得している辺り、ポップの対人技能の高さが窺える。 この判断の確かさ、調整力の高さこそが、ポップの真骨頂と言うべきだろう。 強い主義主張を持たず己の感情を最優先するポップは、リーダーに向くタイプとは言えない。ダイやレオナ、アバンのように周囲の人間のために自分が何をすればいいのかを常に考え、私心を押し殺してでも人々を引っ張っていくリーダーシップは持ち合わせていないし、おそらく本人もそれは望んでいないだろう。 だが、ポップには優れたサブリーダーの資質があると言える。 これは、家庭をモデルに考えてみれば分かりやすい。 しかし、父親も母親もリーダーとなりたがって我を主張するのならば、個々の能力がいかに高かったとしても、それはもはや家庭と呼べるものにはならないだろう。互いに無駄にぶつかり合って、離婚騒動になるのが関の山だ。 サブリーダーのいない集団は、いずれ舵を失って消滅するだけだというのがその心理学者の意見だった。 実際、この状況はまさにその好例と言える状況だ。 現実が全く見えていないチウは論外として、主戦力の一人であるはずのマァムの思考はひどく甘い。 パプニカに危機は迫っているのは知ったが、ロン・ベルクの意見も大切にしてあげたいからダイを宥める――マァムの視点はどうも近視的とでも言おうか、すぐ目の前のことしか見えていないように思える。 マァムは一旦心を決めれば、行動は早い。認識能力の低さが良い方向に働くので、敵を恐れることなく果敢に戦いを挑むことが出来る。良くも悪くも行動力に長けている少女なのだが……肝心の判断力が甘いのが欠点だ。 ついでに言うのなら、ポップ以上に自分の感情に流されがちなタイプでもあるので、ますます土壇場での判断には不得手だ。 そんな彼女と対照的なのが、メルルだ。 しかし、彼女は自分の知った事実を周囲に伝えるだけで、そこに自分の意思を含ませはしない。占い師という客観性を重視する職業柄のせいか、メルルは自分がどうしたい、どうして欲しいと主張することが少ない。 戦闘力が皆無なせいもあるかもしれないが、引っ込み思案な性格が災いしてか、素直に他人に頼ることもできず、自分から行動もできない。 ところで、ダイに向かって景気よくハッパをかけ、尚且つ自信満々に時間稼ぎをしてみせると豪語したくせに、ポップは後になってから怯えているのが面白い。 敵の恐ろしさをきちんと認識できるからこそ恐怖を感じているポップは、あそこまでカッコいいことを言ったらもう逃げられないぞと一人で自問自答的な後悔をしている。 ポップが未だにピンチになると逃げたいと思っているのが、よく分かるシーンだ。 仲間達に背中を向け、一人だけで自分内の葛藤を乗り越えている。……まあ、その背中が震えていたせいで、仲間達にはポップがビビりまくっているのはバレバレだったのだが(笑) だが、以前と変わったのはポップだけではない。 実際、ポップはしばらくの間は怯えていたとは言え、すぐに気を取り直して自分から出発しようと仲間達に呼びかけている。軽口を叩き、その場の空気を明るくする才能を持ったポップは、ムードーメーカーとしても優れてる。 そんなポップを見送っていた両親が、ポップの成長をしみじみと感じているシーンが印象的だ。
|