72 ダイVSハドラー戦2 (1) |
ダイとポップが敵に向かって突進をかけた際、雷鳴のような音と共に死の大地に一人の男が忽然と姿を現す。 だが、その威圧感は圧巻である。 目を奪われたとばかりに、ハドラーに思いっきり注目しているのだ。それはダイやポップも同じで、眼前の敵であるはずのキルバーン達よりもハドラーの方を気にしている。 『待たせたな、ミストバーン。オレのパワーアップは完了した……!! 今度は、オレがおまえを助ける!!』 登場を果たしたハドラーのこの台詞を聞いただけで、彼がこれまでとは大きく変化しているのが読み取れる。 これまで、ハドラーは人前では常に魔王軍総司令であろうとしていた。 だが、この台詞はどう聞いても上司から部下への言葉ではない。 ハドラーは以前のように、張り子の虎よろしく上っ面だけでも上司として振る舞おうとも思ってない。そして、ザボエラに改造され始めた時のように、相手の方が自分より上だと認めて、本音をさらけ出して助けを請うつもりもない。 つまり、ハドラーは精神面でも十分に強くなっているのである。 そんなハドラーの変化に、おそらくはダイやポップも気づいたのだろう。が、素直に相手の強さを認めることが出来ずにポップは軽口を叩いている。 これは、悪く見れば「弱い犬ほど良く吠える」とやらで、相手の強さを直視できずにごまかそうとする虚勢と見えるが、良く解釈するのならばポップはこの発言でハドラーの反応を試しているとも取れる。 ポップはこれまでに三度ハドラーと対面し、それなりに会話も交わしている。相手を見切ったと言えるほど長い付き合いではないとは言え、短気で感情的なハドラーの性格をある程度は知っているのである。 プライドの高いハドラーは、ポップの言動で急に激昂することも度々あった。 この反応も、以前とは全然違っている。 それはダイの強さを恐れていたというよりは、彼の背後に垣間見える存在……バランを恐れていたせいだろう。ダイとバランが顔を合わせないように最大限気を遣ってるハドラーは、それに気を取られるあまり、確実性を求めて六団長を利用してダイを抹殺しようとしていた。 ハドラーにとって、ダイは抹殺しなければならない相手ではあっても、是が非でも自分の手で倒したい相手ではなかったのである。 しかし、この時のハドラーはダイとの決闘に拘っている。 このハドラーの急変を、ポップはこれまでの彼の言動との差から分析しはじめた観があるが、ダイはダイの剣の反応からハドラーの脅威を直感している。 ポップは感情に走っているように見えて、実は物事を客観的に見つめ分析している面がある。 先ほど、ハドラーに対して突っかかるような言葉をぶつけたのも、感情任せだったにしろ、そうでなかったにしろ、その後のハドラーの反応を心にとめ、データとして蓄積しているのは変わりはない。 このように相手を分析する能力は、長期戦であればあるほどその力を発揮する。だが、ごく短い戦いだと分析しきれるほどのデータが集まらないため、あまりその長所を発揮できない。 ポップのこの観察眼や分析力が初期から持っている力にもかかわらず、戦いに活用しきれなかった理由の一つでもある。 そんなポップとは全く逆に、ダイはほぼ直感的に敵の強さや判断するタイプだ。 このタイプは、突発事項に強い。 さて、この時はポップの分析よりもダイの直感の方が判断が速かった。 ポップは紋章の力の限界を案じてセーブするように忠告しているが、ダイはハドラーの恐ろしさに気づいたからこそ迷いはない。決闘を受けるという言葉を発するよりも先に、己の全力を振り絞って戦いに備えているのである。
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