75 ハドラーVSダイ戦2 (4)

 ダイがアバンストラッシュの構えを見せた時、ハドラーは構えだけでダイの狙いを察しておきながら、避けるどころか防御の姿勢すら取っていない。

 初登場時に明言していたが、かつてハドラーはアバンストラッシュによって命を奪われている。つまり、ハドラーにとっては、この技は完全敗北した技でもある。忘れようにも忘れられない技というわけだ。

 そのせいもあってかハドラーはデルムリン島でアバンと戦った時も、わざわざ相手の攻撃に耐えきってみせることで自分の屈強さを証明しようとした。
 今回も、その精神は損なわれてはいない。

 むしろ積極的に、自分の肉体的強化を確かめようとしている。ここに、ハドラーの強い向上心が現れている。
 すでにハドラーは、この時点で以前を大幅に上回る強化を果たしているのだが、彼はそれだけでは満足しきれない。

 ハドラーは、試したいのだ。
 自分がアバンの使徒だけでなく、竜の騎士をも上回る力を手に入れたのか、どうかを。

 だからこそ、相手が十分に闘気を高めるという時間を与えている。本来なら戦いは先手必勝が原則なのだが、ハドラーは勝敗以上に自らの誇りに拘っている。

 一気呵成に猛攻を連発して押し切るだけでは、勝利とは思えないのだろう。
 しかも、注目したいのは、ハドラーが絶対の自信を持ってこの選択をしたわけではないことだ。

 全力で攻撃を仕掛けると予告したダイに対し、ハドラーはこう返している。

ハドラー『……試してみろ。おまえの予想が正しければ、オレは真っ二つになっているだろう……!』

 ハドラーがダイの力を高く見積もっているのが、この台詞から読み取れる。
 自分の実力に自身を持っていながらも、ハドラーはもうダイを見下してはいない。

 自分が負ける可能性も想定した上で、この無謀な賭けに出ているのだ。ハドラーは、自分がダイを――アバンの弟子を上回ったと証明することには、命を賭ける価値があると判断した。

 ほんの少し前、ザボエラと手を組んで闇討ちをしかけてきたとは思えない豹変っぷりである。まさに「君子は豹変す」を地で行く変わりようだ。
 その信念のままに、ハドラーはダイがアバンストラッシュを仕掛けてきた時も攻撃ではなく、受けに徹している。

 気合いをみなぎらせ、右腕だけでダイの攻撃を受け止めている。
 手を垂直に構えるような独特の形でダイの剣を受けきったハドラーの手は、傷一つついていない。

 その事実にポップは驚いているが、ダイの方は冷静に判断している。
 金属の手応えがした、と。

 肉体を斬ったのに金属と同じ衝撃を感じたとしたら、大抵の者はその事実に驚くか、でなければそんなことがあるわけないと否定する心理が働くのが普通だ。ポップの驚き方はまさにそのパターンだが、ダイは戦いに関する直感力が非常に高い。

 常識では信じられないような事態が起きたとしても、ダイは自分の直感を素直に信じることが出来る。
 目立たないが、このダイの素直さは特筆すべき長所だ。

 この素直さのおかげで、ダイは戦いの中で想定外や常識外れの出来事に出くわしても、ショックを受けるなどの精神的動揺が少ない。即座に、目の前の事態に合わせて行動できるのだ。

 この時も、ダイの直感は間違ってはいない。
 ハドラーは自分の右腕に、覇者の剣が宿っていることを明かす。
 ロモスの武道大会の優勝賞品だった品だが、ザムザによってかすめ取られていた物が、すでにハドラーの元に届いていたのである。

 ハドラーが気合いを入れることで、右手の甲から覇者の剣が姿を現す。
 形としては、ゲーム版のドラゴンキラーに似ている。だが、小手と一体型になった剣ではなく、右腕そのものと一体型になっているのだから、動かしやすさや力の入れ方はドラゴンキラーを上回っているはずだ。

 ハドラーはその剣に、さらに暗黒闘気を纏わせている。
 これは、以前ダイが生み出した魔法剣と同じやり方だ。ただし、ただの魔法ではなく暗黒闘気から生み出した魔炎気な分、相手に与えるダメージはさらに大きいとみていい。

 ハドラーは自分に出来うる最大の一撃を、ダイに与えようと考えているのである。

 実はハドラーはダイの攻撃を受け止めた時点で、自分の肉体の完成度を確信している。そして、ダイの剣と自分の持つ覇者の剣の強度が同じことも確認した。

 この時点で、ハドラーはダイを上回ったと自己判断している。
 少し前までのハドラーならば、それに満足し、慢心して高笑いしたことだろう。

 だが、超魔ハドラーには微塵もそんな慢心はない。
 全力を尽くして戦い抜くことが礼儀だと言い放ち、魔法でダイの体勢を崩した後で超魔爆炎覇という必殺技を叩き込む。

 この技は、初お披露目のハドラーの必殺技だ。
 身体を改造しただけでは飽き足らず、ダイを倒すためだけに作り出された技まで用意していた点に、凄まじいまでのハドラーの本気さが窺える。

 ハドラーのこの攻撃に対して、ダイは今からでは躱せないと竜闘気で防御しようとするも、力を使い果たしていて上手く闘気を操れないでいる。
 そんなダイの様子を見ているだろうに、ハドラーは戦いの手を緩めない。迷いのない攻撃をダイへと叩きつけている。

 慢心も油断もなく、敵に対してどこまでも冷静に攻撃し続けることのできる戦士――ハドラーの戦い振りは敵ながら天晴れと言うしかない。
 戦士として、まさに理想的な急成長を遂げていると言えよう。



《おまけ・覇者の剣とザボエラ》

 ハドラーの手の甲から出現した覇者の剣は、かなり長い。どう見ても、ハドラーの腕の長さと同じか、下手するとそれ以上の長さがありそうだ。
 この長さだと、腕の中にしまっておくのは無理だ。

 もし、無理矢理しまいこんだとしても、右腕は曲げることも出来ずに伸ばしっぱなしになってしまいそうだが(笑)、ハドラーの動きにそんな不自然さはない。ちゃんと、自由に右腕を動かしている。

 となると、覇者の剣の方になんらかの仕掛けが施されているのかもしれない。

 たとえば、水銀などは金属でありながら常温では液体状だ。それと同じように、オリハルコンも融点が極端に低く、体内に仕込むと柔らかく湾曲するのか……と、一瞬思いたくもなったが、本来の伝説ではオリハルコンは逆に極端に融点の高い金属とされている。

 ダイ大世界では人間の鍛冶技術が通用したぐらいだから、本来の伝説のオリハルコンほどの融点ではなさそうだが、少なくとも体温レベルの温度で変化することはなさそうだ。

 それに、ハドラーがダイの剣を受けきったことを考えれば、ハドラーの体内にある間も強度は変わらないと考えた方がいい。柔らか金属では、あの金属音はでないだろう。

 となれば、ハドラーの体内にしまわれている間は、覇者の剣は強度ではなく長さが変化すると考えた方がいいのかもしれない。
 長さが半分から三分の一ぐらいにまで縮まるのなら、ちょうど小手に当たる部分に収まる。それならいざという時の防御にも役立つというものだ。

 ロン・ベルク作の鎧の魔剣や魔槍が大きさや形を変える特質を持っていたことを思えば、この程度の形の変化は驚くには値しないのかもしれない。人間には無理でも、魔族の手にかかればその程度の金属加工の技術はあるのだろう。

 残念ながら作品中ではその仕組みや技術については明かされていないので想像するしかないが、一つだけ言えるのは破邪の剣の加工にはザボエラが関与していることだけだ。

 ハドラーを改造する際、オリハルコンの武器も同時に改造したのだとすれば、彼は生物学だけでなく鍛冶技術まで備えているということになる。学者にありがちな、専門馬鹿ではなかったらしい。ロン・ベルク級とまでは言えなくとも、それなりの鍛冶技術を会得しているのは間違いなさそうだ。

 性格上、周囲から軽んじられることの多かったザボエラだが、彼は意外なぐらい多芸多彩な技術者であることは認めざるを得ないようだ。……個人的には、あんまり褒めたくはないのだけれど(笑)
 

 

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