84 敗戦処理(4)

 立ち直ったポップは、驚くべき行動力を発揮している。
 マリンが魔法の聖水をまとめて持っている、と知った途端に部屋を飛び出したポップはあっと言う間にマリンを見つけ出している。

 この時、マリンは城では無く町にいたのだが、レオナやエイミからマリンの居場所を聞いていなかったにも拘わらず、町で壊れた屋根に上ろうとしていた彼女をいち早く発見している。

 この時点のポップは魔法力がほぼなかったので、手っ取り早く空を飛んで探したとも思いにくい。となれば、聞き込み等でマリンの居場所を突き止めたと見ていいだろう。

 そして、マリンにしがみついて懇願し、魔法の聖水を強引に譲り受けている。セクハラ寸前の強引さ(笑)ではあったが、ビンタ一つと引き換えに貴重な魔法道具を個人での捜索や交渉だけで手に入れているのだ。

 目立たないが、ポップのこの行動力や他人との交渉のうまさはたいしたものだ。これは魔法使いとしての能力とは無縁の、ポップ個人の能力だ。お調子者っぷりが目につくが、ポップのこの人懐っこさや他人との関わりのうまさは、勇者一行随一と言ってもいい。

 魔法力を回復させたポップは即座にクロコダインを追い、合流している。
 その際、クロコダインはポップの復活を当然のように受け止めていたが、チウの方は少々勘違いというか、認識の違いがある様子だ。

チウ「フフン、あいつめ……。ぼくが一躍ヒーローとなってしまうのが、コワイんですよ、きっと……!」

 ……笑ってしまうほどの自己評価の高さだが、自分の存在こそがポップを発憤させたと誤解している点はともかくとして、チウはポップが立ち直ったこと自体は歓迎しているし、ダイ捜索についても参加を止めようとはしていない。

 先ほどは感情的に文句をつけたものの、やはりチウもポップを認めてはいるのだ。……自分より下の存在と見てはいるのは否めないが。

 それはさておき、クロコダイン(と、おまけのチウ)とポップは併走する形で死の大地に同時に到着している。
 移動速度だけならポップの方が早いはずだが、さすがのポップもこの状況で自分だけ先に行くデメリットは理解しているようだ。

 それにこの場合は急いで現地へ行くことよりも、ダイの姿が見えないか確認しつつ進むことが肝要だ。ポップは海を睨むように飛んでいるし、クロコダインやチウの視線も常に海面へと向けられている。移動中から、すでにダイの捜索は始まっているのである。

 ダイが落ちた場所を一番詳しく知っているのはポップだが、戦闘中だったこと、地形が似たり寄ったりでめぼしい目印もないことを考えれば、すぐに探し当てるのは不可能に近い。

 クロコダインも氷山だらけの海域を見て、捜索の困難さを一目で理解している。
 それをまるっきり理解していないのが、チウだ。

 彼は自慢の鼻ですぐに見つけてみせると息巻いていたが、匂いは、気温が高いほど強くなる傾向がある。逆に、寒い時期は匂いが分かりにくい。
 さらに言うのなら、水は匂いを消す最大の要因だ。

 水中の匂いを感じ取ることは、魚ならまだしも陸上で生活する生物には非常に困難だ。むしろ、水を浴びることで匂いは流されてしまう。

 実際、下に降りて匂いを嗅いでみてすぐ、チウは鼻が凍えて匂いを感知できないと気がついた。それに呆れはしたものの、ポップもそう文句も言わなかった辺りにチウへの期待度の低さが見て取れる。

 この時、クロコダインはメルルを連れてくれば良かったと残念そうに発言している。メルルが一緒に行動した時間はごく少ないのだが、クロコダインは彼女を高く評価しているようだ。

 実際、それが一番効率の良い捜索方法だっただろう。
 だが、女の子をこんな所へ連れてくるわけにはいかないと、ポップは即座に反対してる。

 瞬間移動呪文で往復するのであれば、すぐにでもメルルを連れてくることは可能なのだが、ポップにはその気は全くないのが見て取れる。
 ポップの中ではメルルは仲間と言うよりも、戦いに巻き込まれた一般人だという感覚が強いのだろう。

 思えば、ポップの故郷へメルルの同行を頼んだのもマァムだったし、ポップがメルルに対して遠慮があるのがよく分かる。それは決して悪い意味では無く、むしろ知人を戦いに巻き込みたくないという心理からくるものだが、これは正直言って、メルルにとっては気の毒な話だ。

 メルルは世界や勇者のためにではなく、ポップの力になりたいからこそパプニカにまでやってきたのだ。自分が役に立てると知り、ポップに頼まれたのなら、メルルは二つ返事でこの捜索に参加しただろう。そうすることこそが、メルルにとっては一番の喜びになるのだから。

 が、ポップはそんな乙女心など想像すらしていないようだ。
 単純に女の子を危険な目に遭わせるのはよくないと考えていて、それ以上は及んでいない。

 その辺では、ポップはクロコダインのような柔軟性がない。
 クロコダインは相手の実力が低かろうと、見所があればそれを重視する。かつてポップを高く評価したように、今もチウを認めたクロコダインはたとえ少女であったとしてもレオナやメルルの戦略的価値を見誤らない。

 が、クロコダインは自分なりの見解を持っていても、それに他者に押しつけようとは思わないようだ。

 ポップが反対するなら、それ以上自分の意見を押す気は全く見せない。クロコダインは年齢も経験も勇者一行の中では最も高いが、それでいて彼はダイ達の意見や判断の方を重視している。
 縁の下の力持ちに徹する、彼の誠実さがさりげなく現れたシーンだ。


《おまけ・三賢者姉妹の密かなる活躍》

 戦術的にはあまり意味が無いが、実はこの時は密かにエイミとマリンの美人姉妹が活躍していたりする。

 まず、エイミである。
 彼女は主君であるレオナや、勇者一行らが立っている中、ベッドに横たわっているヒュンケルの真横にちゃっかりと座っており、つきっきりで看病をしているのである。

 この部屋は負傷兵を集められた部屋らしく複数のベッドがあるのだが、わざわざ椅子まで用意してヒュンケルに付き添っている辺り、計画性を感じてしまう。

 しかも、隣のベッドの負傷者のサイドテーブルには果物籠と水らしきものが置いてあるのだが、ヒュンケルのサイドテーブルには花瓶に生けられた花、水、薬瓶らしきものが見て取れる。
 あからさまな贔屓っぷりだ(笑)

 本来ならば、行動的な彼女こそが被害を受けたパプニカ城下町の視察をするような状況なのだが、是が非でもヒュンケルの側にいたいと言う情熱が感じられる。

 そんな妹の恋心を思いやったのか、パプニカ城下町で被害復興に力を貸しているのがマリンだ。

 パプニカの人達はよほどたくましいのか、鬼岩城が攻めてきてからまだ半日も経っていないのに、すでにもう復興作業を始めている。足場を組んで真っ先に屋根の修理から始めている辺り、災害への適応力が半端ない。

 マリンも屋根にかけられたハシゴを登りかけていたが、特に大工道具などはもっていなかったので、確認作業を行っていたのかもしれない。被害の度合いにより城から補助金を出すなどの理由のため、査察をしていたと言ったところか。

 個人的には、そんな作業を三賢者自ら、しかも女性であるマリンが行うのはどうかと思うのだが。パプニカの人手不足は、どうやら予想以上に深刻なようだ。

 ポップが無理矢理マリンのスカートを引っ張ったせいで、お尻が丸出しになってしまうと言うアクシデントが発生しているが、そもそもミニスカートのままハシゴを登った時点で、ラッキースケベ発生のフラグは立ちまくりだと推察する(笑)


 

 

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