03 主導権争い(2) |
マァムは敵の攻撃かと誤認していたが、魔法使いのポップはそれがルーラの着地音だと即座に断じている。 ポップの読みは正しく、全身に傷を負った魔法使いが基地内に入っていた。 作中ではこれがフォブスター個人の判断か、その場にいたメンバーらの判断かは明らかにされていないが、彼の言動には自分だけが逃げたという自責の念が感じられないことから、仲間達の総意の元に使命感を持って伝令を果たしたのだと推測したい。 全身が銀色で金属じみた姿の強敵だと聞き、ポップやクロコダインはその正体が親衛騎団だと即座に悟っている。この二人とダイは実際にヒムと会っているので、敵の正体に気づくのが早い。 バウスン将軍は、みんなと船の無事を真っ先に確認している。敵の正体について詳しく知るよりも、味方の損害を重視する姿勢のようだ。 ここで、方針を真っ先に立てたのはダイだ。 ここで興味深いのは、レオナが全く指示を出していない点だ。 しかし、ダイの意見に真っ向から反対しながら登場したのがノヴァだった。 彼は最初から、ダイに対して非常に敵対的だ。 魔王軍と戦うべく集まった者達がサババ港に集まっている中、ノヴァだけは単独行動を取っているのである。 彼自身は有事の際にいつでも救援に向かうことが出来るようにとの意図で本拠地に残留したと言っているし、本人もそう思い込んでいるかもしれないが、この理由は建前に過ぎない。 船にトラブルが起こると予測できているのなら、最初からサババに行っていればすれば済む話だ。もし、総員がサババにいる間に本拠地で問題が起こることに不安を感じているのならば、それこそフォブスターを連絡係として残しておけばいい。 そうしなかった理由は、単にノヴァが『勇者ダイ』を意識していたからにすぎない。 ノヴァの厄介な処は、自分の感情を正論で覆い隠そうとする点だ。 だが、ノヴァはその思いが強すぎて、自分以外の者が勇者と認められることを拒絶してしまっている。 そのため、ノヴァは敵襲の知らせに自分一人で戦うと主張し、ダイ達を『背伸びして戦いに加わった自称勇者一行』だと貶している。 しかし、悪口とは自己申告に等しい。 勇者一行でこの悪口が刺さったのは、ポップだけだった。 激昂していきなり殴りかかろうとしたポップを止めたのは、ダイだった。ダイはノヴァに瞬間移動呪文が使えるなら、自分達も連れて行くように頼んでいる。 目的最優先主義のダイにとっては、ノヴァの尖った言動はさして気にならないようだ。ノヴァがサババを知っていて、しかも自分が行くと言った言葉から、彼が瞬間移動呪文を使えると推測し、そこだけに注目している。 実際、港にいる人達と船を助けるためには、これが最善手に違いない。 ここで印象的なのが、ダイがそれに応じる前にポップを振り返って笑顔を見せていることだ。 ノヴァが自分の提案を受け入れてくれたことを喜び、その嬉しさをポップと共感しようと振り向いているのだ。ポップの方は未だに気が収まらない様子でふくれっ面をしているのだが、それでもこの提案自体には文句を言っていない。 ダイの提案が妥当だと判断するぐらいの冷静さは残しているが、ノヴァへの反感から積極的に賛成はしたくない、と言ったところだろうか。もっともポップのそんな反応に、ダイは不満はないらしい。 ノヴァの態度に不満を持たなかったように、ダイは他者のわがままさに対してはひどく寛大だ。 満面の笑みを浮かべ、ダイもノヴァへ握手のために手を差し伸べるのだが、ここでノヴァは手から闘気弾を放って天井をぶち壊すという暴挙に出る。握手を拒否するだけでなく、ノヴァはダイとの共闘自体を拒んだ。 それも、ダイと同等に扱われること自体が我慢できないと言い放っているのだから、徹底した拒絶だ。父親であるバウスンの制止されたにも拘わらず、ノヴァはあけたばかりの天井の穴から瞬間移動呪文で飛びだしていった。 この行動には、急いでいるからとった行動ではない。 ノヴァの行動目的は、周囲に……特に、ダイに対して自分の力を見せつけることにある。 仲間の安全や船の無事以上に自己評価に拘るノヴァは、全体的なリーダーとして振る舞うつもりはない。 会社で言うのなら、社長ではなく営業でトップを狙うようなものだ。ノヴァの視野は狭く、人間軍の役割について考えることもできず、自分の方が勇者として優れていることを立証することにしか頭にない。 会社全体の損益など考えもせず、ただ営業成績を上げるしか頭にないセールスマンのごとく、強引に自分を売り込んでいるだけだ。 ノヴァは自分の力を立証するためにこそ、単身で敵地へ向かっているのである。 |