05 ノヴァVS親衛騎団戦(1) |
ダイ達が出発する前に、ノヴァは一人、サババの造船基地にルーラで移動している。 堤防に直接着地したノヴァは、身を隠す素振りはまるでない。ルーラ着地のせいで敵に気づかれても一向に構わないとでも言わんばかりに、堂々としたものだ。 サババについてすぐ、ノヴァは周囲を見回している。 ノヴァの目的は、サババに現れた敵を退治すること。 戦士なら、戦いの場において敵を最優先すべきだ。傷ついた味方の救援も大切だが、物事には優先順位がある。緊急事態ならば、尚更だ。 港のあちこちが燃え、兵士達がやられている中、四人もの異形の敵が現れたのに、ノヴァは怯えるどころか不敵な態度を見せている。 オーザムに派遣された経験を持ち、リンガイアの兵士長の役割を持っているノヴァだが、彼は魔王軍の幹部と対戦経験がないにも関わらず全く敵に恐れる様子はない。あるいは対戦経験がないからこそ、その怖さが分からずに強気でいられるというべきなのかもしれないが、いずれにせよたいした度胸だ。 自分こそは勇者だと、堂々と言い放っているノヴァだが、倒れた兵士達は口を揃えて逃げろと言い、ロモス決勝進出者の一人であるゴメスはダイ達が来るのを待つように忠告している。 倒れている兵士達の出身国は明らかにされていないが、ノヴァを『ノヴァ様』と呼んでいたことから、同じリンガイア出身と考えるのが自然だろう。自国の兵士から見ても、ノヴァはこの非常時に自分達を助けてくれる存在と言うよりは、庇護すべき上官の子息と認識されている様子だ。 ノヴァに対して助けや指示を求めるのではなく、身を案じて逃げてくださいと望んでいる点から見ても、彼は自国の兵士達から救世主として考えられてはいない。 彼らはダイと会ったことがなく、彼とダイを比較した上でそう判断したわけではない。純粋にノヴァを気遣い、せめて逃がそうと忠告してくれているのである。 しかし、ノヴァにはその思いやりは届かない。 ゴメスの方は実際にダイ達と会った経験があるだけに、ノヴァとダイ、両方を見た上でダイの方が上と判断しているはずなのだが、ノヴァにとってはそれも怒りを掻き立てるだけのものだ。 初めて見る敵幹部もまた、ノヴァを敵として認識していない。ダイが来るまで待った方がいいと、忠告さえしているぐらいだ。 それに対し、ノヴァは剣を抜き放って名乗りを上げ、戦いを挑んでいる。 ノヴァが名乗ったのに対し、ヒムはここでは名乗りを上げていない。 ノヴァを思い上がった小僧と判断し、お仕置きする程度の気持ちで戦いを買って出たヒムは、明らかに本気ではない。 実際に、ヒムはノヴァが斬りかかってきても身動き一つせず、避けようとする素振りすら見せなかった。オリハルコン製の自分の身体には生半可な武器など効果がないと知っているからこその余裕だ。 ノヴァの剣がバラバラに砕け散ったのを、面白がっているように眺めている。 が、この時、ノヴァは全く動じていない。 この切り札があるからこそ、ノヴァは自分に自信を持っていられるし、敵に対して優位だとも考えているのだろう。 折れた刃の代わりに闘気で生み出した擬似的な刃の攻撃には、ヒムは最初から避けようとしている。ヒムにとって初めて見た攻撃のはずだが、瞬間的に危機を察知して避けようとする辺り、相当に勘がいいようだ。 自分の身体の防御力を盲信することなく、受けていい攻撃、避けるべき攻撃を瞬時に判断するのは並の技量ではない。 しかし、完全に躱しきれずに胸元に小さな切り傷を負っている。 ノヴァは自分のオーラブレードが伝説の剣以上の切れ味だと自負しており、絶対の自信を持っている。この時になってようやくダイとポップが追いついてくるが、ノヴァは彼らの参戦を拒否し、一人で戦うことに拘った。 正直、この時のノヴァは周囲がきちんと見えていない。 高々と跳び上がり、自慢の必殺技であるノーザン・グランブレイドを放つノヴァだが、この攻撃は悲しいぐらい完全に見透かされていた。 ノヴァの攻撃はヒムにまともに当たり、彼を軽々と吹き飛ばしている。この時、ヒムは得意の絶頂とばかりの笑みを口元に浮かべているが、親衛騎団の残りメンバーは全く動じる気配も見せない。 ヒム自身が返答したこと、オーラブレードに使用した剣の残りの刃が完全に砕け散ったことに驚愕させられたのは、ノヴァの方だった。 山まで吹っ飛ばされたにもかかわらず無傷で戻ってきたヒムは、ご丁寧にもノヴァの狙いが頭と分かっていたこと、防御に集中すればあの程度の攻撃は効かないと説明さえしている。 これらの説明はノヴァに対してと言うより、見物していたダイやポップに向けられたものと言っていいが、ノヴァはそれさえ気づいていない。ダイ達はヒムの言動からそれぞれ分析しているのだが、ノヴァはそうできるだけの冷静さを失っている。 自分の必殺技が破られたこと自体を受け入れられないノヴァは、感情のままヒムに再び挑みかかろうとしている。 自分の技はこんなものではないと言い、さっきのはまぐれだと言い張るノヴァの言葉には、全く根拠がない。そう思いたいことを口にしているに過ぎない。 ここで注目したいのは、ポップの説得にノヴァが足を止めた点だ。 ポップ「やめねえかっ!! おまえぐらいの実力があれば、やつらの恐ろしさぐらい分かるだろ!?」 ポップの指摘に、ノヴァは一瞬とは言え、冷静さを取り戻している。 この直後、ヒムに「その通り」と小馬鹿にされたような台詞を言われた時でさえ、ノヴァは言い返しもせずに無言で耐えていた。身震いするほど悔しさを感じているのに、ヒムに言い返してさえいないのである。 このことから、ノヴァの真面目さが窺える。 ノヴァの言動を振り返って見ると、彼は正論にはひどく弱い面がある。 が、ノヴァの行動原理は正義に根ざしている。 そして、正論を認めてしまう性格だからこそ、ノヴァは自分以外の勇者を受け入れることが出来ない。 彼にとって、正義と勇者は同一に等しい。 真面目なだけに、ノヴァの思考には柔軟性や融通に欠けていて、他人の正義と自分の正義が違うと言う不合理性が許せない。どちらの意見もそれなりに正しいと受け入れる寛容さなどなく、自分が正しいと思う正義から少しでもズレるものを許容できない。 魔王軍に負けた父親に従わなくなったのも、敗北した存在を正義と見なせない思考によるものだ。そんな極端な思考を抱え込んでいるからこそ、ノヴァにとって敗北は致命的な意味合いを持つ。 負けてしまえば、ノヴァはこれまで信じてきた正義を全て失ってしまう。それは、自己の喪失に等しい。 そんなノヴァにとって、ダイが持ちかけてきた共闘の話はとても受けいられるものではなかった。 ダイがノヴァの手を引っ張り、倒れているみんなを助けようと主張するのに対して、ノヴァは敵を倒した方が早いと言い返している。 敵がいるこの状況下では手当ても救援もろくにできないことを思えば、まずは敵を倒すのを優先する思考は、悪い選択ではない。実際、ダイ自身も敵を倒すのを優先させる思考なのは変わらない。 ただ、ダイは戦いを早く終わらせるため、協力し合おうと考えているのに対し、ノヴァは独力で成し遂げようとしている差があるだけだ。 だが、ノヴァは自分以外を勇者と認めることを、頑ななまでに拒んだ。 二度目にヒムに挑むためにジャンプした際、ノヴァがオーラブレードを発動させたタイミングは最初の時よりも明らかに遅くなっていたし、オーラの威力も弱まっていた。 だが、それでも勇者であるダイに従うよりマシだと、ノヴァは考えたのだ。 ダイの提案に頷くことは、ノヴァの主観では無条件に自分が勇者でないと認め、屈するに等しい。それならば自分が勇者であるために、どんなに分が悪くともヒムに挑む方がいいとノヴァは思ったに違いない。 少なくとも、そうすれば決着がつくその瞬間までは、ノヴァは勇者でいられるのだから。 勝ち目など度外視でヒムと戦おうとしたヒムは、突然乱入してきたアルビナスによって、あっさりと倒されている。 《IFな展開》 ダイからの共闘の誘いが失敗したことは考察で述べたが、もしこの時、同じ提案をポップからしていたのならば、と、思わずにはいられない。 ノヴァはポップに対してもそれほど友好的だったわけではないが、少なくともポップの正論を撥ねのけはしなかった。それに、弱い立場の者を守る気質を持つノヴァにとって、魔法使いという職業は庇護対象にあたる。 つまり、ポップの話の持ちかけ方次第では、ノヴァの協力を得られた可能性は十分にある。 ダイと協力するのは拒んだとしても、ダイと競い合う形でどちらが勇者に相応しいか戦えばいいと提案したのなら、ノヴァも耳を傾けたかもしれない。 このすぐ後にヒュンケル、マァム、クロコダインの三名が救援に駆けつけることを思えば、ノヴァがこの時、特攻を仕掛けなければ、倒される可能性はぐんと減る。 ダイ達は親衛隊と6対5での対決を行うことが出来たはずだ。手数が一枚増えることで戦いの選択肢は確実に増えるのだから、戦況にその結果が反映されたかもしれない。 また、決定的な敗北を味わうことがなければ、この先のノヴァの心境にも変化があったはずだ。敗北感と、ダイには敵わないという意識からノヴァは自分を勇者と見なせなくなっているが、挫折を味わうことなく苦戦を勝ち抜けば、それは確かな自信となって心を支えてくれる。 途中からサポート役に徹したノヴァが、勇者として戦い続ける展開も有りえるのだ。 竜の騎士であるダイとは全く違った、人間の勇者としてノヴァが最後の戦いまで参戦したのなら、その先に何が待っていたのか――少しばかり興味を引かれる展開である♪ |