06 ダイ一行VS親衛騎団戦(1)

 

 ここで、少しだけ時を戻す。
 ノヴァがルーラで飛び出した後で、ダイとポップの二人は先行部隊としてサババへ向かっている。この時、ポップはマァム達も後から来てくれと声をかけ、マァム、ヒュンケル、クロコダインも頷いている。

 地味なやりとりだが、これは瞬間移動呪文以外の移動手段で先行部隊を追いかける手段があると、全員が共通認識していることを示している。その認識があるからこそ、彼らは合流を前提にした別行動を即座に選択できたと思える。

 戦力という面で考えれば、全員が足並みを揃えて行動した方が有利なのだろうが、ダイ達は港にいる者達やノヴァを守ることを優先することにしたのだ。
 その際、レオナはポップに新しい防具を着ていくように薦めている。

 ダイの着ている魔法の戦衣と同じ強度を持つ布製の服であり、現在着ている服の上から重ねて着ることの出来るオーバージャケットだという服は、明らかにポップ専用に仕立てられた物だ。

 他の仲間を差し置くどころか、パプニカにとって最重要人物であるレオナよりも優先してダイとポップに最上級の布地の装備を用意した辺りに、レオナが勇者一行の主戦力がこの二人だと考えていることがよく分かる。

 そして、そう考えているのは他の仲間達もだ。
 ダイとポップが二人で空を飛ぶなら、クロコダインはともかく他に一人ぐらいなら一緒につれて飛ぶことは可能なはずだ。

 実際、鬼岩城と戦う時にはポップはマァムの手を繋いで、短距離だが一緒に空を飛んでいる。回復魔法を使える上に軽量のマァムも同行させるという選択肢も、考えられなくは無かった。

 しかし、ダイ達も戦力を増やすためにもう一人連れて行こうとは言わなかったし、マァム達も連れて行ってくれと提案はしなかった。ダイとポップがいれば先行戦力として十分だと判断し、移動速度の方を重視する選択肢はこの場にいる全員の総意だ。

 港に着いた時、ダイとポップが真っ先に気にしたのは、ノヴァだった。
 敵が来ているのは承知していたせいか、敵よりもノヴァに注意の比重がかかっているようだ。

 ノヴァの前ではなく、彼の背後に着地しているのに注目して欲しい。ダイとポップは彼を庇うつもりで来たのではなく、彼と共闘するつもりだったことが分かる。

 一方的にノヴァを庇うつもりなら彼の前に立った方がいいが、ダイ達が到着した時、ノヴァはまさに攻撃を仕掛けようとしているところだった。

 味方の攻撃の斜線上を避けるのは、当然の発想だろう。なにしろ、まかり間違えば誤射で味方から攻撃を受ける可能性があるのだ、危険を避けてノヴァの背後に降り立つのは無難な選択だ。

 が、そのせいでノヴァの暴走を止めにくくなったのも確かだ。なにしろ、ダイが声をかけただけで、彼は強い口調で言い返している。

ノヴァ「黙って見ていろっ!! 今、こいつらにとどめをくらわせてやるところだ!!」

 ダイは名前を呼んだだけなのに、ノヴァは彼の発言自体を拒否してしまっている。砦でのやりとりからダイが共闘を持ちかけてくると分かっていたとは言え、強固な反対姿勢だ。

 まだ敵が一斉攻撃に出たのなら、なし崩し的に共闘することも出来たかも知れないが、親衛隊達はダイ達を本命と見なして注目する余り、ノヴァを軽視していた。

 そのため、ヒムが一人で戦うという一対一のお遊びにつき合ってくれたせいで、かえって手出しをしにくい状況になってしまった。

 この時、ダイはノヴァの言葉に戸惑い、態度を決めかねているようなのに対し、ポップはノヴァのオーラブレードを見て、もしかしたらと期待をかけている。

 このダイとポップの反応の差は、戦士としての眼力の差と言えそうだ。
 ポップはノヴァの必殺技に驚き、ダイのライディンストラッシュ並だと言っているが、ダイはジッと見ているだけで何も言っていない。

 ノヴァの必殺技に吹き飛ばされたヒムに、ノヴァとポップはそろってヒムをやっつけたと早合点したが、ダイはヒムがダメージを受けていないことを早い段階で察していた。

 ダイはノヴァの必殺技の威力、ヒムの耐久力を正確に察しているが、ポップはそこまでの眼力はない。

 特定のスポーツを観察する際、そのスポーツの経験者の方がより多くの情報を読み取り、選手の実力を正確に評価できるように、戦士系職業であるダイと魔法使いのポップでは、同じ戦いを見ても受けとる情報量が違うのは仕方が無いことだろう。

 しかし、それでいてダイとポップでは、総合的な判断力に大きく差が発生する。
 無事だったヒムを見て、ダイとポップは改めて親衛騎団が強敵だと再確認するが、その差が実に面白い。

ダイ(て……手ごわいぞ、こいつら……! なにか……今までの敵とは違った恐ろしさを感じる……!)

ポップ(今、はっきりとわかったぜ……!! こいつらはオリハルコンで武装しているから強いんじゃねえ……!! こいつらはまさに『駒』なんだ!! 戦うために生まれ戦うことしか知らない戦争の兵器……!! 全員が生まれつきの戦闘の天才なんだ……!!)

 物理的な戦力を観ることに関してはダイの方が遙かに察しがいいが、戦力分析の総合判断ではポップが大きく上回っているのが面白い。

 文章量自体が倍近く違う台詞を比べてみれば歴然としているが、ダイは親衛騎団の恐ろしさを感じ取ってはいても、それを説明は出来ていない。ふわっとしたイメージで語っているダイに対し、ポップの分析は具体的であり、敵の恐ろしさがなによりも精神面の強さにあると看破している。

 同じ戦い、同じ敵を観察していても、ダイとポップは分析や着眼点が別方向を向いていて、得意分野が正反対になっている。だからこそ、二人で力を合わせれば不得意分野を補い、得意分野を相乗させる形で協力し合える。

 ダイとポップにとっては、お互いの長所も欠点も熟知しているだけに協力もしやすいし、そうすることで結果的に戦力を倍にも三倍にも出来ると実体験をもって確信している。

 敵の強さ、ノヴァの実力を確信したダイは、まだ一人で戦おうとするノヴァを引き止め、三人で一緒に戦おうと頼んでいる。

 この時のダイは、砦で共闘を持ちかけた時や、この場についた時よりも明らかに強い口調でノヴァを説得しようとしている。ダイがここまで強く言い張るのは珍しい。

 最初はノヴァの気迫とやる気に押され気味だったのに、ここではノヴァを上回る気迫で説得しようとしている。ノヴァと敵の力の差を見切り、このまま一人で戦わせては勝ち目がないと確信したからとしか思えない。

 だが、残念なことに、ダイが本気でノヴァと協力したいと思い、必死に説得したことがマイナスに働いてしまったのは、前項05で書いた通りだ。
 むしろダイの説得が逆にノヴァの反抗心を煽り、彼は攻撃するために飛び出してしまう。 

 アルビナスの攻撃でノヴァが落下した時、ダイは傷を負ったノヴァを抱きかかえ、助けようとしている。ノヴァにあれ程拒絶されながらも、何の躊躇もなく自然にノヴァを守ろうとするダイの優しさと正義感は、やはり勇者だと感心させられる。


《おまけ・空中散歩》

 戦闘には直接関係が無いので省いたが、ダイとポップがノヴァを追って空を飛ぶシーンは、筆者のお気に入りシーンである♪

 ポップの速さに追いつけなくて泣き言を漏らすダイの素直さも、わざわざ逆戻りしてダイの手を引っ張りながら、ダイをカイブツだのバケモノだのと軽口を叩くポップのひねくれた優しさも、実にいい。

 ポップの軽口は一見、無神経な言葉に聞こえるが、ただおちゃらけているだけのように見えて、ポップのこの言葉には彼なりの計算が見え隠れしているように思える。

 自分が人間ではないと悩み、落ち込んでいた頃のダイなら、冗談だったとしてもカイブツ呼ばわりされたなら、傷ついただろう。

 ポップやレオナに嫌われるのが怖くて、悩みを打ち明けることもできずに萎縮していたダイは、バランとの戦いを乗り越えることで精神的にも強く成長している。

 もう一つ、強まったのはポップとの友情だ。
 ポップの軽口に拗ねてみせるのも、甘えの裏返しと言える。

 ポップが絶対に自分を見捨てたり、バケモノだと嫌ったりしないと心の底から信じることが出来たからこそ、ダイは何を言われても気にしないおおらかさを取り戻せた。

 さらに、本物の怪物なのに天真爛漫に振る舞うチウと仲間になったことで、ダイはさらにリラックスできるようになっている。
 ダイの一番近くにいるポップは、そんなダイの変化に気づき、嬉しく思っているのだろう。

 冗談交じりにダイをバケモノ扱いすることで、ダイの立ち直りぶりを確認し、同時に自分はダイが何者でも気にしていないんだと証明しているように思えてならない。
 戦いの合間の、ほっこりとしたお気に入りシーンだ。

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