09 ダイ一行VS親衛騎団戦(4)

 

 ノヴァが心を折る直前、ポップもまた大きな失敗を二つ味わっている。
 まず、失敗の一つはメドローアの消滅だ。メドローアは神経を集中させて放つ魔法なだけに、途中で術者の集中が途切れれば維持しきれなくなってしまう。

 ノヴァのマヒャドが跳ね返された際、ダイ達の中で最前線に出ていたノヴァは自分自身のマヒャドをまともに浴び,ふらついてポップにぶつかってしまった。それだけの衝撃で,呆気なくメドローアは消えてしまっている。

 更に言うなら、マヒャドの影響で身体が凍りついて自由に動けない有様だった。

 もう一つの失敗は、反射攻撃の可能性を考慮していなかったことだ。
 マトリフから予め注意を受けていたにも関わらず、ポップは親衛騎団に反射攻撃があるかもしれないと、警戒すらしていなかった。

 最強呪文による奇襲に失敗し、更には術を封じられた形になってしまったこの状況で、注目したいのはポップのメンタルの強さだ。

 シグマが反射攻撃の魔法道具を持っていることを把握した後、ポップはその危険度を承知した上で、ショックを受ける様子もなく、すぐに考えを切り替えている。
 しかも、その発想は前向きなものだ。

ポップ「だが、ケガの功名だったぜ。ノヴァの先走りしなかったら……全滅してた!!」

 自分の失敗に対して全く落ち込みを見せないポップが、ノヴァのミスに対しても好意的な解釈をしているのに注目して欲しい。

 この時、故意ではなかったとは言えノヴァのせいで術に失敗したのに、ポップはそれに不満を抱いている様子はない。むしろ、彼のおかげで助かったかのように受け止めているように思える。

 戦いの中で自分のミスを気にして落ち込んだり,他者のミスを責めても意味がないことを、この時のポップはすでに体得しているのだ。戦いの目標をしっかりと見据える強さと、戦況の変化に柔軟に対応するしなやかさを合わせ持っていると言える。

 しかし、初の挫折を味わったばかりのノヴァにはポップのような強さや柔軟性はない。この戦いの勝利以上に、自分を勇者だと認めさせることに目標を置いていたノヴァは、この時点で戦いへの関心を失っている。

 それこそポッキリと心が折れてしまったノヴァは、ダイに向かって「自分は本当の勇者ではない」と懺悔めいた言葉を残している。

 これは、事実上のノヴァの敗北宣言だ。
 敵に負けただけでなく、ダイの言葉を正しいと認め、自分は勇者ではないと諦めてしまったノヴァは、ヒムに捕まった状態だったのに抵抗一つしなかった。

 そんなノヴァを、ヒムは一撃で砕くと宣言している。
 ダイとポップはそれに猛反発し、凍りついて身動きも取れない状態なのに必死にもがき、なんとかノヴァを助けようと叫んでいる。

 だが、そんなダイ達の声はノヴァに届かない。
 どちらかと言えば、ヒムの言った「上には上がいる」や「無様に生き延びるぐらいなら、潔く散った方がマシ」という言葉の方が、ノヴァの心境に沿っていたと言えそうだ。

 ノヴァは最後の言葉を呟いた後、ずっと目を閉じ、身動き一つしなかったため、気を失ったように見えるが、どの段階で気絶したのかは明らかになっていない。

 ヒムの言った言葉を聞いていたかどうかも定かではないが、もしノヴァがそれを聞いたとしても反論すらできなかったのではないかと思える。

 それに比べ、ポップはヒムの主張には大いに意義がありそうな雰囲気だ。ヒムの言葉を聞いた時に、ポップは無言とは言え怒りの表情を浮かべている。

 潔く散るという思考は、ギリギリまで足掻こうとするポップの思考とは真反対のものであり、到底受け入れられるものではないのだろうし、ノヴァの死もポップには許容できないに違いない。

 ダイもそうだが、ポップもノヴァの危機に動けないなりにもがき、声の限りに叫んでいる。

 が、ヒムは容赦がない。
 ノヴァを空中に高々と放り上げ、飛び上がって一撃を食らわそうとしている。

 この派手な攻撃に、ヒムの基本精神が現れている。
 ヒムに限らないが、親衛騎団は全員、人間達を全滅させようという思考はない。港に倒れていた者達が怪我は負っても、そのまま放置されていたことからみても分かるように、わざわざとどめと刺そうとはしていない。

 一時的に無力化さえさせれば、それ以上の追撃をする必要もないと判断しているのだ。

 敵にさえカウントされなかった有志達に比べれば、ノヴァはとどめを刺す価値があると判断されたわけで、ある意味で敵に評価されたと言っていい。

 しかも、ヒムは単に殺すだけでなく、文字通り粉々に砕こうとしている。一際目立つ攻撃はこの時のノヴァにとっては明らかにオーバーキルだが、これはノヴァに対しての拘りという以上に、ダイ達へ自分達の強さを見せつける意味がありそうだ。

 その証拠に、敵側のリーダーを務めるアルビナスは、この時は動いていない。
 言い換えるなら、それは今のヒムを止める必要はない、と判断したということだ。

 つい先程のヒムとノヴァとの戦いは止めたのに、今、ノヴァにとどめを刺すのは問題ないと考えているアルビナスの行動は一見矛盾しているように見えるが、視点をダイに合わせれば一貫した物になる。

 要は,アルビナスはダイがどう動くか、どんな反応を見せるかを観察することを最優先しているのであり、その邪魔になるのならノヴァを死なない程度に自らぶちのめすのもためらわないし、仲間の手による殺害も止める気はない。

 アルビナスの注意は、ダイ達へと向けられている。
 彼らへの直接攻撃よりも、彼らの反応力を冷徹に見つめているのである。
 このシーンでは直接は描かれていないが、ヒムの暴走的な行動を止めもせず、ジッと佇む鋼の女王の姿が目に見えるようなシーンである。

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