『囚われ人が望むもの』
  
 

「あれ? これ、なんだろ?」

 ベッドの下に潜り込んだダイは、『それ』を見て思わず首を捻る。
 ダイがそれを見つけたのは、全くの偶然だった。

 夕食後、ダイとポップは揃ってポップの自室に引き上げ、たいして意味もないようなおしゃべりをしつつ、ダイは四苦八苦しながら家庭教師から言いつけられた宿題に取り組み、ポップはポップで適当な本を流し読みをし……要するに、いつも通りの夜だった。

 そんな中、ダイがうっかりとペンを落としてしまったのだってわざとじゃなかった。
 ダイに言わせれば、ペンと言うものはひどく扱いにくい。ナイフや剣なら、手足の延長戦のように自在に振るうことのできるダイだが、ペンはどうにも苦手だった。

 ちょっと力を入れすぎるとペン先が潰れてインクがベタッと染みになってしまうし、かと言って軽く動かそうとすると紙にペン先が引っかかって字が妙にギクシャクする。

 ポップやレオナの手にかかると、まるで踊るような動きで素早く、優雅で読みやすい字が紡がれていくというのに、ダイの手の中にあるペンは自分自分でさえ読みのに悩んでしまう程、へたくそな字しか生み出さない。

 それだけならまだいいのだが、ダイにとってはペンがやたらと軽くて持ちにくく感じられる。なまじ、力が有り余っているダイはペンをしっかり持とうとして折ってしまったことが何度もあるので、ペンを扱う時には気をつけて力を抜くようにしている。

 が、それが悪いのか、ダイはしょっちゅうペンを取り落としてしまう。
 今日も、そうだった。

 ポップから借りたペンだからいつもより気をつけて扱おうと頑張ったのに、なぜか思いっきりすっぽ抜けてしまった。床を勢いよく転がってベッドの下にまで入り込んでしまったペンを追いかけて、ダイもベッドの下に入り込んだ。

 転がりに転がったペンは、ベッドの下でも一番奥に当たる壁際ギリギリ近くの床にまで転がっていたのだが、それもその近くにあった。

「なんだよ、ダイ。まだペンが見つからないのかぁ? ほーんと、おまえって力の使いどころを間違えてるよな。だいたいさー、ペンを使うのにいちいち振りかぶって使う必要なんざねえんだよ」

 と、すぐ真上からポップの呆れた様な声が響いてくる。
 ベッドの上に寝そべって本を読んでいたポップは、ちょうど、ダイの真上にいる。そのせいか、やけに身近に感じる声を聞きながら、ダイは答えた。

「ううん、ペンは見つけたよ。でも、変なのも見つけたんだ」

「変なの? うげー、虫かなんかでも見つけたのか?」

「ううん、違うよ」

 虫だったら、変なものではなくて面白いものではないかなと思ったダイだったが、とりあえずその疑問は口にしないでおく。

 ポップはそうでもないが、レオナは虫が大嫌いで、見かけると大騒ぎする。前にダイが、台所の隅っこで見つけた黒い虫を捕まえたので見せに行ったら、城中に響き渡るかと思うようなとんでもない悲鳴を上げていた。

 身体がやけにテカテカと光っているからレオナがお気に入りの宝石と似たようなものかなと思ったし、やたらと元気な虫で触角を持つとジタバタ暴れて面白かったのだが、どうやら彼女のお気に召さなかったらしい。

 大魔王の前にいた時よりもよっぽど真っ青な顔をして、ぶるぶる震えてさえいたから、ダイの方がびっくりしたぐらいだ。蝶々を見せた時は喜んだのに、なぜあの黒い虫はそんなに嫌だったのか、ダイとしては理解に苦しむ。

 身体が小さい割に意外と動きが速い上に飛ぶこともできるし、追っかけて遊ぶにはちょうどいい虫だと思ったのだが、レオナどころかエイミやマリン、アポロまでもがやってきて絶対にあの虫と遊んではいけないと説教された。

 後でその話を聞いたポップも、爆笑した後であの虫だけは手を出さないようにと忠告してくれた。あの虫はどこの家にもいる有り触れた虫ではあるが、女性にとっては天敵並みに嫌われているので有名な虫らしい。
 それ以来、ダイはあの虫とは遊ばないようにしている――残念だが。

「あのさ、ポップ。こんなとこに、なにか書いてあるよ」

 そう言いながら、ダイは床に描かれた文字を指でなぞる。
 滑らかな石の床の手触りの中で、その文字の手応えは明確だった。石に彫りこまれた……と言うよりは、刻み込まれていると言うべきか。

 落としたペンが、たまたまベッドの下に入り込んでしまったのを追いかけたからこそ見つけたのだが、そうでもなければそんな所に字が書かれているなんて気がつかないままだっただろう。

 ちょうどベッドの下、しかも完全に影になっている位置の床に書かれているのだから、どんなに丁寧な掃除をする侍女でも気がつくまい。
 と言うよりも、よほど大がかりな部屋の模様替えでもしない限り、この文字に気がつくのは不可能だ。

 現に、この部屋でずっと暮らしているはずのポップは、今まで字の存在そのものに気がついてなかったらしい。

「へえ? どれどれ?」

 やけに近くから声が聞こえてきたかと思うと、ポップもまたごそごそとベッドに潜り込んでダイのすぐ隣へとやってきたのには、ちょっとばかり驚いた。

 大人の二人や三人ぐらい並んで眠れるほど大きなベッドなだけに、まだ大人になりきっていないダイやポップぐらいの体格の者ならなんとか潜り込める。
 が、自分からやってきたくせに、ポップは態度が大きかった。

「いちっ、なんだよ、せめえな! 詰めろよ、ダイ」

「うんっ」

 自分の方が先にここにいたのだと言い返しても良かったが、ダイにはそんなことなど思いもつかなかった。弾んだ声で返事をし、ダイは素直に場所を譲る。とは言っても、狭いベッド下だ、結局二人揃って腹ばいになってピッタリくっつく形になる。
 だが、その窮屈ささえダイには楽しく感じられる。

(こんなの、久しぶりだよね)

 ダイが地上に戻ってきてからと言うものの、彼が一番戸惑ったのはなんと言ってもポップとの距離感だ。

 魔王軍との戦いの時は常に一緒に居たのに、平和な地上ではなかなかそうはいかない。いつの間にか、ポップは大人の人みたいに仕事ばかりしていて、忙しくなってしまった。

 めったに遊べなくなってしまったのが、なによりも一番つまらない。そりゃあ、魔王軍との戦いの時も遊ぶ暇などほとんどなかったが、それでもいつもポップとは肩を並べていられた。

 今思えば、かなり危険な冒険などもしていた気もするが、それでもダイはポップと一緒にそうするのが好きだった。
 今だって、そうだ。 

 ただ、ベッドの下に一緒に潜り込んでいるだけなのに、一緒に冒険しているみたいでわくわくする。
 ポップもそう思ってくれているといいなと思ったのだが、彼はどうやら今はそれどころじゃないらしかった。

「なんだよ、せっかく来たのに暗いじゃねえかよ、おい! これじゃ、字なんか読めねえぞっ」

 いくら灯りがつけられているとは言え、ベッドの下のこんな奥までは光の恩恵も届きにくい。竜の騎士の血のなせる技か、夜目の利くダイだからこそそれが文字だと判別出来たが、ポップには暗くてよく見えないらしい。

「そっかなぁ。暗いけど、ぎりぎり見えるよ」

「おれには無理だって! 確かに文字っぽいけど……これって、なんて書いてあるんだ?」

 床に彫り込まれた文字を確かめているのか、さっきダイがそうしたように指でなぞりながらポップが尋ねる。

「えっとね……『「なんとか」は「なんとか」を「なんとか」する』って書いてあるよ!」

「なに得意げに言ってやがるんだっ!? それ、ほとんど読めてないだろーがっ! ええいっ、もういい!」

 そうポップが怒鳴ったかと思うと、いきなり目の前が明るくなった。見れば、ポップの指先に小さく炎が踊っている。
 まるで蝋燭の火のように安定した大きさだが、それはれっきとした攻撃魔法だ。

 得意の火炎系呪文を上手く制御し、最小限の灯り代わりにしたらしい。
 さらりとやっているが、それが高等技術なのは魔法が苦手なダイにも分かる。そもそも、本来なら即座に発射するはずの魔法を手元にとどめておくだけでも難しいのに、大きさを抑えるのはもっと難しい。少なくとも、ダイなら火の制御ができずにベッドごと燃やしかねない。

 だが、ポップはごく当たり前の顔をして指先の炎を蝋燭代わりに床に刻み込まれた文字を読む。

「『我は自由を欲する』ね。ったく、おまえときたら半分も読めてねえじゃねえかよ」

 それを聞いて、ダイは目をぱちくりとさせ――それから、ぽつりと呟いた。

「……一体、誰が書いたんだろうね?」

 何やら意味深っぽい言葉を見てダイは考え込んでしまうが、ポップの方はたいして気にしている様子はなかった。

「ま、ここ、元幽閉室だって言ってたもんなー。ずっと前に、この部屋に閉じ込められていた人が書いたんじゃねえの?」

 ペンで書かれた字ではなく、ナイフか何か、尖った刃物のようなもので彫り込まれたその字は、お世辞にもうまいと呼べる代物ではない。本来の筆跡とはかけ離れているその字体では、書き手が男か女か、子供か大人かさえ分からない。

 だが、書き手の個性が見えない割には、その字には書き手の意思が切実に感じ取れた。

「きっと……、ここからすごく出たかったんだよね、この人」

 その呟きには、ダイも意識していなかったが同情的な響きが混じっていた。
 普段はポップがごく普通に過ごしているから忘れているが、幽閉室というのは単純に言えば牢屋だ。

 本人の意思に反して閉じ込められた場所から、出たいと思うのは当然のことだろう。ダイだって、記憶喪失の時にテランで牢屋に入れられた時は、怖いだけでなく、そこから出してもらいたくて仕方が無かった。

 レオナやポップ、テランの人々の名誉のために言うならば、あの牢屋は決して居心地は悪くなかった。

 急な入牢のため設備を整えるなどの時間まではなかったが、ダイを心配してゴメちゃんだけでなくメルルやナバラまでもが牢に付き添ってくれた。閉じ込められていたのがごく短時間で終わったため意味がなかったが、もし長時間閉じ込められるのならきっと食事や毛布などの差し入れにも気を遣ってもらえたに違いないと確信している。

 だが、それでも牢屋にいる間の圧迫感や不安感は、今もダイの中で根強く残っている。

 魔界にいた時だって、そうだった。
 自ら望んで結界の中に留まり続けたとは言え、どこにも行くことのできない閉塞感は消しようがなかった。常に自分が閉じ込められていると言う意識があって、外に出たいと切望せずにはいられなかった――。

「どうしたんだよ、ダイ。そんな、しょんぼりした面してよ」

 ダイの表情に気づいたのか、ポップがそう声をかけてきてくる。さっきまで文句を撒き散らしていた時より、ちょっぴり優しい声音が耳に心地よい。
 ポップは、いつだってそうだ。

 自分勝手でわがままばかり言っているように見えて、人の気持ちには聡い。特に、落ち込んだり沈んだりしている時にはいつだって気がついてくれて、気持ちをすくい上げてくれるような言葉を言ってくれる。

 大戦時も、今も変わらないポップの態度が嬉しくて、ダイは心がほっこり温まるのを感じる。そして、その温もりが、心に浮かんだ疑問を口にする勇気を与えてくれた。

「……あのさ、ポップもこの部屋から出たいって思う?」

 どこかおずおずと尋ねたダイの疑問に、ポップが少しばかり目を見張る。それから何かを言おうと口を開きかけたが、ちょうどその瞬間、やけに緊迫感に満ちた声が響き渡った。

「ダイッ、ポップッ、無事か!?」

 聞き覚えがありすぎるその声と同時に、ヒュンケルを戦闘に数人の兵士達が部屋に駆け込んできた――。





「あーあっ、まったくヒュンケルの野郎のせいで大騒ぎだぜ」

 ポップのその不満は、身勝手としか言いようがない。
 魔法王国として知られるパプニカでは、王族から優秀な魔法使いや賢者が数多く輩出している。そのため、王族を幽閉するために魔法対策をするのは、むしろ自然な発想だろう。

 幽閉室では弱い魔法は自動的に封じられるし、また、成功、不成功を問わずに魔法を使えば即座に分かる仕組みになっている。本来は幽閉室で何か異常が起こった場合、素早く対処するために施された仕組みなのだが、ポップにしてみれば面倒な仕掛けとしか言いようがない。

 ポップにしてみれば、魔法は普段から自然に使うものだ。火をつける時には燧火を探すよりも火炎系呪文を唱えた方が早いし、高い所にある物を取る時だって踏み台を探すより飛翔呪文で浮いた方が楽だ。

 身に染みついたその癖のせいで、うっかりミスで自室で魔法を使ってしまい、こんな風に大騒ぎになるのはたまにある。何ともなかったことを納得させるのに手間取ったせいでごたつき、文字の話も宿題も読みかけの本も中途半端に終わってしまった。

 もう寝る時間だと、ダイもヒュンケルに促されて自室に戻っていった。
 まあ、たいした話をしていたわけでもないし、気になるのならまた明日にでも話せばいいことだが、よりによって気にくわない兄弟子に邪魔されたのが、どうにも面白くない。

「ったく、ヒュンケルのせいでとんだケチがついたぜ」

 自分に責任があるとは欠片も思っていない口調でぼやき、ポップは身をどさっとベッドに投げ出した。自宅や宿屋のベッドなら、その行為に不満をあげるように大きく軋むような乱暴さだが、仮にもここは王宮だ。

 王族御用達の家具は、細身の少年の体重などものともしない。
 物音一つたてずふんわりとポップを受け止めてくれたベッドは、どこまでも柔らかく、寝心地がいい。

 ふわぁと大きくあくびをしてから、ポップはふと、思い出す。

(そういや、この辺か)

 ちょうどポップが寝転んだ場所の真下辺りに、あの文字はあるはずだ。
 昨日までは知らなかったから当然と言えば当然だが、一度、知ってしまえばなんとなく意識してしまうものだ。

 ベッドの上に俯せ寝そべりながら、ポップは文字のあった辺りに見当をつけて、なんとなく上から撫でてみる。――まあ、そんなことをしたって無意味なのだが。

 ベッドの上からは、その文字は見えない。だが、確かにその文字は今も存在している。

 それが目障りだというのならば、こんなものはすぐに消してしまえる。場所が場所なだけに、掃除をする侍女達も気づいていなかったから放置されてきたのだろうが、誰かに知らせればすぐにでも処置してくれるだろう。

 ポップが希望さえすれば、刻まれた文字などなかったように、何の痕跡もない綺麗な床を用意してくれることは分かっている。だが、それが分かっているからこそ、ポップは何も言う気は無かった。

 しかし、この文字の書き手を調べる気も無い。
 本気で知りたいのなら、調査は簡単だ。パプニカ城の記録ならば資料としてしっかりと残っているはずだし、ポップはこの城に存在する全ての書籍を閲覧する権利を獲得している。

 本気で調べる気になったのなら、半日とかからずにこの幽閉室の全住人達の記録を知ることができる。そうすればきっと、この一文を書いた人物を高い確率で探し当てられる。

 だが、ポップはそうしたいとは思わない。と言うよりも、この部屋の前の住人について知りたいと思ったことがなかった。この文字を読んだ今でさえ、調べたいとは思わない。
 だが、不思議な親しみを感じないでもなかった。

(……どんな奴、だったのかなぁ)

 男か、女かも分からないが一つだけ確信できる。
 ――その人物は、きっと孤独だったに違いない。

 不満を外に出せなかったのか、あるいは出すことができなかったのか、その人物は心の内を石の床にぶつけた。誰に見られることのない場所を選んで、だが、決して消えないように石に深く刻み込んだ。
 その事実には同情するし、理解できなくもない。

 ここで暮らしたであろう名も知らぬその人と同じ様に、ポップも望んでこの部屋にきたわけではない。ついでに言うのなら、決してこの部屋が気に入っているとも言えない。

 まあ、なんだかんだで長居しているせいか今ではすっかりとこの部屋に馴染んでいることは認めるが、ここは基本的にポップの好みの部屋とはかけ離れている。

 だが、それでもポップがこの部屋に居続けることを選んだのは、そうしてくれたレオナ達の気持ちが分かるからだ。

 幽閉室と言えば聞こえが悪いが、出入り口を厳重に監視されたこの部屋は警備という面では最善だ。認めたくはないが、政治の表舞台に乗り出したポップには多くの敵ができてしまった。

 以前の魔王軍との戦いと違って、決して姿を現さず、そのくせ常にポップの隙を狙う見えない複数の敵達だ。毒や暗殺がいつ襲いかかっても不思議ではない立場――今のポップの立ち位置は、そこにある。

 それを心配してくれている仲間達の気遣いは、痛いほど分かる。
 だからこそ、ポップはこの部屋に甘んじている――今まで、そのつもりだった。
 ダイに、あの疑問をぶつけられるまでは。

『……あのさ、ポップもこの部屋から出たいって思う?』

 少し不安そうにそう聞いた勇者を思い出し、ポップはニヤリと笑う。あの時のダイは、まるで閉じ込められている相手を助け出そうとしているかのように、真剣な顔をしていた。

(まったく、あいつはいつだって勇者だよな)

 特に、何か、深い考えがあるわけでもない癖に、ダイの一撃はいつだってものの見事に急所を射貫く。
 ダイの言葉は、ポップ自身、意識もしていなかった本心を浮き彫りにしてくれた。

「――いいや。思わねえよ、ダイ」

 小声で、だがはっきりとした答えをポップは口にする。
 それは、レオナやヒュンケル達には決して教えなかった答えだ。

 パプニカ王政に関わらず、自由に生きる道を望むこともできた。実家に帰るも良し、あるいは以前のアバンのように気ままな旅に出るのも、望めば叶えることはできた。

 だが――ポップが望んだのは、不自由な日常だ。
 毎日うんざりするほど仕事があって、時に……と言うか、しょっしゅううんざりすることもあるが、それでもダイやレオナ、仲間達と平和に過ごせる日常こそがポップの望みだ。

 幽閉室にいる事実に不満がないわけではないが、それでもポップはその不満を誰にも言わずに押し込めるなんて真似はしない。文句を言いたい時は仲間達に直接言い、窮屈さに我慢できなければ時々はこっそりここから抜け出して遊びに行けばいいだけの話だ。
 今となっては、ポップは望んでここに居る。

(……まっ、こんなの、わざわざ言うまでもねえコトだけどよ)

 ふわぁと、もう一つ大きくあくびをすると、ポップは文字に背を向けるように仰向けに寝そべり、そのまま眠りに就いた――。

   END 


《後書き》

 筆者は経験が無いですが、猫を飼っている人で捕まえた虫類を得意げに持ってくる猫に困った経験がある方は少なくはないようです。

 この時、仕留めた獲物を持ってきた場合は『ぼく(私)、頑張ったよ! 褒めて、褒めて!』な感じだそうですが、飼い猫が雌で半死半生の獲物を持ってきた場合は『この子(飼い主)は狩りが下手だから、ちゃんと教えてあげなくちゃ』と見なされている場合もあるんだとか(笑)

 さらに、猫は学習能力が高い上に知能がかなり高いので、こうすれば飼い主が大騒ぎして構ってくれると学習した場合、意図的にそれを繰り返します。
 まあ、猫の飼い主としてはどの場合でも困ってしまうのですけどね。

 ちなみに、レオナの中では『Gのつく虫への恐怖>大魔王への恐怖』になっているのではないかと、推測(笑)

 ……と、思いっきり余談な話はさておき、幽閉室という存在にはロマンを感じます。日本の座敷牢もそうですが、西洋でも外に出すわけには行かない事情を持つ人間をある程度厚遇しつつも閉じ込めると言う習慣がありました。その場合、出入り口を封鎖しやすい塔を使用することが多かったようです。

 童話のラプンツェルなども、まさにその典型パターンですね。
 幽閉された人間の伝記を読んでみると、境遇や立場だけでなく本人の手記か、第三者からの観察記録かで印象もずいぶん違って、その多様さに興味を引かれます。

 幽閉された人というと悲劇的な印象が強いですが、客観的に見ると実に恵まれている上に割と楽しそうだった人とかもいるんですよね、これが。

 サディストの語源として有名なサド侯爵など、牢獄にいたにも関わらず食事も差し入れも自由だわ、歴史に名を残すHな小説を書きまくっていたわ、彼に従順で差し入れや面会を欠かさなかった献身的な妻はいたわと、ある意味でリア充もいいところ。

 サド侯爵とその妻が送り合った手紙から見ると、焼き餅を妬いて拗ねる夫にひたすら尽くす妻と言う構図で、バカップルかと言いたくなるぐらいのラブラブっぷりを発揮しています。

 中世ヨーロッパでは貴族の特権は、牢獄や幽閉状態でもかなりのレベルで認められていたらしく、中には捕虜としての幽閉や牢獄にいる立場の方がいいから家に戻りたくないと言っていた者達もいたぐらいです。


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