『大魔道士と四人の旅 2』
  
 

「じゃあ、とりあえずダイに見つかる前にとっとと出掛けるぞっ! 急がねえとあいつの授業が終わっちまうし! ほら、おまえらも早く来いよ!」

 みんなで旅に出ると決めた途端、ポップは一転して四人をせっつき始めた。さんざん文句を言っていた割には、早い変わり身である。
 だが、ヒム、ラーハルト、クロコダイン、ヒュンケルの四人は文句一つ言わずに大人しくポップに従う。

「行ってらっしゃ〜い、お土産をよろしくね♪」

 にこやかに手を振って見せる姫君の見送りを背に、ポップを始めとした四人は一団となって城の外へと向かう。なにせ目立つ外見揃いのために、兵士だの侍女だのがびっくりした顔をしていたが、ポップは気にせずに城の中庭を横切って裏庭の方へと向かう。
 それから、ひどく嫌そうな顔で四人に向かって手を差し伸べた。

「じゃ、ルーラで移動するから掴まれよ」

「それはいいが……なんで、わざわざこんな場所に?」

 クロコダインが不思議そうに聞くのも、無理はない。
 つい先程ポップ達が居た場所は、レオナの執務室だ。庭を一望出来る作りになっており、テラスから直接庭に出られるのだから、どうせ瞬間移動呪文を唱えるのならあの場所で唱えても同じではないかと思える。
 が、ポップは不機嫌そうに首を横に振った。

「ダイにルーラの光を見られたら、後を追われるかもしんないだろ。この場所なら、ダイの勉強室からは死角になるんだよ」

 どうやら、ダイの目を誤魔化すための作戦だったようだ。
 ダイを終生の主君と仰ぐラーハルトは、その発言が気に入らないのかいささか目つきが険しくなるが、他のメンバーはあっさりと納得する。魔界から戻ってきて以来、ダイがポップと一緒に居たがるのは周知の事実だからだ。

「しっかしよぉ、なんか、旅って言うよりも夜逃げかなんかみてえだな、昼間なのに」

「うるせーっ、文句があるならついてこなきゃいいだろっ!? それより、ほら、いくぞっ」

 チャチャを入れてきた金属生命体を怒鳴りつけ、ポップは移動呪文を唱えた――。






「いってぇえ!?」

 派手な着地音と同時に上がった悲鳴は、一つだけだった。
 呪文を唱えた張本人なのに、着地に失敗して無様に転がっているのはポップただ一人だけで、残りの四人はしっかりと地に足をつけて立っている。

 護衛として付き添ってきた彼等は、まずは周囲を見回すのに専念する。いきなり襲いかかってくるような危険な気配がないか――真っ先にそれを疑った四人だが、どうやらその心配はなさそうだった。

 代わりに、聞こえてくるのは波の音だった。
 切り立った崖が長々と続き、そこから海を一望できる岬。
 周囲の景色を見て、真っ先に気がついたのはラーハルトだった。

「ここは……アルゴ岬か」

 ベンガーナ王国最南端の岬に当たるこの場所は、ラーハルトにとっては忘れることのできない場所だ。

 竜の騎士の身体を癒やすと言われている奇跡の水が湧き出る泉が存在する場所であり、バランがことのほか好んでいた土地だった。そのため、地上での竜騎衆の集合拠点となっていたため、何度も来たことがある。

 ポップが飛んできた場所は、バランが好んでいた場所とは少しばかりズレているようだが、それでもここがアルゴ岬なのは確かだった。

「へ? おまえも知ってたのか?」

「まぁな。それで、ここに何の用だ?」

 そう聞きながらも、ラーハルトはこの場所に来るのならば奇跡の泉関連かと半ば決めつけていた。だが、ポップは立ち上がってぱんぱんと埃を叩きながら、かぶりを振る。

「別にここに用があって来たわけじゃねえよ、この近くの村に行きたいんだ」

 ポップのように瞬間移動呪文が使える者が旅をする際は、まずは目的地に一番近い場所に魔法で移動し、後は徒歩で微調整することが多い。勇者ダイの捜索の際にも何度も使った手段なだけに、その点については誰も疑問も不満も持たなかった。

 そして、ポップが歩き出した方角は、奇跡の泉とは正反対の方角だった。その事実を少し意外に思いながらも、ラーハルトや他の三人はポップを追って歩き出した――。





 
「ちょ……ちょっと、待てよ、てめーら……っ、ちょっと……急ぎすぎだろ……っ」

 ゼイゼイと肩で息をしながら足を止め、ポップが恨めしげな目を周りにいる四人へと向ける。
 が、四人は何を言われているのか分からないとばかりに、顔を見合わせる。
 無言のまま、目だけでやり取りした結果、代表して口を開いたのはヒュンケルだった。

「別に、急いだつもりはないが」

 脳味噌筋肉隊にとっては、それは事実以外の何物でもなかった。実際、急ぐどころか四人とも、ポップに合わせて普段以上にゆっくりと歩くように心がけていたぐらいだ。油断すればいつものペースで歩きそうになる速度を抑えるのはなかなか難しく、努力していただけにそう言われるのは心外なぐらいだ。

 が、ポップはヒュンケルの言い分が気にくわないとばかりに、一気にヒートアップして怒鳴りだした。

「いいやっ、てめえら足が速すぎなんだよっ!! なにより、なんだっておれの周りを取り囲むように歩いてんだよっ!」

「なんでって、んなのは護衛の基本だろうが」

 ヒムの言う通り、要人を中心に周囲を取り囲むのは護衛の基本中の基本だ。いきなりの攻撃はもちろん、不意打ちの射撃にも対抗できるように、要人を中央に四方を固めつつ動く。いざという時は自らの肉体を盾にしてでも、護衛対象を守るのが護衛の役目だ。

 四人にしてみれば、何が起こるか分からない状態で万全の布陣を引いたつもりだった。
 だが、ポップにはどうやら四人の気遣いはお気に召さなかったらしい。

「だから、護衛なんかいらねえって言っただろっ! でかい図体しやがって、目障りなんだよっ!! こんなんじゃ、周りの景色もろくすっぽ見えないだろっ! 振り切ろうにも、しつっこいんだよっ!!」

 もはやカンカンと言った様子でポップがわめきまくるが、四人にとっては意外すぎる言葉だった。

「へ? なんだよ、おまえ、あんなんでオレらを振り切ろうとしていたのかぁ?」

 皮肉と言うより純粋に驚いたようにヒムに言われ、ただでさえ怒りに真っ赤に染まっていたポップの顔が、なお赤くなる。

「だぁああっ、るっさいっ! とにかく、少し休むぞっ!!」

 ぷんぷんに腹を立てたポップは、わざわざ崖際の方へ行って座り込む。完全に海の方を向いているのは、よほど機嫌を悪くしているせいなのか。
 とりあえずポップが動きを止めた途端、護衛を務める四人も休憩に入る。

 もっとも、彼等は休憩とは言ってもポップのようにどっかりと座り込んだりはしない。立ったまま身体を休め、ついでに周辺への警戒も怠らない。
 敵や生き物の気配を探しながら、ラーハルトは目に見える範囲に集落はないか、丹念に探してみる。

 だが、一向に村らしきものは見えない。
 それも、仕方がないと言えば仕方がないことだ。元々、アルゴ岬付近には村が少ないと聞いている。

 ほんの十数年前まで、アルキード王国とベンガーナ王国は隣接した国として存在していた。だが、突然アルキード王国が消滅してしまった関係上、この辺りの地形は激変している。

 巨大な化け物に囓り取られたかのように、不自然な形に切り立った崖が長々と続いている地形は、人間が積極的に住みたいと思うような場所ではなかったらしい。
 しかも、元々この崖の辺りがアルキードとの境界線だった関係もあってか、崖沿いに延々歩いてもさっぱり村が見えて来ない。

 そんな風に村を探しているのは、どうやらラーハルトだけではなかったようだ。ヒュンケルやクロコダイン、ヒムもそれぞれが崖の下に見える海岸線などを目で追っているところを見ると、彼等もさっさと村を発見したいと思っているのだろう。

 だが、そんな中でポップだけは村を探してはいなかった。ポップが見つめている先は、明らかに海だった。
 それに疑問を覚えながらも、ラーハルトは彼に声をかけた。

「おい、ポップ。少し話があるんだが」

「な、なんだよ……っ、こっちは疲れてんだよ……ッ、後にしろよ」

 話す労力も惜しいから話しかけるなと言わんばかりの刺々しい反応に、ラーハルトは気を悪くした様子もなく「そうか」と、あっさりと引いた。

「さぁて、そろそろいくか。って――うわぁあああああっ!?」

 立ち上がったポップが軽く伸びをした際、足場がいきなり崩れる。悲鳴と共に、ポップはそのまま落下した。

「「「ポップッ!?」」」

 驚愕の声を上げたヒュンケル、クロコダイン、ヒムの三人が咄嗟に崖に駆け寄ろうとした。が、一番ポップに近い場所にいたクロコダインが、1、2歩足を踏み出しただけで立ち止まる。

 軽量のポップの動きにも耐えられず崩れた崖際が、超重量級のクロコダインの体重に耐えられるはずもない。少し移動しただけで、早くも地面にひび割れが発生するような有様だ、下手に崖に駆け寄ればかえって崖崩れを招きかねない。

 事態の深刻さを悟った三人の表情が険しくなるが、そこに脳天気な声が響き渡った。

「うわーっ、うわーっ、ビックリしたっ、なんなんだよっ、これっ!?」

 そんなことを言いながら、フワフワと浮き上がってきたのは紛れもなくポップだった。

「……あー、そっか、おまえは飛べたんだよなぁ。焦って損したぜ」

 いささか気が抜けたように、ヒムが呟く。それはポップが無事だったからこそ叩ける軽口だったが、ポップにはどうやら気に入らなかったらしい。

「損ってなんだよ!? 焦ったのはこっちの方だってえの、まさかいきなり崖が崩れるだなんて思いもしなかったぜっ!」

「ここら辺りの崖は、普通よりも脆いから仕方があるまい」

 普通、海際の崖は数千、数万年物時間をかけて自然が生み出す造形だ。そのため、大抵は大波にも耐え抜く頑丈な岩が残って崖となる場合が多い。しかし、アルゴ岬付近はかつてバランの放った超魔法の影響で無理矢理削り取られて発生した崖だ。

 自然物と言うより、人工的に作られた物と言った方がいい。通常の地面が真っ二つに裂かれ、残された結果発生した崖が通常のものよりも土壌が弱いのも当然だろう。
 それらの事情をバラン本人から聞いたことのあるラーハルトの説明に、ポップは目を据わらせてわめき立てた。

「なら、最初っから言えよっ、そーゆー肝心なことはっ!!」

「だからさっき、言おうとしたんだが。おまえが後にしろと言ったんだろう」

「いやっ、なんで止めたおれが悪いみたいな言い方してんだよっ!? なんだっておまえは、肝心なところで言葉を惜しむんだよっ!?」

 なにやらポップはカンカンに怒っているが、ラーハルトにしてみればなぜ怒っているのか理解しがたいのか、全く気にする様子もない。

「落ちたところで、おまえは空が飛べるだろう?」

「……そりゃ飛べるけどもよっ! ああ、飛べるけどっ、だからっておまえ……っ!」

 なぜかさっき以上に怒りに打ち震えているポップを、とりあえずヒュンケルが崖から引き離しつつラーハルトを窘める。

「護衛なら、敵襲以外も警戒すべきだ。ポップが飛びそこなっていたら、ただではすまなかったんだからな」

 それは、明らかにポップを庇っての言葉だった。どう贔屓目に聞いても、ポップに味方する言葉にしか聞こえないのだが――それを聞いた途端、ポップの怒りの矢印は兄弟子へと向かう。

「なんだよっ、これぐらいでおれが失敗するわけねえだろ!? それに腕を引っ張るんなよ、エスコート気取りかよっ」

 さっき以上に突っかかるポップに、ヒムが呆れた様な声で呟く。

「おいおい、おまえ、護衛されたいのか、ほっとかれたいのか、どっちなんだよ?」

 そのぼやきがポップの耳に入ったのなら、またまた彼の癇癪が爆発した恐れがあるが、幸いにもそこで割って入ったのは気のいいリザードマンだった。

「それよりポップ、近くにある村を探したいと言ったな? 今、ガルーダを偵察に行かせたんだが、どうやら何かを見つけたらしいぞ」

 いいながら、クロコダインが軽く手を挙げると、いつの間にか上空でくるくると旋回していたガルーダが舞い降りてきた。翼を拡げれば軽く人間を凌ぐ大きさを持つ怪鳥だが、巨体のクロコダインと比較すれば鷹ほどの大きさに見える。

 クロコダインの忠実な部下であるガルーダは、一声鳴いてから嘴で一方向を指し示した。






 そこは、至って平和な漁村だった。
 町から離れた場所にぽつんとあるだけに、旅人もろくに訪れないような辺境の村だ。

 そんな村の唯一の宿屋兼食堂――より、正確に言うのであれば、宿屋として商売する日も食堂として商売する日の方が圧倒的に多いのだから、食堂兼宿屋と言うべきだが――に、珍しくも旅人が訪れた。ドアを開ける音を聞きつけた店の主人が、反射的に愛想笑いを浮かべて挨拶する。

「やあ、いらっしゃい! 旅の方かね?」

 ドアを開けて入ってきたのは、見慣れない少年だった。緑色の旅人の服を着た少年が、村の子ではないのは一目で分かる。
 少年は人懐っこい笑みを浮かべ、元気よく頷いた。

「うん、そうだよ。観光旅行中なんだ。水を一杯――いや、なんか疲れちゃったから甘めの飲み物ないかな?」

 そう言いながら、少年は硬貨を数枚カウンターにのせる。

「へえ、観光かい? こんな、何にもない村に物好きだねえ」

 驚くと言うよりも呆れ半分の気持ちで相槌をうちながら、店主は飲み物の支度にかかる。値段を提示する前から景気よく差し出された金額から、この子は上客と判断したせいもあり、その手付きはいつもよりも丁寧だった。

「何もないって、海が近くて景色がすっごくいいじゃないっすか。おれの村は山奥だから、羨ましいな〜」

「ふぅん、そんなもんかねえ」 

 生まれた時から海の近くで暮らしてきた男にしてみれば、山奥育ちの少年が海を珍しがる気持ちなど分かりはしない。だが、それでも羨ましがられれば悪い気がしない物で、たまたま暇な時間で手が空いていることもあり、気安く話に応じる気にもなる。

「そうだって! 知り合いの画家の先生が、ここら辺の景色がいいってすっごく自慢してたから来てみたんだ。多分、先月かそこらに来たと思うんだけど、知らないかな?」

「画家の先生? ははは、そんな人がこの村に来たことなんかないよ」

 そこは自信を持って、店主は否定する。
 なにせこの店は村でただ一軒の宿屋なだけに、旅人が来たのなら必ずやってくる場所だ。画家だなんてそんな珍しい旅人がいたのなら、見逃すはずはない。

「えー、そうなのか、がっかりだな。なんでも、その画家の先生がここら辺の海の面白い噂を聞いたって言ってたから、聞いてみたかったんだけど。
 おっさん、地元の人なら詳しいだろ? この村じゃなくってもいいから、ここら辺で不思議な話とか、知らないかな?」 

「そう言われても、ここは本当に何もない漁村だからなあ」

「じゃあ、ここじゃなくって別の村かな? ここから一番近い村って、どこだい?」

「それなら、ここから東に半日ぐらい歩いたところにも漁村があるけどね。まさか、これから行く気かい? それはお薦めしないけどな」

 親切心から、店主はそう忠告する。
 馬でも使わない限り、次の村に辿り着く前に日が暮れるのは明白だ。いかに世界が平和になったとは言え、旅人は夜間の移動を避けて村に泊まるのが普通だ。
 少年もそう思ったのか、渡されたジュースを飲みながらふむふむと頷いた。

「うーん、そうだよなぁ。そんなに離れているなら、一晩この村に泊まって明日早く旅だつ方がいいかなぁ」

「ああ、それがいいだろうさ。どうだい、ウチに泊まっていったら。今なら、いい部屋が空いてるよ」

 親切心と商売熱心さが合わさった誘いに、少年はパッと表情を明るくする。

「そりゃ、助かるよ。あ、でも、おれ一人じゃなくて……実は連れがいるんだけど……」

 後半は申し訳なさそうにそう言う少年の言葉を、店主は指して不思議にも思わなかった。ちょうど少年から青年にさしかかる年齢とは言え、ひょろりと細身のこの少年が一人旅と言うのはいささか不用心な話だ。

 見た目に寄らず金にも不自由していない様子だし、保護者なり護衛なりがついていてもおかしくはない。宿屋側としては、金払いのいい客ならば人数が増えるのはむしろ望むところだ。
 店主はにこにこしながら言いかけた。

「ああ、それならまだ部屋が――」

「おい、ポップ、話はついたか? いつまで待たせりゃ、気が済むんだよ?」

 扉をバタンと開け放ってそう言ってのけた男を見て、店主は思わず絶句した。

 一人ならば、まだ許容範囲だったかもしれない。だが、全身をフード付きのマントですっぽりと覆い隠した長身の男が四人も揃って店の中を覗きこんでいる姿は、怪しいを通り越して壮観ですらあった。
 しかも、そのうち一人は小山のような大男ときている。

「あっ、こらっ、話がつくまで入ってくるなって言ったろっ!? ――あ、あのさー、別に納屋でもいいから泊めてくんないかな?」

 怪しげな男四人を叱りつけてから、少年が店主の機嫌を取るかのように慌てて取り繕うが、もはや彼の心は決まっていた。

「エ、エート、残念ナガラ生憎予約で満杯ニナリマシテ……マタノオ越シをオ待チシテオリマス……」





「どーすんだよっ、宿屋を断られただろうがっ! だから、あんなに目立つなって言っただろっ!?」

 ビシッとヒムを引っぱたくものの、超金属と生身の肉体との差は歴然としている。力一杯叩いたところで、ダメージを受けたのは当然のようにポップの方だった。

 自分でやったくせに、腕を押さえて痛い痛いと騒ぐポップを呆れたように見ながら、ヒムは軽く肩をすくめた。

「いや、目立つなっていってもなぁ……そりゃあ無理ってもんだろうぜ、なぁ?」

 同意を求めるように、ヒムが脳味噌筋肉隊+1を振り返る。
 外見からして目立つのが避けられないクロコダインとヒム、ラーハルトの三人は顔と身体をすっぽりと隠せるようにフードのついたマントを羽織っていた。

 一応は変装のつもりではあったが、効果的とは言い難かった。
 とりあえず見た目の異形さは隠せても、こんな風にコソコソと顔を隠すだけでも怪しく見えるらしく、道行く人々が何やら遠巻きにこちらを見ている。

 特に、人間外の巨体を誇るクロコダインのマントは小山のように盛り上がっていて、目立つことこの上ない。

 唯一、人間であるヒュンケルだけはマントは羽織ってもフードは被っていないが、彼の水際だった美貌はそれはそれで周辺の――特に、女性陣の耳目を集めてしまっている。うら若い乙女やら人妻風の女性、果てはおばさんどころかお婆さんと呼ぶに相応しい年齢の女性が揃いも揃って、ヒュンケルをうっとりと眺めつつ、なにやらきゃあきゃあと小声で騒いでいるときている。

 正直、こんな四人を引き連れて、海辺の素朴な村をうろついて目立たない方がおかしい。
 実際、今も揉めている彼等を通りがかった人がジロジロと見ている。おそらく、家の中からこっそり見ている人の数はもっと多いだろう。

 これ以上道のど真ん中で騒いでいたら、周囲の注目を浴びるだけだと頭に血が昇りきったポップにさえ分かったらしい。チッと舌打ちをしたかと思うと、さっさと歩き出した。

「おい、待てよ、今日はここに泊まるんじゃなかったのか?」

「泊まろうにも、おまえらのせいで宿屋の主人に断られたんだろうがっ! それにいいよっ、もうこの村には用はねえから!」

 不機嫌そうにそう言いながら、ポップはズカズカと歩いて行く。その後を、脳味噌筋肉隊+1はしっかりとついていった――。 《続く》   


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