『一人っきりのサバイバー』
  
 

 目を覚ましたのは、身体に響く痛みのせいだった。
 容赦なく地面に落とされた衝撃は、決して少なくなかった。

「ぐ……っ!?」

 思わず、変な声が出てしまったのと同時に、激しい咳き込みが襲う。そして、自分でも驚くほどの量の水を吐き出していた。自分の中に井戸でもできたのかと思ってしまうほど、その量は多い。

 喉を逆流する水に溺れる――本能的に感じたその危機感が、知らず知らずのうちに身体を動かした。ほぼ仰向けだった姿勢をなんとか動かし、横向きになる。たったそれだけの動きを取るだけでも、一苦労だった。

 まるで身体が本来の十倍以上も重くなったように、のったりとして動かしにくい。それでも辛うじて横向きになれたことが、彼を救った。

「……ッ、ゴホッ……、ゲ……ッ!」

 えずきながら、汚物混じりの水を吐く。
 否応もなく吐き出された汚水がべちゃべちゃと落ちて、自分自身の顔と地べたを濡らしていく。だが、それが汚いと気にする余裕などまったくなかった。
 ひとしきり咳き込み、吐き出せる物を吐く――それだけを優先する。

 苦痛のみが突出したその時間は、幸いにもそれほど長くは続かなかった。水をある程度吐き出すと、きちんと空気を吸えるようになる。それと同時に、身体に力が戻ってきた。

「……く……っ!」

 荒い息を吐きながら、彼は起き上がろうとした。
 しかし、いつもならば苦も無く出来るはずのことが、今はどうしてもできない。ぐんにゃりと力の入らない身体をもどかしく思いながら、それなら、と思い直す。

 すぐに立てないのであれば、一つずつ進めば良いだけだ。
 彼は起き上がるのを諦め、身体を揺するようにして力を込める。
 まるで赤ん坊のように首を目一杯反らせて浮かし、全身の力を使って寝返りを打つ。腹ばいの姿勢になってから、ようやく手足に力を込めて四つん這いの姿勢になれた。

 そこまでしてようやく、不快な己自身との吐瀉物から距離をとれた。
 まだ立つ力までは無かったが、それでもその姿勢から地べたに座り込み、口元を拭うことは出来た。

 まだ口内に残る酸味の利いた味を吐き出そうと唾を吐き捨てる頃になってから、やっと息が整ってきた。
 その頃になってから、初めて彼の脳裏に疑問が浮かんできた。

(ここは……どこだ?)

 それは、本来なら目覚めてすぐに感じるべき疑問だったのかもしれない。
 だが、生死の境ではそれ以外のことは、常に二の次になる。落ち着きを取り戻してからこそ、自分の身や記憶を振り返るだけの余裕が持てる。

(おれは……確か……)

 復讐に失敗したのだ。
 真っ先に、その悔恨が胸を焼く。それは、恐ろしいまでの絶望感を持って彼の胸を潰した。

 そう長いとは言えない彼の人生で、最大の熱意を持って挑んだ挑戦だった。それを成し遂げることが出来るなら、自分の命を投げ出しても良いとさえ思っていた。
 なぜなら、彼にとって命などもう意味の無いものになっていたのだから。

 元々、彼は死ぬはずだった。
 魔王軍に攻め滅ぼされた町で、偶然にも生き延びていた赤ん坊……それが彼だった。

 なぜ、彼だけが生き延びたのか。
 それを知る者は、もういないだろう。両親はせめて彼だけでも生き延びさせようと力を尽くしたのか、それとも子供を置き去りにしてさっさと逃げ出したのか……それさえ、今となっては分からない。

 ただ、彼にとっては見も知らぬ両親に興味など無かった。
 彼にとっての家族は、自分を育ててくれた骸骨剣士や死霊系怪物達だったのだから。

 魔王軍の幹部でありながら、人間味を持った骸骨剣士バルトス……それが、彼にとっては父親だった。世間から見れば、彼もまた魔王軍の一員であり、『悪』であったかもしれない。

 だが、彼にとっては優しい父だった。
 惜しみない愛情を、そして人間としての知恵や言葉、教育も教えてくれた。ヒュンケルという名前を与えてくれて、息子として扱ってくれた。

 そんな父、バルトスを殺した者……世間では勇者と呼ばれ、誰からも尊敬を集めていたアバンこそが、彼にとっては『悪』だった。

 必ず殺してやる……!
 そう、何度誓ったことか。アバンは彼を魔物に攫われた子と同情したのか、なぜか必要以上に構い、弟子として一緒に連れ歩いた。それが、どんな思惑からの行為なのか、彼には分からないし分かりたくもなかった。

 彼にとって重要なのは、剣技を実際に習えたことだ。
 父はまだ早いからと教えを拒んでいたが、アバンはまだ子供である彼に対して熱心に剣を教えた。

 そこにどんな意図があるせよ、彼にとってそれは僥倖だった。
 勇者に教わった剣で、勇者を倒す――これ以上の復讐はないだろう。それを討ち果たす日を望み、彼は必死になって修行に励んだ。自分でも確実に強くなったと思ったし、アバンでさえそれを認めた。

 卒業の資格があると言い、アバンのしるしを授けると言い出したのだから。
 しかし――それがきっかけになった。
 今まで辛うじて押さえ込み、口には出さなかった父への思いが一気に噴き荒れた。

 機を選ぶだけの余裕もなく、彼はその場でアバンに斬りかかった。
 今から思えば、馬鹿な話だ。
 いくら卒業と言われたからといっても、それで即、師と互角になれたわけではない。

 ヒュンケルの渾身の一撃は、アバンにあっさり返された。
 場所さえ選ばなかった敵討ちは、この上なく惨めな失敗に終わった。アバンの返しの一撃で川に落とされた……そこまでは、覚えている。荒れ狂う水の中で、スウッと意識が薄らいだことも。

 泳ぎは一応習ったはずだったが、あの時はダメージが大きすぎてもがくことも出来ないままだった。
 このまま死ぬのだと、漠然と思ったことも覚えている。

 それらの記憶を鮮明に思い出したからこそ、彼は当惑せずにはいられない。
 ここがどこなのか、皆目見当もつかないからだ。

(なぜ、こんな所に……?)

 まず、目に入ってくるのは押し迫るかのようにそびえ立つ峡谷だった。それこそ見上げるばかりの険しい崖が、周囲を取り囲んだ盆地――そこが、彼がいる場所だった。

 ずいぶん変わった場所だと、彼は思う。
 広さは、そこそこある。盆地の内部だけでも、一つの村に匹敵する程度の広さはありそうだ。彼が倒れている場所は、荒野のごとく岩と石だけが転がる丘だった。

 そこだけは禿げ山のように小高く盛り上がっているため、周囲がよく見渡せる。もっとも小高いとは言っても、周囲を囲む崖には及ばない。丘の天辺に立っていて出さえ、周囲を閉ざされた閉塞感は強かった。

 盆地の大半は、森で覆われていた。
 ざっと見たところ、家や畑は見えないし、人の姿も見当たらない。

 しかし、こんな場所は初めて見る。
 これまでアバンに連れられ、様々な地を旅してきた記憶のどことも掠りもしない場所だった。

 さすがに旅の全ての地域を記憶しているわけではないが、ここまで特徴的な風景なら、忘れるなんてことはないだろう。川で流されて辿り着いたと考えるのも、不自然すぎる。

 なぜなら、ここには川など無かった。
 草木すら生えていない険しい丘の天辺当たりに、ヒュンケルはなぜか、居た。びしょ濡れの身体は確かに、ついさっきまで水につかっていたと訴えているのに、彼の周囲には川どころか足跡すら見当たらない。

 汚物混じりの水跡が残るのは、彼の周りだけだ。
 まるで、彼だけがぽとり空から落ちてきたかのような不思議極まりない現象に戸惑い、思わず空を見上げる。
 地べたに不自然な水滴が散れば、その正体が雨かと確かめるかのように。
 だが、それを見上げたヒュンケルは息を大きくのむ羽目になった。

「……ッ!?」

 いつからそこに居たのか――ヒュンケルの頭上に、異形の存在が居た。
 白い長衣を身にまとう、人型の存在が。
 ごく自然に、空中にフワフワと浮かんでいるだけでも尋常ではないが、それ以上の不自然さに満ちていた。

 なぜなら、その『存在』には顔がなかった。
 顔どころか、肉体すらない。

 背格好は長身の男性と大差は無いが、前が大きく開いた長衣の中は漆黒に満たされていた。それでいて、ただの闇ではない証拠として、双眸と中心部だけが妖しい光を放っている。

 魔物に育てられ、不死生物に見慣れた彼の目にさえ、異形すぎる存在だった。一目見ただけで、そいつがただならぬ魔物だと直感できる。

(……なぜ、おれはこいつに気がつかなかった!?)

 驚愕は、身を燃やす怒りと同時に襲ってきた。
 ヒュンケルは、すでに知っている。
 戦いの場に置いて、接近に気づかないということは敗北と同意だと。アバンとの修行の際、何度、不意に後ろを取られて悔しい思いをしたことか。

 だが、所詮、それらは稽古に過ぎなかった。
 確かに悔しくはあるし、腹立たしい。が、稽古で不覚を取ったからと言って、死に繋がるわけではない。

 しかし、実戦では違う。
 一瞬の油断が、死に繋がる。――ちょうど、ヒュンケルの復讐があっけない返り討ちに終わってしまったように。

 いくら溺れていたとは言え気絶し、先程まで無様に吐くことだけに気を取られていた自分の未熟さに、彼は歯がみする。こんな得体も知れない存在がすぐ近くに居たのに、気づきもしなかったとは。

 怒りを込めて、ヒュンケルはそいつを睨め上げる。
 まったく事情は分からないが、そいつこそが元凶だとヒュンケルは直感していた。

 溺れていた自分を、ここに連れてきたのはまず、そいつだろう。
 その理由などさっぱり分からないが、それが善意からの行動だったとはヒュンケルには絶対に思えなかった。

 本気で人を助けるつもりなら、地べたに投げ落とし、声もかけずにじっと観察しているなんて真似をするわけがない。

(こいつは、敵だ……!)

 何の迷いもなく、ヒュンケルはそう決めつけた。
 そして、心が決まれば、どう行動するかも決まる。

 無言のまま、そいつがゆっくりと降りてくるのを、ヒュンケルも無言のまま睨み続ける。言いたい文句や疑問がないではなかったが、今はそれらに気を散らす余裕などない。

 地面にすれすれまでそいつが降りてきた瞬間に、彼は動いた。
 自分のすぐ近くに転がっていた剣に、とっさに飛びつく。それは、アバンとの修行に使っていた自分自身の剣だった。馴染む剣の手応えに安堵感を抱いたのは一瞬、すぐさまそれを一閃させる。

 何度となく修行で繰り返した動きは、完璧だった。疲れ切った身体から絞り出せる、全ての力をそこに込める。
 アバン流剣殺法、最速の剣技・海波斬が繰り出され、白い長衣を袈裟切りにする――かと思った瞬間、金属音がそれを阻んだ。

「な……っ!?」

 思わず、驚きの声を漏らしてしまう。
 必殺のタイミングで斬りかかった不意打ちは、いとも簡単に受け止められていた。

 長い袖から伸び出た、異形の爪は容易く剣を受け止め、上回った。
 固い金属音と共に、折れた剣の切っ先が跳ね上がり、地面に落ちる音をヒュンケルは呆然と聞いていた。

 それは、本日二度目……大げさに言うのならば、ヒュンケルの人生で二度目の決定的敗北の瞬間だった。
 柄だけが残った剣を見て、呆然とするヒュンケルに対して、白い衣の男は軽く爪を払う。

 それは、攻撃でさえなかった。
 意図せずフォークに刺さった異物を払おうとするかのように、軽く払っただけのその仕草で、ヒュンケルは手ひどく地べたに投げ出される。あまりにも、地力が違いすぎた。

 それが分かったからこそ、ヒュンケルはカッと身を焼く怒りを感じる。自尊心を容易くへし折られた屈辱に、ヒュンケルは今度は我慢できずに叫んでいた。

「貴様……っ、何者だっ!?」

 叫びながら、ヒュンケルはそれが意味の無い質問だと理解していた。敵であることは確実なのだから、聞いたところで意味など無い。

 ついさっきまでのヒュンケルなら、敵と無駄に言葉を交わすぐらいなら、戦いに専念した方がいいと判断したことだろう。だが、今はもう戦うための刀は折れ、心も折れた。

 自分がこいつには勝てないと、嫌と言うほど思い知らされた。
 だからこそ、ヤケクソのように口走らずにはいられない。

「おまえが、おれをここにつれてきたんだろう!? なんのつもりだ……っ!? なぜ、おれの邪魔をするッ!?」

 自分で口にした言葉に煽られ、怒りがさらに荒れ狂う。
 そうだ――目の前の男が何者であれ、どんな意図があったとしたも、ヒュンケルにとっては迷惑な邪魔でしかない。

 確かに、ヒュンケルはアバンへの復讐に失敗した。
 だが、それはもう二度とチャンスがないというわけではないはずだ。さすがのアバンも、殺意を向けるヒュンケルを弟子として側に置くことはないかもしれない。もしかしたら、危険分子と見なされ兵士につかまり、罪人として裁かれることになるかもしれない。

 しかし、それでもチャンスはある。
 生きてさえいれば、再びアバンを狙う機会を獲得できる。いや、どんな手を使ってでも、成し遂げてやる。
 アバンへの復讐心は、より一層強まっていた。

「おれを元の場所へ戻せ! それとも、おまえはアバンを庇う気なのか!?」

 そう叫んだ時、初めて目の前の男が動きを見せた。
 漆黒の中の双眸が瞬き、かすかに笑いらしきものがこぼれる。だが、その笑いは聞き心地の良いものではなかった。

 その笑いには、明らかな蔑みが込められていたのだから。
 嘲笑……というよりは、愚かさに対する失笑と言った方が正解に近いかもしれない。だが、どちらにせよ、ヒュンケルの怒りを掻き立てるには十分だった。

「何がおかしいっ!? 貴様ッ、黙ってないで何か言えっ!」

 怒りのあまり、折れた剣で斬りかかる。
 感情のままの行動は、さっきの一撃にはるかに劣るものだったが、どちらにせよそれは無に終わる。

 剣が触れるよりも早く、白い衣の男はフワリと消えた。それは、比喩でもたとえでもなく、現実だった。

「……っ!?」

 思わず、ヒュンケルは動きを止める。
 アバンに鍛えられ、大人の剣士にも引けを取らないと自負しているヒュンケルに出さえ、その動きは見極められなかった。

 素早く動いて避けたのでは到底説明の出来ない速さで、そいつはかき消えたのだ。
 そして、驚愕に目を見開くヒュンケルの背後に、忽然とその気配は現れる。

「――!」

 とっさに振り向いた時には、真後ろに立っていた白い影はまたもすぅっと消えるところだった。そして、それと同時に、またも己の背後に新たな気配が感じ取れる。

「くっ、くそっ! くそおっ!?」

 瞬間移動しているとしか思えない動きを見せるそいつを前にして、ヒュンケルは闇雲に剣を振り回す。皮肉にも折れたせいで速まった剣筋だったが、それでさえ白い影を捉えることはできなかった。

 からかうように何度かそれを繰り返した後、白い衣の男はスウッと上へと浮き上がる。
 そして、手を伸ばして何かを落とした。

 攻撃かと、とっさにそれを躱したヒュンケルだったが、避けた後でその必要もなかったと気づいた。
 落とされたのは一振りの剣だった。
 ヒュンケルに当たらない位置に落ちた剣は、そのまま地面に突き刺さる。

「……何の真似だ……!? 貴様、いったい何を考えているんだ……っ!」

 困惑以上に怒りを載せたその質問にも、白い影は答えなかった。
 目をゆっくりと瞬かせ、空に溶けるように姿を消す。そして、そのまま二度と現れなかった――。







(あの男は、なんだったんだ……?)

 ヒュンケルがようやく動き出したのは、白い影が消えてからずいぶん経ってからのことだった。
 何度も不意打ちのように現れたり消えたりしただけに、また出てくるのではないかと思ったが、もうどこかに行ってしまったらしい。

 残された剣に、ヒュンケルは慎重に近づいた。
 もっとも、その剣は特に罠もない、普通の剣のようだった。たいして質も良くない、どこの店にも売っているような安物の剣だ。ある意味、ヒュンケルがアバンに与えられた剣と同類と言える。
 だが、その与えられ方が正反対すぎて、さすがに戸惑いがあった。

(……アバンは信用はできないが、質問にはいちいち返事をする男だったな……)

 アバンの行動は、ヒュンケルにとっては理解しきれないことも多かった。
 そもそも、なぜヒュンケルを弟子にすると言ったのかさえ分からない。はっきりと殺意を見せたのは今日が初めてとは言え、常にアバンに反抗的で敵意むき出しだったヒュンケルをなぜ弟子にしたのか、不思議でならない。

 実際に質問したことも何度もあるが、アバンはその度になんだかんだとはぐらかしてきた。運命を感じたからだの、将来の勇者候補の資格があるだの、突拍子もないことを言うアバンの言葉を、ヒュンケルは本気にしたことはない。

 だが、アバンは決してヒュンケルを無視することはなかった。
 むしろお節介なぐらいにヒュンケルに構い、あれこれと世話を焼くようなお人好しだった。

 もし、アバンがここにいたのなら、びしょ濡れのヒュンケルを見て風邪を引くだの大騒ぎし、着替えるようにとか、暖かいものを飲むようにと言ってくるだろうなと思い――ヒュンケルは強く首を振った。

 そんな風に考えるのは、馬鹿げている。
 いかにアバンがお人好しでも、自分を殺そうとした相手をそこまで気遣いはしないし、ヒュンケルだってそんなことは望まない。

 望みは、アバンへの復讐だけだ。
 原典の願いが、ヒュンケルの冷え切った身体に火を灯す。
 今日一日で、様々なことが一気に起こって混乱したが、根幹をなす願いを思い出したことがヒュンケルに力を与えた。

(そうだ……まずは、生き延びないと)

 それが、手始めだった。
 自分をここに連れてきたのはおそらくあの白い衣の男だろうが、彼の正体が何者だろうと、アバンとどんな繋がりがあろうと関係が無い。
 この状況で生き延びることが、先決だった。

 溺死を免れたとは言え、まだ水に溺れた脱力感の残る身体は重かったし、水に濡れたままの服は容赦なく体温を奪っている。今は肌寒さですんでいるが、日が沈む前に本格的に暖をとらなければならない。冷えは病気や、時として死に繋がることをヒュンケルはすでに承知していた。

 そして、あらためてヒュンケルは周囲を見回す。
 人の気配の感じられない場所だが、周囲の森からは鳥の声が聞こえてくる。ならば、おそらく鳥以外の動物もいると考えて良いだろう。その中に、肉食獣のような危険な生物が居ないとは限らない。

 と言うよりも、おそらく存在すると考えた方が自然だ。
 ならば、それらの動物からも身を守らなければならない。もちろん、食料や水だって必要だ。

 これまではアバンと旅をしていたから、それらのことを気にする必要はなかった。

 が――今、ヒュンケルは一人っきりだ。
 アバンから遠く離れた今、自分の力だけで生き延びなければならない。全ては、そこから始まる。

 生き延びてこそ、道は開ける。
 あの謎の白い衣の男に対しても、アバンに対しても、だ。

(見ていろ……! おれは絶対に、アバンへ復讐する……!)

 決意を新たにして、ヒュンケルは目の前にあった剣をその手にしっかりと握りしめた――。     END 


《後書き》

 捏造の原作以前、ヒュンケル編です♪
 ヒュンケルがミストバーンに拾われた後、どんな風に育てられたのかという捏造過去編ですね。

 個人的に、ミストバーンがヒュンケルに衣食住を与えて弟子にしたとは思えなくって……ほぼ放置しといて、ある程度強く育ったようならようやく兵士教育を施すという古代スパルタ式教育だったんじゃないかと前々から想像していたんです。

 というわけで、剣一本を手にサバイバルしている過去を捏造してみました♪
 ふっふっふ、個人的にサバイバル物のお話が好きで、ロビンソン・クルーソーを皮切りにフィクション、ノンフィクションと問わずに小説や漫画を読みまくってきたのを活用する時がついにやってきましたよ!

 ポップの過去編と同じく、これからは時々ヒュンケルの原作以前も書いていく予定です。


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