『秘密の寝顔』

   

「おーいっ!! おーいっ、起きろよーっ、いるんだろーっ?!」

 いささかうんざりした顔で、部屋の扉を叩いているのはヒムだった。
 実際、なんでこんなことをしなければならないのかと全力で思う。

 平和が訪れてから早三年。
 普段は平和なデルムリン島に住んでいるヒムだが、時々、人手が足りないからと呼び出されることがある。

 まあ、ヒムとて仲間の危機に手を貸すのはやぶさかではない。
 割と義侠心はあるつもりだし、人間に悪感情を持っていないヒムは、人間のために働くのも苦にならない。

 だが――力仕事の人手が欲しいからと呼び出されてみたら、パプニカ王宮の壊れた柱の代わりに一週間ぐらい支えながら立っていてくれというのは、ちょっとあんまりと言う物だろう。

 さらに、黙って立っているだけじゃ暇だろうから、ついでに見張りもやっといてくれだのという頼まれ方は、苦にならないとか嫌だとかいうレベルを飛び越えている。

 ――まあ、うかうかとノセられてやってしまった後で、何を言っても手遅れだが。
 いくらヒムが疲れを知らない上に、不眠不休でも大丈夫な金属生命体でも、さすがにきつかった。

 しかし、手を離せば城の土台が傾くかもしれないとまで言われれば、途中で投げ出すわけにもいかなかった。

 結局丸々一週間、立ちん坊のまま柱の代わりを務め上げたヒムは、工事による修復作業に一段落がついた瞬間、真っ直ぐにポップの自室へと駆けつけた。

 そろそろ仕事に出かける人間達が、忙しげに動き始める時間帯。
 まだ、他人を訪問するには少しばかり早い時間だが、理不尽な仕事を押しつけられてムカムカしていたヒムは遠慮もなく一直線にポップの自室へと向かった。

 途中で会った見張りの兵士に、大魔道士様は今日は珍しくお休みの日だからアポイントメントがない者には会わせられないのなんのとごねられたが、ヒムは強引に押し切った。
 大体、ヒムをパプニカに連れてきたのもポップなのだ、責任ぐらいはとってもらう。
 瞬間移動呪文を使えるポップなら、一瞬で世界中どこへでも飛べるのだから。

「おい、いい加減起きてくれっつーの。早くしないと、またあのお姫様に呼び出しをくらっちまうだろうが!」

 可愛い顔に似合わず、実にちゃっかりと遠慮なく人をこき使ってくれるパプニカ王女の恐ろしさは、たまにしか会わないヒムも身に染みきっている。
 かくなる上は、次の任務を言いつけられる前にさっさとデルムリン島に帰りたい。

 ヒムは何度も声を出して呼びながら、ポップの部屋の扉をノックをする。
 だが、惜しむらくはいくら頑丈な造りとはいえ、木を素材とした扉は全身が超金属で出来ているヒムにとっては、些かもろすぎたことだ。

 ベギイッ!!

「あ、壊れちまったな」

 世間ではこれを壊したと言う。
 が、人間社会にはいまだに馴れきっていないヒムはさして気にせずに、開いた(正確には開けた)穴から中を覗く。

 と、忌ま忌ましいことにいまだにベッドの中に横たわっている黒髪の少年の姿が見えた。 どうせ扉も壊したついでだと、ヒムは勝手に部屋に入って直接声をかけた。

「おい、いつまで寝てんだ、いー加減に起きろよ」

 半ば呆れつつ、ヒムはベッドを覗き込む。
 一人用にしては大きすぎるベッドの上で、ポップは気持ち良さそうに眠っていた。よっぽど深く寝入っているのか、あれほど大騒ぎしたのに全く目を覚ます気配が無い。

 眠りという物自体をほとんど必要とせず、まれに休んだとしても気配を感じると同時に即座に起きるヒムにしてみれば、呆れる程の無防備さだ。
 その反応のなさに拍子抜けしつつ、ヒムはふと思い出した。

 以前、ポップが昏睡に陥ってなかなか目覚めなかった時があったが、ひょっとしたら今もそうなのかもしれない。
 それを心配して額に手を当ててみたヒムだが、特に体温が低下している兆候はない。

 だが、近付いてみて初めて気がついたが、ポップの首筋やら鎖骨の辺りなどに赤い痣が見え隠れしている。
 いつもの服装と違って、パジャマは襟繰りがゆったりしているせいで、その辺がよく見えるのだ。

(なんだ? 怪我でもしたのか?)

 何の悪気もなく、ヒムは怪我の程度を確かめるつもりで何気なく手を伸ばした――。

 

 


(ん……ダイ?)

 額に触れるひんやりとした手を感じて、ポップは半ば寝ぼけながらも目を覚ました。
 その手が首筋の辺りに触れるのを感じて、くすぐったさに身をよじりながらも、いつものように無意識のその腕を引きよせる。
 が――ダイにしては、その腕は妙に冷たく、しかも堅かった。

「……?」

 さすがに不審に思って目を開けると――そこにいたのは、見慣れた相棒の姿などではなく、全身銀色の見上げるような大男。

 半ば自分の上に覆いかぶさるような格好でいるとは言え、それだけではポップにとって怯える原因にはならない。

「ヒム? なんでここに……」

 見知った仲間の姿を見て、驚くというよりは気抜けした調子で問いかけたポップだが、ヒムの手が自分の胸元辺りにかかっているのを見て、一気に顔色を変えた。

「うわっ?! な、なにしてんだよっ、てめえぇっ?!」

 真っ赤な顔になり、ポップは騒ぎ立てながら襟首の辺りをかき合わせ、ヒムから逃れようとする。
 それを、ヒムはつい、押さえ込んでしまっていた。

「ばっ、ばかっ、大声を出すなっ、また誤解とかされたらどーすんだよっ?!」

 冷静に考えるなら、こんな城の中枢から離れた塔部分にある部屋で、多少騒いだ所で他人の耳には届くまい。

 が、以前、ポップの悲鳴に予想外に人が集まってきた経験に懲りたヒムは、悲鳴を上げさせまいと咄嗟に口許を押さえつける。

「んんんーっ、んんっっ?!」

 声こそは小さくなったものの、それが気に入らないとばかりにポップがなおもいっそうにもがくので、押さえ込む手に力が入る。

 別にヒムはポップが騒がなければ口を封じる気などないものを、手を離した途端に騒ぎそうな雰囲気なだけに、手を緩められない。

 どこまでも諦め悪くポップがもがくせいで、ほぼ馬乗りの姿勢になりながらヒムは細心の注意を払って押さえつけていた。

「だーっ、少しは落ち着けっつーのっ!! オリャア、てめえになんかする気なんかないっつーんだよっ。んなとこ、人に見られでもしたら――」

 と、まるで最悪のタイミングを狙い済ましたかの様なタイミングで、空きっ放しのドアから明るい声と共に人影が飛び込んできた。

「ポップ〜ッ、もう起きた? 朝ご飯持ってきたから一緒に食べ…よ……」

 ダイの目が大きく見開かれ、手にしていたトレイが大きく傾いた。
 トレイの上に乗せられていた物が滑り落ち、スープの入った皿から、ミルクのたっぷりと入ったマグカップやらが床に叩きつけられて散り、落ちたパンは弾んで転がった。

 ダイの足にも少なからず熱い飛沫が飛び散ったはずだが、愕然と目を見張る彼は痛みや熱さすら感じていないらしい。

 最後にはトレイが落ちて、ガランガランと大きな金属音を響かせる。
 そして、その音の余韻が消えた時――魔神が降臨していた!!

「うっ、うわっ、ダイッ?!」

 室内だと言うのに、突風にも似た闘気の余波が吹き荒れ、危うく飛ばされそうになったポップが悲鳴じみた声をあげる。

 咄嗟に、ポップを掴んで飛ばされない様に押さえてやったのは親切心というものだが、そんなことなどしない方がヒムのためにはよかっただろう。

 髪の毛が逆立ち、普段のおおらかさなど微塵も感じられない冷たい目をした少年は、竜の紋章の刻まれた両の拳を強く握りしめる。
 ぎりっと歯を食いしばる音が、ヒムやポップの場所まではっきりと聞こえた。

「あ……あのよ? もしや、ちょっと、おまえさん、なんか勘違いしてないか? お、おーい?」

 声をかけてみたものの、ダイはヒムの言葉に何の反応も見せなかった。
 いきなり竜魔人化一歩手前まで闘気を高めた勇者様は、バーン戦でぐらいしか見せなかった殺気だった目をヒムに向ける。

「……ポップから離れろ…ッ!!」

 思わず後込みしたくなるような迫力に、ヒムは思わず息を飲む。
 バーンに相対した時に匹敵する恐怖が、ひしひしと込み上げてくる。

(オレ、今日こそ、死ぬかも……っ)

 一瞬、そんな弱気な思考がヒムの脳裏を過ぎるが、ポップの方はそんな恐怖など微塵も感じちゃいないらしい。
 吹き荒れる闘気をものともせず、声の限りに怒鳴りつけた。

「まっ、待てよっ!! 人の部屋の中で何をする気だ、てめえはっ?!」

(オレじゃなくって、部屋の心配かいっ?!)

 喉元まで込み上げたそのツッコミを口に出さずにすんだのは、ダイの視線のせいだった。


「ん? ポップが自分の手で始末したい?」

 どう見てもその目付きは本気としか思えないのが、恐ろしい。
 いかに呪文を弾き、大半の攻撃ではびくともしない強固な身体を持っているとは言え、勇者だの大魔道士の本気の攻撃を受ければ只では済まない。

 ダイとポップが二人そろって敵に回ったらどうしようかと、戦慄すら覚えたヒムだったが、幸いにもポップの方はその気はなさそうだった。

「そうじゃねえよっ、このバカッ! この部屋で暴れたりして壊したら、姫さんが怒るだろうがっ!!」

「あっ」

 その指摘に、ダイの全身を取り巻いていた覇気が霧散した。この状態であっても、レオナの名は有効らしい。
 怒りだけ支配されていた表情がコロリと変わり、いつもの子供っぽさを多分に残した無邪気さが戻る。

「そ、そっか、そーだよね、やっぱ。じゃあ、外へ出て続きをする?」

 ――無邪気な顔でも、行動にゃ変化はないらしい。
 真正面からそう聞かれ、ヒムは今度こそ心の底から絶叫していた。

「するわけあるかぁあああーーーっ!! てめえらっ、少しは人の話を聞きやがれぇえええーーっ」

 

 


 誤解というものは、ちゃんと真摯に、熱を込めて話せばなんとか解けるもの――とは、限らないようだった。

「……ふーん。じゃあ、ヒムってばポップが寝てるとこに勝手に押しかけて、寝込みを襲って押し倒してたんだ」

 ぷうっと膨れて、ダイはやけに不機嫌そうにヒムの話を要約する。
 ヒム的には、その言われ方は不本意だ。
 その通りではあるのだが、何かが違う。

 頭を抱えこむヒムの向かい側で、ダイの隣に座っていたポップもまた、妙に呆れたような目で隣にいる相棒をねめつける。

「ほー。それ、てめえに言える台詞なわけ?」

 皮肉たっぷりなその言葉に、ダイがちょっとだけ顔を赤くして目をそらす。

「えっ、え?! で、でも、おれっ、ほらっ、ポップが寝てからじゃなくて、ポップが寝る前に押しかけたんだよっ?!」

「同じことだろうがっ!! つーか、よりタチ悪いんだよっ、人の安眠時間を妨害すんじゃねえよっ! あの鬼姫さんがやっとくれた特別休暇なんだぞっ、日頃の睡眠不足を解消できるめったにないチャンスだっていうのに!」

 怒鳴るだけじゃ物足りないとばかりに、ポップはダイの頭を抱え込んでヘッドロックをかける。

「い、痛っ、痛いって、ポップッ、ゴメンッ、ゴメンってば、あやまるからそんなに怒んないでよ〜っ」

 魔法使いの力ではそうそう効き目があるとも思えないが、ダイは情けない顔で泣き声をあげた。
 それを無視して手をしっかりと固めながら、ポップはヒムの方をジロリと見やる。

「で、あんたの方も悪気はなかったのは分かったけど、人が寝てる時に勝手に部屋に入り込むなよな。ちゃんと起こせよ」

 それが人間の常識だというのなら、ヒムも否定する気はない。が、こんな一方的な言われ方は、かなりのレベルで不本意だった。

「いや、オレはちゃんと起こしたぜ、何度もな。だけど、おまえ、全然起きなかったじゃないか。いくらなんでも、あんなに騒いだのに起きないっつーのは、どうかと思うぜ」

 幾分皮肉を込めてそう言うと、ポップは自分の未熟さを指摘されたと思ったのか、ちょっとムッとしたような顔で言い返してきた。

「い、いつもはこんなんじゃねえよ、昨日はたまたま、ちょっと疲れることがあったから、起きれなかっただけだって」

「うん、無理ないよ、疲れても。ポップは昨日の夜、すっごくおっきな声だしてたし、いつもよりずっと――」

 一生懸命、フォローしようとするダイを最後まで言わせず、ポップは突如真っ赤な顔になって手に渾身の力を込める。

「てめえはそれ以上、余計なことしゃべんなぁああーーっ!!」

「いたたたたっ、いたっ、本気で痛いって、ポップッ?!」

 魔法の光を放っての全力だと、さすがにダイにも効き目があるらしい。
 何やらもめまくる二人を見て、ヒムは訳も分からずに首を捻る。

「おめえら……昨夜、なんかあったのか?」

「なんでもねえよっ!! とにかく、熟睡してどうしても起きられない時もあるってことぐらい、分かれよっ?!」

 しまいには何やら自棄気味に怒鳴るポップに、ヒムは当惑の色を隠せない。

「いや、分かれって言われたって……だいたい、オリャア、熟睡したことなんかないしよ」


「へ?」

「そうなの?」

 ヒムの答えがよっぽど意外だったのか、ダイもポップもそろって手を止め、じっとこちらを見つめてくる。

「元々、魔族は人間ほど睡眠時間を必要としないからなあ。それに、オレらみたいな疑似生命体は、眠る必要すらないし」

 目を閉じることはできるし、眠りに近い状態で休憩を取るのも可能だ。だが、完全に眠りに身を委ねる熟睡という経験は、ヒムにはなかった。
 そんな説明に、ポップは興味を持ったらしい。

「でもよ、全然眠らないってわけじゃないんだろ? なら、試してみたらどうだ?」

 ダイからようやく手を離し、ポップは好奇心に満ちた目で魔法の杖を手に取った。

「試すって、何をだよ?」

「実験だよ。疑似生命体は基本的に睡眠を取らないとはいえ、呪文による強制睡眠なら取る種族もいるって、前に習ったことがある。強制催眠呪文をかければ、一発で見分けがつくって」

「いや、オレは別に熟睡したいわけじゃないし、んなの興味もねえんだけど」

「なんだよ、ノリの悪い奴だなあ! 別に危険な実験ってわけじゃないんだし、すぐに結果が分かるんだ、付き合えって」

 話をそらしたい一心のせいか、魔法使いと言う職業柄のせいか、ポップはこの実験にかけては妙に熱心だった。

「いっぺんぐらい、熟睡してみりゃいいんだよ。そうすりゃ眠くて起きられない気持ちだって、分かるようにならあ」

 ……半分以上は、意趣返しの意味合いもあるようだが。
 だがまあ、これでポップやダイが機嫌を直してくれるならそれもいいかと、ヒムは妥協することにした。
 どうせ、デルムリン島に戻るにはポップかダイの協力が必要不可欠なのだ。

「しょうがねえなあ。じゃあ、もし眠っちまったら、後でちゃんと起こしてくれよ」

「ああ、分かってるって。じゃ、行くぜ? ラリホーマ!」

 杖の先から淡い光が生まれ、ヒムの額を包む様に広がっていく。
高レベルの者には効きにくい呪文だが、敢えて抵抗の意思を見せなかったせいかヒムの目から光の色が消えた。

「かかった……のかな?」

 疑問系で、ダイが呟く。
 人間や動物の場合、催眠呪文にかかった時は、耐えきれない眠気を感じ、目を閉じてその場に眠り込んでしまう。

 だが、ヒムの瞼は開いたままだし、身体が脱力した風でもなくまっすぐ立っている。
 効かなかったのかと、ダイとポップがそろって不思議そうに首を傾げた時、その変化は起こった。
 なんの前触れもなしに、ヒムの身体はぐにょりと溶けて床に広がった。

「う、うわぁあっ?!」

「なっ、なんだあぁっ?!」

 思わずドン引きしてしまった勇者と大魔道士は目の前の光景を見て、何度となく目をこする。

「う…そだろ?」

 銀色の輝きを見せる液体状の塊が、でろんとだらしなく広がっている。すでにヒムの原形どころか、生き物とも思えない姿だ。
 だが、生きている証拠に、かすかに動いてはいる。

「ヒム、大きなバブルスライムになっちゃったのかな?」


「なっ、ダイっ、不吉なこと言うなよなっ?!」

 なんせ原因が自分だと分かっているだけに、ポップは動揺して大声で怒鳴り返す。
 が、言われば、この不定形な固まり具合は、バブルスライムに酷似している。

 と言うよりは色合いや量から見て、巨大なはぐれメタルに近いかもしれない。
 そう思い至って、ポップはとあることを思い出した。

「そういや……前に先生から、メタルキングは寝ると溶けちゃうって聞いたっけ」

 正式の授業で聞いた話ではない上に冗談半分の口調だったし、あまり本気にしていなかったが――どうやら真実だったらしい。

 思えばブロキーナ老師から、ヒムは今や生命体となり、メタルスライムやはぐれメタルなどに近い命を持ったと説明を聞いた覚えもある。

「まさか、こーなるとは思わなかったなぁ……」

 ヒムが寝たら、落書きでもしてからかってやろうかぐらいの悪戯心を持っていたポップだが……さすがにここまでひどい事態になるとは思いもしなかった。

「それにしても……どうする、ポップ? ヒム、このままじゃまずいんじゃないかな?」


 ダイにそう言われて、ポップはハッと正気に戻った。
 確かに、このまま放っておくわけにもいかない。

「溶けて下の部屋とかに染み出しちゃったら、レオナ怒るんじゃないかなあ?」

 ダイの心配はどこか的が外れてるとは思ったが、とりあえずそれどころではない。
 ポップはもう一度杖を構え、呪文を唱えた。

「ザメハ!」

 覚醒呪文がかかった途端、さっきと逆の現象が起きる。
 ぐにゃりとした塊がみるみるまとまった持ち上がり、人型を取ったかと思うと、ヒムの姿へと戻る。

「おい……聞こえるかよ?」

 少々心配そうにかけたポップの声に反応して、ヒムはぱちりと目を開けた。

「お? もう終わったのかよ?」

 その口調はいつものヒムであり、なんの変化もない。
 だが、ポップは彼にしてはずいぶんと遠慮がちに、用心深く問いかけた。

「よ、よお、ヒム。あのよー、どこか具合が悪くなったところとかないか?」

「いんや、別に。ちょっと、意識が途切れただけだが、何かあったのか?」

 そう聞かれて、ダイとポップは思わず目を見合わせる。
 ダイは素直に、ありのままをしゃべろうかなと思ったのだが、ポップがやたら怖い目で睨んでいるので、何も言わないでおくことにした。

 ……とりあえずは。
 かくしてヒムの寝顔は、二人だけの秘密となったのである――。


                                     END


《後書き》
 3500Hit記念、J丸様リクエストの『ヒムとポップのドタバタ話』ですっ。ダイが大幅にでばっていますが(笑)ダイとポップが昨夜、何をしていたかは皆様のご想像にお任せします?
 『お風呂にご用心♪』ではヒムちゃんがさんざんひどい目に遭ってましたので、今回は――さらにひどい目に遭わせちゃいましたっ(笑)

  寝ると溶ける身体は『トルネコの冒険』のゲームを思い出して設定しましたっ。もちろん、捏造度100%です!
 寝た時に怪物の見せる寝顔の差が面白くて、筆者は当時全種族にラリホーの杖をふりましたっ(<-物好きな奴)
 しかし、ホントにドタバタしてるだけで、まとまりのない話ですねー。ご、ごめんなさいっ、こんな話でよかったんでしょうか……? (オロオロ)

 

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