『マイ・スィート・ディジー おまけ……花園での10分間』

 
 

「今日のポップ……すごく、いい匂いがする」

 ポップをしっかりと抱きしめながら、ダイは彼の耳元に囁いた。
 動物並に研ぎ澄まされたダイの五感は、敏感に匂いを感じとれる。普通の人には分からない匂いの変化さえ、ダイには手に取るように分かる。

 ダイはいつだって、ポップの匂いが好きだ。だが、ベッドの上でだけ嗅ぐことのできる、この匂いは特別に好きだ。
 欲情を感じた時にだけ発する、なんとも言えないうっとりするような官能的な匂い。それはいつもダイの雄の本能を刺激するものだし、それだけで興奮を誘う。

(あの金髪ワカメも、この匂いを嗅いだのかな?)

 ちろりと胸を嫉妬の炎が炙るが、それを沈めるようにダイはポップの細い首筋に顔を埋め、目一杯匂いを吸い込む。
 そうするだけで何かを感じるのか、腕の中のポップがわずかに身を震わせるしぐさが、またたまらなかった。

「早く……シテ、くれよ……」

 珍しくポップから急かすのは、やはり制限時間が気になるせいだろうか。
 なんといっても、たったの10分しかないのだ。まあ、ダイにしてもその時間制限が気にならないでもなかったが、せっかくのこの機会を楽しまない手はない。

 真っ昼間の、青空の下で。
 しかも、ポップからこんな風に積極的に誘ってくるだなんて、そうそうあるとは思えない。
 ダイはわざとゆっくりと、舌を這わせた。

「そんなに焦らされていたの? 可哀相に…」

 細い首から、鎖骨にかけてのラインを楽しみ、顔を押しつけるようにして胸までの道程を楽しむ。

「ポップの乳首、すごく真っ赤になってて、おっきくなってるよ。痛くない?」

 確かめなかったが、きっとその言葉でポップの顔も赤く染まっただろう。
 本来なら腰を据えてじっくりと攻めたいところだが、なにしろ時間がない。
 ぺろりと、舐めるだけにとどめる。だが、たったそれだけなのにポップは辛そうに吐息を漏らす。

「ん……ぅ…ん……っ」

 感じすぎたせいか、立っているのも辛そうに見えるポップに、ダイは優しく声を掛けた。
 

「ポップ、横になった方が楽じゃない? あの寝椅子に座ったら?」

 ポップの身体を気遣ってダイはそう言ったのだが、ポップは強く拒絶した。

「あんなとこでなんか、ヤだ……っ!」

「でも、ポップ、もう足が震えているじゃないか。
 それなのに、最後まで立っていられる?」

「……ヘーき、だよ。こうやって、ちゃんと掴まってるから……」

 そう言いながら、ポップは数歩下がって四阿の柱に寄り掛かる。あくまで寝椅子を拒否するポップは、立ったままでことを進めたいらしい。
 倒れないようにと、後ろ手でしっかりと柱にすがりつくポップはまるで拘束されているように見えて――視覚的にクルものがある。

(……なんか、これってある意味で、すっごくレイプっぽいかも……)

 思わずごくりと生唾を飲み込みながら、ダイはポップの前に跪いた。
 明るい太陽の下、中途半端に服を脱がされたままのポップの姿はひどくアンバランスで、それだけに扇情的だった。

 夜、ベッドの中でコトを行う時は、当然のことながらランプの明かりが頼りだ。もっと明かりを強くしてばっちり見たいと、前にポップに頼んだことがあるが――その瞬間に思いっきりメラゾーマを打ち込まれた。

 しかも、その後、ダイが泣いて謝ってもうそんなことは決して言いませんと土下座するまで、ポップは口も利いてくれなくなったものである。
 が。
 今は、白日の下にポップの全てが晒されている。

 普段は服に隠された色白の肌も、人目に触れるのを避ける秘められた場所も。
 薄い若草を軽く手で梳き、すでに興奮して立ち上がっている雄芯に手を添えて、ぱくりと口にくわえる。
 途端に、ポップが動揺したような声を上げた。

「く、口ですんのかよ……っ?!」

 ポップのその反応が、ダイにとってはたまらない。
 ダイが奉仕している立場なはずなのに、まるでポップを蹂躙しているかのような征服感が込み上げてくる。

(初めてじゃなくせに。ホント、ポップってウブすぎて可愛いよなぁ)

「うん。いいだろ? 手でするより、早くいけるよ」

「で、でも、今日、おれ……っ、我慢できなくて、おまえの口にだしちゃうかも……っ」


 ものすごくどうでもいいことを気にして遠慮するポップに、ダイは笑いを噛み殺すのに苦労した。
 そんなことは何の問題にもならない。ダイにしてみれば、むしろ役得だ。

 ダイには、ポップの精液を飲むことになんのためらいもない。というか、どちらかと言うと積極的に飲みたい。
 だが、ポップは恥ずかしいからとか、まずくて汚いからやめろだとか、なんとなく嫌だからと言い張って、なかなかその甘露を味あわせてくれない。

 舌での愛撫までは受け入れてくれても、肝心の射精の時に飲み干されるのは嫌がる。
 だが、今なら公然とポップの物を飲み込めるかと思うと、ダイは自然と張り切っていた。


「安心して。ポップのものなら、全部、飲んであげるから」

 むしろ嬉々として、ダイはポップの茎に舌を這わせる。
 鈴口から滲み出る透明な液体すら逃さないとばかりに熱心に舐めとるダイに、ポップは顔を真っ赤にしていやいやと首を振る。

「べっ、別に飲まなくっても……あ…っ……いい、だろ? ただ、処理、してくれれば……ぅ…ぅうっ…」

 抗議の言葉が喘ぎ声に変わるまで、そうは時間はかからなかった。
 だが、これだけ感じているからには簡単に射精するかと思っていたのに、なかなかポップは達そうとしない。

「……んっ…あぁ……早…く……っ」

 辛そうに身をよじるポップに舌で刺激を与えながら、ダイは少し考えた。
 男性の生理は、単純なようでいて妙に繊細だ。
 焦され過ぎてしまってタイミングがずれてしまうと、そう簡単にはいけなくなってしまう時がある。

 薬で無理やり掻き立てられた興奮なら、なおさらだろう。
 それに、慣れもあるのかもしれないとダイは思う。
 ポップが後孔で快感を得てほしいと心から望むダイは、なんだかんだいって調教じみた行為を今まで散々仕掛けている。

 前への刺激だけではなく、後への刺激もなければ興奮を極められない……ポップの身体が少しずつそう傾くように、熱を入れて開発してきたのは他ならぬダイだ。


 そろそろ、条件反射的に後ろの刺激がなければ達せなくなってもなんの不思議もない。
 いつもなら焦らず、時間をかけて愛撫を繰り返してゆっくりと高ぶらせるところだが、今日ばかりは時間がない。
 ダイはポップのお尻の方に手を回し、中指を狭間へと食い込ませた。

「……っ?!」

 ダイの意図を悟ってか、ポップが身体をびくんと強張らせるが、ダイはそれをとろかせるようにゆっくりと指で狭間を探った。時間もかけず、ダイの指はすぐに目的の場所を探り当てる。

「ポップ……身体の力を抜いて。後ろも、掻き回してあげる」

 くるりと円を描く動きで、ダイの指はポップの後孔の縁をやんわりとなぞる。

「大丈夫だよ、最後までしたりしないから。ただ、気持ちよくしてあげるだけだよ――だから、足をもう少し開いて」

「……く、くそ……っ、ちょーしに、のりやがって……」

 泣きそうな顔で悪態を言ったところで、かえって興奮を掻き立てられるだけだ。それに、どうしても早くイキたいと望むポップは口とは裏腹に、素直に足幅を広くしてダイの手を受け入れやすい姿勢を取る。
 そのご褒美とばかりに、ダイの指はポップの前の部分から会陰へと何度も行き来する。


「ひ…っ?! あ…っ…やぁだ……っ」

「ポップ、あんまり大きな声を出しちゃダメだよ。表にまで聞こえちゃうよ」

 そう言いながらも、ダイはこのぐらいの声が生け垣を突き抜けることはないと確信していた。
 声を封じるためというより、ポップの文句を黙らせるための方便なのだが、効果はてきめんだった。

 顔を真っ赤にしたポップは、両手で自分の口を押さえて必死に声を堪えようとする。が、そのせいで柱を支えられなくなり、より腰が落ちてダイの手が一層動きやすくなったことに、ポップ自身はまるで気がついてなかった。

 ついでに言うのなら、声を抑えようと必死に頑張るその姿がまた、かえって色っぽくて男の気を惹くものだとも気づいていないらしい。
 敏感な部分を何度もなぞると同時に、ポップ自身の先走りの蜜を後孔へと送り込む。後ろが濡れた頃を見計らって、たっぷりと蜜を含んだ指をポップの中へと潜り込ませた。

(すごい……っ、トロトロだ)

 まるで挿れられるのを待ち構えていたかのように、ポップの中は熱く、しかも心地好く締めつけてきた。
 指などではなく、ダイ自身のものを挿れたらどんなに気持ちがいいだろうと思ったが、なんとかその欲望は押さえこむ。

 そこまでやったら時間オーバーしてしまうと考えるだけの頭は、さすがのダイにもあった。
 その代わりのように、ポップの分身をしゃぶる行為にさっきまで以上の熱が籠る。ポップの内部を味わおうとする指の動きも、いつもよりもいささか強引なものになった。

 だが、さんざん焦らされて追い詰められているポップにとっては、その強引さがかえってよかったらしい。

「……っ…ふぁ…っ――ああっ」

 ガクンとポップの腰が崩れ落ちそうになり、縋るような手がダイの頭を抱きしめる。ポップ自身は倒れないようにと必死なだけだろうが、その必死さがダイには心底求められている証しのようで、なおさら愛撫に熱が籠る。
 ポップの中の、一番感じる部分に指を当てて強く押した瞬間、口の中に熱い物が弾けた。


(イッたんだ……)

 満足しながら、ダイは途端にぐったりと脱力した身体を支えてやる。そして、名残惜しいと思いながらもポップの中から指を抜き、魅惑的な茎からも口を放した。
 ダイ的にはまだまだこれからたっぷりとしたいところだが、今回の目的はあくまでポップの中の熱を開放することだけだ。

 余計な愛撫を与え過ぎては、逆効果になる。
 少しの間、ポップは荒い息をつきながらダイにしがみついていたが、息が整うとあっさりとその手を放した。

「……おーし、これですっきりした! さっ、ダイ、次の準備に移るぞっ」

 すぐさま気持ちを切り替え、ポップは乱された服をてきぱきと整える。
 ポップが元気とやる気を取り戻したのは、ダイにとっては嬉しいことだ――嬉しいことは嬉しいのだが…………。

「ダイ? おまえ、なんでそこにうずくまってんだよ?」

「いや、その……いろいろと」

 そこは、男の事情ということで、察してほしい。男には、どうしようもなく前屈みになってしまう瞬間というのも、あるものなのだ。
 だいたい最愛の人に直接触れて、あんないい反応を見せられて、それでも平然とできる程ダイは枯れきってはいない。

(こ、これ……っ、ちょっと、きついかも)

 身体の熱を持て余すポップを助けたくて、ポップに気持ちよくなってほしいとサービスするあまり、自分自身の熱を抱え込んでしまった――。
 ちょっと、というかかなりのレベルで間抜けな話だが、ダイのその苦悩はまるっきり報われないわけでもなかった。

「あー……。そっか」

 ダイが押さえている場所を見て、ポップはやっと気付いてくれたらしい。ちょっと顔を赤らめながら、耳元に囁いてくる。

「悪いな。けど、埋め合わせは後でしてやるから……もう少し、おれに力を貸してくれよ」


 ポップのその言葉と恥じらいを含んだ表情ほど、ダイにとって素晴らしいご褒美なんてない。
 それにそもそも、ダイにはポップの頼みを断る気なんてない。

「うんっ、おれにできることならなんでもするよ。おれ、なにすればいいの?」

 より熱を得て力強く立ち上がりかける分身を苦労してなだめつつ、ダイはなんとか立ち上がった――。
                                    END


《後書き》
 ダイとポップだけが取り残された花園での、密かな10分間の秘め事です。
 つーか、○ェラチオだけで終わってますが。 実はこれ、本編に組み入れるつもりだったんですが、そうしたら中年男の企みや駆け引きのテンポが悪くなるのでおまけに持ってきました。
 それにしても、こんないっぱいいっぱいな状況で、ダイってばよくもまあ剣技をふるえたものですね(笑)
 
 

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