【刹那の君】 |
今は荒れる海流と島を包む乱気流の為、住むものは何も無いまま世界に取り残されている。 背の高い、短い黒髪。 意思の強そうな眉と強い力を秘めた黒曜石の瞳が見詰める先に、 佇む人影があった。 「久しぶりポップ」 二人は互いに歩み寄り、固く握手をした後に肩を叩いて抱擁した。
「こっちは今はちょっと劣勢かな、質より数で圧してくるから、でも大丈夫」 「本当に大丈夫か?」 「そうか…でもヤバかったら直ぐに俺を呼べよ?」 「ポップこそ、必要なら俺を呼ぶんだよ!」 今、地上と魔界は同時に危機に晒されていた。 魔界ではヴェルザー本体の封印が融けかけていて、八分程解放されたその凄まじい力は魔界の全土を激しく震撼させた。 封印が崩壊しつつある事を見越して、地上ではヴェルザーの配下であるキルの本体と名乗る魔族が、
その圧倒的勝利を目前にしながら滅びたバーンの姿を。 そしてその最大の要因――己が地上侵攻にて最も難関の敵と成るだろうモノ…。 勇者とその仲間達の絆。 恐るべきは、 勇者とその傍らに立つ魔法使い。
かといって、各個撃破していては両方とも手遅れとなる。 苦渋するダイに、此方の戦力も二分割した上で、 ヴェルザーの思惑を充分読んだ上で、
各々かつての仲間を配置し、次代を育成。 戦力不足を補う。
しかし本当に敵に知られてはいけない機密や、作戦報告などは、 ダイとポップが直接逢い話し合う。
確かに戦局は一進一退、その指導者二人が抜ける事は一瞬足りともあってはいけない事だが……。
ダイとポップは邂逅する。
ただのダイとポップとして。 それはどんなに新たな仲間が増えたとて、今右腕として支える存在が他に隣に在ったとて。 互いを求める変わらぬ二人の思いがそこにあるから。 三年前、違う世界に分かたれる時、
しかし、かつて何処へも行くなと言った筈のその同じ口で、 「魔界へ行けよ、お前にしか出来ねぇ事があるんだ。 引き裂かれる痛みを知っている。 昔より強くなった絆。深くなった存在。 けれど、其れでもポップは世界を選んだ。
本当は崩れ堕ちてしまいそうな程、心は震えた。
天の祝福も、人々の理解も、魔界の居場所も、 勝ち取らなければならない。
ポップは繋いだ手を離した。 『行って、三世界にお前を知らしめてやれ』 正規の竜の騎士、バランでさえ成し遂げられなかったヴェルザーの完全鎮圧を。
己の唯一と。 身も魂も全てを傾けた勇者の為ならば。
三年たって、幾分多種な感情を慮ばかる事が出来る様になったダイは、 だからこそ、この最終決戦の片が着くまでは、
海に半分沈む夕陽は短い1日の終わりを告げている。 ポップは地面から立ち上がり、裾を払う。 その仕草は暗様に別れを示していて、 「ポップ」 ダイは数舜苦し気に表情を歪める。 本当ならば、 傍に在りたい。 その聲を、鼓動を、体温を ……一瞬たりとも。
地に座ったままのダイに、ポップは右手を差し伸べた。
その手を、繋ぐ。
一瞬、解放しかけた焦げ付く様な荒れ狂う感情は、ダイの鳩尾の奥で押し潰され、
彼には珍しく数多の感情を映して閃き、
「早く、平和がくればいいね」 「俺たちで、こさせるんだ」 「うん、そうだよね」 上から降りてくる顔を、ポップは拒なかった。 ただ、繋いだ互いの掌に瞬間
「また来年」 「此所で」
明日は知れない。
ポップの言葉に、 太陽の如く晴れやかに笑った。
【終】 素敵なお話を、見ていただけましたか!? ふっふっふっ、こ〜んな素晴らしい作品を一番最初に見れて、しかも見せびらかす機会に恵まれるとはっ!! ああ、サイトにこんな楽しみがあったとはやるまで知りませんでしたよっ、毎日が新発見の連続ですぅっ。
|