仮題『言えない言葉』 

  



きっかけは、レオナに呆れたように言われた一言だった。


「本当に、ダイ君ってポップ君のこと大好きよね」


それ自体は、以前から・・・バーンと戦っていたころからよく言われた言葉だ。
レオナだけじゃなく、マァムからもクロコダインからも、バダックやマリンや・・・・・・それこそいろんな人に言われている。
言われ続けてきた言葉に、当たり前のように答えようとして、言い慣れた言葉を口にしようとして・・・・・・答えられないことに気づいた。



鼻をくすぐるいい匂い。
ほわほわとたつ湯気までおいしそうだ。
湯気の向こうには親友の姿。
そして、焼きたてのアップルパイにクッキー、チョコレートケーキにシュークリーム、カスタードプリンにワッフル。
思わず駆け寄った。


「うわ〜おいしそ〜」


お腹がぐーぐー鳴っているのも、うっかりするとよだれが垂れそうなのも自覚済みだ。


「これっ!これ!ポップが作ったんだよね?!」
 

問いかけというよりも、確認。
黄色いバンダナを揺らして苦笑するようにうなずく彼に、思わず目を輝かせた。
ただのお菓子じゃなくて、ポップが作ってくれたものって確実になった瞬間に、さっきまで以上においしそうに見える。


「ダイって甘いもの大好きだけど、ポップが作ったお菓子だと、本当に嬉しそうよね」
 

笑いながらもマァムの言葉に「当たり前だよ」
そう返す。
 

「だって、俺、ポップの作るお菓子が・・・・・・」


あれ?「ポップの作るお菓子が・・・・・・」
続きが、どうしても言えなかった。
 




「おっかしいなぁ〜」


草の上に寝っ転がると青い空に白い雲が目に入る。
いつもだったらそのまま昼寝してしまうのだけれど、今日は目がさえている。


「何で言えないんだろう・・・・・・」

好き

今まで散々言ってきたはずの、たった二文字のこの言葉がなぜ言えないんだろう。



不安になったときや絶望に陥ってしまったとき、立ち上がる力をくれた。
いつも、当たり前のように隣にいてくれた。
魔界に堕ち、血と殺戮の中で「竜の騎士」
という名の殺戮兵器にならずに済んだのは、記憶中の彼がいたから。


怠け者で。
怖がりで。
痛いのや苦しいのは大嫌い。
それなのに、魔界まで追ってきてくれた。
 

お調子もので。
女の子に弱くて。
おっちょこちょいで。
意地っ張り。
「大魔道士」
としての期待が高まるにつれ、次第に消えていった言動。
気を抜いた時にだけ見せるその姿に、気を許されていると知ってどれだけ嬉しかったか。



勇者を目指した時からずっと一緒にいて、いろいろなことをともに乗り越えてきた親友。
互いを補い合いながら、背中をあずけて戦うことのできる相棒。
いつも隣に立っていてほしいし、彼の隣にいるのも自分だけでありたい、そんな唯一絶対の存在。



一度は離してしまったけれど。もう、二度と離さない。離せない。



それなのに。
 

「・・・・・・なんで言葉に出せないんだろう」


答えはまだ、出ない。
 

 



 紗綾様から頂いた、ダイポプ話です! 『ダイのポップへの思いが、友情からはみ出した瞬間』がリクエストでしたが、こんなに可愛いお話にっv
 まだ、自分の感情をはっきりと分かっていないのに、こだわりやもやもやを感じて悩むダイが、もうジタバタしたくなるほど可愛いですよっ?!


 しかも、大切な一言を反転させるという細かい技に、もううっとりvv いまだに反転技術が身に付いていない(笑)筆者には、考えつかない技法ですvv
 紗綾様、素敵なお話を、どうもありがとうございましたっvvvvv

 

 

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