《竜の子供は夢を見る》



一つ、そして、また一つ

はらり、はらりと雪が散る

氷の華に包まれて、人と竜の子供は夢を見る

互いに身を寄せ、温もりを伝え


とてもとても楽(カナ)しき夢を――――――――――



ベッドの中で、寝ているポップ
彼を見つめる一人の子供

小さな呼吸音と共に
毛布は小さく上下し
頬に差す微かな赤み

そんな彼を、ベッドの傍で
飽きる事無く、見つめ続けている。
 
軽く指を伸ばし、頬をつつく。
彼の息吹が、指を通して伝わり
自然と、口元に笑みが浮ぶのを感じた。


彼の寝顔が好きなんだ。


普段の騒がしさなど微塵も感じさせない姿。
無邪気でさえある、安らいだ表情は
俺を優しさで満たしてくれる。


彼の笑顔が好きなんだ。


ゆっくりと体を起こし、
俺の存在に気が付いて、
柔らかく微笑みを浮かべてくれる。
感じられる、冬の陽だまりの様な暖かさ。
心が愛しさに満たされる。
 
窓の外は雪景色。
静かに過ぎる時間。


それは共に旅をしていた頃の、今はもう遠い−−−−−愛(やさ)しい記憶(思い出)。


そんな些細な時間(シュンカン)が、何物にも代え難かった。

人間を愛し、人間ではない自分に差し出された暖い手のひらに、抱いてた孤独は霧散して

自分は居場所(ナカマ)を手に入れた。



―――――――――――凄く、凄く、幸せだった。




だから、忘れていた。




――――――――――――世界が、そして神々が、こんなにも残酷だという事を





剥き出しの地に、倒れ臥すポップ
彼を見つめる竜の子供

その瞳は閉じられ
その顔は青ざめて
その体は熱を失い

そんな彼を、微動だにせず
目も閉じずに、見つめ続けている。

手を伸ばし、唇を軽く拭う。
彼の血は、何処までも冷たくて
自然と、眦に涙が浮ぶのを感じた。


彼の寝顔が好きだった。


ころころと、表情を変えて
それでも、小さく寝息を立て続けている姿。
寝てるにも関わらず、忙しげな様子に
俺は、苦笑を浮かべていた。


彼の笑顔が好きだった。


ゆっくりと目を開け、
寝ぼけ眼で此方を見つめ
俺がいる事に気付いた時、微笑みを返してくれる。
そんな仕草が大好きだった。

彼の笑顔も、彼の寝顔も
もう、二度と見ることは無い。



見ることは――――――――――出来ない。



彼らのいる場所は山の奥深く。
追い立てた神々への憎しみも
再会が叶わなかった、かつての仲間等への寂しさも無く
ただ、傍に在る彼への愛(カナ)しさだけが胸に逆巻いて。


――――――――白く、重く、雪が降り始めた。

冬の象徴を、何も感じず眺めやる。
ただ、ポップは寒いだろうな、とだけ思った。

閉じられた瞼に唇を這わせた。
開かぬ瞼にそっと口付ける。

早く起きて欲しい、と
早く見つめて欲しい、と

早く――――――――早く――――――――


それだけを、願って。


迎えに来たと、帰ろうと、そう言ってくれた親友の手を取った…神々の手を振り払いし裏切り者である自分に−−−−−−最早、竜の力などある筈も無く
まして魔法力も尽きかけていれば、
彼に奇跡の血を与える事も出来ず、炎を燃やす事すら叶わず
冷たくなり行く、ポップの体を暖めてやる事が出来なかった。

だから、己の身体にポップを手繰り寄せる。
少しでも、寒さから守るように。
少しでも、彼が凍えぬように。


もう、何も感じてはいないのだろうけれど


もう、彼は死んでいるのだけれど


それでも…それでも…………



閉じ続けるポップの瞳。


舞い降りる雪は、臥している彼もまた白く染めようとする。
瞼へ触れた僅かな雪は、体温の残滓に溶け去り
頬へと、一筋の雫が流れ伝う。
それはまるで、涙のように。



―――――そういえば、初めて出会った頃のポップは、よく泣いてたっけ………



過ぎ去った幸せだった日を思い返し

一筋だけ零れた自身の涙を感じながら

ゆっくりと、竜の子供もまた目を閉じた――――――――




はらり、はらりと氷華(ユキ)が散る


まるで寝た子を起こさぬように


優しく氷華(ユキ)は舞い降りる


降り頻る雪の中、人と竜の子供は夢を見る



寄り添い合いながら、寒さを凌ぎ



けして覚める事無き夢を―――――――――――



《END》


 

  じゃじゃ丸様から頂いた、切なくも哀しいダイとポップの天界ストーリーです! はわわ、前作とは別人28号な(←失礼な)シリアス展開! ポップを失ってしまったダイの悲しみと、それでもなお消えないポップへの愛情が、落涙ものです! 寂寥感に溢れていながら、在りし日の二人をつい思い出してしまう切ない文章に、ただ、もううっとりとするばかりです。読んでいてたまらなく切なく、寂しくなるのに、心に残る…素晴らしいお話を、ありがとうございましたvvvvv

 


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