「特別基礎学習」
 
 

「それでは、テキストの23ページを開いてください。」


カール王は、3名の生徒の前。
神妙な面持ちで本を片手に。
そこへ、通りすがった一人。


「なにやってんすか?」


テランから、書類を手に魔導士。


「おや、御遣いですか?」
「・・・はい。まぁ。」
「それはそれは。ご苦労様です。王女はこの先ですよ。」


「・・・・わかってますけど・・・。なんですか?これ。」
「いいから。いいから。」
背中を押されて、ポップは王女の謁見の間の扉を開けた。


「なにやってんだ。あれ?」
王女しかいないのを確認した後、ポップは不躾に聞く。
「特別基礎学習よ。」
「・・・・・?」


「恋愛についての。」
「あぁ・・・・。」
特に納得したわけでもなく、曖昧に返事をした。

 


「それでは、まずは恋愛について。なにかわからないことがありますか?」
アバンは最優先項目を理解する為にも質問から始めた。


「先生、好きな人って一人じゃないとだめって本当?」
ダイは手を上げたまま首をかしげた。


「・・・そうですね。恋人にするなら一人の方が好ましいでしょうね。」
「でもさぁ、好きな人っていっぱいいるよ。誰か一人って難しいよ。」
勇者の疑問に隣の武闘家も頷く。

・・・やれやれ・・・。これは骨が折れますね・・・。
心のうちで溜息をしてから。
「順番を付けるのではなくて種類が違うのが解りますか?」
「・・・・・???」

ふぅん・・・。経験から想像させた方がよさそうですかね・・・。
そう考えて、誘導する質問をする。


「何かあったときに、傍に居たいとか、
危ない時に守ってあげたいとか、
一緒に、悩みも喜びも分かち合いたいと思う相手を
想像してみるのはどうですか?」


3人は必死に想像していた。
例えば・・・・。
勇者の場合:傍に居たいか・・・・。
そうだなぁ。やっぱり一緒に悩んだり喜んだりしたい。
最近は忙しくてあんまり一緒にいれないし。
昔みたいにもっと話もしたい。
あっ!わかった!この事かな・・・・?

武闘家の場合:守ってあげたいねぇ・・・・。
う〜ん・・・。なんだか、どこか頼りないのよね。
レオナはそんなことないって言うんだけど、
放っておけないっていうか。
傍にいてあげないと、なんだか心配なのよね。

戦士の場合:守るか・・・。
いつも無茶ばかりだからな。
そう言えば、この前も無茶をしすぎて体調を崩していたな。
少し目を離したすきに、一人で前人未踏の洞窟に行くといって数日戻らずに、
行ってみたら、酷い文句の言われようだったが、
あの状態でどうするつもりだったのか・・・。
もっと気をつけて行動を確認すべきだな。


「どうですか?数人いますか?」
3人の顔を覗き込みながら師はほほ笑んだ。
その時、全ての戦場を見たわけではないアバンは気がつかなかった。
まさか3人が同じ人間を思い描いているとは。

「では、その人のことを考えてみましょう。」
それぞれが思い描いている人物を間違いないと思ってしまった。
それこそがこの基礎学習の根本的な間違いだった。


数日後。
「ねぇ、ねぇ。」
ダイはテランの執務室で。
「俺のこと好き?」
はにかみながら尋ねた。


「あぁ?何言ってんだ?おまえ。」
「いいから!答えてよ!」
無言で、仕事を続ける宮廷魔導士に。
ダイは痺れを切らし羽ペンを取り上げた。
「お前!ふざけるのも大概にし・・。」
ポップが声を荒げて顔を上げると。


「ねぇ、俺。真剣に聞いてるんだよ。」
いつになく真摯な表情で言うダイに、
仕事中に押しかけられていることも忘れ、
罪悪感に苛まれたポップはうっかり。
「当たり前だろ!」
と答えてしまった。

資料を持ってパプニカにダイを送り届けると、
回廊で兄弟子に捕まった。
「なんだよ!お前まで!」
同じ質問を二人にされると流石に気味が悪い。


しかも、こっちは余計に恐い。
手首を痛いほど掴まれたまま、責め寄る相手に怒鳴りつけた。
「・・・やはり、過去を許せないか。」
と目を伏せたまま神妙に呟かれ、「ばかじゃねぇの!」とやり返した。


ウザイ。暗い。
いっそ暗黒闘気かと見紛うばかりの気配に思わず、
「・・・・・・・嫌いなわけないだろ。」
と譲歩した。


パプニカから、ついでに持って行って。と王女に書類を渡され、
使いでロモスに行くと今度は。
「なっ!なんなんだよ!お前ら!気持ち悪いな!」
女性指揮官がいつになく積極的に話しかけてくる。


「やっぱり、もうあたしなんか興味なくなっちゃった?」
言葉としては飛び上るほどうれしいが、
力いっぱい両手で握られている右手は、
飛び上るほど痛い。


しかも、先ほどパプニカで痛めて回復呪文で治したばかりだ。
「そんなわけねぇだろ!」
右手はどうやら、折れたらしい。


「それでは、相手の気持ちも確認したわけですね?」
アバンは学習能力の高い生徒達に感動すら覚えていた。


「ねぇ、先生。ふぇちってなに?」
勇者様は勉強熱心です。
それはそれは、勇者になるのも短期間の超がつくスペシャルハードコースでしたから。
好奇心も旺盛。


「フェチって言うのは、好みみたいなものですね。
極端に偏りがある嗜好のことを言ったりします。」


「例えばどうゆうことですか?」
武闘家の娘は、優等生です。
理解するまで根気よく質問します。
テストではいつも満点を取るタイプです。
ノートに取ることも忘れません。


「例えば・・・・。
スカートが短いのが好き。とか、
胸が大きいのが好き。とか、
ナマ足が好き。とか。
筋肉が好き。とか、
腕の血管がたまらない。とか。そうゆうこだわりですね。」


「・・・・・特にないなぁ・・・。」
ダイは考えてみたが、特に当てはまらなかった。
「服装なんかもありますよ?
制服が好きな人や、猫耳萌えの人もいますね。」


段々とマニアックな方向になってきているが、
3人はきちんとノートにメモを取っていく。
「テキスト105ページに描いてありますね。
これが、猫耳というものです。
もし、自分の好きな人がこんな服を着ていたらどうですか?」

<想像中>


「・・・いいかも。」
「・・・似合わなくはないわね。」
「・・・ありえんことではないな。」
3人はテキストの端を小さく織り込んだ。

「おや、みんな結構いける口ですか?
それでは、卒業の証にこれを差し上げましょう。」
「これは?」
「ふふふふ。これは一日耳が生えてくる種ですよ。
魔族の特殊能力を取り出して植物の種に超合理的かつ、
スマートに・・・・」


「先生、お話長くなりそう?」
ダイは種を弄びながら聞いた。
「こほん。いいですか?それを意中の子に飲ませて見てごらんなさい。
一日、猫耳体験ができますよ。」


「わぁ!先生!ありがとうございます。」
武闘家は跳ねて喜んだ。
「それでは、みなさんはもう立派な恋愛マスターです。
今日から自由に恋愛なさい。」


こうして、3人は無事、特別基礎学習の過程を終了。
のちに、パプニカ王女に「そもそも、講師の選択を間違えたわ!」
と嘆かれた、
この基礎学習はしかし、被害者は奇跡的に一人だけにとどまったという。

 


拍手ネタ「猫耳」に続く。


 アッシュグリーンの神楽様から頂いた、素敵SSです! 5000hitを踏んだのをいいことに、ずうずうしくもちゃっかりキリリクしてみたら、それを素晴らしい速さでかなえてくださった神楽様に、感謝感激ですvv   先生がっ、無駄に恋愛授業に熱を込めていらっしゃる先生が、たまりませんっ! そして、ポップのモテっぷりに萌えまくりですともっ! 笑いと萌えを抜かりなく兼ね備えた、素晴らしいお話を本当にありがとうございましたvvvvv 
 
 

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