『師弟関係の2人に20の質問』
 

[−−] ようこそいらっしゃいました。お2人とも、今日はよろしくお願いします。

ヒュンケル「(無言で頷く)……」

ミストバーン「…………」


 ヒュンケルはまだしも、ミストバーンは頷いてさえくれません! のっけから心配なスタートです。




[01] お名前をひとりずつお願いします。

ヒュンケル「……ヒュンケルだ」

ミストバーン「…………」

 インタビュアーが困り果てていると、ヒュンケルが重い口を開いてくれました。

ヒュンケル「こいつは、ミストバーン。何者なのかは、オレもよく知らない」

 ――い、いや、もう少し詳しくお願いしたいのですが……。


ヒュンケル「知らん物は知らない。興味も無い」

 ……どうやら、師弟の断絶は相当に深そうです。




[02] どちらが師匠ですか? また、年齢差はどのくらいですか?

ヒュンケル「(ミストバーンを指さして)一応、あいつが師に当たる。年齢差は知らん」

ミストバーン「……」

 無言のまま、ミストバーンはヒュンケルを指さしてから、その指を高々と上へと突き上げるように指し示します。

ヒュンケル「……どうやら、オレよりもずっと年上だと言いたいらしいな」


 ――あの、せめてヒュンケルさんのご年齢だけでもお教え願えないでしょうか?

ヒュンケル「(少し考えてから)正確には分からないが、多分18ぐらいだろう」




[03] お2人はどのような師弟関係なのでしょうか?

ミストバーン「…………」

ヒュンケル「見ての通りだ」


 ――いやいや、そう言われましても(困惑) あの、せめてもう少し詳しく。

ヒュンケル「(面倒くさそうに)普段は独学で修行しているが、たまにこいつがやってきて、模擬戦を行う。
 もっともいつも不意打ちから始まるし、模擬戦とは言え使う武器は本物だし、闘気技なども使ってくるから気は抜けないがな」

 ――あのう、それは『模擬戦』とは呼べないのでは?

ヒュンケル「(不思議そうに)なぜだ? 倒されてもとどめは刺されないから、本気の戦いとは言えないだろう」


  (遠い目)……ご本人さんがそう思ってらっしゃるのなら、それでもよいかもしれません。




[04] お互いを何と呼んでいますか?

ヒュンケル「めったに呼ぶ機会もないが……ミストバーンだ」

ミストバーン「…………ヒュンケル、だ」

ヒュンケル「っ!?」

 ――なぜ、あなたが驚かれるのですか? って言うか、むしろ驚いたのはこちらなのですが!(うわー、ビックリしちゃったよ、今のっ)


ヒュンケル「こいつに名を呼ばれるなど、年に数回もないからな」

 ……どういう師弟なんですか、と言うツッコミが心の中だけで浮かびました。




[05] お2人は出会ってからどのくらい経ちますか?

ヒュンケル「(少し考えて)十年……? いや、十一年か? まあ、そのぐらいだろう」

ミストバーン「……(無言のまま、頷く)」


 ――意外とアバウトでいらっしゃるのですね……




[06] 初めて会った時の、お互いの印象をお聞かせください。

ヒュンケル「化け物」


 ――そ、そうですか? 


ヒュンケル「あの時は、てっきり自分が死んだと思っていたからな。川で溺れて、意識を失い……目が覚めた時にはこいつがいた。
 死神か何かかと思った」


 ――そ、それはなんと言ったらいいのか。あの、お師匠さんからもどうぞ。

ミストバーン「…………使えるな、と考えた」

ヒュンケル「おい、それはどういう意味だ?」

ミストバーン「……」

ヒュンケル「チッ、まただんまりか」


(もうやだ、この師弟! 怖いッ、怖いですっ!?)





[07] お師匠さんは何故、お弟子さんを取ることにしたのですか?

ミストバーン「……全ては、大魔王バーン様のために……!」

 ――あの、それはどういう意味なのか、解説しては頂けませんか?


ミストバーン「…………」


 無言ながら、言うに言われぬ暗黒闘気が立ちこめ始めました。


 ――あ、お気になさらず。出過ぎたことを申しましたっ。




[08] お弟子さんは何故、このお師匠さんを選ばれたのですか?

ヒュンケル「選んだわけではない。ただ、こいつはオレに武器と、食事や寝泊まりする場所を差し出してきた。
 訓練にちょうどいい怪物を差し向けてきたり、自分でオレの相手をする時もあった。
 こいつの思惑が何であれ、オレが強くなるためには最適の環境を与えてはくれた。それだけだ」




[09] お2人の仲はよい方だと思いますか? また、ケンカはなさいますか?

ヒュンケル「仲がいいとは言えないな。だが、ケンカなどした覚えもない」

ミストバーン「……」(無言のまま頷く)


 (いえ、ケンカというか、それ以前にむしろ殺気を感じるのですがっ)




[10] 何か出会い始めの思い出を聞かせてください。

ヒュンケル「さっきも言ったが、川で溺れかけて目を覚ました時、こいつに会った。空中にフワフワと浮いてオレを見下ろしていた」


 ――さようですか、それはさぞ驚かれたでしょう(まだ子供だったはずですし、さぞ怖かっただろうなぁ……)


ヒュンケル「だから、剣で切りつけた」


 ――はぁっ!? な、なぜっ!?


ヒュンケル「なぜ? 当たり前だろう?」


 ――いえいえいえっ、あなた、先程、お師匠さんに初めて会った時は、死神かと思ったとおっしゃいましたよね!?


ヒュンケル「ああ。だから、先手を取って攻撃した。黙って殺される気などなかったからな」


 ――………………(どうしよう、なんて言ったらいいのか、分からない……)


ミストバーン「……あれは、いい殺気だった……見所がある、と考えた……」


 (なんなの!? 何でこう、どこまでも殺伐としているの、この師弟!?)




[11] 以前と変わったな、と思うところはそれぞれありますか?

ヒュンケル「そうだな……よくしゃべるようになった」


 ――ええっ、これで!? はっ、し、失礼しました、公平なインタビュアーともあろう者が、つい私情を挟みました。


ヒュンケル「弟子になって半年あまりは、一言も口を利かなかったからな。てっきり、しゃべれないのかと思っていた」


 ――では、お師匠さんから見て、いかがですか?


ミストバーン「……」


 ――あ、いえ、特になければないでもよいのですが……。


ミストバーン「……大勇者アバンへの復讐心が、年々強まっている……」

ヒュンケル「(ムッとしたように)何か、文句でもあるのか?」

ミストバーン「いや……それでいい。いい傾向だ……」




[12] お師匠さん、お弟子さんのよいところを述べてください。

ミストバーン「…………目、だ……」

ヒュンケル「目だと?」

ミストバーン「バーン様が……おまえの目を褒めていたことがある……」


 ――あのう、それはお師匠さん個人の感想ではないのでは?


ミストバーン「……」(ギロリ)


 ――いっ、いえっ、出過ぎたことを申しましたっ!




[13] ではお弟子さん、お師匠さんの尊敬できる点を述べてください。

ヒュンケル「…………」


 ヒュンケルは何やら考え込む――というか、ほぼ殺すような勢いでミストバーンを睨みつけています。そのあまりの緊迫感に、インタビュアーの神経の方が限界を迎えそうです。


 ――いえ、無理に伺おうとはしませんから……


ヒュンケル「(言葉を遮って)化け物な点、だ」


 ――は? それはどういう意味ですか?


ヒュンケル「言葉通りの意味だ。殺しても死なないような化け物だからこそ、たかが訓練でも本気で戦うことができる……!」


 ぎらついた目を向ける弟子に対して、師匠はなぜか満足げに頷いております(ど、どこに喜ぶ要素が?)




[14] お2人のお住まいは一緒ですか? 一緒の場合、それぞれの家事の分担を教えてください。

ヒュンケル「住まいは別だ。それに、家事などやったこともない」

ミストバーン「……」(無言のまま頷く)


 ――失礼ですが、それでよく生活していけますね。


ヒュンケル「日常的な雑事は、こいつの差し向けたゾンビがやってくれるからな」

 ヒュンケルがそう言った時、どこからか現れた執事服姿のゾンビが現れました。


ゾンビ「おや、お客様とはお珍しいことですな。よろしければお茶でもお入れしましょうか?」


 ――い、いいえ、どうかお構いなく。




[15] 何か日課になっていることはありますか?

ヒュンケル「剣の稽古だ」

ミストバーン「……」


(ええ、聞くまでもなく答えなんかもらえませんよね、知ってた!)





[16] 相手のここが許せない!

ヒュンケル「特にない」

ミストバーン「……同じく……」


 ――えっ!? そうなんですか、なんだか意外ですね(てっきり、互いに不満が一杯あるかと……)


ヒュンケル「許容範囲内だ。それに……(ニヤリと笑って)相手が死んでしまえば、不満も何もなくなるだろう?」

ミストバーン「……」


(こ、怖いッ、怖いッ、マジ怖い、下克上宣言っ! って言うか、ここまで弟子に言われた平然としている師匠も怖いんですけど!?)




[17] ここだけの話、相手の弱味や秘密を握っていたりしますか?

ミストバーン「無論だ……」


 ――あ、こんなところだけ即答ですか……


ヒュンケル「(不満そうに)フン……、せいぜいそう思っていればいい」


(……弟子も弟子で、なんで弱みを握られてここまで強気なの、この人……?)




[18] 師弟関係が逆になることはありますか?

ヒュンケル「考えたこともないな」

ミストバーン「……」

ヒュンケル「だが、寝首を掻こうと思ったことならば一度ならずある」


(どうしよう、この人、マジで下克上する気満々ですよ……、常日頃から殺害計画実行中ですよ……っ)




[19] この師匠でよかった、この弟子をとってよかったと思うことをそれぞれ教えてください。

ヒュンケル「今のところは、不満はない。強くなるためには、最適だ」


 ――さようですか。では、お師匠さんは?


 てっきり例のごとくスルーされるかと思いつつ尋ねたところ、ミストバーンは目を瞬かせながら答えてくれました。


ミストバーン「……将来、そう思えることを望んでいる……」

ヒュンケル「おまえがそんなことを言うとは、意外だな」

ミストバーン「いずれ、分かる日がくる……」




[20] 最後に、お2人でメッセージを交わしてください。

ヒュンケル「奴なら、もう帰ったぞ」


 ――早っ!? って言うか、ドアも開かなかったし、室内から出て行った形跡がないのに、どうやって!?


ヒュンケル「いつものことだ。気にするな」


(いやいや、めっちゃ気になりますがっ)




[−−] お疲れ様でした。
 
 その言葉に、ヒュンケルは片手を軽くあげることで応え、そのまま去っていきました。
 ……これ以上ない程、気疲れしたインタビューでした…………。 

 
 


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