『男の子だけの座談会』 |
[−−] 座談会を始める前に、まず今日の出席者を確認します。ひとりずつ自己紹介をどうぞ。 ヒム「あー、その、なんというかよぉ、自己紹介以前に気になるんだが、何でこのテーマで、オレらなわけ? ほとんど接点がないだろ、オレらじゃ」 クロコダイン「まあ……否定はできないな」 ヒム「だろぉっ? この企画、絶対におかしいって! なあ、こんなのやめとかねえ?」 などと、言いかけたヒムのすぐ鼻先に、鋭い切っ先が突きつけられます。 ラーハルト「――途中離脱は、認めない」 ヒム「って、おまえっ、なにいきなり槍を突きつけてんだよっ!? つーか、なんでそんなマジになったんだっ!?」 ラーハルト「この座談会は、ダイ様のご希望だ。あの方が望まれるなら、オレはどんな任務でもこなす」 ヒム「いやいやいや、あのなーっ、目がマジすぎだろ、てめえっ!? てっ、槍を突きつけるな、刺さるだろっ」 ラーハルト「……自己紹介が先だ」 ヒム「ああっ、何だってんだよ、全く! 自己紹介すりゃあいいんだろ、すりゃあ! ラーハルト(手元のメモをちらっと見て)「まだだ。年齢と役職も言え」 ヒム「げ、そんなことまで言うのかよ〜?」 ラーハルト(槍にぐっと力を込めて)「言え……! 敵前逃亡は許さん」 ヒム「こいつ、今、途中離脱じゃなくて敵前逃亡って言いやがったよ!? いつからここが戦場になったんだっ!?」 クロコダイン「ははは、まあ、ラーハルトがそこまで乗り気ならば協力してやってもいいだろう。 ラーハルト「オレはラーハルト……元竜騎衆だ。年齢は25才。現在はカール城の食客として籍を置いている。 ヒム「白状って、自己紹介時に出てくる言葉じゃねえだろぉっ!? だっ、だから、槍でつつくなって、今、言うからっ! 年齢は……もうじき3才だよっ。 ラーハルト「現役職も言え」 ヒム「だから、槍から手を離せっ!! [01] 今日のテーマは「男の子だけの座談会」ですが、普段、男性だけで集まる時はどんな時ですか? クロコダイン(苦笑して)「いい加減、『男の子』なんて年齢じゃないがな」 ラーハルト「……普段は、わざわざ集まらない」 ヒム「まあ、用でもなけりゃ顔を合わせないよな。それでもまだ、オレとクロコダインはデルムリン島とロモスを行ったり来たりしている時に面を合わせるけどよ。 ラーハルト「名目上はな。どちらかと言えば、旅に出ている時の方が多い」 クロコダイン「そのせいもあって、なかなかこの三人が揃って顔を合わせる機会は少ないな。あるとすれば……このメンバーにヒュンケルも加えて、レオナ姫に呼び出されるときぐらいの物か?」 ラーハルト(顔をしかめて)「……あの姫は見た目によらず、人遣いが荒い」 ヒム「その割には、おまえ、あのお姫様の呼び出しには素直に応じるじゃねえかよ」 ラーハルト「当然だ。あの姫のすぐ側には、ダイ様がおられるのだからな。間接的にでも主君の役に立てるのであらば、いつでもはせ参じる所存だ」 [02] 体力に自信はありますか? また、力仕事は得意ですか? クロコダイン「ないと言えば嘘になるな」 ヒム「オレもだな」 ラーハルト「……」(無言のまま、不敵に笑う) [03] 家事が得意だと言う方はいらっしゃいますか? ヒム「は? んなもん、いるわけがねえだろ。っていうか、そもそもオレは金属生命体だし食事なんか必要ねえしよ。家もなくてもいいから、それを整える手段も必要ないし」 クロコダイン「オレも、決して得意とは言えないな。まあ、料理の真似事ぐらいはしないでもないが……怪物は基本、自然そのままの物を食べるものだしな。 ヒム「でも、あんたは人間達の飲み物や食べ物も、しょっちゅう食っているじゃねえか」 クロコダイン「そりゃあ、加工した食事が食べられないわけではないからな。人間達の食事は美味だし、気に入ってもいる。なにより、オレのために用意してくれる気持ちがありがたいな」 ヒム「そんなものかねえ〜。 ラーハルト「……違うな」 ヒム「あん? 何が違うってんだよ、どうせおまえだって家事とかしたことがないんだろ?」 ラーハルト(憮然として)「家事ぐらいはできる」 ヒム&クロコダイン「「えっ!?」」 ラーハルト「何か、文句でもあるのか?」 クロコダイン「い、いや、文句というわけではないが、意外だったからな」 ラーハルト「……オレは半魔だからな。怪物や魔族よりは、体質が人間に近い。特に成長期は体質が人間寄りな分、衣食住にも気を遣う必要がある。自分で自分の身の回りを整えられるように、必要最低限の家事は仕込まれた」 ヒム「仕込まれたって、魔王軍にそんな面倒見のいい奴がいたのか? そんなイメージは無かったんだけどよ」 ラーハルト「別に、魔王軍に習ったわけじゃない。バラン様にだ」 クロコダイン「はあっ!?」 ラーハルト「そこまで驚く程のことか?」 クロコダイン「な、なんというか、その……あまり家庭的なタイプには見えなかったから、つい、な」 ラーハルト「確かに、あの方は家庭に興味を持ってはいなかった。だが、あの方は行方不明だったディーノ様を必ず見つけ出すおつもりだった」 クロコダイン「……!(何かを察した表情になって) [04] この中で1番男らしいのはどなただと思いますか? この質問を投げかけた途端、その場の空気がぴりっと張り詰めました。 ラーハルト「……」 ヒム「……」 クロコダイン「……」 ――無言のままながら、なにやら水面下で熾烈な戦いが始まった様な気が致します……。追求するのは怖いので、早々と次の質問へと議題を移すことにします。 [05] では、面倒見のよい兄貴分は? ヒム「そりゃあ、クロコダインだろ」 ラーハルト「異議はない」 ――あ、これは即決なのですね。 クロコダイン「はっはは、悪い気はしないな」 [06] 体力づくりなどの努力はそれぞれしていますか? ヒム「そりゃあもちろん!」 ラーハルト「言うまでもない」 クロコダイン「無論、オレも手を抜いてはいない」 [07] こうなりたいと思う「男性像」がありましたら教えてください。 ラーハルト「バラン様だ。あの方以上の戦士を、オレは知らない」 クロコダイン「確かに、あの男はこの上なく強かったな。そして、強さだけではない心を持っていた」 クロコダインの称賛に対して、ラーハルトは珍しくも僅かに表情を緩めます。 ラーハルト「……オレも、そう思っている」 ヒム「ふぅん……。どうやら、そのバランって男はたいした戦士だったらしいな。 ヒムの言葉を聞いて、ラーハルトはムッとしたような表情を見せます。 ラーハルト「……木偶人形になど、分かるまい」 ヒム「なんだと、てめえっ!?」 クロコダイン「まあ、そう気を尖らせるな。それにしても、おまえ達の理想は現実に存在していただけにしっかりと心に根付いているのだな。ある意味、羨ましい気ものだ」 ラーハルト「……あんたは、違うのか?」 クロコダイン「ああ。オレの理想に、手本はない。師匠も創造主も、オレにはいなかった」 クロコダイン「オレの理想は、オレの心の中だけにある」 [08] それぞれを漢字一文字で表すとどうなりますか? クロコダイン「む……そうだな、ラーハルトが『迅』、ヒムが『堅』とでも言っておこう」 ヒム「なんか、それって戦闘スタイルって感じだな。えーとだなぁ、オレから見ると、あんたは『漢』だな。 ヒムの言葉を聞いて、ラーハルトは不満そうに鼻を鳴らすものの特に言い返しはしませんが……。 ラーハルト「クロコダインは『壁』、そこの木偶の坊は『物』だな」 ヒム「うっわ、こいつ身も蓋もねえことを言いやがったよっ!!」 [09] 「男性に生まれてよかった」と思うことをひとりずつお願いします。 ヒム「……と、言われても、オレの場合は正確には男性とは言えない気もするんだけどよ。元が駒だっただけに、性別の概念は適当だしな。 ラーハルト「そうだな、男に生まれたからこそ戦いに集中できる。女の身では、そもそも最初からバラン様にお仕えすることも叶わなかっただろう」 クロコダイン「結局のところ、オレ達は揃いも揃って根が戦士というわけか。女性が戦えないなどという気はないが、やはり戦い易さを考えると男でよかったと思うぞ」 [10] では、今日のテーマ「男の子だけの座談会」のまとめをお願いします。 ヒム(うんざりしたように)「なんか今日一日ですっげえ疲れたし、こんな企画はもう二度と参加したくねえぜ」 ヒムのその言葉に、ラーハルトはじっと彼をねめつけます。 ヒム「あん? 何だよ、何か文句でもあるのかよ?」 ラーハルト(軽く首を振って)「いいや。初めて、おまえと意見が一致したと思っただけだ」 ヒム(この野郎、いちいちムカつくというか、煽ってくることばっかりいいやがって!!) 内心の怒りで震えるヒムの肩を、クロコダインが宥めるように軽く叩きます。 クロコダイン「オレは、今日はなかなか楽しかったぞ。普段は会えない仲間に会って、普段は聞けない話をし合う機会はそうそうあるものではない。 [−−] お疲れ様でした。 ヒム「あー、分かってたけど、ほんっとにとことん冷たい男だな、あいつも」 呆れてぼやくヒムに対して、クロコダインは手にした小袋を軽く投げつけました。 クロコダイン「そうでもないさ。こいつは、あいつからの手土産だ。ヒム、おまえにも後で渡して置いてくれと頼まれた」 ヒム(袋を開けて)「……キメラの翼じゃねえか。 クロコダイン「それがあいつの性分なのだろう。……察してやれ」 ヒム(苦笑して)「へいへい、ここはあんたの顔を立てて、大人しく退散しとくとするか。じゃあな!」 |