エピローグ ようこそ、自由の世界へ |
ドクターとマキトと俺は、ファティマの国際空港にいた。それも、とびっきりのおしゃれをして、だ。 ドクターはちゃんとした背広は着てたけど、ネクタイは崩れているし、パイプをくわえた上何本もパイプを背広のポケットに押し込んでいるから、タバコ屋の親父そっくり! あの後、自由戦線がコンボイでファティマに迫っても、大佐はアトラスから一歩も動かなかった。それで大統領は大慌てでカバンに金を詰め込み、脱出用に官邸に張りつかせていたヘリコプターに乗って、モロッコにとんずらした。 本当にあっけないぐらいあっさり、独裁政権はつぶれた。モローリア最後のヘリコプターと一緒にな。 あんまり早いんで不思議に思ってたら、ドクターは力学の法則さと笑った。 もっとも、俺はもうサソリのことはあんまり気にかからない。 俺をよく知っている奴でさえ、見間違えたぐらいだ。マキトに言わせると、時々険しい眼をする時があるけど、急に子供っぽくなったと言って、喜んでいた(何を喜んでるんだ!) この前、ドクターにこれから学校に行くんだと言われた時は、もうめげた。思いっきりしょげちまったもんな、あの時は。 それはなんとかなっても、マキトと離れ離れになるのはちょっと……辛いな。ここ数日間、ずっと一緒にいたおしゃべりで陽気な、質問好きのヒヨコがいなくなるなんて、まだ信じられないくらいだ。 今日、というよりもうすぐ、マキトの両親がカサブランカからのフレンドシップに乗って、到着する。 マキトは落ち着きなく、少しもじっとしていなかった。 ずいぶん長い時間待った後、金属音を立ててひどい滑走路にフレンドシップ機が着陸した。 機は止まり、タラップがつけられ、そしてドアが開いた。ミスター・モリと、ミセス・モリらしい女性が降りてきた。 前に見かけた時よりも頬のこけたミスター・モリは、マキト以上に照れて、まるで赤ん坊の時に生き別れになった息子と再会したように、マキトを見つめていた。 ミセス・モリの方は泣き出していた。 俺はミセス・モリの方を見た。 「やあ、パパ。また、会えたね」 さりげない口調でマキトが言った。───ったく、よく言うぜ! 「やあ、ママ」 ミセス・モリはマキトが言い終わらないうちに、抱き締めた。 「息子さんをお返ししますよ、無傷とはいきませんがね」 言いながらドクターは、不安そうにマキトを見た。 「息子さんは、フルベ族の成人式を受けたんですよ」 ドクターは冗談を言い、パイプを振り回した。 「顔を見れば分かりますよ、ドクター。私より、ふけた面をしている」 息子がこんな目にあわされたのに、ミスター・モリは嬉しそうだった。 「このお礼を、なんて言えばいいのか分かりません」 口ごもりながらのミスター・モリの言葉に、ドクターは照れくさそうにパイプをいじった。 「私も満足しているんですよ。頼りにして頂いてもいい男だという証しをたてられて」 控え目だけど、ドクターの誇りがはっきり感じられた。 俺は最初っから、みんなから少し離れた場所にいた。 うん、ありえるな。 ミセス・モリはさっきより少し落ち着いて、マキトを抱き締め続けていいのか、言葉をかけたらいいものか、迷っていた。 「ママに是非、親友を紹介したいんだ。モローリア一勇敢な子で、ぼくの命の恩人でもあるんだ」 優しい口調の、マキトの声。 俺のことなんか、忘れてたと思ったのにさ。俺はちょっぴり肩を揺すって、横目でチラッと見ると、ミセス・モリは黙って大きく頷いた! 「アル、来いよ!」 マキトは叫び、腕で俺を招いた。 「ぼくのママを紹介するぜ」 今、行くよ! |