『騎士は姫を守り抜く』

  
 

「一曲、踊っていただけませんか?」

 文句のつけようのない美青年だった。
 後光を背負ったかのように見える金髪の生える青年に対し、賢者の法衣を身にまとった少年はにっこりと微笑みながら言った。

「一昨日きやがれ、バカヤロー。だいたい男に踊りを申し込むなんざどこに目をつけてやがるんだ、このすっとこどっこい」

 王侯貴族が集うこのパーティには似つかわしくない、乱暴な口調。
 貴族階級ではまず耳にさえしないざっくばらんな態度に慌てたのは、ダンスを申し込んできた美青年よりも、すぐ側にいた賢者の青年の方だった。

「ポップ君、ポップ君……本音が出ているよ? 気をつけてくれないと」

「ああ……アポロさん」

 小さく耳打ちされ、ポップはやっと目が覚めたような顔になる。
 いまだに何を言われたのか分からないと言った顔できょとんとしている美青年に、ポップは改めて挨拶し直した。

「大変光栄でありますが、我が身は神に捧げていますゆえ、世俗の踊りには馴染みませんので」

 表情は変えぬままで、全然心の籠っていない紋切り型の断りを口にするポップに、美青年は多少引きつった顔になりつつも素直に引き下がった。

(ふん、おれはてめえらと違って、遊びでやってんじゃねえんだよ!)

 今度は口に出さず、ポップは文句を言う。
 年頃の女の子にダンスに誘われるならまだしも、男に申し込まれて何が嬉しいものか。
 根っからの庶民のポップには理解できないが、男装した美女やら中性的な衣装を身につけた少年とダンスをするのは、貴族の間では高尚な趣味として定着しているらしい。

(ったく、どこが高尚なんだか……)

 賢者としてパーティに参加すると、時々こんな不快な思いをさせられる。
 だが、それでもポップがたまにこうやって賢者の盛装してパーティに参加するのには理由があった。

 眠い目をこすりながら、ポップはダンスフロアの中心あたりに目をやった。
 パッと目を惹く男装姿をした美少女が、老齢の王とにこやかに談笑しているのを見て、ホッとする。

 パプニカ王女、レオナ。
 彼女に変な男が近づかないように見張り、困っているようならさりげなく手を貸してやる。

 そのためにポップは忙しいスケジュールをぬってまで、面白くもないパーティに参加しているのだ。
 しかし、一緒にダンスでもしていればまだしも、こうやって見守っているだけというのは、結構辛い。

 壁に軽くよりかかったまま、居眠りしたらまずいだろうななどと考えていると、アポロがまた声をかけてきた。

「ポップ君、疲れているみたいだね。少し、休んでいたらどうだい? 姫様にはしばらく私がついているし、何かあったら君を呼ぶから」

 パプニカ三賢者のリーダーであり、レオナからの信頼の厚いアポロの提案に、ポップは一も二もなく頷いた。

「ああ……そんじゃ悪いけど、しばらく、テラスにいるよ」

 

 

 あくびを噛み殺しつつ、ポップはテラスに向かった。人いきれから離れ、冷たい風を浴びるとホッとする。
 寝不足と過労のせいでぼんやりとしていた頭も、少しだけすっきりとしてきた。

 もっとも少しでも油断してしまえば、このまま眠ってしまいそうな疲ればかりはどうしようもない。

(無理もねーか。三日ぶりの睡眠を邪魔されたんだもんな……あれ? まともに寝たのって、四日前だっけ?)

 思い出そうとして、ポップはすぐに考えるのをやめた。
 どうせそんな事実を確認した所で、余計に眠くなるだけだ。

 緊急だからとパーティのパートナーを頼み込まれて、断らなかった時点でこうなるのは分かっていたのだ。

(分かってるけど……断れねえんだよなぁ…)

 王侯貴族が正式なパーティに参加する時は、必ず異性のパートナーが必要だ。
 まさに引く手あまたで、結婚を申し込む者が五万と押し寄せているレオナだが、彼女の心は今はいない勇者へ向けられている。

 どうしても相手が必要なパーティの際、レオナが助けを求めるのは常にポップだ。
 彼女の窮状が分かるだけに、ポップは断れない。
 今日も久しぶりの貴重な休日を、棒に振ってしまった。

 ――時間が足りなすぎる。
 やるべきこと、やりたいことが山のようにあるのに、それ以外の用事が常に追いかけてくる。

 悔しいことに、全部を引き受けるだけの力は、ポップにはない。
 自分の力ではもたないと分かっているのに、それでも選べない。
 どれもこれも大切で、切り捨てるには大きすぎる。

 結果、どれも見捨てられないポップは、自分の時間を切り捨てるしかない。
 でも、それでさえ時間が足りなくて……目的に手が届かない。

 ポップの目的は、ただ一つ。
 行方不明のままの親友を探したいだけだ。
 それなのに、それさえもままならない。

(ダイ……!)

 こんな時は、ひどく距離を感じてしまう。
 テラスの手摺に頭をつけて、ポップは片時も忘れられない親友を思った――。

「一曲踊っていただけませんか?」

 涼やかな声が、背後からかかる。
 細やかな考え事をする時間すら阻害される苛立ちに、ポップは反射的に怒鳴り返しそうになった。

 実際、振り返った瞬間まではそのつもりだった。
 が、声の主を見て、ポップは息を飲む。

「……!」

 各国の王族の集うパーティに参加するにしては、その人物は若かった。
 ポップとほぼ変わりの体格の、小柄な人影。
 身につけているのは白銀の刺繍の施された豪奢な衣装であり、パーティにおける騎士としての盛装でもある。

 だが、その衣装を身につけているのは、面影にまだあどけなさを残す年若い娘――しかも、ポップのよく知った顔だった。

「マ…ァム……?!」

 かすれた声で呟くポップに、騎士の衣装を身につけた赤毛の少女は、優しく歩みよってくる。

「マァム……ッ、おまえ、なんでここに?」

 急な再会に、喜びよりも驚きの方がはるかに強かった。
 魔王軍との戦いが終わり、ダイの捜索が公式に打ち切られた後、マァムは故郷のネイル村に帰った。

 離れ離れになる寂しさは感じたものの、心優しい少女が戦いから遠ざかり平和に暮らせるのをポップは心から喜んだ。

 ポップが宮廷魔道士見習いとしての留学を始めた頃から、忙しくなって顔を合わせる機会もなく、もう1年以上もの間、ずっと会っていなかった。
 その彼女と、こんな形で再会するとは――。

「なぜって、正式に招待されたからに決まっているでしょう?」

 ごく当たり前のように、マァムが答える。
 それが正しい意見なのは、ポップも知っている。

 なにせ、各国の王達が一同にそろうパーティなのだ、胡乱な者などは近付くことすらできない。

「でも、このパーティって……」

 戸惑いながら、ポップは言葉を濁す。
 各国の王族や大貴族の子息や子女達の集団見合いを兼ねているようなこの大宴席は、特別なものだ。

 元勇者一行の一員という肩書き程度では、参加できるかどうかさえ怪しい。
 勇者に世界が救われてから時間が経つに連れ、貴族連中は勇者一行を特別視しなくなってきている。

 ただのパーティならばともかく、結婚相手を選ぶパーティでは血統や地位の方を重視するのが貴族というものだ。

 各国に宮廷魔道士として留学したポップはかろうじて、地位と権力を認められたのか招待状がくるのだが、他のメンバーにはそんなものは一切届かない。

 内心それを苦々しく思っていただけに、ポップはマァムが目の前にいるのが不思議だった。
 だが、マァムは軽く胸を張って答えた。

「私は、勇者一行の武闘家マァムとして、招待されたんじゃないのよ? カール王国自治領を治める侯爵として……自由騎士マァムとしてここに招かれたの」

 

 


「ポップ、踊りが上手いのね」

 騎士としてリードするマァムのステップに、ポップは軽くついてくる。
 その動作は安定感があり、これが初の公式パーティ参加であるマァムよりも様になっている。

「そうか? 適当だよ、必要に迫られて覚えただけだし」

 そう答えるポップに、マァムは軽く微笑んだ。
 ポップの口先を、マァムは信じてなどいない。
 適当な練習程度で、これほど上手く踊れるはずもない。

 お調子者のこの魔法使いは、実は訓練を繰り返して実力を養うタイプの努力家だ。
 不慣れなダンスにこれほど馴染むまで、ポップが影でどんなに努力したか……想像に難くない。

 忙しい中睡眠を削り、無理に時間を空けてまでレオナのダンスパートナーを努めているポップ。
 なぜ、ポップがそうまでしなければならないのか、マァムは知っていた。

 ダイがいない今、レオナを助けられるのは、ポップだけしかいないから。
 ヒュンケルでは、駄目なのだ。

 彼は一度パプニカを滅ぼした人間であり、魔王軍にくみした過去があるがゆえに。
 アバンでは、レオナは救えない。

 カール王国の新国王として即位した彼が、パプニカ王女に助力すればそれは他国への干渉と取られてしまう。

 アポロやバダックでは臣下という身分に阻まれ、王女であるレオナを助けるには力が足りない。ましてや、人外である仲間達ではなお難しい。

 生粋の人間であり、大魔道士として名を馳せたポップだけが、レオナの隣に立つ資格と実力を備えている。

 それを承知しているからこそ、ポップはレオナを助けている。
 男を意識させるにはまだ若すぎる、自分の年齢さえ逆手に取って利用して。
 大魔道士だと自称していながら、賢者の格好をしているのも、そのせいだ。

 賢者は、僧侶の長に立つもの……すなわち神に仕える身であり、無性であるということを意味している。
 賢者の盛装を着ている限り、ポップはレオナの婚約者候補としては扱われない。

 だからこそポップは賢者と呼ばれるのを嫌っているくせに、賢者の衣装で彼女の側に立つ。

 男性とも女性ともつかぬ服装で男装したレオナと一番に踊り、その後も彼女の側から離れないようにしている。レオナに結婚を申し込む男を、牽制するために。

「……今まで、一人で大変だったでしょう、ポップ」

 心からの労いを込めて、マァムはポップの手を、自分よりも細く感じる腰を、強く引き寄せた。

 わずかに抵抗を感じるが、マァムは腕力にものを言わせて強引にそれを封じ込めてしまう。
 今のマァムは、ポップの調子のいい口先の強がりなどにごまかされるつもりなどないのだから。

「労いぐらいは言わせてよ。今まで……何も、手伝えなかったんだから」

 行方不明のダイを、探すこと。
 それを当時と同じ熱意を持って行える者は、数少ない。
 そして、ポップはその数少ない一人だ。

 他のみんなが日常の生活に流されている中で、ポップは変わらない眼差しでずっとダイを探し続けている。

 実際に世界を旅して回る作業は、ポップはかなり最初の頃に行った。瞬間移動呪文を駆使し、ダイの行きそうな場所を全て飛び回った。

 そのやり方ではダイを見つけられないと悟ってから、ポップは大幅にやり方を変えた。 ダイが地上にはいないという仮定を立てて、ポップは竜の騎士の伝承や神々や魔界の情報を集めにかかった。

 各国に伝わる秘伝の解析。
 世界各国に散らばった秘文書や、王族のみに伝わる秘伝の数々。それを欲して、ポップは宮廷魔道士見習いとなり、各国に留学する道を選択した。

 いかに王族が望んだとしても、その王国の成り立ちにもかかわる秘文は、他国の人間には見せてはもらえない。
 レオナでは見ることのかなわない秘文書も、各国に留学したポップならば閲覧できた。
 だが、そのためにポップは各国で単なる留学という域を超えて、復興のために全力で助力しなければならなかった。

 そして、古代語で記された伝説や伝承の文献を直接調べて、ダイを捜索するための手掛かりを探す作業もまた、ポップにしかできない。

 アバンやマトリフの助けも借りているとはいえ、調査の大半を行っているのはポップ自身だ。

 まだ見つからないダイに心を痛める仲間達と連絡を取り合って情報を交換し合い、精神的な支えになるのも常にポップだ。
 ポップでなければできないことは多すぎて、負担は全て彼に掛かってしまっている。

「でも、これからは私が助けてあげる」

 一人で何もかも背負うなど、無理なのだ。
 助けが必要なのは、自明の理。
 仲間の誰もがそうと知っていながら、誰もがポップを助けられなかった。

 今まで慣れ親しんだ戦場とは違う場所で、頭脳だけを切り札に戦い始めた彼を誰も助けられない。

 次第に落ち着ついていく故郷で暮らしながらも、マァムは片時もそれを忘れられなかった。
 何もできない自分がもどかしく、悔しかった。

『愛や優しさだけでは、必ずしも他人を守れない時もあるのです』

 悩みの果てに思い出したのは、懐かしい師の教えだった。

『正義なき力が無力であるのと同時に、力なき正義もまた無力なのですよ』

 その言葉に、マァムは一つの答えを見出だした。
 権力や名声に興味を持てなかったマァムは、戦いが終わった後、レオナやアバンの勧誘を断って故郷へと帰った。

 ただの村娘に戻り平和に暮らせればいいと、そう思ったから。
 だが、それではダメだった。
 ただの村娘のままでは、大切に思う人達を助けられない。

 未だに行方さえ分からないダイを。
 ダイを探すために、ひたすら旅を続けているヒュンケルを。
 ダイの戻ってくる場所を守るため、孤軍奮闘しているレオナを。

 そして――みんなの中でもっともきつい道を選びながら、ダイばかりではなくみんなを助けようとしているポップを。

「私ね……実は、ポップの留学とほぼ入れ違いの形でカール王国へ行ったのよ」

 内証話でも打ち明ける口調で、マァムはそっと囁いた。

「そこで先生に相談した末に、騎士になるための修行を始めたの。あの国は元々勇猛さを貴ぶ気質だし、騎士団の勢力も強い地域な上……私の父も、あの国の騎士だったから」

 マァムの父、ロカはカール王国の高名な騎士の家系の出身だ。さして身分は高いとはいえないが、一応貴族位を獲得している。

 あえて父親の実家の縁に縋らず、一庶民出身として各国の宮廷に乗り込んだポップと違い、マァムは父親が捨てたその家名を継ぐことから道を切り開きだした。

 武闘家になった時と、同じ気持ちだった。
 どんどん成長していくポップに負けないようにするには、彼以上に努力して成長するしかない。

 生まれながらにして一国の国を背負ったレオナと、同じ舞台の上にまで自力で這い登った上がったポップを助けるためには、二人に比肩する肩書きが必要なのだ。

 そして、マァムが獲得できる地位の中で、最も得やすい位置にあったのが騎士だった。 入団には身分が必要だが、カール王国の騎士団は徹底した実力主義で知られる。

 そして二度の魔王軍との戦いを経験した女王が統率する軍なだけに、他国と違って女性の入隊も可能だ。

「にしてもよくたった一年で騎士位を獲得できたもんだな」

 感心しているとも呆れているともつかない口調で、ポップが呟く。
 王や女王の知己であり国の英雄の娘という肩書きが手助けしてくれたとはいえ、前例に拘り、体育会系に上下関係を重視する騎士の気質はどこの国でもさして変わりはない。
 新参者は徹底的に叩かれ、出世頭は足を引っ張りまくられるのが世の常だ。

「見くびらないでね。誰にも文句を言わせないほどの活躍と功績を積んだんだもの、当然んでしょ?」

 血を滲ませ、影で涙を流しながら獲得した苦労を押し込めて、マァムは明るく笑って見せた。
 ちょうど、今までポップが周囲に対してそうしていたように。

「今の私はれっきとした領主であり、女騎士よ。世界会議の場にも、招聘される権利を得たわ」

 カール王国の自治領。
 そこは、どこの国の王であれ無視しきれない領土と強い自治権を持っている。
 本来はカール王国に帰属すべき地域ではあるが、誇り高く自己防衛の強い領民達は唯々諾々と王に仕える道ではなく、自らが選んだ騎士を領主と仰いで保護を受ける道を選んだ。


 世襲制ではなく、人心を集めた最強の騎士のみが獲得する自治領の領主の座。
 それはある意味、一国の王にも等しい権力と武力を有する存在と言える。
 王と騎士との関係は、王と兵士の関係とはまるで違う。

 主君と家臣という形式を取るものの、一介の兵士のように終身変わらぬ忠誠を捧げるというわけではない。

 騎士は王を貴ぶ以上に、己の騎士道に準じる存在なのだから。
 王と騎士は、盟約を交わしあう関係だ。

 騎士は自分の名誉と武力を王に捧げ、王は絶対的な権力を持って騎士に保護を与えるのが通例だ。

 どちらかが盟約に反する行為を取った場合、騎士が王を見限って離反するのは当然の権利であり、また騎士道に叶う行為でもある。

 あえて王国に仕えずに自由騎士と名乗る騎士達は、主君の保護を必要とせずに自分自身の正義感を強く貫く道を選んだ強者だ。
 それだけに自分の領地を持った自由騎士は、ただの騎士とは言えなくなる。

 一国の王に比肩する肩書きであり、立派な対抗戦力となり得るのだ。
 ――もっとも、マァムには自由騎士の権力などさして興味はない。
 彼女が今の地位を欲した理由は、ただ一つだ。

「今なら、ポップにもレオナにも手を貸してあげられる。……何か、私に手伝えることはある?」

 マァムのその言葉に、ポップはすぐには答えなかった。
 ずっと一人で全てを背負ってきた少年は、今、耳にした言葉が信じられないとばかりにぽかんと目を見開くばかりだ。

 驚きのせいか、足も止めてダンスさえもやめている。
 促すようにマァムが手を引くとやっと動きだしたポップは、ぽつりぽつりと口を開いた。


「おれは…しばらく、旅に出たい。ダイの手掛かりの……切れ端を、やっと見つけたんだ。でも、そのためにはちょっと…旅が必要でさ。でも、少しばかり時間がかかるかもしれないから。姫さんには言えなかった」

 ポップは何度も生唾を飲み込みながら、ためらいがちにマァムの目を除き込む。

「マァム……、姫さんを任せても、いいのか?」

「騎士の本分を知らないの? 騎士はね、正義に従い、姫君を守る存在なのよ」

 笑顔のまま、力強くマァムはその願いを快諾する。

「お姫様は騎士に任せて、あなたはあなたのすべきことをしなさい」

 賢者の格好に身をやつしても、その本質は変わるまい。
 ポップは魔法使いだ。
 騎士の役割が姫を守ることならば、魔法使いの役割はただ一つ。

 勇者の傍らに立ち、その戦いを助けること。
 それこそが魔法使いの役割だ。

「ああ――そうするつもりだよ」

 こっくりと頷くポップに、マァムはわずかに首を傾げて尋ねる。

「それで、旅って、どのくらいの間なの?」

「んー、はっきりとは言えないけど……、2ヶ月か…3ヶ月ぐらい、かな」

「いいわ。安心して、レオナは守ってあげる……必ず。騎士の誓いに、二言はないわ」

 生真面目に、マァムは誓いを口にする。続いて、彼女はポップにも誓いを迫った。

「だから、ポップも約束して。――決して、一人で無茶をしないで」

 その言葉に、ポップはすぐには答えなかった。が、さして間を置かずにおどけたような調子で軽く言い返してくる。

「おいおい、いくらなんでもさすがに一人で行ったりしないよ。洞窟探索が主になるし、魔法使い一人じゃキツいからな。もう、ラーハルトに協力を頼んである」

 半分魔族の血を引く、屈強の戦士である仲間の名を聞いて、マァムはいくぶんかは気が楽になるのを感じた。
 少々取っ付きにくい点はあるが、ラーハルトの強さは申し分がないし、頼りになる仲間だと信じられる。

「よかった……。それで、いつ、発つの?」

「ベンガーナの留学が終わり次第、出発するつもりだよ。――もうすぐだ」

 多分、無意識にだろうがマァムの手を握るポップの手に力がこもる。
 最後の戦いが終わり、ダイが行方不明になってからすでに二年近い月日が経とうとしている。

 その間、ポップはずっとダイを捜し続けていた。各国の王達がとうに捜索を諦め、仲間達でさえ手を出しあぐねて手掛かりさえ見つけられない中、ポップだけは諦めようとしなかった。

 正直、マァムにはポップの得た手掛かりがどのぐらい当てになるものか、分からない。 だが、それが確実にダイへと繋がる道であることを望む。

 ダイのためだけでなく、ポップのためにも二人の再会が叶うように――祈りにも似た想いで、マァムは切に願う。

「ポップ……頑張ってね」

「ああ、マァムもな」

 言葉は短かったが、それで充分だった。
 騎士と魔法使いは互いの役割を確認し、互いの本分に沿って全力を尽くすと、無言の中で誓い合ったのだから――。
                                                        END


《後書き》
 白銀の女騎士、マァム! 世にダイ大サイト多しと言えど、こんな転職を考えたのはおそらく筆者だけでしょう(笑)   僧侶戦士から武闘家、騎士ってどーゆー転職ルート…? でも、女騎士とお姫様って絵になると思いませんか?
 
 

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