『ピクニックに行こう!』 |
「ピクニック? なに、それ?」 無人島育ちの勇者様は、初めて聞く言葉とばかりにきょとんと首を傾げる。 家庭教師らの苦労にちょっとばかり同情を感じつつ、ポップはいつもの癖で説明をしてやる。 「食べ物や飲み物なんかを持って出かけて、外で食べたり遊んだりすることだよ」 ポップの説明を聞いて、ダイは少し考えてから大真面目に言った。 「じゃあ、今のがそう?」 「はあ?」 今度はポップがきょとんとする番だった。 「だって、今、外でおやつ食べてるじゃないか」 今、ダイとポップ、それにレオナがいるのはパプニカ城のテラスだ。 が、いくら外と言えば外でも、ここで仕事の合間に飲むお茶を『ピクニック』と認定するのは無理があるだろう。 「違うわよ、ダイ君。ピクニックって言うなら、もうちょっと遠くまで行かないとね。せめていつもと違う場所で、お弁当でも食べないとピクニックとは呼べないわ」 ちょっと不貞腐れたように言うのは、疲れが溜まっているせいだろう。 「そうね……、たまにはマァムやメルルも誘って、みんなでピクニックでも行ってパーッと気晴らししましょうか! うん、いい考えだわっ」 さっそくスケジュールを調整しなくちゃとメモ帳をめくりだしたレオナを見て、ダイとポップは一瞬、どうしようかと顔を見合わせる。 レオナやダイ、ポップにヒュンケルはまだそろってパプニカ王国にいるから、まだいい。だが、いまやマァムはカール自治領の領主であり、メルルはテラン王国の王女だ。 いくら本人達が会いたいと望んでも、それぞれが多忙な上に身分が邪魔をして、そうそう簡単に集まれるメンバーではない。 そんなスケジュール調整をするのは、それこそ余分な仕事を背負い込むに匹敵する作業になるはずだが――よくも悪くも、レオナは実行力に長けている。 思い立ったら即行動するきらいがあり、いったんこうしようと決めたのなら、反対するのは容易ではない。 それをよく知っているだけに、ダイはもちろんのこと、ポップもあえて反対する気はしなかった。 (まあ、いいか、たまには) 今はさほど仕事が詰まっている時期でもないし、無茶なようでいてレオナは抜け目のない計算高さを持っている。 最初から自分の首を締めるような無茶なスケジュールなど組みはしないし、多少の遅れ程度なら充分にカバーできるだろう。たまには彼女のワガママに付き合ってやるのも悪くはない――と、この時のポップはそう思ったのだったが……。
ゼイゼイと肩で息をするポップの傍らで、ダイは心配そうに除き込む。 「大丈夫、ポップ? なんなら、おれがおぶおうか?」 ダイの善意からの申し出を、ポップは露骨に顔をしかめて却下する。 「いらんっつーのっ!! ンなみっともない真似、誰ができるかっ」 ポップの意識から言えば、いくら背の高さで追いつかれてしまった上に、体力は数倍あると分かっていても、自分よりも年下の男に背負われるなんてプライドが許さない。 「あーら、無理はしない方がいいわよ、ポップ君。いくら緩くてなだらかに見えても、山道って結構きついものなのよね」 涼しい顔でそう言ってのけるレオナは、横座りに白馬の背に乗っているから優雅なものだ。 そのすぐ隣にぴったりとくっついて座っているメルルは、申し訳なさそうにポップを見下ろしている。 「あの、ポップさん、よろしければ代わりましょうか?」 これまた善意の申し出ではあるが、ダイとは違う意味で、これも絶対に承服したくない。 疲れきった女の子を歩かせてまで、自分だけ楽したいとはさすがに思えない。 「へーきだよ、こんな風に自力で歩くの久々だから、ちょっとペースを掴めなくてバテてるだけだし」 少しばかりの強がりは含んでいるが、それは事実だった。 ――が、旅をほとんどしなくなると同時に移動魔法を覚えたせいか、自前の足をあまり使わなくなったのが悪かったのか。特にここ一年ばかりデスクワークばっかりで、ろくに運動もしてこなかったツケが、今ごろ出てきたようだ。 朝早くにパプニカを出発し、延々歩き続けること半日あまり……すでに足は筋肉痛を訴えてパンパンである。思った以上のブランクの大きさにポップは内心溜め息をつく。 (こんなことだったら、たまには身体、鍛えとけばよかったかな?) 「訓練不足だな。部屋に籠ってばかりいないで、たまには身体を鍛えておけ」 ちょうど、心で思ったのと同じ瞬間にヒュンケルにそう言われて、ポップのむかつきは急上昇する。 「ンなこと、余計なお世話だっ! つーか、魔法使いと戦士を一緒にするんじゃねえっ」
ここぞとばかりに彼に寄り添うエイミに、余裕綽々で手助けしているヒュンケルを、ポップは殺気だった目で睨みつける。 「歩くのが無理なら、オレが背負ってやろうか?」 ダイやメルル以上に最大限に嫌な誘いを、ポップはきっぱりと拒絶した。 「ンな真似するぐらいだったら、ルーラでいく! もう、目的地なんか、見えているじゃねえか!」 実際、ポップにしてみれば、何度そうしたいと思ったか分かったものじゃない。 「ちょっとぉ、やめてよね、それ。ピクニック気分台無しになっちゃうじゃないの。ルーラで一瞬で移動して、はい、つきましたなんて」 大袈裟に首を振り、レオナはもっともらしく文句をつける。 「やっぱり、ピクニックって言ったら、目的地までみんなで楽しくも賑やかに、苦労しながら歩いてこそ意味があるんじゃない」 その意見に、一理があるのは確かだった。 「馬に乗って楽している奴に言われたって、なんの説得力もないんだよっ!!」 怒鳴るポップに、馬の轡を取りつつ進んでいるマァムがやんわりと声をかける。 「落ち着きなさいよ、ポップ。ポップだって、分かっているでしょ? メルルやレオナじゃ、こんな長い距離を歩くのはちょっとね」 鍛え抜いたアバンの使徒達には、問題のない道だ。 ブランクがあるとは言え、ポップにも決して歩き通せない道程ではない。 深窓のご令嬢ならば、なおさらだ。 「こんなことなら、馬車も用意した方がよかったかしらね? でも、この馬じゃ馬車まで引かせるのはちょっとかわいそうだし……ずいぶん、くたびれた馬だもの」 同情を感じている様に、マァムは馬の首に手をやって優しく撫でてやる。 騎士にとって、馬は戦いの相棒としてかかせない存在だ。 「くたびれた馬? 厩舎で一番、綺麗な馬を選んだつもりだったんだけど」 不思議そうなレオナの言葉に、不貞腐れた声で返事をしてきたのはポップだった。 「こーゆー真っ白な馬ってのは、大抵年寄りの馬なんだよ。葦毛の馬ってのは、本来、白い毛にまだらに模様が入ってて、若い時は例外なくみっともないものなんだ。それが年を取ってくると、色が変わって綺麗な白になるんだよ」 さすがに大魔道士を名乗るだけあって、ポップの雑学知識は郡を抜いている。そして、さらにその上を推理する賢さもあった。 「そんなことも知らないとこを見ると……姫さん、やっぱり、他の人には言わないでこっそり抜け出してきたんだなっ?! 厩舎の人間に一声かけたのなら、ピクニック行きにこんな見栄えだけのおとなしい馬なんか、わざわざ用意しねーだろっ」 「ほほほっ、さあ、先を急ぎましょうかっ、後もうちょっとよっ」 ポップの指摘を完全に無視して、レオナはすぐ目の前まで迫ってきた小高い丘の上を頂上を指す。 長年、貴婦人用に調教され、馬上の人間の意を汲み取るのに熟練した年より馬は、それだけで足を速めた。 「あっ、こら、そんなに急ぐなよ〜っ」 文句を言うポップをよそに、馬は素知らぬ顔で歩を進めた――。
はしゃいだ声を立て、何の変哲もない丘の上を物珍しげに見回すレオナは、この上なく上機嫌だった。 荒れ放題の丘の景色や、丈夫さだけが取り柄の野草の地味な花を物珍しげに見ては、嬉しそうに目を輝かせている。 しかし、旅にはある程度慣れている他のメンバーにしてみれば、この丘はそれ程目を引く程のものではない。 エイミやマァムは、お弁当を食べる場所を確保するため、できるだけ平坦な場所を探して邪魔な石などを取り除いたり、荷物の整理などに忙しい。 ヒュンケルは馬に水を飲ませるためと、新鮮な清水を手に入れるために、ここに登る途中で見つけた泉まで逆戻りしている。 意地を張り通して最後まで歩き抜いたせいで、すっかりバテたポップはひっくり返っているし、ダイやメルルはそんな彼を心配してオロオロとしている。 「…か、帰りは、絶対、ルーラで帰るぞっ……」 心の底からのポップの一言に、レオナは反対しなかった。――実は、最初からそのつもりではあったし。 行きはピクニック気分を満喫するために歩きを重視したが、帰りはぎりぎりまで遊べるように魔法を使うのは吝かではない。 「みなさ〜ん、そろそろお昼にしましょうか。それぞれのお弁当を出して下さいね」 地面にきちんとピクニックシートを敷いたエイミに呼ばれて、皆がわらわらと集まった。
「もう、ポップったら相変わらず行儀が悪いんだから。――あらっ、メルルのお弁当、綺麗ね!」 丁寧に包まれた布を解いて現れたお弁当を見て、マァムは思わず声を上げる。 「ホントね、すっごーいっ。可愛くて、手が込んでいて、いかにも女の子って感じ」 「いえ、そんな……」 恥ずかしがるメルルだが、客観的に見てもそのお弁当はポイントが高い。 同じく一口サイズのおかずを添え、デザートとしてお菓子まで用意された女の子らしさは見る者の嘆息を誘う。 「こんなのを見ると、私のを出すのが恥ずかしくなっちゃう」 そう言いながらマァムがバスケットからとり出したお弁当は、大きめのパンを二つに割り、大胆に具をドサッと挟んだボリュームのあるものだった。 おかずも、メルルの様に手の込んだお弁当用のものというよりも、ごく普通に食卓に並ぶような素朴さの漂うお袋の味という雰囲気だ。 彼女の用意したデザートは新鮮そうなフルーツまるごとで、その場で剥いて食べようという趣向らしい。 「わあっ、マァムもなかなかやるじゃない! こーゆーのって、美味しそうよね♪ で、他の皆は?」 期待を込めた目で、レオナは男性陣の方に目を向ける。 レオナが望めば、城の料理長は張り切って彼女達のために特製の弁当を用意してくれるだろう。 「分かってるよ、ちゃんと準備してきたって。おい、ダイ、荷物よこせよ」 出発時からダイに押しつけていた荷物の中から、ポップが取り出したのは三段組の大きな弁当箱だった。それを開けると、感嘆の声が上がる。 「すごい! これ、ポップが作ったの?」 ポップが持ってきたのは、アバン譲りの料理の腕を遺憾なく発揮した手のこんだ弁当だった。 メルルの様な華やかさや可愛らしさはないが、風変わりな材料を組み合わせているのに、不思議と美味しそうに見える弁当は、ちょっとした洒落っ気や遊び心に溢れている。 「へええっ、意外ねー。ポップ君って、お料理得意だったのね、これならいつでもお嫁に行けるんじゃない?」 「ツッコミ待ちか、その台詞? それとも、宮廷魔道士見習いをやめて結婚退職しろとでもいうパワーハラスメント?」 なんなら、即実行してやろうかとぶつくさぼやくポップをよそに、レオナはくすくすと笑いながらしげしげと弁当を除き込む。 「でも、ホント、冗談抜きでうちの料理長が君の腕を知ったら、スカウトにくると思うわ」
アバンから仕込まれたせいで料理の腕は磨かれたが、ポップは別に料理するのがとびきり好きと言うわけじゃない。 アバンのように、息抜きには料理を作るのが一番というほど熱心な料理人魂などないのだ。 それに、料理を褒められるのは、男としてはあまり嬉しくはない。 「ところで、ダイ、おまえのは?」 尋ねると、ダイは元気よく立ち上がった。 「うんっ、ちょっと待っててね。今、すぐに猪を仕留めてくるから!」 「待ていっ?! 何をする気だ、てめーはっ?!」 「え? 猪、嫌い? じゃあ、熊かなんかの方がいい?」 大真面目で聞き返すダイに、ポップは頭を抱え込んでしまった。 そう言えば昨日、弁当ってどんなものかとダイに質問された時『外で食うご飯のことだから、中身はなんでもいいんだよ』と答えてしまったが、それを激しく後悔する。 「それ以前の問題なんだよっ!! おまえ、ピクニックってのをなんだと思ってんだっ、獣を狩ってきてその場で食うなんざ、サバイバルっつーんだよっ」 ポップの怒鳴り声を聞いて、ヒュンケル、そそくさと持っていた弓矢を隠す。それを目敏く見つけたポップは、呆れた様な半眼で彼を睨みつける。 「ヒュンケル……まさか、おまえもか?」 その無表情さは変わらないものの、ヒュンケルはわずかに目を背けてぽつりという。 「い、いや、オレは……。女性も多いし、兎か山鳥あたりが妥当かな、と」 大差はない。 「まあ、素晴らしいアイデアですわ!」 どこがだ。 どうせ口に出したところで、ヒュンケルに熱を上げまくっている恋乙女が聞く耳を持つとも思えない。 「でも、今からでは時間がかかってしまいますから、代わりに私のお弁当を食べて下さいね。こんなこともあろうかと、たっくさん作ったんですっ」 そう言いながら、エイミはいそいそと馬に近寄った。持ち切れなかったため、鞍にくくり付けて置いた荷物を取ろうとしたのだ。 のんびりと草を食んでいた馬が、嫌そうに身をふるわせた拍子に運悪く弁当は落下してしまった。 「あ……っ?!」 悲痛な声を上げてしまうのも、無理はない。 この世の終わりの様な表情で座り込むエイミに、なんと言葉をかけていいものやら。 「って、何フツーに食ってやがるんだっ、てめえはっ?!」 ポップがダイの頭をひっぱたくが、ダイはなぜ怒られたか分からないとばかりにきょとんとしている。 「あ、大丈夫だよ。まだ食べれるし」 「大丈夫じゃねえだろっ! 堂々と拾い食いすんなっ、勇者ともあろうもんがみっともないだろっ!」 「ちょっと、ポップ君、ダイ君を叩かないでよっ!! 口で言えばすむことでしょっ?!」 レオナまでやってきて、もめだしたのが第二の悲劇の引き種だった。 もともと、馬は騒音を嫌う神経質な動物だ。 「きゃっ?!」 「あっ、やめなさいっ!」 と、叫んだ時は遅かった。 残されたのは、無残にも踏み散らされてしまったマァムとメルルのお弁当。 がっかりとする女の子達を、どうなだめていいのやらオロオロとするダイと違い、レオナはさすがに切替えが早かった。 「残念だったけど、過ぎたことは仕方がないわね……とりあえず、ポップ君のは無事だったみたいだし、まだゼロじゃないわ」 レオナの言う通り、ポップの弁当だけは辛うじて馬の足を逃れ、無事だった。 「しっかし、おれ、そんなにたくさんは作んなかったんだよなぁ」 ポップにしてみれば、お弁当を必ず持参といわれたから用意はしたものの、当然他のメンバーも持ってくると思っていた。多少多めに作ったとはいえ、せいぜい2、3人分程度でとても全員分には足りない。 「しょうがねえな、ルーラでちょっくら城に戻って昼飯持ってくるか?」 「ちょっと、やめてよね〜。それじゃ、せっかくのピクニック気分が台無しじゃないの!」
「あたしのお弁当もそのぐらいの人数分はあるから、合わせればなんとかなるんじゃない? 量から言えば、当初の予定通りお弁当交換もできると思うの」 女の子が作った弁当は、男の子へ。 「まあ、それもいいかもな。おれも、自分で作ったもんを自分で食べても、面白くないし」
ダイが不服そうに言うのを、ポップは軽く頭を撫でてなだめてやる。 「そんなの、いつでも食えるだろ。その内、なんか作ってやるからさ。けど、今日は姫さんが直々にお弁当を作ったんだぞ」 レオナの狙いが、自分の弁当を意中の人に食べさせたいという点にあると、ポップはとっくに見抜いている。 いつまでもお子様お子様しているダイと忙しいレオナが、周囲からは婚約者と見なされているにもかかわらず、仲が親展しないのをポップは多少なりとも気にしている。 親友であるダイには幸せになってもらいたいし、ずっと勇者を待ち続けたレオナにも同じ気持ちを感じている。 「じゃ、決まりね。さ、召し上がれ!」 まだ未披露だったレオナのお弁当が、男連中の前に広げられる。 「しょ……っ、瘴気?!」 魔界で実際にそれを体験したはずのダイがそう誤認する程、その弁当は禍々しい気配を漂わせていた。 「ひっ、姫さん、いったい、何を作ったんだよっ?!」 おそらくは、このメンバーの中では最も料理の知識には長けているはずのポップでさえ、目の前にある食材がなんなのか、すぐには見当すらつかない代物だった。 原形すらとどめていない程崩れ去ったパンに、臓物がはみ出るがごとく、でろでろと赤い物がこぼれおちている物は……もしかすると、ジャムサンドだろうか? 焼死体のごとく真っ黒くなった骨に、辛うじて炭となった肉片がこびりついた物……これをフライドチキンと呼ぶのは、いっそ冒涜と言っていい。 白身がまだ固まりきっていないのに、黄身だけは完全にどす黒くなっている複数の茹で卵は……正直、不気味な巨大カエルの卵でもあるかのように見える。 辛うじて分かるのはそれぐらいの物で、何をどう狙ったかのさえ分からない、ぐちゃぐちゃの固まりは幾つもある。 「料理なんて初めてだからうまくいかなかったけど、でも、量だけはたっぷりあるからたくさん食べてね!」 タチの悪いことに、そこだけは真実だった。 (た、食べたくねえっ!) 心の底から、ポップはそう思った。 しかし、ここまで嬉しそうに食事を差し出してくる女の子に、『まずそうだから、いらない』などと言える鉄の心臓を持つ男がいるだろうか? ましてやこれは、常日頃忙しい姫が生まれて初めて、時間を割いてまでわざわざ作ったものである。多少――いや、多少どころではなく失敗しているとはいえ、ここはありがたく頂き、美味しかったと言ってのけるのが男の甲斐性というものだろう。 それは、相談するまでもなく三人とも思っていた。 女の子達が素早くポップの弁当を囲み、おいしいわねなどと喜んで食べる傍らで、男連中はひたすら無言で目の前の『それ』を見つめていた。 「お、おい、ヒュンケル。食べないのかよ?」 「いくらなんでも、これは――」 魔族の差し出す暗黒闘気の杯を平気で飲み干した男にこう言わしめるとは、なんたる凄まじい弁当なのだろうか。 「ポップ……。おれ、一度でいいから、ポップの作ったお弁当を食べておきたかったよ……」 「過去形かよっ?! つーか、ヤなタイミングで切なくて不吉な言葉を語るなぁーっ!」 なにが悲しくて、楽しむためにやってきたピクニックで死を覚悟せにゃならんのか……ひしひしと感じる無常観を、ポップは無理にでも切り捨てようとした。 見た目はかなり……いや、正直に言ってしまえばとんでもなく酷いが、食べられないものではないはずだ。 これを食べないで帰るなどという選択肢を、あのレオナが納得してくれるはずなどないのだから。 引き下がれない強敵を前にした表情で、ポップは恐る恐る不気味にも程のあるサンドイッチ(?)を手に取った。 「た、食べようぜ」 「そうだな……」 「じゃ、一緒に食べようか」 ヒュンケルやダイも思い思いの食材(?)を手にし、思い切って口にほうり込んだ――。
その後。 姫の不在に気がついて大捜索隊を率いてやってきた城の兵士達に発見され、無事に帰れたものの……二度とこっそりピクニックになどいかないようにと、アポロやマリン、バダックからこっぴどく叱られることになった。 もっともそれを残念がったのは女性メンバーだけで、男性メンバー達は密かにホッと胸を撫で下ろしたという――。 《後書き》
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