『白い結婚』 |
新しいものを、一つ。
思わず漏れてしまったマァムのその言葉は、心からのものだった。 普段でさえ美少女ぶりが際立つ彼女が、凝りに凝ったウェディングドレスを着ているのだから、美しくないはずがない。 「姫様、本当にお綺麗ですわ……! 本日は、おめでとうございます」 メルルの祝福の言葉にも、いつにない熱が入る。 大魔王バーンを倒してから一年。 勇者のおかげで世界が救われたと喜ぶ一般市民は元より、ダイと直接関わった人々や、勇者一行達も二人の婚儀を心から喜び、祝福を惜しまない。 誰もがこの結婚を喜び、レオナの美しさを褒めたたえている。 「レオナ? どうかしたの?」 マァムが心配そうに聞く傍らで、アバンが持ち前のおどけた笑顔で軽く言った。 「おやおや、マリッジブルーですか? 大丈夫ですよ、結婚ってモノはしてみれば案外悪くないものですよ〜?」 ちゃかした言い方だが、そこにはアバンの気遣いや思いやりが感じとれる。しかし、レオナの表情は沈んだままだった。 「違うんです、そんな問題じゃなくって……というか、それ以前の問題なんです」 そう言って、彼女は花嫁には相応しくない溜め息をついた――。
「よし、これで準備は万全だな! 各国の反対しそうな連中の意見はきっちり、ばっちり押さえたぜ。法律改正の方は先生がうまくやってくれたみたいで、昨日づけで世界各国に承認されている。もう、何の問題もない……これでダイと姫さんは、晴れて結婚できるってわけだ」 得意げにポップがそう言うのを、レオナはこれ以上ない程に目を輝かせて、ダイは今一つぴんとこないような表情で聞いていた。 「長かったわね、ここまで……!」 感きわまったようなレオナの一言に、ポップも深々と頷いた。 「ああ、全くだぜ。なんか、すっげー長く感じたもんな」 勇者ダイが戻ってきてから、二ヵ月。 勇者ダイと、王女レオナの結婚を、世間に認めさせること。 身分違いだと難癖をつける者、年齢が若すぎると眉を潜める者……そして『竜の騎士』ではなくなったダイに不満を唱える者達などが――。 『ダイさんは、帰ってきます。そして、竜の騎士はもう戻ってはこない……少なくとも、地上にこの平和が続く限りは、永遠に』 矛盾した予言を、メルルが告げたのは半年前のことだった。 その意味が分かったのは、ダイが帰還してからのことだった。 竜の騎士としての使命に準ずるため、有事が起こるまでの間、聖母竜と共に深い眠りにつくか――でなければ、双竜紋の力を聖母竜に返して、地上に戻るかの選択を。 そして、後者を選べば、ダイは竜の騎士としての資格を失い、只の人間となるが……仲間達のいる地上へと戻ることが出来る。 もう、ダイには竜の騎士としての奇跡の力など存在しない。 「やれやれ、まーったく勝手な話だよな。ダイの親父さんが竜の騎士だから一国の王女と結婚するのは許さないって話だったのに、今度は竜の騎士じゃなくなったから王女と結婚するのは不遜だとか言い出す奴もいるんだからよ」 ポップのぼやきに、ダイはちょっとばかり不安そうな顔をする。 「おれ……竜の騎士の力、なくさない方がよかったのかな?」 「何言ってるのよ、ダイ君!」 思わず、声が高くなってしまうのは、ダイの苦悩を知っているからだ。 だからこそ、レオナは喜んだのだ。その力をしかるべき相手に預け、人間として戻ってきたダイを、誰よりも祝福し、歓迎した。それを、何も知らない他人の思惑などを気にして、後悔などしてほしくはない。 「そーだぜ、もう、戦いは終わったんだ。あんな力なんか、なくったっていいんだよ。それに、もう、おまえと姫さんの結婚に反対する奴なんて、いやしないって。ちゃーんと話はつけたんだし、みんながおまえらを祝ってくれる。胸を張って式に望めって言うの!」
難航気味だったダイとレオナの結婚を、実現させたのは主にポップの外交手腕だ。 各国の王様達と個人的な知り合いである強みを存分に活かし、舌先三寸で世論をダイとレオナに有利になる方向へと動かした。
本来は政略結婚によく使われる手だが、婚約よりもよほど確実な約束として、政治的効力を発揮する。 それよりは、まだ世界が落ち着かない今の内に、形だけでも婚儀を執り行い既成事実を周囲に認めさせ、ダイとレオナの立場を地固めさせた方がいいと踏んだのだ。 衣装作りや支度が間に合わないような有様で、お針子どころか、エイミやマリンまで加わっての徹夜の突貫作業が続いている。 むしろ、胸がわくわくしてどうにも落ち着かないぐらいで、待ち遠しくて仕方がないくらいだ。 「ダイ、ところでおまえ、明日の準備はもうできたろうな?」 やっとダイの頭を撫で回すのをやめてそう聞くポップに、ダイは元気よく答えた。 「うん。えーと、やり方は覚えたよ! ……だいたい」 ……元気はよいようだが、いささか不信の残る答えだった。 「『だいたい』って……おまえ、ホントに大丈夫なのかよ?」 ちょっと不安げに思わず問い返すポップに対して、ダイもまた質問を投げ掛けようとする。 「ところでさ、ポップ。おれ、聞きたいことあるんだけど」 「ああ? 話なんか、式が終わってからでいいだろ? 分かってるのか、明日、おまえと姫さんは結婚するんだぞ」 「うん、それ! それ、聞きたいんだよ。ねえ、結婚って、なに、ポップ?」 その爆弾発言に固まってしまったのは、ポップだけではなかった。レオナもまた、固まって動けなくなる。 「? どうしたの、ポップ? それに、レオナも?」 不思議そうなダイをよそに、たっぷりと五分近くも固まった揚げ句、ポップは爆発するように怒鳴りだした。 「おっ、おまえな〜っ。意味も知らないで結婚しようとしてたのかよっ?!」 「だって、レオナやポップがしろって言ったんじゃないか。二人がそう言うんだから、きっと大切なことだと思ったし」 ポップが何を怒っているのか分からないとばかりにきょとんとした顔をしているダイは、……冗談や誇張抜きで何も分かっていなさそうだ。 絶大の信頼を寄せられているという意味では嬉しい話だが――人生の一大事に対してのこのあっけらかんとした態度はいかがなものだろうか。 現に、人生の伴侶となるべき男性からのその言葉がショックで、レオナなどはいまだに固まったまま動けないでいる。 「ダイ、そこに座れ」 「座ってるよ、おれ?」 「やかましい、しっかり正座しろや、このぼけっ!! 結婚前夜になってからンなこと聞くなっ、この大バカ野郎が――っ!!」 ポンポン怒鳴られたダイは、さすがに今度ばかりは聞き捨てならないとばかりに眉を潜める。 「だって、今まで何回も聞こうとしたのに、ポップ、忙しいから後でって言って、全然話もしてくれなかったじゃないか。だいたい、あんまり会えなかったし」 ――文句のポイントは、そこらしい。 「まさか、いくらおまえでもそんなことまで知らないとは思わなかったんだよっ! それだったらそうで、早く言えっ」 と、怒鳴り返したポップだが、ダイの文句が正当だと認めるぐらいの冷静さはなんとか取り戻していた。 特に、ルーラで世界各国を飛び回っていたポップは、なおさらそうだ。 ダイも異議を唱えなかったから、てっきり結婚を望んでいるのだろうと思ったが……こんな事態はさすがに予測もしていなかった。 「いいか。結婚っていうのはだなあ、一生一緒に暮らすって、約束することなんだよ」 「一生? 一緒に? へえ、そうだったんだ」
「……本当に分かったのか?」 「うん。じゃあ、ポップとも結婚してもいい?」 未来の夫の告げた、同性への無邪気なプロポーズに王女様は呻くような声を上げて大きく天を仰ぎ、無二の親友である大魔道士様はといえば声の限りに絶叫した。 「わ、分かってねーよ、おまえっ、全然っ?! 男同士じゃ結婚できねーんだよっ?! つーか、そっからかっ?! そっからなのか?! んな基本の基本から、教えなきゃダメだっつーのかよっ?!」 頭をかきむしりながらわめき立てるポップは、そのままダイにつかみ掛かりそうな勢いだったが、衝撃に立ちすくむレオナに目を止めるぐらいの余裕はあった。 「ま、まあ、とりあえず、おれがこれからダイにみっちり教えておくから、姫さんは気にせずに寝ておきなって。寝不足な花嫁さんなんて、見られたものじゃないぜ」 と、ポップに背を押されるようにして自室へ戻ったものの……レオナは、その後、ほとんど一睡もできなかった――。
「――それが昨夜のこと…………?」 くらくらと目まいがするのを、マァムは止められなかった。どうやら、その目まいは彼女一人が感じたものではないらしく、そこら辺にいる人々は皆、一様に沈痛な面持ちで頭やら眉間を押さえている。 「ええ。で、朝になったら、二人とも……いないの。部屋にはいないし、寝た形跡もないし……」 結婚式当日の朝に、とんでもない事実を次々聞かされて、一行からは完全にお祝いムードが消し飛んでしまった。 「どうしよう……ダイ君がもし…、あたしとじゃなくてポップ君と結婚したいとか言ったりしたら……」 今にも泣きそうな、不安そうな表情をした花嫁に、マァムは慌てて慰めの言葉をかけた。 「まさか、いくらダイでもそんなこと」 「…………言いそうな気もするな」 思わずポソッとそう言ってしまったヒュンケルを、正直すぎると責めるのは酷だろう。
花嫁本人の口から漏れた疑惑の言葉が終わらない内に、激しい衝突音がテラスから響いた。 目に入ったのは半ば予測した通り、いまや大魔道士になったのに相変わらずルーラの着地は苦手なポップと、本日のもう一人の主役であるはずのダイだった。 「ポ、ポップ、大丈夫?」 受け身が苦手なポップと違い、しっかりと着地したダイはおろおろとひっくり返ったままのポップを見つめている。 「そー思うんなら、手ぐらい貸せ……っ!」 「だって、おれ、手がふさがってんだもん」 ダイはなにやら両手いっぱいに、大事そうに花を抱え込んでいる。南国特有の花びらの大きな派手な花は、深い青の色が鮮やかだった。 「大丈夫、ポップ? ほら、しっかりして」 マァムがポップを引き起こして、埃だらけになった服を叩いてやるなど世話を焼いている間、ダイは人込みの中にいるレオナを見つけて駆け寄った。 「あっ、レオナ。わー、ももんじゃみたいに真っ白でふわふわな服だね! それ、ポップが言ってた『ハナヨメイショウ』?」 「え、ええ」 褒められたと解釈するには、あまりに個性的な形容詞に多少顔を引きつらせながらも、嬉しそうなダイの笑顔を釣られてレオナも笑みを浮かべる。 「それで、ダイ君……結婚がどういうものか、分かった……かしら?」 恐る恐る聞くレオナに、ダイはこっくりと頷いた。 「うん。『結婚』がなんなのか、なんとなくだけど分かったよ」 「……あれだけ人が懇切丁寧に、一晩掛けてみっちりと説明してやったのに、それでもまだ『なんとなく』程度かよ?!」 おれの睡眠時間を返せとぶつくさ小声で文句を言っているポップを、マァムは肘で軽くつついて黙らせる。 その空気を感じ取ったのか、室内には大勢の人がいるにもかかわらず、静寂と緊迫感が満ちた。 「レオナ。あのさ……今になってから言うの、悪いかなって思うけど、『結婚して』ってレオナの言葉、取り消してくれないかな?」 「え……?」 信じられないとでも言わんばかりに、目が大きく見開かれる。大魔王バーンの前でそうしたように、自失して立ちすくむレオナの手からブーケがこぼれ落ちた。 ただ、ただ、目を見開いて立ちすくむレオナに、一行は同情にも似た視線を注ぐしかできなかった。 「ちょっと、ダイ……ッ」 レオナへの友情の思いから、思わずダイを非難しかかったマァムを、止めたのはポップだった。 感情の起伏そのままに、豊かに表情を変えるその顔は、時に言葉以上に雄弁だ。 ダイだけしか見ていない彼女は、他の誰も目に入らない。 「レオナ」 そう呼ぶ声にも、ウェディングドレスの裾を取る手にも、細心の丁寧さが感じられる。 まるで、とても大切な宝物を扱うように。 「おれと、結婚して」
「……?!」 レオナの瞳が、再び先程と同じくらいの大きさに、だが、先程とはまるで違った意味を持って見開かれる。 「ポップから聞いたんだ。結婚って、ずっとずっと一緒にいるって約束することなんだって」 まだ跪いたまま、小さな勇者は純白の姫君を眩しそうに見上げていた。 「父さんと母さんみたいに、一緒にいて、それから新しい家族が増えるものなんだろ?」
「一番大好きで、一生、一緒にいたい女の子とする約束なんだろ? だから、おれ、レオナと結婚したいんだ」 その言葉が、レオナの胸を震わせる。 「ダイ君……ッ、それ…本当? 本当に、あたしで、いいの?」 レオナの目が、一瞬泳ぐようにポップの姿を探す。 「ポップが、言ったんだ。一番大切な女の子とは、ちゃんと約束しなくっちゃダメだって。 だから、おれ、レオナがいいんだ。だって、おれ、レオナ以上に大切な女の子なんて、いないよ?」 まだ子供っぽい口調ながらも、その思いの真剣さは確かだった。 「結婚を申し込むのって、ホントは男から女へするもんなんだってね。で、指輪とかあげるんだって聞いたけど、おれ、そーゆーのよく分からないから、これ、探してきたんだよ」
「おれの島で、この季節だけ咲く花なんだ。すっごく綺麗だから、レオナにも一度見せてあげたいと思ってたんだよ。これ、あげるね」 よくみれば、ダイの服や顔にはあちこちに泥がついている。その癖、手にした花は汚れ一つついていない綺麗な物だった。 「レオナ。おれと、結婚してくれる?」 まだ自分よりも小さな勇者からのプロポーズに、レオナは歓喜の涙を浮かべながら頷いた。 「ええ……、喜んで……!」 やっと成立した幼い恋人達の婚約を、勇者一行の一同は祝福の眼差しで暖かく見守っていた――。
「姫様、そろそろお式の時間ですが……。――?! ひ、姫様、どうかなさったんですか?」
「ううん、なんでもないのよ。もう、時間なのね、分かったわ。すぐ、お化粧を直すから」
何があったのか分からないまま、エイミはレオナの足下に落ちて乱れたブーケを気遣う。だが、花嫁は数本の花をまとめただけの手製の花束を、さも大切そうに抱きしめた。 「いいえ……! この花がいいの」 「姫、よければこれを」 ヒュンケルが差し出したのは、レオナへのプレゼントとしてあらかじめ用意してあったハンカチだった。 庶民感覚では並のドレス以上に高価な代物で、貴族か王族の姫君でもなければ使うこともできない逸品だ。 「そのままじゃ、すぐにはずれちゃうわね。よかったら、これを使って」 そう言ってマァムは、自分の胸元からブローチを外して、ハンカチを止めるピン代わりに使う。 「これ、父の実家に受け継がれた物の一つなの。古い物だけれど、結婚祝いにレオナに上げるわね」 真珠のついたブローチは、定番の品でありそう珍しい物ではない。むしろ、貴族の娘なら誰もが一つや二つ持っている、ありふれた品にすぎないだろう。 長い間、母から娘へ、娘から孫へと受け渡す宝飾品には、派手さはなくとも堅実さと実質本位な美しさが備わっている。 結婚を機に身内の女性から宝飾品を譲り受けるのは、貴族階級以上の娘にとっては、ありふれた風習だ。 それが思いも寄らぬ形で姉替わりとも頼む女性から叶えられ、レオナの胸を喜びで暖めてくれる。 「ありがとう、マァム……!」 嬉しそうに花束を見つめたレオナの顔に、いかにもいつもの彼女らしい、茶目っ気を感じさせる表情が浮かぶ。 「ね、ポップ君、そのバンダナを貸してくれないかしら?」 「え? こんなのを?」 と、軽く自分のバンダナを押さえ、ポップは一度は断ろうとした。 「こんなのじゃなくて、ちゃんとしたプレゼントを後で用意するって」 「ううん、借り物じゃないと意味がないのよ。それにプレゼントなら――もう十分以上にもらったもの」 挙式前の花嫁たっての望みを、ポップはそれ以上は固辞しきれなかった。不思議そうな顔をしながらも、バンダナを外して彼女に渡す。 「貸すのはいいけど、これ、無くさないでくれよ。おれのトレードマークなんだからさ」
だが、勇者一行にとっては、そのバンダナはただのバンダナとは全く違う意味を持っている。 「ありがとう、約束するわ、ちゃんと返すわよ。――利子をつけてね」 思わせぶりな笑顔と共にそう言いながら、レオナは器用な手つきでバンダナをブーケの根元に形良く巻きつける。 それで花嫁の支度は整ったものの――花婿の方は全くだった。 「さ、ダイ君、早く着替えて。急がないと式に間に合わないよ」 「そっかなあ? おれなら、このままでもいいけど」 「いいわけあるかっ! いいからちゃんと着替えてこいっ!」 と、ダイの背をどやし付けるポップの背を、強く叩いたのはマァムだった。 「着替えるのはポップもでしょ?! そんな格好で結婚式に出るつもりなの? 泥だらけじゃないの」 「仕方ないだろ、ダイの奴が知っている中で一番綺麗な花を集めるんだって言い出したから付き合ってやったら、あいつ、崖っぷちやら火山の火口やら、とんでもないとこばっかに行きやがってよ」 「言い訳はいいから、ほら、急いで、急いで!」
見渡す限りの人の波が広がる。 誰もが、嬉しそうな顔をして笑いあっているその光景を、ダイとポップは花婿用の控え室の窓から眺めていた。 「……みんな、嬉しそうだね」 まだ背が低い勇者にとっては、結婚式用の盛装も借り物じみていて似合ってはいないが、代わりに初々しい可愛らしさがあった。 まだまだ結婚には早そうなお子様勇者の隣に、緑の法衣を着た魔法使いが並ぶ。 「ああ。みんなが、おまえと姫さんの結婚を、祝福するためにここに来たんだ。平和を取り戻してくれた勇者に、感謝してるんだよ」 そう言いながら、ポップはダイの頭にぽんと手を置き、くしゃくしゃとかき混ぜるように乱暴に撫で回す。 「おれ……地上に、戻ってきてよかった。今、ホントにそう思うよ」 みんなで守りきった地上で、普通の人間として、幸せに生きていく。それはダイにとっては、一時は諦めていた夢だった。 なのに、信じられないぐらいの幸運がダイには与えられた。 『約束なんかしなくても、おれはずっとおまえの友達だし、勇者の魔法使いでいてやるよ』
「さ、いこうぜ、ダイ。みんなが……おまえのお姫様が待っているぜ」
それは、おままごとのような式だった。 白い結婚の慣習に従ってヴェールを上げず、薄い紗の布越しの誓いのキスは、花嫁の頬にと当てられる。
その瞬間、わきあがるような歓声が大神殿を揺るがさんばかりに響く。 とりわけ大きく手を叩き、最前列で嬉しそうに笑っているのはポップだ。そのすぐ隣に、淡い赤毛の娘がいるのを見定めてから、レオナは手にしたブーケを思い切りよく空へと放り投げる。 途端に、若い娘達の黄色い声があがり、花が咲くように一斉に娘達の手が空に向かってのばされた。 驚いたようなマァムとポップが一瞬顔を見合わせ、互いに頬を赤らめるのを花嫁は見逃さなかった。清純な花嫁衣装のヴェールに隠れたまま、レオナはこっそりとほくそ笑む。
これも、また、有名な言い伝えの一つだ。
新しいものを、一つ。 《後書き》
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