『熱を持たない灯』

  
 

 そこは、固く閉ざされた部屋だった。
 王宮の奥深く、地下へと続く階段の下にあるその扉は、厳重な封印が施されていた。見る者が見たのならば、その部屋が単に鍵を掛けられているのではなく、魔法による封印に守られているのだと見抜くだろう。胡乱な者では近付くことすらできまい。

 そこまで厳重に守られるのも、当然だろう。
 ここは、宝物庫なのだから。
 この扉を開けることの出来るのは、この国の正統なる王族のみ。

 それが知られ渡っているだけに、この部屋には見張りすらついていなかった。見張りなど立てなくとも、王宮の最奥に入り込む者など、いるはずもない。
 そんな油断が、この城の住人にはあった。

 だから、彼らは気がつかなかった。
 夜の闇に紛れ、その扉にこっそりと近付いた魔法使いの姿に――。

 


 

 


 迷いのない足取りで近づいてきた魔法使いは、扉の前で足を止めた。
 固く封じられた、魔封の扉。
 魔法使いは軽く手を伸ばし、扉に触れるか触れないかギリギリの所に手をかざす。すると、小さな音を立てて魔法の光が飛び散った。

 互いに反発し合う光を放ち合う、扉と手。
 魔法を使う者にしか理解出来ない戦いは、そう長くは続かなかった。魔法使いの手が一際強く光ったかと思うと、扉は屈したかのように光を失い、音も立てずに自然に開く。

 一見、簡単に成し遂げた様に見えるが、魔封をこんな形で無理やり破るには、恐るべき魔法力を必要とするものだ。
 偉大な魔法を見せつけた魔法使いは、足音を忍ばせて宝物庫へと滑り込む。

 だが、宝物庫に入った彼は、わずかに眉をひそめて周囲を見回した。
 宝物庫――その名から想像されるきらびやかさとは、この部屋は縁遠かった。置かれている品は数える程しかなく、しかもその大半は価値を感じられないガラクタだったのだから。

 せいぜい手のひらに乗る程度の大きさの、顔もなく、ただ胴体に手足をつけただけにしか見えない粗雑な木製の人形は、まだいい。かすかに漏れる魔法の気配が、それがなんらかの呪力を帯びた品だと教えてくれる。

 ボロボロになった書物や巻き物の数々も、いいだろう。知識は一種の財産であり、後世にまで伝える価値は十分にある。
 だが、大切そうに額に入れて飾られた稚拙な絵の類いが何枚もあるが、それらはどう見ても子供の描いたそれだった。

 宝物庫に似つかわしくない宝は、他にもある。
 わざわざ品質劣化を防ぐ魔法のかけられた胴体型の洋服かけにかけられた服などは、ただの布の服だった。

 一番目立つ場所に仰々しく飾られているその服の価値を見出だせる者は、いないだろう。 世の中には、一見布の服と見せかけて魔法の効力の織り込まれた服もあるが、そこにある服はどう見てもただの服だ。なんの魔法の力も感じない。
 しかも、デザイン的に素晴らしいというわけでもない。

 緑色をベースとしたその服は、大人用の服としては半端に小さめで、かといって完全に子供服と言うほど小さくもない。ついでに言うのなら新品ではないらしく、着古した感じがひしひしと漂っている。
 その服には魔法使いも疑問を感じたのか、しばし足を止めて見つめる。

 だが、彼の注意はすぐに宝物庫の最奥へと引きつけられた。
 それは、雑多な品の並ぶ宝物庫の中で異彩を放つ輝きを見せていた。
 尖った切っ先と、丸みを帯びた曲線を複雑に組み合わせて作られた、独特の柄はいかにも勇壮だった。

 長い間、宝物庫にしまいっ放しだったにもかかわらず、抜き身の刃は造られたばかりであるかのような鮮烈な輝きを放っている。
 その剣を見つけた途端、魔法使いは目を輝かせた。

 慎重な手つきでその剣を台座から抜き取ると、彼は隠し持っていた剣をその台座に戻す。 その形は、今、魔法使いが抜き取った剣と寸分違わない。だが、比べると刃の輝きが明らかに劣っているのが分かる。

 しかし、問題はないだろうと魔法使いは考えていた。
 本物の剣は、この場で魔法使いが持ち去るのだ。二本を比べて並べるならいざ知らず、この偽の剣だけを単独で見て、それが偽物だと一目で看破できる者がそうそういるはずもない。

 何しろ、この偽者は文献を元に細部まで巧妙に作り上げた代物だ。デザイン的には本物と全く遜色がないと言っていい。
 さすがに材質までは真似ができなかったため、強度においては本物とは雲泥の差だが、それがバレる時は魔法使いはこの国にはもういないのだから。

 擦り替えを成功させた魔法使いは、来た時と同じように、足音を忍ばせて宝物庫を抜け出した――。

 

 


 剣を手に、自室として使ってよいと言われた客室に戻ってきた魔法使いを待ち受けていたのは、顔までもすっぽりと覆い隠す衣装を身にまとった人影だった。
 闇の中、明かりさえつけないで佇んでいるその男の目が、猫のように光っているのが見える。

 その特徴からエビルマージと呼ばれる高位魔族だと見抜ける者は、そう多くはいまい。 だが、魔法使いはその正体を知り、それでいてなお、驚いた様子も、怯えた様子も見せなかった。
 その必要はないのだ――なぜなら、魔法使いは、彼らの同類なのだから。

「……ザムザ様。首尾はいかがですか?」

「ああ、上々だ」

 傲慢に返事をし、魔法使い――ザムザは隠し持っていた剣をエビルマージに渡す。

「ははーっ、これが噂に高い覇者の剣ですね……! こんなに早く手に入れられるとはさすがはザムザ様ですね、では確かにお預かり致します」

 大袈裟な仕草で剣を受け取りながら、おべんちゃら混じりの言葉を並べているエビルマージは、絡みつくような視線を向けてきた。

「時にもう一つの計画の方は、いかがなさいましたか?」

「……う、む……」

 歯切れ悪く、ザムザは言葉を濁す。
 巧妙に作り上げた偽者と、本物を擦り替える。
 その計画は、本来、剣に対してだけ行う作戦ではなかった。
 この国を統べる王……ロモスの王、シナナ王に対しても、それを行う予定だった――。

 

 

 

『ザムザよ、最近、人間の王族どもの動きが少々、おかしい。
 まあ、所詮人間のやることだし、大事になるはずもないが、あまり予定外の行動をされるのも計画に支障を来すやもしれん。少し、探りを入れてもらおうか』

 魔王軍妖魔士団長であり、実の父であるザボエラの言葉。
 それは、ザムザにとっては絶対の価値を持っている。その命令を重んじたからこそザムザは部下任せにせずに自ら変身魔法で人間に化け、ロモス王に接触した。

 攻略先にロモス王国を選んだのは、ザムザの選択によるものだった。
 オーザム、カール、リンガイアの三国には、すでに壊滅的なダメージを受けている。王族もほぼ死亡しているか、あるいは離散してしまい、国家として機能していない。

 現在、魔王軍と最も活発に戦おうとしているのはパプニカ王国だが、あの国には魔王軍の宿敵、勇者一行が滞在している。
 王女レオナと勇者一行の関わりが深いだけに、うかつに近付けば相手を探るどころか怪しまれる可能性は大いにあった。

 情報を集めるには最適だが、あまりにも危険が大きすぎる。
 それとは逆の意味で、候補から外されたのはテランだった。
 歴史が古いテラン王国だが、現在では寂れているせいもあり、そもそも国民自体が少ない。

 危険は少ないかもしれないが利点も少なく、情報が集めにくい国など、ザムザにとっては何の価値もない。
 狙い目となるのは、軍事力に力を注ぐベンガーナ王国がよいかと、ザムザも一度は考えた。

 商業に力を入れている分、裕福な商人を装って王室にも関わる商売をもちかければ、王宮に潜入するのも難しくはあるまい。
 だが、ザムザが最終的に目をつけたのは、ロモス王国の方だった。

 勇者ダイをいち早く勇者と認め、正式に称号を与えたのはロモス王国だ。にも関わらず、ロモス王は勇者ダイを召し抱えることなく、旅立たせている。
 よそ者を受け入れやすく、なおかつとどめようとしない国。
 スパイが潜入するにはもってこいの条件だ。

 しかも、ロモス王国に実際に潜入して初めて知ったが、この国にはとんだ宝が眠っていた。
 オリハルコンで作られた、覇者の剣。

 魔界でさえそうそう手に入らないこの貴重な金属で作られた武器が、なぜこんな小さな国に眠っているのかが疑問だったが、それはどうでもいい話だ。
 優れた品を、無知な人間などが持っていても何の意味もない。覇者の剣を盗むことに、なんのためらいも感じなかった。

 だが――ロモス王を殺すのには、いささかのためらいがあった。
 最初に立てた計画では、すでに暗殺は終了しているはずだった。
 初期の段階でロモス王を殺し、自分の配下の者にモシャスをかけ、王の振りをさせ、計画をよりスムーズに実行する。

 最初はそのつもりだった。
 だが……あまりにも無防備なロモス王の態度に、かえって疑惑を感じ、用心してしまったのがザムザの失敗だった。

 何か裏があるのではないかと、探りを入れるために必要以上に会話を交わし、行動を共にしたせいで、ザムザは知ってしまった。
 ロモス王は人が善いふりをしているのではなく、心底善良な人間なだけだと。

 疑いなく出会ったばかりの自分を信じ、ザムザの知識に称賛の声を惜しまない、呆れる程に人の善い王だった。
 城への滞在も拍子抜けする程あっさり認めた上、ただの旅人であるはずのザムザを厚遇してくれたし、ザムザが提案した武闘大会開催にも一も二もなく乗ってきた。

 せっかく素晴らしい国宝の剣があるのだから、これを賞品にして広く世間に呼び掛け、強者を集めてはいかがと、尤もらしいことを言ったが、ザムザの狙いは別にある。
 これ以上勇者一行を強化されないためにも、魔王軍に歯向かうだけの力を持つ人間を集め、間引く作戦。

 その際、今行っている実験のモルモットにでもすれば一石二鳥……そんな風に思っていた。
 この計画実行には、ロモス王の協力が不可欠だ。もし、協力しないようなら、いつでもロモス王を暗殺すればいい……そう思っていたのだ。

 だが、そうはならなかった。

『おお、武闘大会とは、素晴らしいアイデアですな、さすがはザムザ殿!』

 心底嬉しそうに、ザムザの提案を全面的に受け入れてくれたロモス王に、殺すきっかけを失った。
 一度、機会を流してしまうと、二度、三度と計画はずるずると流れていく。結局、武道大会を明日に控えた夜になってもなお、ザムザはロモス王を殺さないままだった――。

 

 


「……計画と違って、ロモス王は終始こちらに協力的だったからな。それならばこのままでも計画に支障はないし、無理に擦り替え作戦を遂行するまでもないだろう。
 順調なればこそ、見破られる危険を無理に増やすこともないと思い、そちらの計画は見合わせていたまでだ」

 自分の心情は敢えて伏せた説明が、いささか言い訳めいたものになっているとザムザは自覚していなかった。

「そうですか。それならば擦り替えは行わなくても、いいでしょうね。だが、暗殺は実行していただかないと。
 ザボエラ様のご命令です。できるだけ派手な形で計画を実行後、ロモス王を暗殺せよ、と」

 その命令を聞いて、ザムザが受けたショックは少なくはなかった。
 感情は、それを忌避したいと願う。
 だが、不幸なことに知略に優れたザムザには、わざわざ派手にと命じるザボエラの心理も、読み取れる。

 単に暗殺するだけなら、派手にする必要はない。
 ただ、王という指導者や強者を奪うだけでなく、魔王軍の者が知らぬ間に人間達の中に紛れ込むことが出来るとアピールし、人間達の絶望や猜疑心を強めようという作戦だ。

 そして、それは同時に魔王軍に対しての手柄のアピールでもある。
 最近、目だった成果を上げられずに焦っているザボエラの焦りが、透けて見えるような露骨なアピールだ。

 徹底して効果的な方法を選ぶ点は、いかにもザボエラらしいと言うべきだろう。
 だが、それが父親の望みだと言うのであれば、ザムザの答えは決まっていた。

「……承知した。父上に、明日の決行を期待してほしい、と伝えてくれ」

 自分の感情にそぐわない上、作戦実行者であるザムザの身の安全をまるっきり考慮していない計画を、ザムザは素直に受け入れる。

「かしこまりました。それでは、失礼します」

 エビルマージの姿が、闇に溶けるように消えていく。
 それを見送りながら、ザムザは奇妙にざわめく自分の心に苛立ちを感じていた。

(くそ……っ、たかが人間を一人、殺すだけではないか……!)

 落ち着かずに波立つ心の動きに苛立つザムザは、気がついていなかった。
 ロモス王を殺したくはない、本当の理由に。
 自分よりもずっと小柄で初老の王に、ザムザはどこか父親の姿を重ねていた。厳密に言うのであれば、それは実在の父ではない。

 自分を常に受け入れ、認め、褒めてくれる優しい父親。
 ロモス王の面影や優しさに、無意識に理想の父親像を重ねていた――だからこそ、ザムザは今までロモス王を殺せなかった。

 父親という存在に心酔し、心から慕うからこそ、父と意識する相手をザムザは無下にすることは出来ない。
 だが……本物の父親から下された命令は、絶対だ。

 父に失望されたくない。
 親を慕う子の感情。それは、本能的な強さで刷り込まれている原始の感情だ。その前には、自分自身の感傷など色を失う。

 たとえ後でどんなに心を痛めるにせよ、ザムザはザボエラの命令には逆らえない。葛藤を飲み込み、ザムザは殺意を無理やり掻き立てるように武闘大会に心を身構えた――。

 

 

 


「ご報告します! ご命令通り、勇者達は全員、客室に案内いたしました」

 兵士隊長がきびきびとそう報告するのを聞いて、ロモス王は鷹揚に頷いた。

「ご苦労。みんな、ゆっくりと休めているだろうか?」

「はい、ご心配なく。特に勇者ダイ殿とポップ殿には、安心して休養出来るようにと気を配りましたので!」

 救国の勇者の名前を聞き、ロモス王の顔に柔らかな笑みが浮かぶ。
 まだ子供といっていい年齢だが、ダイとポップは二度までもロモスを救ってくれた勇者であり、いわばこの国にとって英雄だ。

 彼らがいなければ、今日、この国は滅びていただろう。
 なにしろ、食客としてロモスに滞在していた学者のザムザが、実は魔王軍の手先だと発覚したのだ。

 ロモス王国の各地から集った勇者候補達を誘拐し、ロモス王暗殺を目論んだザムザを倒したのは、ダイとポップだった。
 化け物と化したザムザを一撃で倒したダイの勇姿は、ロモス城にいた者に強い感銘を与えた。

 想像以上の勇者の強さに、みんなが舞い上がったかのように興奮を隠せない。
 だが……ロモス王の表情には、そんな興奮など微塵も浮かんではいなかった。

「そうか、それは良かった。……ところで、ザムザど……いや、ザムザの死体はどうなっただろうか?」

 王の問いに、兵士隊長は怪訝そうな表情を浮かべる。

「あの者は、灰となって散っていきましたが……」

 超魔生物は、死ねば灰となると言ったのは、当の本人であるザムザだった。その言葉通り、ザムザは死骸すら残さずに灰となって消えていった。
 それは、その場にいたロモス王も目撃したはずだ。
 だが、ロモス王の次の命令は兵士隊長の予想を超えたものだった。

「いくら散ってしまったとはいえ、あの場に幾許かの残骸は残っただろう。それを集め、秘密裏に墓を作って欲しいのじゃが」

「王、あんな者のためにですか?」

 驚きの余り、つい王の命令に反論してしまうという失態を犯してしまった兵士隊長だが、王はそれを咎めなかった。
 だが、ひどく悲しそうな表情を浮かべる。

「あんな者、か。……確かにそうかもしれぬな」

 王の目が、もう暗くなった窓の外へと向けられる。肉眼では見えぬものの、その視線は闘技場のある方向に向けられていた。

「確かに、あの者がしようとしたことは許されることではない。
 だが、……ワシには、あの者が根っからの悪党とは思えなんだ。
 せめて……その死を悼むぐらいのことをしてやっても、良いのではないか?」

 それは、命令とは言えまい。
 だが、王の人柄そのままに、優しさがにじみ出るような言葉は、なまじの命令よりも強く、兵士隊長の胸に刻み込まれた。

「……王のお心も知らず、失言をいたしました。お許しください……。
 分かりました、それではこれから口の固い者を募り、お言いつけ通りに密かに墓を作るとします」

 兵士隊長の言葉に、ロモス王はわずかに頭を下げ、感謝の意思を表した――。

 

 


 一人、部屋に残ったロモス王は、テーブルに置かれた、魔法の光を放つ燭台を見つめていた。
 それは、ザムザが残していったものだ。初めて謁見した際、王に献上したい宝だと言って贈られたものだった。

 魔法で作り出された疑似的な炎は、その明るさこそは本物の炎に酷似しているものの、触れればすぐにその違いは分かる。
 熱をもたない、見せかけだけの炎を発する燭台。

(ザムザ殿は、これは純粋に魔法的な光だと言っていたな……)

 ひどく得意そうに、一般人には理解しにくい魔法理論を長々と述べていたことを思い出すロモス王の口許に、わずかな笑みが浮かぶ。
 ザムザは決して、人当たりのいい男とは言えなかった。

 むしろ、慇懃無礼と言った方が当たっている。そのせいで、城内での彼の評判はそれ程高くはなかった。
 だが、それだけではなかった一面を、ロモス王は知っていた。

 気難しい、とっつきにくい男の様でいて、ザムザはこと魔法や知識に関する話については違った一面を見せた。
 取り澄ました様な顔を崩し、魔法について滔々と弁じ立てる姿には、青年らしい熱さや若さを感じられて微笑ましく思ったものだ。

 自分の知識をひけらかす様に、少しばかり他人を見下した態度を取る癖でさえ、ロモス王には気にはならなかった。
 若いうちは、誰もが野心を胸に秘めているものだ。

 人よりも出世したい、自分の力を誇示したい――そんな感情を、ロモス王は悪いと思ったことはない。
 ロモスは穏やかな気候そのままに、いい国だと自負しているが、この地に住む国民はどうにも気概に欠ける傾向がある。


 良く言えば、おおらかで穏やか。
 悪く言えば、現状で満足する傾向があり、向上心に欠ける。
 無論、ロモス王は自分の国の民の心根を誇りに思い、愛着を感じている。しかし、それだけでは足りないのではないかと思う時があった。

 平和な世界でなら、その資質はなんら問題がないかもしれない。だが、いつまでも平穏が続くとは、限らない。
 歴史は、教えてくれる。
 どんなに人々が平和を望もうとも、戦いは絶え間なく訪れるものだと。

 そんな際、必要とされるのは自分自身の力で困難に立ち向かい、切り抜けようとする覇気だ。
 だからこそ、ロモス王は『勇者』を尊重する。

 結果的に騙されたとはいえ、偽勇者達やザムザを信じたことを、後悔はしない。ダイやポップを信じたように、これからもロモス王は多くの若者達と出会い、その可能性を信じて未来を託そうとするだろう。

 必ずしも、それがいい結果だけをもたらすとは限らないし、それによってロモス王自身も傷つくこともあるかもしれない。
 だが、それでもロモス王は、信じたいと願っている。
 人々の善意や、未来への可能性を。


 熱を感じられない炎を放つ燭台の灯を、ロモス王はそっと両手で覆い隠した――。
                                END 


《後書き》
 世にも珍しい、ザムザとロモス王のお話です!
 前に拍手コメントでザムザが気の毒にも思えるという言葉をもらった時、彼にもいい思い出や、死を悼んでくれる人がいてもいいんじゃないかと思ったんです。

 それで、真っ先に頭に浮かんだのが、ロモス王との交流話でしたv
 出番はそう多くないですが、人の良いロモス王っていかにもドラクエの王様というイメージで、大好きです♪
 

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