『ひなげしの残香』 |
「大魔道士様、ご休息中失礼します。 ノックの後、ドア越しにかけられたその挨拶を聞いてポップは読み掛けの本を閉じた。 一応は問い掛けの体裁をとられているとはいえ、仮にも留学中の身だ。王の誘いを断ると、後でかえって厄介になる。 ちょうど読書に熱中していたところを中断させられるのは嬉しくはないが、応じない訳にはいかない。 各国を留学してみて初めて分かった事実だが、国によって城で働く人間の種類には差がかなりある。 昔から騎士団で有名だと言うカール王国やリンガイア王国では、騎士の姿が目立った。 テランでは占い師や巫女が尊重され、鉱山で有名なロモスでは鉱脈についての知識を持つ学者が貴ばれるらしい。 そして、国の要職を占める職業に多い性別に合わせて、その下で働く者達の職業や性別も揃えられるもののようだ。 もちろん城の食事や清掃など家事に当たる部分は侍女が、事務系の仕事は文官が、護衛系の仕事は兵士がと、大まかな役割こそは決まってはいるものの、この三種の職業の割合は国によって違ってくる。 神事を重要視するテランでは兵士よりも侍女の数の方が圧倒的に多いし、学問を貴ぶロモスでは文官が意外なぐらい多くそろえられている。 客人の案内や世話ならば、大半の国では侍女に任せるのだが、ベンガーナでは重要な用事は全て兵士に任せるのが礼儀と考える習慣がある。 結果、最上級の客人として遇されているポップが、ベンガーナ城で出会うのは兵士ばかりと言うことになる。 (国の習慣に口出しする気はないけど、どうにも華やぎがないよな、この国って) 内心のがっかり感を口にも顔にもださないように苦労しながら、ポップは扉を開けた。 そこにはポップよりも頭一つは大きな兵士が、直立不動の姿勢で立っていた。 どちらかといえば年の割には小柄で、お世辞にも逞しいとは呼べないポップからみれば、ちょっと気後れしたくなるようなマッチョマン揃いなのである。 兵士としては優秀なのかもしれないが、伝令や道案内などに関しては、繊細な気配りのできる侍女の方がずっと優れているとポップは思わずにはいられない。なによりも、見ていて華やぎがある。 兵士達の言動は礼儀正しく振る舞ってはいても、どこか体育会系というか、武骨な印象が強い。 「え……、あなたが大魔道士様なのですか?」 会った途端に驚かれたり、意外そうにそう言われるのはもう慣れた。自分の年齢や外見が、大魔道士らしくないのは十分に承知している。 だがその兵士はポップを案内する間も、何度も何度も、じろじろとポップを見返すことをやめない。 「あ、あのっ」 そう呼びかける声には、強張った響きがあった。 「ん、なに?」 内心はまたかと思いつつも意図的に軽い口調で、ポップはその兵士に応じた。20代前半ほどの若い兵士はためらった揚げ句、思い切ったように口を開く。 「あのっ……失礼ですが、どこかでお会いしたことはなかったでしょうか?」 その質問に答える前に、ポップは念のために一応、相手の顔を見返してみる。 「いいや、悪いけど覚えがないんだけど」 ポップのその答えに、兵士が浮かべたのは落胆と言うよりは当惑の表情だった。 「そう……ですか? 不思議ですね、私の方は確かに、あなたに見覚えがあるような気がするのですが……」 どうにも納得できないとばかりに呟いてから、兵士は自分の態度が失礼だと思い当たったらしい。 ご無礼をしましたと頭を下げ、道案内に戻る。そこまでは良かったのだが、通りすがりの別の兵士がポップを見てハッとしたような顔をするのが見えた。 「あの、失礼ですが、お聞きしてもよろしいでしょうか? あの、どこかでお会いしたことはありませんでしたか?」 (またかよ?!) またも同じ質問を投げ掛けられて、ポップは目まいすら感じてしまう。 だが、ポップにはこれっぽっちも見覚えなどない。 しかも戦いで混乱している時だったし、港やデパート付近を少しうろついただけで、城には近付いてさえいない。 つまり、主に城で活躍している大多数の兵士達と会った経験などないはずなのだ。にも関わらず、こんな反応の連続 正直、ポップはすでに困惑を通り越してうんざりしていた。 (ホント、何なんだよ、この国って) ポップがベンガーナ王国に留学に来てからすでに二週間程経つが、どうもこの国には馴染みにくい。 居心地が悪い、と言うわけではない。 今までの国に比べると格段に居住環境が豪華だし、食事や衣装だってとびっきり贅沢だ。その上、留学中のポップに対して十分な余暇を与えるように配慮もしてくれている。 今までの国々のように、復興のためにポップが何か手を貸す必要など最初からなかった。 もともと経済的に豊かだったこともあり、戦後の復興が一番早かった国でもある。だが、そのせいで手助けを全く必要とせず、かえってポップが暇になるとは皮肉な話だった。 まあ、ポップとしてはそれに不満がある訳でもない。暇を持て余すどころか、ダイ捜索のための準備時間が足りないぐらいなのだ。余暇を利用して古文書や古地図を調べておきたいのだが、ちょっっぴり困るのはベンガーナ王の存在である。 これもベンガーナ王の名誉のために言うのであれば、彼は決して付き合い辛いタイプの人間ではない。 豪快な人柄でもあり、若い頃はかなりやんちゃだったというのか王族離れした武勇伝も多く、話していて結構面白い相手でもある。ポップもベンガーナ王個人と話すのは決して嫌いではない。 だが、社交的なベンガーナ王はポップを気に入ってやたらと人前に出したがり、何かと理由を付けてはしょっちゅう呼び出すのが問題なのだ。 大魔道士を自慢したがっているのが見え見えで、ベンガーナ王国に来た初日からパレードが開かれるわ、盛大な儀式に立ち合わされるわ、パーティにも参加を要請されるわと、やたらと忙しない。 なんとかそれに一段落がついたとはいえ、その後もやれ客人を招いただのなんだのと理由をつけてはしょっちゅう紹介したがるのだ。 豪快なようでいて、ベンガーナ王は自慢の宝を見せびらかしたがるような子供っぽさがある。 「ところで、今日の客人って誰か、知っているかい?」 「はっ、世界的に有名な画伯だと伺っております!」 「ふぅん、画家かぁ〜」 ベンガーナ王の客人は、意外なくらい幅が広い。 商人や船乗りのように商売に関わる相手から道化師や吟遊詩人など芸人として王を楽しませる相手など、少し変わった経歴の客を好んでいるようだ。 大戦中、ベンガーナデパートがドラゴンに襲われた後の苦労談などは、なんだか聞いていて妙に落ち着かない気分にさせられたりしたものである。 「ええ、美人画で大層有名な画伯だそうです。ベンガーナ城にも、かの画伯の描かれた絵があるんですよ。 ちょうど客間に行く道の途中にありますからと告げる兵士の提案を、普段のポップなら断っただろう。 が、芸術心などかけらもなくとも、『美人画』と言う言葉が、強烈にポップを引きつける。 「そうだな、見れるならちょっとだけ見てみたいな〜。その方が、画家の人とも話しやすくなりそうだしさ」 もっともらしい理屈をとってつけるポップを怪しむでもなく、兵士は二つ返事で頷いた。
そこは、城の入り口から入ってすぐに当る広間だった。 「へー、こんなところに絵があったんだ」 と、ポップが言うのも、無理はない。 そうした場合、柱が邪魔になって隅に飾ってある絵はほとんど目に入らない。つまり、身分が高い人間ほど、この絵には気がつきにくいのだという。 「ですが、私達兵士にとっては、この絵は馴染み深いのです。兵士達の詰め所に行くためには、この絵の先の回廊を通る必要がありますから」 と、兵士がいう通り、何人もの兵士達がそばを通り過ぎていくのが見える。その際、絵の前でわずかに足を緩めたり、止めたりする兵士は少なくはなかった。 「……!」 その瞬間、ポップは大きく目を見張っていた――。
それは、美しい少女の絵だった。 せいぜい16、7程度……少女から娘へと移り変わる端境期の年齢ならではの、初々しさの感じられる清楚な少女だ。 着ているのも質素な型のワンピースであり、貴族の娘が着るような服ではない。 嬉しそうに、だが少しはにかむように笑うその柔らかな表情に惹きつけられる者は多いだろう。 細かな部分まで丁寧に書き上げられた絵は、驚く程に写実的だ。それに、絵の大きさがほぼ等身大なだけにリアルさがより強まっている。 失礼ながら絵心や芸術心などかけらもなさそうな兵士達が、この絵にひきつけられているのは、明らかにこの少女単体に惹かれたからこそだろう。 この絵を見る兵士達の顔が一瞬とはいえ和んだり、にやけたりする辺りに、彼らがこの絵の少女に対して抱いている感情が表れている。 「どうです、なかなかのものでしょう? これは実在の女性をモデルにした絵だそうですよ。なんでも、昔、城で一番人気のあった侍女だったとかで」 どことなく自慢そうな兵士の言葉も、ポップの耳を素通りしていく。その間も、ポップの目は絵の中の少女に釘付けだった。 しかし、他の多くの兵士達のようにポップは彼女に惹かれて見つめていた訳ではない。 この絵の少女に対して感じるのは、強烈な既視感――。到底初めて見掛けたとは思えない圧倒的な懐かしさを感じながら、ポップは疑問を口にする。 「な、なあ、この絵のモデルの名前って……」 その質問をポップが最後まで言い終わるより先に、すっ頓狂な大声がそれを遮った。 「お……ぬぉおおお――――っ?!」 響き渡る大声を轟かせ、まるで突進するような勢いで走ってきた男は、ポップの前で急停止する。 きっちりマッシュルームカットにした金髪に、ひねった形にピンと尖らせた髭。赤や黄色などのやけにカラフルな汚れの目立つスモックを着て、頭にベレー帽をかぶった中年の男。 そのあまりにもインパクトのある外見に、ポップは呆気に取られずにはいられなかった。 紛れもなく初対面のはずのその男は、目を輝かせながらポップをまじまじと見つめている。 「な……なんという……っ、信じられませんぞ……っ! これは奇跡……?! いや、神の思し召しでしょうか?!」 うわ言めいて口走る彼のその身体が小刻みに震えているのに、ポップは気がついた。だが、その理由が分からずに戸惑わずにはいられない。 「あ、あの? どうかしたんスか?」 と、話しかけてはみたが、その男はポップの言葉などまるっきり耳にも入っていないような有様だった。 「その目! その眉! 鼻筋もそうだし、ああ、髪の色も! 顎のラインが少し違う気がしますが、……いいっ、実にいいです!」 「え? い、いやだから、いったい何の話を……」 「ふーむふむふむふむ! いい、ええ、まったくいいですぞ! その髪の色も目の色も、なによりもこの肌の色ときたら! なのに、その目の輝き様は違う……素晴らしいっ、実に素晴らしいですぞっ!! 胸がないのが残念ですが、その柳腰は悪くないですな……ふむふむふむ、実に素晴らしいっ!」 と、一人で興奮し、熱っぽく目を輝かせながら舐めるような視線で自分を眺め回す男に、ポップがいささか引くのも無理はあるまい。 (な、なんなんだよっ、この人わっ?! 変態かっ?! 新手の変態なのか?!) 具体的な危害を加えられたわけではないが、ポップ一人だったのなら、その場から全力疾走で逃げ出したいほどのドン引きものの相手である。が、惜しむらくはというべきか、場所が悪かった。 壁に掛かった絵と柱に左右を邪魔され、護衛兼案内役としてポップの後ろに控えている兵士の図体が邪魔で後ろにも下がれない現状では、前から迫ってくる男を避けられるはずもない。 「ムッシュ・カタール、急に駆け出してどうされましたかな?」 「あ、王様……」 護衛の兵士と大臣を後ろに従えてゆったりと歩いて来るベンガーナ王を見て、ポップはなんとなくホッとする。 いつもならばベンガーナ王はともかくとして、大臣は少々敬遠したい相手だ。ポップをやけにじろじろと見るのは他の兵士や男達と同じだが、その目付きに悪意というか、そこはかとない敵対心じみたものを感じるのである。 まあ、だが、そんなこともあるだろうとポップは考えていたし、深く気に留めはしなかった。王と親しげに話していたというだけの理由で、その国の貴族などにやけに警戒され、嫌われるのはよくあることだとポップはすでに学習している。無意味に嫌われるのは嬉しくはないが、それをいちいち気にしていてもしょうがない。 なにより、この場から逃れられるのならそんなのは瑣末な問題だ。だが、ベンガーナ王はポップの気も知らず、ニコニコと笑いながら紹介なんぞをしてくれる。 「ああ、ポップ君もここにいたとは偶然だな。ちょうどよかった、ムッシュ・カタール。彼こそが先程お話しした二代目大魔道士ですぞ」 「おお、なんとそうだったのですか! これはこれは……神のお導きでしょうかね、まさか君こそがかの二代目大魔道士だとは! やたらと嬉しそうにそう叫ぶムッシュが、しっかりとポップの両手を握り締めてくれちゃっているものだから、ますます逃げられなくなっている。 「……あのー、王様、ところでこの人は?」 すでに本人に問いかけるのを諦めたポップは、ベンガーナ王に質問を振った。 「うむ、彼の名はムッシュ・カタール。我がベンガーナ王国が誇る、世界的に有名な画伯なんだよ。特に美人画の巨匠として知られていて、この絵も彼が描いたものだ」 (画家……だったのか。画家の格好をした変な人じゃなくって) などとなかなかに失礼な感想が頭に浮かんだが、ポップは賢明にもそれは口にはださなかった。 「ポップ君は知らないかもしれないが、ムッシュは審美眼に長けたこだわりを持つ画伯でね、どんなにお金を積まれても気に入ったモデルでなければ描こうとしないのでも有名なんだ。 画家の説明と見せかけて、後半は愛娘の自慢が半分混じっているベンガーナ王の話を聞き流しつつ、ポップはなんとかムッシュの手を振りほどこうと地道に努力する。 「はー、それはそれはすごいですねー。……で、この手を放してくれませんか?」 どう聞いても棒読みのおざなりな褒め言葉も画伯は気を悪くすることもなく、より一層力を込めてポップの両手を握り締める。 「いやいや、放しませんぞ。君が、わたしのモデルになってくれると約束してくれるまでは」 「はぁ?」 「「「ええっ?!」」」 呆れたようなポップの声は、思わず驚愕の声を上げたその場全員の声に見事なまでにかきけされた。
その噂を知っている者ほど、その驚きは大きかっただろう。 「いえいえ、間違いではありませんとも。こんなにインスピレーションを刺激するモデルにあったのは実に久々ですよ! 画家として、この衝動を見過ごすなんてできませんっ!!」
「そ……そうですかな? どこがそこまでお気に召したのか、私には分かりかねますが」
ポップの外見は平凡な少年の域を出るものではないし、言っては悪いが男としては逞しさに欠ける少年だ。 だが、ムッシュが彼らの戸惑いがおかしいとばかりに、愉快そうに笑う。 「おや、お分かりになられませんか? ならばお答えいたしましょうか」 気取った口調に見合ったしぐさでムッシュはどこからともなく、黒い布を取り出して見せる。描き掛けの絵の上にかけたり、あるいは絵を包んで運ぶために使うその大きな布を、ムッシュはいきなりポップの上に広げて見せた。 「うわっぷ?!」 視界を閉ざされたのは、一瞬だった。ムッシュはその黒い布をポップの上に被せ、ちょいちょいと手で整えてから誇らしげに告げる。 「なぜって、彼はこの絵……わたくしの傑作『ひなげしの君』のモデルにそっくりなのですよ」 その途端、その場にいた者達の目は、再び驚愕に見開かれる。 少年から、少女へ。 一応中性的に作られているとはいえ、どちらかといえばやや女性よりの印象を与える賢者の衣装は、ロングヘアの人間が着ていればそのまま女性のドレスへと見えてしまう。 しかも、その顔は絵の中の少女の瓜二つだ。ちょうど絵の前に立っているポップは、まるで絵の中からそのまま抜け出してきたかのように見えた。 「ス、スティーヌ?!」 「え? なんで母さんの名前を?」 予想外の不意打ちに、ポップは反射的に反応してしまう。もしポップに少しでも冷静さが残っていれば、この発言は決してしなかっただろうが、驚きの連続のせいで気が緩んでいたとしかいいようがない。 もっとも、大臣の目の色が変わったのを見て、ポップはしまったとは思ったのだが、もう遅かった。 「ほう……? ポップ殿、貴殿のお母上の名はスティーヌと申されるのか?! では、お父上の名は? まさか、ジャンクというのでは?!」 ほとんど詰問じみた響きすら感じさせるその問いに、ポップは少し詰まりつつも正直に答えることにした。
そう答えた途端、大臣の目がぎろっと思いっきりポップを睨みつける。その目を見て、ポップは今こそ確信していた。 (あちゃー、やっぱりこの人だったんだな) 父のジャンクがベンガーナの宮廷鍛治職人であり、大臣をぶん殴ってやめたという話は以前にちらりと聞いた。 特に、自分をどこかうさん臭げな目で見ているベンガーナ大臣には知られない方がいいだろうとは思っていた。きちんと調べたわけではないから、ジャンクが殴った相手が今もベンガーナ王の隣にいるこの大臣かどうかなど分からなかったのだが、どうやら嫌な方向で大当たりだったらしい。 しかも大臣の方も確実にジャンクのことを覚えているのだろう、ポップを見る目に尚更に険しさが増す。 (ううっ、これ、確実に覚えてるよ、しかも根に持たれてるよっ!! 親父も余計なことをしてくれたもんだぜ……!) 思えば、大臣はこれまでも常にポップに注目の視線を向け続けていた。 それがこれからは意識的な物になるかと思えば目まいもするが、ポップに対して親の面影を求めていて見つめ続けていた者は残念ながら大臣一人だけではなかった。 「……ああ! やっと分かりましたよ、大魔道士様を見ているとどこかでお会いしたことがあるような気がするわけが! 「こんなにもそっくりなのに、本当になぜ今まで気がつかなかったのか……! 自分の目の節穴さ加減が悔しいぐらいですよ」 などと、兵士達が口々にそんなことを言いながら、わらわらとよってくる。それだけなら別にいいのだが、問題はその目だった。 がっかりしたとか、なぁんだ程度の視線が向けられるのなら、まだ理解できる。が、ポップにとって理解できないのは、彼らの目が妙に熱を帯びているというか、憧れを含んだものであることだ。 絵の中の少女に向けていたのと同じ眼差しを、そのままそっくりと自分へと向けられている――そう思ったのは、ポップの被害妄想とは言い切れないだろう。 「それにしても……大魔道士様、髪を伸ばされた方がお似合いですね。短くしたままだなんて勿体ない、お延ばしになられないのですか?」 などと言い出す兵士まで出てくる始末である。 (じょ、冗談じゃねえっ!!) 今までとは違った意味での視線に集中されてポップが焦りまくる気も知らず、すぐ側にいるムッシュとベンガーナ王は呑気なものだ。 「どうでしょう、モデルになっていただけませんか? なに、大丈夫です、今の君ならば女装せずとも十分に女性モデルになれます、このわたくしが保証しますとも! 「はっはっは、知らなかったがポップ君は意外と我が国と繋がりが深かったのだな! その場にいる男性の熱っぽい視線を一身に集め、王と美人画で有名な画家から熱心に勧誘を受ける――女性であればこれ以上ない栄光の場と言えるだろう。 (ああ……なんで、おれがこんな目にっ?! こんな目に遭うぐらいなら、ベンガーナになんか来なきゃよかったぜ……!) しみじみとそう思いつつ、ポップは外に出さないように深く、深く溜め息をついたのだった――。 END
ポップのベンガーナ留学編のお話で、ムッシュ・カタールとの初めての出会いになります♪ 裏でポップがムッシュにモデルに迫られて苦労したり、ベンガーナに行きたがらなかったりする話を幾つか書いていますが、その発端としてこんなシーンを前々から考えていたんです。 ベンガーナ兵士から見れば、ポップは憧れていたアイドルに瓜二つの息子であり、ちょっと気になる存在なんでしょうね。 まあ、ほとんどの兵士はノーマルなので別にポップにちょっかいを出す気はないので表におきましたが、積極的だったり、血迷ったりする兵士が出たら即座に裏行きになりそうな気がします(笑)
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