『届かない手紙 ーレオナー』 |
ダイ君、元気かしら? 今、あなたはどこにいるの? だって、世界は平和になったんですもの。 パプニカでも、ずいぶんと復興が進んだのよ。 マァムから聞いたんだけど、ダイ君達がパプニカに来た時には港はひどく荒れ果てていて、心配をかけちゃったみたいね。 魔王軍との戦いの最中でもそれなりに修理はしていたけれど、戦いが終わってから本格的な港の拡張工事……えっと、港を大きく、立派にするための工事に取りかかったの。 バダックとアポロが総指揮を執って頑張ってくれたおかげで、思ったよりも早く港が完成したわ。 これにはね、実はアバン先生を初めとする世界各国の王達が協力してくださった結果なのよ! まず、きっかけはロモス王だったわ。 会議の場は、各国で順番に変えていくと決まったわ。 あたしももちろん、アポロ達と一緒にロモスに行ったのよ。ダイ君もロモスに行ったことがあるんでしょ? 激戦があったと聞いていたのだけど、あたしがロモスに行った時には建物は綺麗に修復されていたわ。前に戦いがあったなんて聞いても、全然ぴんとこないぐらい綺麗で立派な建物だったわ。 あ、でもね、ふふっ、たった一つだけダイ君達の戦いの名残が残っていたのよ。
しかも、子供がしゃがんでやっと入れるかどうかってぐらい小さな魔法陣なんですもの! 何のためにあるのか分からなくて、首を傾げちゃったわ。 ここまで言えば、ダイ君なら分かるんじゃないかしら? 後でアバン先生に確かめたら、マホカトールは永続魔法の一種だから、術者か、もしくは術者よりも腕の立つ人が消そうとしない限り、ずーっと残るものらしいの。 むしろ、魔法陣が消えてしまわないようにと、わざわざ気を遣って魔法陣の周りに立ち入り禁止の柵まで立てて保護しているわ。本当に、ロモス王はお人好しというか律儀な方よね。 この話をポップ君にしたら、いったいどんな反応を見せるかしらね? 驚くのは当然として、彼、意外と褒められるのに慣れていないっぽいし、照れたりするのかしらね? ああ、最近、ポップ君と会えていないのが残念だわ。 マァムやメルルなんかは、毎月一度、必ず手紙を送ってくれるっていうのに。……って、話がそれちゃったわね、そうそう、ロモス王の話よ。 ロモス滞在中にね、ロモス王が不思議な燭台を見せてくださったの。撫でるだけで自動的に光がつく燭台で、とても明るいのよ。ロウソクや洋灯のように熱くなることもないし、もう一度撫でるとサッと灯りが消えるの。 あたしや他の王達は感心して見ていただけだったんだけど、アバン先生はその燭台がお気に召したのか、ずいぶん熱心に研究したみたいで、なんとそれと同じようなアイテムを作りあげたの! でも、残念なことにあまり量産はできないらしくって、そこが問題なのよね。なんでも、材料にすごく珍しい鉱石が必要みたいで。 そうしたら、それと聞いたテラン王がその鉱石の採れる地域を教えてくださったの! 本当にテラン王は博学よね、アバン先生でさえ知らなかったことをさらりと教えてくださったわ。 その鉱石のある場所は、リンガイアの険しい山脈だったわ。 いくら場所が分かっても、掘り出せないんじゃなんの意味も無いわ。そう思ってガッカリした時のことだったわ――今度は、ベンガーナ王が協力を申し出てくれたの。 ベンガーナ王の多大な出資のおかげで、費用の問題は無くなった……後は、実際にそれを行う人材よね。 もちろん、これには自分の国のことだからとノヴァとそのお父さんのバウスン将軍が名乗りを上げてくれたから、助かっちゃった。おかげで、無事に鉱石は取り出されたわ。 数は少ないとは言え、各国に数個ずつ行き渡るぐらいの魔法の灯りが用意できるようになったの。 その灯りを、灯台に光に利用することを思いついたのは、オーザム王だったわ。っていっても、ダイ君はまだ会ったことがなかったわね。 あの国は、世界の国々の中でも特に被害が大きかった国だから、まだまだ復興が追いついていないの。だから、町並みもまだ暗さが目立つのだと言っていたわ。 だからこそ、復興のため頑張ってくれている国民のために、光を灯してあげたい、と。 みんな、その意見に賛同したわ。 今では、世界中どの国に行っても同じ強さの灯りが、灯台として光り輝いているわ。もう、闇夜でも迷うことがないと船乗り達からは、なかなかの評判よ。 ねえ、驚かない? 最初は、本当に小さな……それこそ、掌にのるぐらいの小さな光だったのに。 ただ、珍しい物を見せてくれたというだけだったはずなのに、ふと気がついたら世界中の王達が協力し合って、ここまで大きな光を作り上げていたのよ。ねえ、すごいって思わない? ――ねえ、だから、ダイ君。
ノックの後、そう報告してきたのはエイミだった。 「あ……申し訳ありません、姫様。お手紙を書かれていたのですね、ならば使者との面会は私どもで済ませましょうか?」 気を遣ってくれたエイミの言葉に、レオナは笑顔で軽く首を振る。 「ううん、もう書き終わるところだから、それには及ばないわよ。あたしが直接、面会するわ」 そう答える間もレオナは素早く手を動かし、手紙の最後の言葉を書き綴って吸い取り紙で吸わせ、丁寧に折りたたんで封筒に入れる。それを見たエイミが、当然のように手を差し伸べた。 「では、その手紙は私が出しておきましょう」 三賢者としてレオナの護衛だけでなく、私書的な身の回りの世話も司るエイミは、レオナの書く手紙を確実に相手に届くように手配するのも役目の一つだ。 マァムやメルルなどのように友人への手紙ならば、普通に郵便として送るが、重要な手紙の場合は使者を用意して早馬で届けることもある。 「いいのよ、これは……特別な手紙だから」 そう言って、レオナは書いたばかりのその手紙を、机の一番下の引き出しに落とす。そこには宛名のない封筒が、数え切れないぐらい何通も、何十通も入っていた。 「あ……」 エイミの表情に、罪悪感めいた物が走る。 筆まめなレオナは公私ともに大量の手紙を書く方だが、その中でもこの手紙は特別だ。 大魔王との戦いの直後に行方不明になり、その後、一年以上経っても見つかるどころか、何の手がかりもない彼に当てた手紙を、レオナは今まで何度となく書き続けていた。 出そうにもダイの居場所など誰にも分からないし、そもそもレオナ自身、本当にこの手紙がダイに届くなど期待していない。だいたい、届いたところでダイには字は読めはしないだろう。勉強嫌いなあの勇者は、ちょっと難しい字は読めないと投げ出してしまうのが常だったのだから。 『レオナ〜、これ、難しくて読めない……』 情けなさそうなダイの顔を思い出しながら、レオナは一人、くすくす笑う。 いずれにせよ、ダイの無事を信じ、彼がどこにいるのだろうかと考えながら手紙を書くひとときが、レオナは好きだった。そして、手紙の結びの言葉は、いつも同じだ。 『それじゃダイ君、今日はこの辺で。ダイ君が帰ってくる日を、楽しみに待っています レオナより』 END 《後書き》 筆者にしては珍しく、女の子の一人称っぽく書いてみた勇者行方不明編のレオナの話です♪ ダイがいない間、レオナはきっと待っているに違いないと信じているのですが、彼の帰りをただじっと待つよりも、なにかしら自分で出来ることを探してやっているイメージがあります。 ついでに個人的な主観ですが、レオナは筆まめな印象があるので、そんな話を書いてみたかったんです。 昔のヨーロッパでは、手紙を書く時には吸い取り紙を使うのが普通でした。昔はインクで字を書いていたのですが、インクという物は結構乾くのに時間がかかるんですよ。 普通は手紙を書いた後は広げたまま乾かし、乾いてから折りたたむのですが、急いでいる時に使うのが吸い取り紙です。 ちょっと昔の時代を舞台にした小説にはちょくちょく登場していまして、親しみを感じていましたが、筆者は未だに実物を見たことがありません(笑) ネットで調べたら、現代日本でも売っているっぽいですが……でも、万年筆ですら面倒で使わないから、買っても絶対に使わないですしねー。好奇心だけで使いもしない物を買う勇気が無くて、未だに実物を見ないままです。 |