『この聖なる、呪われた日に』
  

 その日――世界を救った勇者一行の一員……いや、主力メンバーの一人である大魔道士は、弱々しく呟いた。

「……結局……、人間ってのはどう足掻いたところで……どうやったって越えられねえ壁ってのがあるみてえだな……」

 打ちのめされ切ったような声には、諦めの響きがあった。
 かつて、大魔王との戦いの最中、勇者でさえ心が折れたその時でさえ、まだ諦めることなく戦い続けた大魔道士とも思えないその言葉に、その場に居た兵士達は何も言えなかった。

 言う言葉など、思いつきもしない。
 なぜなら、彼らもまた、大魔道士と同じ悲痛を味わっているのだから。

 その場に居た彼らの目は、自然と『それ』に引きつけられる。
 わずかにしか距離が離れていないのにも拘わらず、差は明白だった。この場が地獄ならば、あちらは天国。
 明暗がはっきりと分かたれたかのように、その差は凄まじかった。

 大魔道士をはじめとして兵士数名がいるのは、パプニカ城の兵士詰め所だ。有事に備えて窓を小さめに作られているその部屋は昼間だというのにどこか薄暗く、ついでにいうのならばムッとするような男臭さが漂う部屋だ。

 その狭い窓から見える先は、整えられた庭園が広がっている。ただ、よく手入れはされてはいても、さすがに冬の季節なだけに花はほとんどなく、常緑樹の色合いに染まっている。
 しかし、その地味さを上回るような華やかさが、庭園一杯に広がっていた。

「ヒュンケル様ぁ、これを受けとってくださいませ」

「こっ、これは、その……っ、あなたのためにお作りしました。よろしければ……召し上がってください!」

「ご迷惑かもしれませんが、これをどうぞっ」

 そこには一人の剣士と――それに群がるような乙女達がいた。
 目を潤ませ、頬を染めた乙女達は、精一杯おしゃれをしているのだろう。華やかな色彩のワンピースを着ている者が大半だったし、中には簡易な物とは言えドレスを着ている娘もいる。

 誰も彼も見目麗しい女の子達だが、それも当然だ。
 彼女達は、パプニカ城の侍女達なのだから。その中でも未婚の娘ばかりがそろい、お仕着せのメイド服ではなくいつになく装っているのだから、華やぐのも当然だ。

 彼女達は誰もがリボンのかかった小さな包みを持っている。
 そして、そんな彼女達の熱視線を一身に浴びているのは、水際だった美青年だった。

 銀の髪に紫の瞳――飾り気のない私服姿なのに、彼ほどの美形ともなればそれは全く欠点にならず、むしろその美を際立たせてしまう。

 彼の名は、ヒュンケル。
 彼もまた勇者一行の主力メンバーであり、かつては魔王軍の一員として魔剣戦士と恐れられた男だった。

 ……が、今の彼からは、とてもそのような禍々しい過去は窺えない。
 次から次へと、乙女達から贈り物を貢がれているヒュンケルにこそ、むしろ禍々しい視線が集中していた。

『憎しみで人を殺せたら……っ!』

 その場に居た有象無象の男共の心が、これ以上無く一致団結した瞬間だった。

「くそ……っ、いったい、あいつ、一人で何十個もらえば気が済むんだよっ!? もげろっ、呪われちまえ!」

 遠慮なしに罵倒しまくる大魔道士ポップほどではなかったが、他の兵士達も心境は同じだった。

「ああ、憧れのメリッサちゃんまで……っ。ぐっ、だが隊長が相手じゃ……っ」

「い、今のを見たか!? あっちの巨乳ちゃん、隊長の腕に抱きついたぞっ。ぽよんってしたぞっ、今っ!?」

「うぅううっ。神は……どこまで不公平なのか……っ!」

「えっ、あっ、あれはっ!? う、嘘だ、信じたくない……っ、あの娘まで隊長にLoveだっただなんて!」

「おい、それより知っているか? エイミ様も隊長のために手作りチョコを作ってらっしゃるって話だぜ!?」

 歯を食いしばらんばかりに呟く兵士AからEまでの目は、憎むべき一人パラダイス男から、詰め所のテーブルの上にちょこんとのせられた『贈り物』へと向けられる。

 薄く、平べったい箱に入ったその贈り物は、一応は綺麗な包み紙で包装されていたが、ヒュンケルに貢がれている物に比べれば素っ気ないほど簡素だ。
 しかも、表には個性の薄い文字で

『兵士様達へ いつもお世話になっております 侍女一同』

 と、お義理にも程のある言葉が書かれたカードが載せられている。なまじ言葉遣いが丁寧なだけに、脈のなさがひしひしと感じられる一文だ。

 なんという、天国と地獄の落差だろう。 
 さして広いとも言えない兵士詰め所内に、男達の嘆きが響きまくる。

「くっそお〜、こんなことになったのも、姫さんのせいだ……っ」

 不遜にもパプニカ王女への不満を口にするポップの目は、まるで死んだ魚のごとくどんよりとしたものだった――。





 事の起こりは数日前――レオナの『ちょっとした思いつき』から始まった。

「ねえ、今年のバレンタイン・デーは、少しばかり趣向を凝らしてガーデンパーティーを開かない?」

 さも、いいことを思いついたとばかりにレオナがそう言ったが、ポップはそれを言葉通りに受け止められなかった。

(それ、『開かない?』じゃなくって『開くわよ!』だろ、絶対)

 そう――形式上、問いかけるような体は取っているものの、相手は一国の王女。しかも、王のいない現在では国の最高権力者だ。
 そんな彼女の『思いつき』は、『絶対命令』に等しい。

「ガーデンパーティー、ですか? しかし、今からでは準備の時間もないのでは……。今からでは、招待状さえ届きませんし」

 控え目ながら反対意見を口にしたマリンに、ポップは内心喝采を送る。ノリノリのレオナに逆らうなんて、勇者でもそうそうできることではない。少なくとも、ポップは嫌だ。

 まあ、その当の勇者は口の中いっぱいにパイを詰め込んで、もぐもぐしている真っ最中だが。――まったく頼りにならない。

「あら、そんな心配無用よ。パーティーと言っても、そんな本式の物じゃなくって、パプニカ城内でやるお遊びみたいなものでいいの。未婚の侍女や兵士達に半日休暇を与えて、告白タイムをもうけたいのよ」

 うきうきとやたらとはしゃいでいるレオナに、その場にいた者達はどうしたものかと互いに目を見合わせる。

 ここは、レオナの執務室のすぐ近くにあるティールーム。
 仕事の合間にお茶をしようと誘われ、ノコノコやってきてしまったことをポップは激しく後悔する。

 ポップだけでなく、三賢者にヒュンケル、バダックまでそろっている辺り、最初から計画的だったとしか思えない。

 あと、ここにはダイもいるが、話を聞いているのかいないのか、一際多く用意されたお茶菓子を食べるのに夢中の様子だ。
 ポップなどは急速に食欲がなくなってきたのだが。

「そんなことして、いったい何になるんだよ?」

 お茶を一口飲みながら、ポップはぼやく。……なんだか、お茶の味までまずくなってきたような気がする。

「あら、恋愛にはきっかけも大切なものよ。それにね、これは侍女達の希望でもあるの。去年のバレンタイン・デーで、勤務中だからといって受け取りを拒否されたって嘆いている子も多くてね。
 でも、休み時間に渡そうと思っても、侍女や兵士だと勤務時間が合わないことも多いみたいじゃない?」

 レオナの言う通り、侍女や兵士達は勤務時間に差がある。
 城で働く者達は、交代制で休息や休日を取る。たとえば、夜勤がメインな兵士と昼勤が標準の侍女では、顔を合わせることすらままならないだろう。
 それではもったいない、とレオナは熱を込めて力説する。

「だから、いっそ大々的にチョコを渡せる場を作って、恋愛を推奨しちゃおうかと思って! そうね、その日は私服を許可して、女の子達には思いっきりおしゃれをしていいってことにするわ! せっかくの告白に仕事服のままじゃ、ちょっとつまらないものね。
 どう、悪くないアイデアだと思わない?」

 熱を込めて生き生きと語るレオナに、力強く立ち上がったのはエイミだった。

「はいっ、賛成です、姫様! 悪くないどころか、素晴らしいアイデアですわ……っ、さすが姫様です……っ」

 目をキラキラと輝かせて主君を賞賛したエイミは、そっとヒュンケルの方へと目を向け、ポッと頬を染める。
 何を考えているのか、分かりすぎである。

「でも、エイミ、今からだと準備が大変なんじゃ……それに、風紀の問題もありますし」

「マリンの言う通りだと、私も思うね」

(そうだっ、さすがマリンさんっ、そのまま反対してくれっ。そうすりゃ、アポロさんも乗っかるだろうし!)

 城の人事や雑務など、庶務を主に扱っているマリンが食い下がるのを、ポップは内心応援していた。マリンは行動的なエイミと違い、いささか保守的なのだ。

 エイミの姉と言うこともあり、妹をたしなめることに関してはパプニカで一番適していると言える。
 だが、そんなマリンに、エイミが悪戯っぽく笑って囁きかけた。

「姉さん……誰かさんに、チョコを堂々と渡したいとは思わないの?」

「…………っ」

 いつもは冷静なマリンの頬が、一瞬赤く染まる。反射的のように彼女がちらりと目をやったのは、アポロだった。
 が、アポロと目を合わせるよりも早くレオナに向き直ったマリンは、キリッとした表情で言った。

「……考えてみれば、悪くない話かと思います。姫様、私も賛成しますわ」

(ああっ、寝返ったぁあああっ)

 暴れ牛鳥並の寝返りであった。

「うむ、マリンがそう言うのならば、それもいいかもしれないね」

 と、のほほんと言ってのけるアポロを、ポップは心の中で罵倒する。

(あっさり考えを変えてるんじゃねえよっ、この風見鶏賢者めっ。なんだかんだいって、マリンさんの尻に敷かれっぱなしじゃねえか!)

 三賢者のリーダーとか言いつつ、アポロはこの二人の姉妹――事に、姉の方にはからっきし弱いのである。

「おうおう、若い者はいいのう! よしっ、それならばこのパプニカ一の仲人と呼ばれたこのワシも、一肌脱ごうじゃないか!」

 最年長のバダックすら、ノリノリだった。

(あんたはいったいいくつ称号があるんだよっ!?)

「……姫の御心のままに」

 ヒュンケルは無言のままだが、レオナの命令に絶対服従する彼が異議を唱えるはずもない。

「えっと、おれ、よく分かんないけど、レオナがやりたいなら手伝うね!」

 ダイはダイで、まったく何も分かっていない様子なくせに、余計なことばかり言う。

「ふっふーんっ、みんな賛成してくれて、嬉しいわぁ。じゃあ、協力頼むわね♪」

 上機嫌のレオナを一人っきりでも反対するほど、ポップのメンタルは強くなかった。と言うよりも、ここでヘタに口出しすれば、よろしくないことになりそうな嫌な予感をヒシヒシと感じつつ、ポップはとりあえずは沈黙を保ったのだが――。






「ぁああああっ、その結果こんな地獄が発生するなら、なにがなんでも反対しておきゃあよかったぜっ!」

 合コン感覚のライトなプチパーティー。
 と、前提の聞こえは良かったのだが、実際にやってみるとそれは恐ろしいぐらいの偏りがあった。参加した男女比はほぼ五分五分だというのに、本命チョコレートをもらいまくっているのはごく一部。

 ……というか、ほぼヒュンケル一強だった。
 なまじ、イベント感覚にしてしまったのが悪かったと言うべきなのか。普段ならヒュンケルに遠慮して渡さないような内気な娘も、みんなでやれば怖くないという集団心理に釣られてか、遠慮なしにチョコをプレゼントしている。

 よく、パーティーで踊りを誘われずに壁際に佇んでいる令嬢を『壁の花』と称するが、今日のパプニカ城の庭には『冴えない立木』がずらりと並んでいた。

 チョコレートを期待しつつもお声がかからず、手持ち無沙汰に待つしか無い哀れな男達の数々である。

 今回は飽くまで女の子の方からアクションをかけるイベントなだけに、男の方から誘いをかけるのは禁止されている。その結果、一部の両思いカップル以外は、指をくわえてこの格差社会を噛みしめているしかないのである。

 実はポップも先程までその一員だったのだが、立っているのにも疲れて庭の端にある兵士詰め所に逃げ込んだのである。……まあ、逃げた先にも同類が詰まっていたので、全く気が休まらなかったが。

 否応なく殺伐とした雰囲気の漂う詰め所だったが、その時、ドアを叩く音が聞こえた。
 その瞬間、パッと全員の目がそちらに向く。その目が真剣すぎて、ちょっと怖いぐらいだ。

「な、何じゃ!? 何かあったのかの? だいたい、なんでこんな所に大勢いるんじゃ? 今日は、中庭でパーティー中じゃろうに」

 部屋に入ってきたのは、バダックだった。すでに妻どころか孫までいる彼には、バレンタインパーティーにあぶれた若者達の気持ちが分かるはずもない。

「いや……ちょっとね。それより、なんか用事なのかい、じーさん?」

 元気なくポップが問いかけると、バダックは思い出したように荷物の一つを取り出す。

「おお、そうじゃった。郵便を届けにきたんじゃよ。えーと、ジャックはここにいるかの?」

「あ、はい」

 部屋の隅にいた兵士の一人が、手を上げる。

「ちょうどよかった、じゃあここに置くぞい」

 さっと荷物を置くと、バダックは急ぎ足で他の荷物を抱えて去って行く。郵便の振り分けなど本来は新米兵士の仕事なのだが、本日のパーティーのために未婚者は半日の休暇が認められている。

 そのため、既婚者は普段以上に忙しいのだ。
 ――だから、彼はこの後に起こる騒ぎなど知るよしもなかった。






 ぽつんと置かれた、素朴な小包。
 それを、ジャックが手に取ろうとするよりも早く、手に取ったのはポップだった。

「えっ、大魔道士様、何を……?」

 戸惑うジャックを、ポップはギロッと睨みつける。

「おい、兵士J!」

「な、なんなんですか、アルファベットで人を呼ばないでくださいよっ」

「いや、それどころじゃないだろ……みんなも、これを見ろよ!」

 と、掲げられた小包の宛名を、ポップは兵士達に見せびらかす。
 そこには『レナより』と、女性の筆跡で記されていた。

「おっ、おまえ……っ、よくも一人だけ抜け駆けしてくれたなっ!?」

 と、近くにいた兵士Aが兵士J――いや、ジャックに食ってかかる。

「い、いや、抜け駆けって、なんですか!? オレは、別に何も……っ」

「とぼけるのもその辺にしてもらおうか! おまえに幼馴染みで、しかもシスターの婚約者がいるってことは、すでにバレているんだ。その婚約者から、よりによってバレンタイン・デー当日に届く小包……そこから導き出される答えは、実に明白だ! 即ち……愛の告白、チョコレートに相違ない! 真実はいつも残酷!」

 眼鏡のツルを指で押さえつつ、兵士Bがビシッとジャックを指さした。

「いやっ、まだ婚約者ってわけじゃ……いえいえっ、それよりなぜ知ってるんですか?」

「フッ、こんなの序の口だとも。その婚約者は年齢は21才、緩いウェーブの似合う赤毛で、スタイルは推定80、59、86(だといいな)。美人と言うよりも可愛いタイプ……」

「なんでそんなことまで知ってるんですかぁああーっ!? 無駄に詳しすぎませんか、先輩ーっ!?」

 響き渡るジャックの嘆きを無視しつつ、兵士CとDが顔を見合わせて深く頷き合う。

「これは……裏切りだな」

「ああ、裏切りだね」

 一際体格のいい兵士Eは、拳をボキボキと鳴らしながら目を据わらせる。

「裏切り者には、死を……っ」

「ちょ、ちょっとぉーっ、何を言ってるんですかぁああっ!?」

 絶叫するジャックに向けられたポップの目も、いつになく冷酷な物だった。

「魔王軍の連中も、裏切り者には死をって言ってたぜ」

「いや、あんたはその魔王軍と戦った勇者一行の方でしょうが!」

 思いっきり絶叫するも、やっかみというものに支配された男達は、すでに聞く耳など持たなかった。
 ジャック一人へと向けられた敵意が膨れ上がり、今にも破裂しそうな瞬間――明るい声と共に、再び扉が開けられた。

「すみません、ここにポップがいるって聞いたんですけど――あ、いたいた、ポップ」

 そう言って、にっこりと笑う美少女に、ふわりと花が咲いたようにその場が華やいだ。
 淡い赤毛の、闊達な美少女に、彼女の影に隠れるように控えている黒髪の美少女。

 パプニカ城にいる者ならば、彼女らを知らぬ者などいない。
 勇者一行の一員の武闘家マァムに、主力とは言えないながら影から彼らを支え続けた占い師メルル。タイプは正反対ながら生え抜きの美少女二人は、それぞれは手に小さな包みを持ってポップへと近づいた。

「はい、これ」

「ど、どうか受けとってください」

 マァムは気軽に、メルルは恥じらいながら渡すそれを、ポップは呆然とした表情のまま受けとった。

「え? なんで、二人ともここに……?」

「なんでって、レオナに呼ばれたからよ。今日は気軽なイベントをやるから来てねって、誘われたの。でも、せっかくチョコを用意したのにポップったら全然見つからないんだもの、探しちゃったわ」

 と、軽く膨れるようにマァムが言う側で、メルルは控え目に口を出す。

「マァムさん、ポップさんに無事にチョコを渡したことだし、まずはレオナ姫にご挨拶にいきませんか?」

「あ、そうね。城に来たのに挨拶なしじゃ、レオナに怒られちゃう。じゃ、ポップ、また後でね」

 そう言い残して、二人の少女達は急ぎ足で去って行く。いつもと違って、ワンピース姿だった二人の裾が、フワリとなびいた。

「………………」

 取り残されたポップは、両手に可愛らしい包みを持ち、呆けたように突っ立っていた。
 が――嫌でも感じ取れる殺気に、ハッとして振り返る。
 そこには兵士A〜Eまでが、目を血走らせてポップを睨みつけていた。

「「「「「裏切り者には、死を……!」」」」」

「えっ、えええええっ、ちょっ、ちょっと待ってっ!? 待ってくれよっ、なんでおればっかり!? ジャックだって……っ」

 一身に恨みをぶつけられてはたまらないとばかりに、ポップがジャックを巻き込もうとするが、兵士Jは高らかに笑う。
 それは勝ち誇った笑いでもなければ、あざ笑いでもない。明らかに、ヤケクソな笑い声だった。

「ハハはハははハッ、甘いですよ、大魔道士様! バレンタインデーに小包をもらったからといって、それがチョコだとは限りません!! そう……世話焼きな幼馴染みから早めに送られた、単なる春物の着替えだったりすることもあるんですよ……っ!」

 手荒く破かれた小包の中身を握りしめつつ、兵士Jは血の涙をこぼす。彼の顔には、兵士A〜Eとはまた違った色合いの絶望感に満ちていた。

「で、魔王軍では裏切り者には死を、が掟なんでしたっけね?」

「あ、あーっ、えー、えっと……そっ、そう言えば、大魔王バーンは失敗は三度までは許すとかなんとか、言ってたよーな……っ」

 引きつった声でポップがごまかそうとするが、そんなものに耳を貸す男達は誰一人としていない。
 裏切られた悔しさとか、同類と思っていた相手に出し抜かれた屈辱というものは、得てして出来る男に対する嫉妬よりも強いものである。
 兵士A〜EとJは、声をぴったりとそろえて言った。
 
「「「「「「裏切り者には、死を……!」」」」」」





 レオナの気まぐれによりパプニカ城で開かれた、バレンタインの特別ガーテン・パーティーは、女子には概ね大好評であり、逆に男子には大不評で終わった。
 その後、この行事が恒例となったかどうかは、神のみぞ知る、である――。

END 


《後書き》

 おバカなバレンタイン・デー話です(笑)
 アニメでガーゴイルにA〜Fまでふってあるのと、ハドラーが言ってた「裏切り者には死を」という台詞を聞いて、思いつきました。

 恋愛要素など、ほぼ皆無! ……うーむ、なぜにこうなったのやら。昔好きだった『アンチバレンタイ○宣言!』(まじかるタルルー○君のイメソンの一つ)を思い出しつつ書いてみました♪

 なお、勇者様はロマンチックな薔薇園で麗しの姫君から渡されたチョコレートをその場で食べ……その場で昏倒して、意識不明となった模様です(笑)

  

◇に進む→
◇に戻る←
小説道場に戻る
トップに戻る

inserted by FC2 system