『左手で握手』

  

「これで、だいたいの怪我人は運び終わったかしら?」

 確認するように、マァムはひとしきり周囲を見渡す。
 ここは、サババの港。
 大魔王バーンの棲まう死の大地へ挑むため、勇者達を運ぶ船を用意しておいた場所だ。

 言わば、人間達の最期の希望の地であり、地上を守るための最前線となるはずの場所だった。

 しかし、今は港は無残にも破壊され尽くしていた。
 船は木っ端微塵に砕かれ、造船設備も大半は破壊され、燃やし尽くされた。全てが魔王軍の仕業ではなく、抗戦した際の戦いの余波で壊れてしまった部分も多い。

 ついさっきまでは、怪我を負った人間達が数え切れないほど倒れていたが、応急手当を済ませて全ての人を拠点へ帰還させることができた。もう、ここに残っているのはマァムの他はダイとレオナだけのはずだ。

 それでも、見逃している怪我人はいないかとマァムは注意深く周囲を窺う。
 それから、マァムの目は最後に死の大地の方へと向けられた。本人は意識はしていないだろうが、彼の地を見やる時間は他の場所を眺めている時間よりも長めだった。

「うん……もう、誰もいないと思う」

 ダイの方は周囲を見渡す代わりに、目を閉じてしばしジッとした後、そう言った。人間や怪物の気配を感じ取れるダイにしてみれば、目を閉じた方がそれが分かりやすいからだろう。

 だが、その後で目を開けると、気がかりそうに死の大地の方を見る。
 アバンの使徒達の息のそろったその行動を見て、レオナは苦笑を隠せない。

 彼らは、仲間を心配しているのだ。
 戦いで疲れただろうから休んでいてもいいと言ったのに、ダイもマァムも率先して怪我人の搬送に協力すると言い、誰よりも熱心に動いて何往復もしてくれた。

 それは、もちろん怪我人を助けたい気持ちがあるからだろう。だが、同時にこの場から離れがたい気持ちもあったに違いない。だからこそ、最後の最後までここに残っているのだ。

 死の大地へ、チウ達を探しに行ったポップ達……彼らが戻ってくるまで、死の大地がよく見渡せるここで待ちたいのだろうと思える。もう少し、余裕があるのならそうさせてあげてもよかった。

 だが、今は怪我人が多数いる。
 すぐにでも拠点に戻り、手当てをしてあげなければならない。回復魔法の使い手であるマァムはもちろん、力仕事の担い手としてのダイの存在も貴重だった。

 彼らに帰還を促すのは、司令官でもある自分の役目だとレオナは心得ていた。

「ダイ君、マァム。ここは一旦、拠点に戻り――」

 そう、声をかけた時のことだった。
 ダイの表情がパッと明るくなり、空を指さす。

「あっ、あれ、見て!」

 ひゅっと空を切り裂く光は、瞬間移動魔法特有の軌跡だ。それを認めたかと思った途端、派手な音を立てて地面が揺れる。

「いてて……ッ」

 下手くそな着地でその場に現れたのは、ポップと数匹の怪物達だった。それを見たダイとマァムはそろって彼の元に駆け寄る。

「ポップ!」

「チウ!? それにゴメちゃんも!?」

 よく見れば、ポップは大切そうにチウとゴメちゃん、それにマリンスライムを抱え込んでいる。さすがに自分よりも大きいパピラスは抱えるわけにはいかなかったようだが、それでも今の着地のせいで下敷きにしてしまったのを気にしてかパッと立ち上がる。

「マァム、姫さん、こいつらの怪我を見てやってくれねえか!」

「わ、分かったわ!」

 そう言われて、マァムは焦ったようにチウへと手を伸ばす。事情は分からないが、血に染まった彼が一番重傷なのは一目瞭然だった。手を当てて回復魔法をかけ始めるマァムの傍らで、ダイがそっとゴメちゃんを両手で受けとる。

「ゴメちゃん……? 大丈夫!?」

 ゴメちゃんの金色の身体に手を添え、レオナは軽く様子を探る。

「……大丈夫よ。体力を使い果たして気を失っているだけだと思うわ」

 多少の傷はあっても、掠り傷程度だと判断したレオナはホッとする。ついでに、マリンスライムにも手を当ててみたが、こちらも頑丈な殻が身を守ってくれたのか、傷は浅い。

 パピラスも、見た目ほどの怪我ではなさそうだ。ただ、全員が気絶してしまっており、触れても全く目を覚ます気配がない。
 ……正直、なぜこのモンスター達も一緒に連れてきたのかは疑問だが、ポップの態度から見てチウ同様に彼らの仲間なのだろう。

「よかった……チウも、命に別状はないみたい。出血は多いけど、一つ一つの傷は浅いわ」

 チウを抱え込んだマァムも、安堵の息をつく。
 が、すぐに不安げな顔でポップに尋ねた。

「でも、ヒュンケルやクロコダインは……?」

「あいつらなら、もう少しあそこに残るって言ってた」

「敵でもいたの?」

 ダイがわずかに表情を険しくする。しかし、ポップは首を横に振った。

「いいや、おれらが死の大地についた時は、誰も居なかったぜ。こいつらが誰かと戦った跡はあったけどさ……」

 それを聞いたダイは、自分の右手を見ながら何やら考え込むような素振りを見せる。だが、何も言わなかった。

 直感型のダイは、戦いに対しての勘は鋭いものの、それを論理立てて説明するのは不得手だ。だから何かに気づいてもやもやする気持ちはあっても、それをどう話したらいいのか分からないのだろう。
 一方、レオナは手に入った情報を元に冷静に分析する。

(ネズミ君達は敵……多分、親衛騎団とやらに襲われたのかしら? でも、ポップ君が敵を見なかったっってことは、彼らが行く前に、誰かがネズミ君達を助けたってことなの……? そして、ヒュンケルはその存在に気づいて、先にポップ君達を避難させたのだとしたら――)

 そこまで考えてから、レオナは一旦推理を打ち切った。
 今のは、ただの推論でしかない。
 なんの確証もない段階で、推論に推論を重ねても仕方が無い。それに、今の段階でもレオナの望みは十分に叶えられている。

 マァムの兄弟弟子の大ネズミが死の大地に行ったらしいと聞き、連れ戻しに行くと言い出したポップにヒュンケルとクロコダインの護衛をつけさせたのは、レオナの判断だった。

 正直、指揮官の立場で言えば、勝手な行動を取ったチウをそこまでして探す意味はない。通常の軍隊であれば、一兵士の勝手な行動を咎めはしてもわざわざ捜索や救援などしないだろう。

 しかし、魔王軍と戦うために勇者が必要なことを、レオナは世界中の誰よりも知り抜いていた。

 人間達の軍隊や定石など、魔王軍には全く通じない。
 桁外れの実力や魔力を持つ大魔王らと戦えるのは、勇者達個人の力にかかっている。となれば、人間達がすべきことは正義の意志を示し、勇者達を最大限サポートすることだけだ。

 その意味で、チウを見捨てるという選択肢は有り得ない。
 そんな真似は、レオナの抱く正義ではない。

 勇者達の戦意を削ぐような真似を選択するのは、愚策中の愚策だ。ダイ達がチウの身を案じるなら、それを極力安全に成し遂げられるように手を尽くすことこそが最善だとレオナは考えている。

 だからこそチウ捜索に反対せず、彼らが必ず帰ってこられるように最大戦力を整えさせた。
 その意に、ヒュンケルやクロコダインは気づいてくれていたのだろう。

 ポップだけは先に返してくれた誠意に、レオナは心から感謝する。他の誰を差し置いても、ポップだけは失うわけにはいかない……勇者の最大の理解者であるこの魔法使いは、この先の戦いに欠かせない切り札なのだから。

 その上で、ヒュンケル自身がその場に残る判断を下したのなら、レオナはそれを尊重する。

 戦いにおいてのヒュンケルの分析力や戦略は、レオナにとっては行動指針の一つできるほど的確であり、頼りにできると考えている。ただ、ヒュンケルが自分自身を大切にしてくれないのではないかという不安要素はあるが、クロコダインも一緒だということは安心要素だ。

 あの誠実な獣王ならば、きっとヒュンケルを助けてくれるに違いない。
 それらのことをほぼ一瞬で考え、レオナは何でも無い風を装ってみんなに声をかけた。

「詳しい話は、後で聞くわ。今は先に、拠点に戻りましょう」

「そうだね、じゃあレオナはゴメちゃんをお願いするよ!」

 ダイは小さなスライムをレオナに渡し、一際大きなパピラスを担ぎ上げた。重さはともかく、翼を広げるとダイ以上になる巨体は扱いにくいのか、羽を引きずらないように苦労している様子だ。

「私はこのままチウを運ぶわ」

 マァムは大ネズミを抱え込んだまま、すっくと立ち上がった。お姫様抱っこ……と言いたいところだが、手足が短くてずんぐりむっくりしている大ネズミなだけに、巨大なぬいぐるみを抱っこしているようにしか見えない。マァムがいかにも軽々と抱きかかえているからなおさらだ。

 レオナ視線では微笑ましく見える光景だったが、ポップ視線からは全く意見は異なる様子だった。

「なあ、そいつはおれが運ぼうか?」

 ポップはジト目で、チウを睨んでいる。正確に言うのならば、気絶したチウが顔を埋め込んでいる、マァムの豊かな胸の膨らみを――。

(……なに考えてるのか、一目瞭然よね〜)

 なにも気絶した大ネズミにまで焼き餅を妬かなくてもいいじゃないと思うが、ここでそこをつついてからかう場合ではないとレオナは自重することにした。
 だいたい、マァム本人は全然気づいちゃいないことだし。

「大丈夫よ、ポップはそっちのマリンスライムをお願い」

「い、いや、でもよぉ〜、やっぱそいつはおれが運んだ方が……」

 しぶるポップに、マァムはキョトンとして言った。

「でも、チウの方が多分その子よりも重いわよ?」

「ぐっ……!」

 マァムの天然すぎるほど天然なその一言は、ポップの男の子心にぐっさりと刺さったようだ。

 まあ、武闘家のマァムの方が、魔法使いのポップよりも腕力があるのは揺るがしようのない事実だ。それにマァムに悪気など微塵もなく、本気でポップを心配しているにすぎない。

 それが分かるだけにポップもギリギリで不満を抑え込んだのか、どうしても自分がチウを運ぶとは言わず、大人しくマリンスライムを抱き上げる。……もっともゴツゴツした貝殻のとげが邪魔な上、見た目よりも重そうなそのスライムに苦戦していたが。

「さあ、帰ろうよ!」

 持ち方には苦労したものの、パピラスの重みは全く気にしないのか元気よく歩き出したダイを追って、みんなも続く。その中で、ポップはマリンスライムの重さに手を焼いているのか、足が遅くなりがちだった。

「大丈夫、ポップ? なんなら、私がその子も持ちましょうか?」

 マァムも心配して声をかけるが、ポップは極めつけの意地っ張りだ。

「へ、へーきに、決まってん……だろッ……、いいから、マァムは……チウを運ん……で、やれよ……ッ」

 ゼイゼイ息を切らしながら、平気もへったくれもないものだが。 
 その様子を見ながら、レオナはこっそりと思う。

(……う〜ん……多分、あたしの方がポップ君よりは力はあると思うんだけどね〜……)

 一応、戦いの後で疲れているだろうから、と理由をつけることも出来るだろう。

 が、そうして気遣ったとしても、思いを寄せる女の子に指摘された直後に、自分よりも年下のお姫様に、重そうだからと荷運びを助けられるというのは、彼のプライドをズッタズタにするに違いないと予測できる。

 ついでに言うのならば、男の子が苦労して持っている物を代わりに持つという作業は、レオナの乙女心にもちょっぴり傷をつける行為でもある。

(まあ、本人から助けを求められたわけじゃないし、いいわよね)

 そう結論づけて、レオナは涼しい顔でゴメちゃんを抱っこして歩き続けた。







「これで、やっと一段落ついたわね」

 ようやく落ち着いてきた拠点で、レオナは息をつく。
 移動手段の船が破壊され、前線基地がいきなり野戦病院化してしまったとは言え、今回の襲撃では死者は一人も出なかったし、怪我も回復可能な範囲内で収まってくれた。

 レオナ、マァム、エイミ、メルルと四人の回復魔法の使い手がいるのが幸いして、重症者も軽傷レベルにまで回復させられたのが大きい。
 まだヒュンケル達が戻ってきていないという不安要素はあるが、それでも被害が無かったことにレオナは安堵する。

 この拠点内にいる中で最も強力な回復魔法の使い手であるレオナは、正直、かなり疲れていたがそれでも気持ちを奮い立たせた。

(でも、これからが本番よ!)

 大きな円型のテーブルの上に一枚の地図を広げながら、レオナはじっとそれを見つめた。
 それは、簡単ではあるが死の大地の地図だった。

 どの国からも遠方に位置し、険しい海流や怪物さえ近寄らない地理条件のせいで人類未到の地と言われており、現在の所、精確な調査記録は存在しない。この地図でさえ、大まかな島の外観を記録しただけの粗雑な代物だ。
 しかし、こんなものでもあるのとないのとでは大違いだ。

「お、それ、死の大地の地図じゃん」

 さっそく覗き込んできたポップは、興味津々な様子だ。

「ええ、それで聞きたいのだけど、実際に行ってみてどうだったかしら?」

「んー……とりあえず、おれが最初に上陸したのは、この辺だったな。岩山だらけの殺風景なとこだったぜ。ダイもここに来たし、ここならルーラで問題なくいける。今回、チウ達がいたのはこの辺で……」

 地図を指さしながら、ポップは説明し出す。
 戦いの合間に情報を共有し合うのも大切なことだと、勇者一行の中で誰よりも知り抜いているのがポップとレオナだ。おおらかなダイはその辺は無頓着な方だが、ポップやレオナは可能な限り情報収集し、余裕があればそれをすり合わせるようにしている。

 レオナが特に命じなくても、エイミがその説明を聞いて地図に細かな補足情報を書き込んでいく。

「遅れてもうしわけありません、レオナ姫」

 そう言いながらやってきたのは、バウスン将軍だった。そのすぐ隣には、アキーム将軍も並んでいる。

「いいえ、構いません。では、ここにいるメンバーだけで作戦会議をはじめましょう」

 この拠点の指揮権はレオナにあり、バウスン将軍とアキーム将軍がその補佐をすると世界会議で決定していた。それに、勇者一行を加えて方針を決定すると最初から決めている。

 本来ならヒュンケルやクロコダインの帰還を待ちたいところだが、時間を無駄にするわけにはいかない。現状が大きく変わった今、取り急ぎ見直さなければならない方針がいくつもある。

「さっそくですが船が使用できなくなった以上、死の大地に乗り込むメンバーの再考から――あら」

 そこまで言った後で、レオナはようやく気づいた。
 バウスン将軍の身体に隠れるように、控え目に佇んでいる少年の姿に。彼は、バウスン将軍の一人息子ノヴァだった。
 目が合うと、彼はひどく気まずそうに目をそらした。

(ま、無理もないけど)

 北の勇者と名乗ったノヴァは、ダイに対して強いライバル意識を持った少年だった。ダイを格下であるかのように見下し、自分一人で敵を倒してやると息巻いて拠点を飛び出していった。

 ――が、その結果はひどいものだったようだ。
 結局、敵には手も足も出ずにやられ、あれほど反発していたダイ達に助けられて命拾いしたらしい。

 初めて出会った時の尊大さがウソのように、しょぼんと肩を落とした彼は、ひどくいたたまれないような表情でその場に立ち尽くしている。
 が、バウスン将軍は息子の肩に軽く手を置いて、強い口調で言った。

「……ノヴァ」

 父親に促され、ノヴァはようやく動き出した。
 気まずそうな表情はそのままだが、しっかりと前を向いてこちらに歩いてくる。その向かう先は、正確に言えばダイに向かって、だった。

 小さな勇者の前でピタリと足を止めた北の勇者は、息を大きく吸い込んでから呼びかけた。

「……ダイ」

 呼ばれ、ダイはきょとんとノヴァを見上げる。

「さっきはその……悪かった。それに、礼を……言わないと、いけないと思う」

 やたらと言いにくそうに、時間を掛けて言う言葉は、途切れ途切れだった。
 自尊心の高い彼にとって、謝罪自体が苦手なのだろう。
 だが、意外なぐらいに悪い印象を受けないのは、ノヴァの真剣さのせいだ。レオナの目から見ても、彼は本気で反省していると思える。

「ありがとう……、そして、ごめん。もし、許してもらえるのなら……いや、許してくれというのもおこがましいかもしれないが……やりなおしたい、と本気で思っている……」

 しどろもどろに、それでも必死になって言葉を紡ごうとするノヴァの目の前に、スッと手が差し伸べられた。
 少し子供っぽさを残す左手が、元気よく広げられる。

「え?」

 戸惑うノヴァに、ダイはあっけらかんと言う。

「うん、おれもだよ!」

 にっこりと笑う笑顔には、なんの屈託もない。
 が、ノヴァはダイの意図を図りかねるように、途方に暮れたようにその手を見ているばかりだ。そして、意味が分からないのはノヴァばかりではなかったらしい。

「なんだよ、ダイ。おめー、なんだって左手を出してんだ?」

 ちょっと離れたところで成り行きを見ていたポップが、呆れたように口を出す。

「だから、やりなおしだよ。ノヴァは、右手の握手じゃイヤみたいだったし」

 無邪気にそう言ってのけるダイに、レオナは思いだしていた。
 確かに、ノヴァは右手を差し出したダイの手を、無視した。が、それは手の左右の問題ではないと思うのだが。
 が、ダイの結論は驚くほどにストレートだった。

「なら、左手でやればいいと思って!」

 笑顔でそう言ってのけるダイに、ノヴァがあっけにとられたような顔をするのが見えた。
 思わず絶句してしまったノヴァに代わるように、ポップがさらに声をかける。

「バッカか、おまえ? 右手で握手ってのはよ、武器を持った手を相手に預けるって意味があるんだよ。つまり、そんだけ信頼しているってことを示す行為だってことだっつーの」

 言外に、ダイの行動に意味が無いと貶しているような物だが、ダイはまったく気にした様子もない。

「えー、でも、左手だって武器になるじゃないか。ポップだって、右でも左でも、おんなじように魔法を使えるだろ」

 そう言われると、ポップも反論できない。
 実際、ポップは左右どちらの手からもほとんど同じように魔法が使えるのだから。少しばかり利き手の方が反応がいいとは言え、誤差の範囲程度の差しかない。

 右方向に魔法を放つときは右手で、左方向の時は左手で――そのぐらいの差だ。

 実は魔法使いにも利き手があり、大抵は利き手からしか魔法を放てない魔法使いの方が多いのだが、アバンとマトリフという規格外の魔法の使い手以外はほとんど接したことのないポップは、真相を知らない。

「だからさ、右手でうまくいかなかったら、左手でやり直せばいいと思うんだ!」

 そう言いながら、ダイはキラキラした目をノヴァへと向ける。

「よろしく、ノヴァ!」

 戸惑った様子ながら、ノヴァはその手は拒まなかった。気まずそうにだが、ぎこちなく左手を伸ばして握手に応じる。
 今度は、二人の手はしっかりと握りあわされた。

「あ、ああ……よろしく、勇者ダイ……」

 少しばかり顔を背けながらも、ノヴァはダイを『勇者』と呼んだ。あれほどムキになってダイを否定していた北の勇者は、この時、初めてダイを勇者と認めたのだ。

 そんな二人の勇者の様子を、バウスン将軍もアキーム将軍も微笑みを浮かべながら見守っていた。口出しをせず、子供達の自主性に任せてくれたその鷹揚さに、今更ながらレオナは感謝した。

 よくよく見ればポップはいかにもノヴァをからかいたそうな顔をしているが、幸いにもマァムがそれを止めてくれているから邪魔をする者はいない。 

 小さな勇者と、北の勇者の友好の握手を、その場にいた全員が微笑ましそうに見守っていた――。   END 

 


《後書き》

 アニメのエンディングから思いついた、ダイとノヴァの仲直り妄想です♪
 左手で握手しているダイとノヴァと、それを見守っている仲間達の光景が気に入りすぎて、お話を妄想しちゃいました。

 原作では描かれていないポップがチウ達を連れ帰った時のことも前から気になっていたので、ついでにその部分も捏造しまくりです。

 しかし、サババとカール城ってどのぐらい離れているか、地図を見る度に悩みます。

 地図で見ると山越えの地形なのですが、レオナ達もそろって一度サババに移動して応急手当を施し、怪我人を移動させているところをみると、それほどの距離ではなさそうなんですよね。

 チウ達と一緒に帰る際、ルーラで移動させようか、歩かせようか、ちょっと悩みましたよ〜。でもポップ抜きで怪我人を拠点に移動させていた事実から考えて、基本的に人力で移動させたと判断し、歩く方向性にしました。

 なお、ポップとレオナではステータス的にレオナの方が『ちから』が高かったりします(笑)
 ついでに、今回のタイトルはよく特撮ヒーローがTVのCMなんかで言っていた『君も○○○で、僕と握手!』と言うアレが元ネタです(笑)
 

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