『もう一つのクリスマス ー後編ー』 |
(こいつって、これだからムカつくんだよな〜) 熱心にアクセサリーを選ぶヒュンケルを横目で見つつ、ポップの機嫌は悪化の一途を辿るばかりだった。黙っていても女にモテる――実に不公平の極みだと思うが、世の中にはそーゆー男も実在するものである。 美形で、しかも長身で、なおかつ身体つきは逞しく、初対面の女の子さえ虜にしてしまうなんてとんでもない話だが、恐ろしいまでに事実だ。 (センスも悪くない、かよ。ホント、ムカつくったら……っ!) ヒュンケルが選んでいるアクセサリーが複数に増えたところを見ると、レオナやエイミ達へのプレゼントも含まれているようだ。 しょせん、田舎の村の雑貨屋の品物だけに、そう上質なものは置いていないのだが、ヒュンケルは偶然か、故意か、結構いいものばかりをより抜いて選んでいる。 贅を尽くした高級品に慣れた彼女達には、かえってこういう素朴な味わいのあるものが喜ばれるかもしれない。休暇が終わってパプニカに戻ったら、レオナ達への土産代わりにクリスマスプレゼントを渡するつもりで、ポップもすでに準備済みだった。 だが、ヒュンケルが選んだものを見ていると、わざわざ忙しい時間を縫ってベンガーナデパートにまで出かけて、高いプレゼントを買った自分が、馬鹿馬鹿しくなってくる。 「ポップ。ちょっと、こっちを向け」 「なんだよ?」 花を模した色違いの髪飾りを手にして考え込んでいたヒュンケルは、急にポップに近寄ってきたかと思うと、それを髪の毛に押し当ててくる。 「なんの真似だっ、てめえっ?!」 「おまえに似合うのなら、スティーヌさんにも似合うだろうと思ってな」 「どーゆー意味だっ、それはっ?!」 「文字通りの意味だが」 しごく真面目な顔でさらりとそう言われて、ポップの機嫌の悪さは一気に沸点に達した。
確かにポップは母親似だし、面立ちは似ているだろう。が、そんな真似を平然と男に対してやる無神経さが、なんとも言えずに腹立たしい。 いっそ、この場でメドローアを撃ってやろうかという衝動に駆られたが、それをなんとか抑えられたのはヒュンケルの漏らした一言のせいだった。 「これでだいたいは選んだか。後はダイへのプレゼントだが……正直、難しいな」 親友の名を聞いて、爆発寸前だったポップも少しばかり落ち着きを取り戻した。 「ダイか。確かになぁ。あいつって、なんにも欲しがらねーもんな」 ダイを喜ばせるプレゼント。 まあ、食いしん坊なダイは食べ物をやれば喜ぶのは分かりきっているが、それを『プレゼント』の範疇に入れていいものかどうか、ポップ的には抵抗がある。 もちろん、あのやたらと素直な勇者は、食べ物以外でも何をもらったとしても喜ぶだろう。 だが、それは他人からもらう気持ちが嬉しいから喜ぶわけであり、欲しいものを受け取ったがゆえの喜びじゃない。 無人島育ちで世間に疎いせいか、普通の子供のように玩具を欲しがるなんてことがない。特にこれといった趣味もなく、何かが欲しいなどとワガママも言わないダイが、本当に欲しいプレゼントが何なのか……それは、ポップにも見当もつかない難問だった。 「あいつ、何をやったら本気で喜ぶんだろうな?」 ダイとレオナのため、ポップは二人っきりのクリスマスを過ごせるように手は打った。 だが、それとは別に、ダイが喜ぶものをプレゼントしてやりたいという気持ちも、ポップの中にある。 だが、具体的ないい案が思いつかなくて悩んでいると、ヒュンケルがこちらを見て、わずかに笑っているのが見えた。ほんのわずか、口端を緩める程度の小さな微笑みは、鋭すぎて険しさを感じさせるヒュンケルにしては珍しく、穏やかな表情と言える。 ――が、まだ機嫌の悪さを残すポップの主観から見れば、それは自分を笑う嘲りとしか思えない。 「何がおかしいんだよ?!」 「いや……おまえがそう言うとは、思わなかったからな。オレにでも分かるぐらいだ、おまえはとっくに知っていると思った」 そう言ったヒュンケルのどこが悪いのかは、ポップにもはっきりと指摘は出来なかった。 全てを見透かしたような、その言い方がか。 それとも、自分には分からないのにヒュンケルには分かっているという事実が、癪に障るのか。 ――まあ、原因は定かではないが、ただでさえいいとは言えなかったポップの機嫌が、最低限をぶっちぎってどん底以下にまで下降する。 それが爆発しないですんだのは、酒瓶を両手いっぱいに抱えて戻ってきたラミーのおかげだった。 「おまたせしましたわっ」 秘蔵品の酒蔵を開けてきたのか、上物の酒ばかりを抱えてやってきた彼女は、いちいち丁寧にそれを包みながら熱心にヒュンケルに話しかけている。 「こちらのものは……みんな女性向けの贈り物なんですね。恋人、とかに贈るんですか?」
「そうなんですか?! そうなんだ、よかった…いえいえっ、ところで、他にご注文はありますか?」 「そうだな……14才ぐらいの男の子に向くようなクリスマスプレゼントには何がいいか、教えてもらえるとありがたい」 「えっと、それならですね――」 頬を赤く染めてまで、ヒュンケルにああだこうだと楽しげに話しかけている幼馴染みの少女に、ポップの面白くない度はどんどん上昇する一方だ。 当然、男の子達の人気も高く、村にいた頃はポップも当然のごとく『いいな』と思っていた少女で――そんな相手が、こうまでもヒュンケルに靡いているかと思うと、それだけで神経に触る。 あまりにほったらかしにされているのが癪で、ポップは嫌み混じりに口を挟む。 「おーい、ラミー、おれも同じ奴に贈り物する予定あるんだけど、幼馴染みにはアドバイスはないわけ?」 「え? んー、じゃあ、そこの隅の箱の中のものなんか、どうかしらー?」 ヒュンケルから目を離しもせず、彼女が適当に指差したのは、『超お買い得! 現品限りの半額ご奉仕品!!』と手書きの札が張られた、安っぽい箱だった。 除き込むと――浮き輪だの日傘だの花火だの、どう見ても夏の売れ残りな商品がずらっとそろっている。 「ただの売れ残りだろーがっ、これっ?!」 「いやあね、売れ残りだなんて露骨な。ただ、ちょっと古いだけで、商品品質に問題は無いわよ。それを買ってくれるんだったら、幼馴染みのよしみで半額にしてあげるわ」 「おいっ、元から半額って書いてあるぞっ、これっ!」 「あら? そうだったかしら? じゃあ、この袋に詰め放題で、10Gにまけといたげるわね〜」 と、放りだされるように渡された袋は、この商店で一般的に使われている油紙で作られた袋だ。さして大きくも無い袋を握り締めつつ、ポップはふるふると小刻みに震えずにはいられない。 (これ、サービスじゃなくって、ラッピングの手間を省いてるとしか思えねえぞっ!) 幼馴染みという存在意義について、とっくりと問い詰めたくなるような一瞬だったが、それでもポップは、その商品を見ながらふと思いついたことがあった。 ごそごそと『それ』を取り出し、袋に入るだけ詰めてからしっかりと口を閉じ、カウンターに持って行く。 ラミーとヒュンケルの間でどう話がついたものか、ラミーはせっせとボールやら独楽やら簡易ゲームなど男の子用の玩具をまとめ、ラッピングしているところだった。 「ふうん……まあ、あいつにはいいんじゃねえの?」 14才のダイには少々子供っぽい玩具な気もするが、考えてみればダイは無人島育ちだ。普通の子供なら必ず手にする機会のある玩具など、見たこともなかったに決まっている。年の割には子供っぽい点も多く残っているし、案外喜びそうだと思える。 「おまえは何を贈るんだ?」 ヒュンケルに聞かれ、ポップはつんとそっぽを向く。 「てめえに教える義理はねーよ。ラミー、これ、代金な」 10Gをカウンターに置き、ポップは山と積まれたプレゼントの数々に呆れた視線を送った。 「……にしても、買いすぎじゃないのか?」 なにせ、クリスマスのなんの準備もしていなかったヒュンケルは、ジャンクやスティーヌへのプレゼント分だけでは無く、パプニカの人々や知り合いへの分も買い込んだ。 「そうですね、これじゃあ二人で運ぶにしても重いでしょう?」 大量の荷物を見て思案顔なラミーに比べ、ポップはきっぱりと拒絶する。 「やだね! おれが買ったわけでもないのに、なんでおれが運ばなきゃなんねえんだよ?」
「冗談じゃない、こんな重いものっ。だいたいこんだけ買ったんだから、サービスで配送ぐらいしろよっ」 「この時期は忙しくて配送まで手が回らないから、頼んでいるんじゃない! 幼馴染みでしょ、協力してよ!」 「都合のいい時ばっか、幼馴染み扱いすんなぁあっ!」 揉めまくる二人の前で、ヒュンケルは無言のまま荷物を手にする。さして力を込めた様子も無く、軽々と肩に担ぎ上げた。 「これなら、一人で運べるな」 その様子に呆気に取られたのは二人とも同じだったが、すぐに一人は目を輝かせて羨望の眼差しになり、もう一人は不機嫌さに膨れっ面になる。 「それでは、世話になったな。ポップ、行くぞ」 そうラミーに軽く挨拶して店を出ようとしたヒュンケルだが、入り口でぴたりと足を止めた。 「なんだよ、急に止まんなよ?! 忘れ物でもしたのか?」 「ああ、大事なものを忘れた」 と、引き返し、ヒュンケルはラミーに向かって聞いた。 「もう一つ、プレゼントを買い忘れていたんだが……アドバイスをもらえるだろうか?」 「はいっ、わたしでお役に立てるなら何なりとっ!」 商売熱心とはかけ離れた熱意で頷くラミーに、ヒュンケルはごくまじめな顔で質問をする。 「ポップにもクリスマスプレゼントを贈りたいんだが、何がいいか分かるだろうか?」 その質問に、ポップは危うくその場ですっ転びそうになった。 そんな質問はせめて本人がいないところでやれだとか、『にも』って言い草がそもそも失礼なものだとか、せめて自分で考える努力ぐらいしろや、だとか。 「待ていっ?! なんで、そんなのをラミーに聞くんだっ?!」 「おまえに聞くと、いらないと断られそうだからな」 腹が立つ原因は今までだって山ほどありまくったが、その一言が、ポップの堪忍袋の尾をぷっつんと切った。 「当たり前だっ、誰がいるかっ! てめえからのクリスマスプレゼントなんか、おりゃあ、ぜーったい受け取らねえからなっ!!」
「さあ、たくさん召し上がれ。お代わりはまだまだありますから」 スティーヌのその言葉が、クリスマスの夕食を開始する合図だった。 確かに、普段の食事よりも手の込んだものが並んでいるし、ケーキがテーブルの真ん中に鎮座しているが、それでも城でのパーティなどとは比べ物にならない。 ただ、手作りのリースが申し訳低度に飾られたぐらいのものだ。 「うんっ、こりゃあいい酒だな。ロンの奴にもらったのと、甲乙つけがたいぜ」 機嫌よく酒を飲み比べているのは、ジャンクだった。 「ほれ、あんたも飲みな。いける口なんだろう?」 ジャンクがヒュンケルの杯に酒を注ぐのを見て、ポップも横から口を出す。 「あー、親父、おれにもくれよ」 「はん、ガキにゃこの酒は勿体ねえぜ。てめえはおとなしくケーキでも食っときな」 「ガキ扱いすんなよなっ、おれだってもうじき18だっつーのっ!」 揉める父子の姿を微笑みながら見つめているスティーヌの髪には、ヒュンケルが送ったばかりの髪飾りが飾られている。 明るい黄色の花を模したその髪飾りを、スティーヌは自分には若向きすぎるんじゃないかと恥じらっていたが、ヒュンケルにはとても似合っているように見えた。 平凡ながらも、暖かくて、幸せを感じられる聖なる夜。
(……いい夜だったな) 気持ちのよいまどろみが、ヒュンケルを包む。だが、眠るのが惜しいと思う。 ポップの家族に混じって、クリスマスを祝う――それが、こんなにも心を弾ませ、暖かくするものだとは想像もしていなかった。 もしかすると、初めてかもしれないと思うぐらい、ささやかながらも幸せを感じられる日々だった。互いに、互いのプレゼントをこっそりと隠しながら、クリスマスの支度をする喜びを、知った。 ……まあ、意地になったポップが、ヒュンケルにプレゼントを渡すのも、もらうのも徹底拒否するというささやかな問題もあったが、それは些細な問題だ。 ポップがムキになって否定したのはその一点だけで、後は本人も実家でのクリスマスを楽しんでいたのだから。 スティーヌの心尽くしのご馳走に舌鼓を打ち、いつになく機嫌のいいジャンクの酒の相手をしながら、ポップのおしゃべりに耳を傾ける。 自分などが、こんな幸せを味わってもいいのかとちょっと罪悪感を抱いてしまうぐらい、幸福感に包まれた日になった。 『クリスマスはね、愛と安らぎを与えてくれる特別な日なんですよ』 ふと、子供の頃に聞いたアバンの言葉が耳に蘇る。 このまま眠りにつけば、そのまま幸せな夢が見れそうな聖夜だったが――ヒュンケルは、根っからのリアリストだった。 (……さて、声をかけるべきか?) 薄目をこっそりと開けながら、ヒュンケルは自問する。 とっくに眠ったと思っていたポップがむっくりと起き上がり、ヒュンケルの様子を窺いながらこそこそと着替えているのが見える。 一応、音を立てないように努力しているのは分かるが、ヒュンケルにはバレバレの行動だ。そのついでに、ベッドの中に枕を突っ込んで寝ているように偽装しているのは、ヒュンケルから見れば無駄な努力としかいいようがない。 まあ、その努力に免じて見逃してやっても良かったのだが、さすがにこの寒い中、普段着だけで外へ出ようとしているのは見過ごせなかった。 「おい。マントぐらい、羽織っていけ」 「うわっ?!」 よほどビックリしたのか、文字通り飛び上がって驚いたポップは、慌ててながらも身構えるように振り返る。 その様子を見ながらも、ヒュンケルはあえて起き上がりもせずにのんびりと横たわったままの姿勢を崩さなかった。それを見てポップも、ヒュンケルに制止の意思がないのを悟ったのだろう。拍子抜けしたように聞いてきた。 「……止めないのかよ?」 ポップの疑問通り、本来なら止めるのが正解だとは、分かっている。 いまや二代目大魔道士と名高いポップを狙うものは、少なくはない。帰郷ともなれば本人も油断しているだろうし、万一のことが起こらないとは言い切れない。 任務を優先するなら、ポップの自由行動を許すべきではないだろう。 「クリスマスプレゼント替わりだ。見逃してやるから、さっさと行ってこい」 その言葉に、ポップはムッとしたような顔を見せたものの、おとなしくマントに手を伸ばしてバサッと羽織る。 「……ったく、礼は言わねえからなっ!!」 ポップのその捨て台詞を、ヒュンケルは当然のように聞いていた。別に、最初から礼など期待もしていないだけに、そう言われたからといってどうということもない。 ポップが窓から出て行った先を、ヒュンケルは確認しようともしなかった。見なくても分かっている――ポップは、ダイの元へ行ったのだ。後、2、3日経てばどうせパプニカ城に帰るのだから、今、無理をしてまで行くことはないと普段のヒュンケルなら思っただろう。 だが、今日はクリスマス・イヴ。年に一度だけの、聖なる夜だ。 むしろ、ダイへのクリスマスプレゼントだろう。 それが、ポップと過ごす時間なのだと――ポップ以外の人間の目には一目瞭然なその事実に、なぜ本人だけが気がつかないのかが不思議なぐらいだ。 (だが、気づいていなくても、同じことか) ポップは、ダイの一番の望みを理解してはいまい。 いまだに自分が人間でないことを気にして、地上で暮らすことに不安を抱いているダイを、心から救えるのはポップだけだ。 今夜、自分がポップの家族から幸せを分けて貰ったように、ダイもポップから幸せを貰えるといい。
(……戻ったか) 窓から聞こえるわずかな物音。 浅い眠りをとっていただけだったし、ポップの帰還を感知するのはヒュンケルにとっては簡単だった。 思っていたより時間がかかったが、ポップがちゃんと戻ってきた事実に、ヒュンケルは満足する。だからこそわざわざ声をかけず、寝たふりを貫いていたヒュンケルだが、音を殺してポップがこそこそと近寄ってきたのを訝しく思った。 (さっさと寝ればいいものを) そう思ったヒュンケルの枕元に、静かに何かが置かれた。 そのまま、ポップが眠りに就くまでの時間、動かずに待ってから、ヒュンケルはやっと枕元に置かれたものを確かめた。 (これは……) ざっと包まれただけの、簡単な包み。その中に入っていたのは、ベルトに剣を下げるため使用する固定用の帯と、清潔な布に包まれたクッキーが少しばかり入っていた。 そして、ベルト用の固定帯は、金具や布の手触りからして上質なものだと薄暗がりの中でも分かる。そういえばと思い出すのは、ヒュンケルが今、使っている剣の固定帯がかなり古びてそろそろ買い替え時に差し掛かった事実だった。 別に、それについてポップに言った覚えも無いのに、知っていて、あらかじめ用意しておいてくれたのだろう。 『サンタクロースより』 (……確かに、『ポップ』はオレにはプレゼントはくれない気らしいな) 眠っているポップの背中に目をやって、ヒュンケルは少しばかり苦笑する。 アバンと過ごした、最初で最後のクリスマスの日、当時、欲しくてたまらなかった新品の剣を貰って、嬉しい反面困惑したのを覚えている。 なのに、自分の得にもならないのに、なぜそんなことをする人がいるのか、どうしても分からなかった。そんな、心にゆとりを無くし、猜疑心に凝り固まった子供に、アバンは優しく諭してくれた。 『いえいえ、得にならないなんてとんでもない。サンタクロースは、世界で一番幸せな人間ですよ? だって、大切な人にプレゼントをあげられるのですから』 名を明かさなかったサンタクロースは、自分の方がとびっきりのプレゼントを貰ったばかりのような笑顔で、そう言ってのけたものだ。 『もらうよりも、プレゼントをあげた方が幸せになれるってこともあるんですよ』 まあ、大人になったら分かりますよと、お茶目にウィンクした師の言葉。 音を立てないよう、ヒュンケルはこっそりを寝床から起き上がる。そして、隠しておいた包みを取り出して、足音を忍ばせてポップの側へと近寄った。 きちんとラッピングした包みは、用意だけはしておいたポップへのクリスマスプレゼントだった。 あの後、こっそり一人で雑貨屋に行き直し、ラミーが用意しておいてくれた、ポップが気に入りそうな本や、パズル、ゲームなどを見せてもらった。 こんな田舎の村にあるにはにつかわしくない程、凝った造りのそのチェスセットはそこそこの値段だったが、一目で気に入っただけに金を惜しむ気は無かった。 まあ、拗ねたポップは意地でもヒュンケルから受け取るまいと言い張っていたから、無駄になったかと思っていたのだが。だが……自分からでは受け取ろうとしないポップでも、『サンタクロース』からならば、話は別かもしれない。 書くことが思いつかないから白紙のままだったクリスマスカードに、ポップと同じく借り物の名を記してから、そっと枕元に置いてやる。 熟睡しているポップを起こさないように気をつけて、再び寝床へと戻った。 (確かに、悪くない気分だな) 思いがけずにプレゼントをもらったのも、嬉しいと思ったし、幸せを分け与えられた気分だった。 だが、自分の送ったプレゼントを、ポップが見つけた時にどう反応するだろうかと思うのは、よりわくわくする楽しさを含んでいる。……まあ、ポップが素直に喜ぶ代わりに怒りまくる可能性も少なからずあると思えるが、それでもいい。 今夜ぐらいは、プレゼントをもらった子供の気分と同時に、サンタクロースの気分を味わうのも、いいだろう。 今宵は、聖なる夜。 《後書き》
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