『譲れない思い』 |
「ほら、ダイ、口を開けな」 ちょっと乱暴だけど、優しい声。 オートミール。 おまけに、ダイが普段好む食事と違って、柔らかすぎて満腹感もなく、決定的に物足りない。 本来の味を上回って、込み上げてくる嬉しさが、差し出される食事をとびっきり美味しいもののように錯覚させる。 「……なあ、それだけ食欲があるんだったら、起きて自分で飯を食えるんじゃないのか?」
駄々をこねると、緑の服を着た魔法使いは苦笑しつつもまたスプーンを手に取った。 「ったく、しょうがねえなあ。病気の時は子供返りするってのはよく聞くけどよ、まさか世界を救った勇者様もそうなるとはねえ」 からかいつつも、ポップは再びすくい上げたオートミールを、ふーふーと吹いて適度に温度を覚ましてから、ダイに食べさせてくれる一手間を忘れない。 「ま、おめえが病気になるなんて初めてだし、不安になるのも無理ないか。おれだって、ビックリしたもんなー」 ダイがこの風邪を引きこんだのは、五日程前のことだ。 『バカか、おまえっ?! そりゃ、熱があって具合が悪いんだよっ!』 最近、パプニカの下町を中心に大流行している、質の悪い風邪。 ダイも寝込んだ日こそは40度を超える熱が出て、やたらと苦しくって、辛かった。なにせ健康優良児のダイは、物心ついてからというものの、これが初めての病気なのだ。 『ダイ、苦しいのか? 安心しろ、薬が効いたら、すぐにこんな熱なんか下がるからな。大丈夫だよ』 熱で意識が朦朧としている間も、ずっとポップが側にいてくれた。 それがあまりに嬉しくて嬉しくてたまらなかったものだから――ダイは、すっかりと味を占めてしまったのだ。 ダイ的には、そこで起きていつも通りの行動に戻ってもよかったのだが、ポップと侍医に止められた。 『若くて健康な者の場合は、体力も充分ありますし、熱が引くのも回復も比較的早いのですが、病原体が完全に消えるまでは数日から一週間ほどかかります。ぶり返しを避けるためにも、二次感染を防ぐためにも、療養期間を長めに取るのをお薦めしますな』 と、侍医がしてくれた説明はよくは分からなかったのだが、しばらくは剣の稽古もしてはいけないし、部屋でじっとしていなければならないと言われて、最初は嫌だと思った。 が――普段は忙しいからとあまり構ってくれないポップが、側にいてくれる嬉しさの前では、まったく苦にならない代償だ。 そして、ダイは気がついてしまった。 それにガッカリしたのと、まだ完全に治りきっていなかったせいで、食欲が落ちて全然食べれなかったのが二日目の日のこと。 『おまえなー、いくら調子が悪くたってちゃんと食べなきゃ、治るものもなおらないだろうが!』 そんな風に怒って文句を言いながらも、手ずからご飯を食べさせてくれた。 ご飯を食べさせてくれたり、美味しい果物を持ってきてくれたり、ダイが好きそうな本を読んでくれることもある。 もう、とっくに床離れしてもいい体調にもかかわらず、まだ気分が悪いとか、ちょっとだるいとか言って寝込んでいるのは、今となっては仮病みたいなものだ。 もうちょっとだけ、甘えていたい――そう思わずにはいられない。 「そろそろ、よくなる頃だと思うんだけどなー」 珍しく手袋を脱いだ手で直接額に触れられると、なんだか頭がかーっと熱くなるような、そんな感じがして落ち着かない。 「んー、まだちょっと熱があるみたいだな。じゃ、念のために薬を飲んでおけ」 「え〜、また? これ、まずいからヤだなあ」 薬草を煎じて作った薬は、変な臭いがしてやたらと苦い。 「なに甘えたこと言ってるんだ、とっとと飲めってえの! 薬は苦い方がよく聞くんだよ、飲んだら褒美にお菓子をやるから、おとなしく飲め!」 口こそ悪いが、ポップは必ず薬の口直し用に甘いお菓子を用意しておいてくれる。だが、それだけが目的なら、ごねたりはしない。 「うぅ〜〜。……飲んだら、ポップ、また本を読んでくれる?」 そうねだると、ポップは呆れたように苦笑しつつも頷いてくれた。 「あーあ、甘ったれちまってしょうがねえなあ。いいよ、分かったよ。読んでやるから、おとなしくこれを飲みな」 「うんっ」 首尾よく約束を取り付けてから、ダイは目をつむって一気にごくっと薬を飲み干した。途端に、鼻に抜けるような嫌な臭いと味が広がる。 が、ポップが続けて口の中に押し込んでくれた甘いチョコレートの味が、不味な感覚を塗り替えてくれた。 「さて、おれも忙しいから短い奴な」 そう言って、ポップが本棚から薄い絵本を一冊、選んでくれる。 字を読む勉強になるからと、アバン先生やレオナがくれた子供向けの童話の数々は、正直、あまり読んではいない。 朗読してくれている間は、ずっと側にいてくれるのが嬉しくてたまらない。ポップが枕元の椅子に座って、ページを捲りながら朗読してくれる声を、ダイはうっとりと聞いていた。 まさに、ダイにとっては至福の時――だが、無粋なノックの音が、ポップの声を途中で遮った。 「入るぞ、ダイ。……ポップ、やっぱりここにいたのか」 アバンの使徒の長兄であるヒュンケルが入ってきたのを見て、ダイは内心、ガッカリせずにはいられない。 「ダイ、具合はまだ良くならないのか?」 一見ぶっきらぼうに聞こえるその言葉に、心配の響きが混じっているのは分かる。姫からの見舞いを言付かったと、毎日届けてくれる手紙や花の用事だけでなく、本人もダイの容体を気にしてくれているのだろう。 「う、うん、まだ、ちょっと……あ、でも、大丈夫だよ」 返事しながら起き上がろうとするダイに、ヒュンケルは無理しなくてもいいと軽く押しとどめる。 「ポップ、アポロさんがおまえを探していたぞ。会議の草稿はまだかと聞いていた」 「あ、いっけね。あれなら、もうだいたいできてるんだけどさー。……急いでるみたいだったか?」 「ああ。姫も、気にしていたぞ」 レオナの名を出されて、ポップは読み掛けの本を閉じて立ち上がった。 「……行っちゃうの、ポップ?」 思わずそう聞くと、ポップは申し訳なさそうに頭をかいた。 「ああ、悪ィな、ダイ。この埋め合わせは必ずするからさ。じゃあ、昼飯の時にでもまた来てやるから、ちゃんとおとなしく寝てろよ」 ダイの頭を撫でてくれるポップを、ヒュンケルは腕を引くようにして引きはがしてしまう。 「ダイ、邪魔をしたな。ゆっくり休めよ」 「って、いてえよ、ヒュンケル! 手なんか引っ張られなくても、ちゃんと行くっつうのっ!」 ポップとヒュンケルが出て行ってしまうと、部屋が急にがらんと、寂しくなってしまったように感じてしまう。 (……つまんないなー) ダイが寝込んで以来というものの、ヒュンケルもちょくちょく見舞いにやってくる。 用事があるなら仕方がないとは思いつつも、それでも邪魔をされているようで面白くない。 (――でも、そう思うのなんか、間違いだよね) 素直で単純なダイは、すぐに気を取り直す。
すこしだけ反省し、気を取り直したダイはベッドから飛び出すと、部屋から抜け出した。元々、もう動いても全然問題がない体調なのだ、朝昼晩とポップが食べさせてくれる病人食だけではとても物足りない。 ポップや部屋にくる侍女にはバレないように気をつけているが、たまにこっそりと食堂に行って足りない分の食事を補っているのは、ダイだけの秘密だ。 「なんでだよ! なんで邪魔をするんだよ、てめえはっ?!」 (ポップ?) 距離がどんなにあろうと、ダイがポップの声を聞き逃すはずがない。 食堂に向かう回廊からちょっと外れた場所で、あんまり人がこない場所――そこで、向かい合わせになって口論しているのはポップとヒュンケルだった。 (アポロさんのとこに、行ったんじゃなかったの?) 三賢者やポップなど文官のトップの彼らには、それぞれ個人用の執務室が用意されている。てっきり、ポップはそこに向かったと思っていたのだが、ここは執務室とは全く逆方向だ。 (――ヒュンケル……嘘、ついてた?) 信頼していた兄弟子の予想外の言動に、ダイの中に初めて疑惑が生まれる。それがショックに変わったのは、ヒュンケルの次の言葉を聞いた時だった。 「ポップ。もう、ダイの所へは行くな……!」 (――――!) その衝撃は、大きかった。思わずふらつきそうになったダイを支えてくれたのは、不機嫌そうなポップの言葉だった。 「……なんで、てめえにそんなことを言われなきゃなんねえんだよ?」 ヒュンケルへの不満を隠しもしないポップの態度に、ホッとするものを感じる。だが、ヒュンケルは譲らなかった。 「理由は、おまえの方がよく知っているはずだ」 そう言われてポップが、俯くのが見えた。 なのに、こんな風に言い返しもせずに沈黙するだなんて――それは婉曲な肯定のようにさえ思える。 「ダイがいない間のこと、忘れたとは言わせないぞ。もう、ダイの所へは行かない方がいい。……分かるだろう?」 ヒュンケルの言葉には、悪意は感じられない。ただ、ポップを心配してダイから遠ざけようとしている――そんな風に聞こえた。 大きな、柔らかい物で包むかのような寛大さを感じさせるその言葉には、圧倒的な包容力が漂っている。 「分かんねえよ、そんなの……!」 聞き分けのない弟弟子の肩に、ヒュンケルがしっかりと手を掛けるのが見えた。頭一つ以上背が高く、がっちりとした体格のヒュンケルにそうされていると、ポップの姿はいつも以上に華奢に見えてしまう。 場違いだが、その瞬間、ダイの脳裏に浮かんだのはレオナがくれた絵本の挿絵にあった、王子様とお姫様の絵柄だった。 決まって、男性の方がお姫様よりも背が高くて、すっぽりと相手を抱き締められるぐらい逞しいのだ。 「オレは、ただおまえのことが――」 ダイやポップとは全く違う、大人の男にしか出せない低音の声が、大切そうに言葉を継げようとした。 「それ以上、言うな!」 激しくそう言い、ポップは身をふるってヒュンケルの手を拒絶する。 「そんなの、聞かねえからな……! それに、その話はダイにも絶対に言うなよ!! 言ったら、ただじゃおかねえからな!」 叩きつけるようにそう言い残し、ポップは足早に去っていった――。
(……あの後、なんて言うつもりだったんだろ?) あの後、どこをどう歩いてきたのやら、食事すら忘れ果ていつの間にか自室に戻ってきたダイだが、頭の中はいっこうに落ち着かなかった。 裏切り。 (でも、おれだって……、ポップのことが――) ヒュンケルの方が、ずっと大人で。 それでもダイは、ポップをヒュンケルに譲れない。 (おれだって、すぐ大っきくなるし、それにこれからはずっとずっと、ポップと一緒にいるんだから!) 今のダイは、微妙に追い越したとはいえポップとほとんど大差のない身長だ。 毎月計っている身長や体重では、ポップよりもダイの方が伸びがいい。もう少し経てば、ポップより大きくなれるという確信にも似た自信がダイにはある。 むしろ、側にいられなかった二年間を埋め合わせるために、前よりもぴったりと一緒にいる気、満々だ。 それに、ポップだって口では文句を言ったり、邪魔だとあしらったりもするが、本気で嫌がっているとは思えない。 (だ、大丈夫、だよね? ポップ、腹立てると邪魔すんなってメラゾーマ打ったり、マヒャドで凍らせたりする時あるけど、でも、あれぐらいよくあることだし) ――一般的には、よくありはしないことのような気もするが。 (あ、ポップだ!) 小さな籠を手にして中庭を横切ってこちらに向かってくるのは、間違いなくポップだった。 埋め合わせてしてくれるという約束通り、ちょっと早めに来てくれた優しさに感謝しつつ、ダイはポップがくる前にベッドに潜り込もうとした。 だが、ゆっくり歩くポップの行く手を塞ぐように長身の人影が不意に現れて、彼の前に立ちはだかった。 (ヒュンケル……ッ?!) 窓ガラス越しだし、距離があるから何を言っているかはよく分からないが、ポップと揉めている様子ははっきりと分かる。 ポップが嫌がり、ヒュンケルを突き放そうとしているのに対し、ヒュンケルはしつこくポップの腕を掴んで離そうとしない。
その際、腕の中に抱き込んだポップを無意識に庇おうと、ダイからわずかにでも遠ざけようとした行動にも、他意はない。非戦闘員を庇うのは、彼の中ではすでに身に染み込んだ癖となっているだけの話だ。 「ヒュンケル……ッ、なにしてんだよっ?!」 獣の唸り声にも似た、いつになく低い声。 目のいいヒュンケルでさえ、目で追うのがやっとの迅さは、瞬間移動呪文を併用したからこその速度だろう。 「ポップに手を出すなっ!」 歴戦の戦士であるヒュンケルでさえ、一瞬怯みたくなるような殺気――。 「おいっ、ダイ! てめえっ、何、外をうろついてんだよっ?! 病人は、おとなしく寝てろ!」 言うだけでは足りないと、ヒュンケルの腕を振り払ってダイの方へ来ようとしたポップの身体が、頼りなくふらついた。 「ポップ?!」 ぐらついたポップを支えようと手を伸ばしたのは、ヒュンケルもダイもほぼ同時だったが、前のめりに倒れ込んだ身体を受け止めたのはダイの方だった。 「ポップ? 熱……出てる? ど、どうしたんだよっ?!」 「……うっせえ。おれなら平気だから、騒ぐなよ」 と、答えはしたものの、今のポップが平気なわけがないのはダイにだって分かる。 そんなポップをどう扱えばいいのやら、ダイはただおたおたとうろたえるぐらいしかできない。
唯一の救いを求めるがごとく、ダイはヒュンケルを振り返る。 が、頼りがいのあるはずの兄弟子は、ダイの助けには応じてくれなかった。 「うっ、うわぁっ、ヒュンケルっ?!」 慌てて手を伸ばし、倒れるのを受け止めるまではいかなくとも、なんとか頭を打つのだけは阻止する。 「だっ、誰か、来てぇええ〜っ、大変なんだーーっ!」 パプニカ城の中庭に、勇者様の情けない悲鳴が響き渡った――。
――大騒動から、ちょうど、丸一日後。
(だから、レオナ、おれんとこにこなかったんだ) レオナはダイが寝込んで以来、毎日、手紙や見舞いを人伝に届けてはくれるものの、一度も来てはくれなかった。 だが、今ならよく分かる。 レオナがどんなに望んでくれても、後継者のいない王位継承者は伝染性の高い病気が流行った場合、安全を優先して隔離されるものなのだと後になってから教わった。 「ヒュンケルでさえ、倒れるんだもん……ポップやレオナが、大丈夫なわけ、なかったんだね」 しみじみと呟くダイの前で横たわっているのは、ヒュンケルだった。 ダイも一番熱が高い時は意識も朦朧としていたし、あの時、もしポップに言われて早めに休んでいなければ、きっと倒れていただろう。 「気にするな。おまえのせいじゃない。オレが不覚だっただけだ」 ヒュンケルにしてみれば、いくら悪質な風邪とはいえ病に倒れるなど、戦士にあるまじき体調管理の怠りとしか言えない。ダイのせいというよりは、自分の不覚としか思えない。
ダイがいない間、彼を探すために無茶を繰り返していたポップは、体力や身体の免疫力が、以前に比べて格段に落ちている。 それを知っているヒュンケルは、ポップがダイの看病をするのをあまり歓迎出来なかった。レオナや三賢者などははっきりと反対し、ポップも隔離した方がいいと言ったくらいだ。 ダイならまだしも、ポップがこの風邪に感染したら、下手すれば命取りになりかねないのだから――。 何より、ポップが承知しなかった。 だから妥協して、ポップがあまりダイの元に長居しないようにと、適度に邪魔をする程度に抑えていたのだが――ポップに体調の崩れの兆しが見えたからには放っておけなかった。 病気の知識はヒュンケル以上に持っているくせに、ポップは自分の身に関してはひどく無頓着だ。食事や睡眠時間を削ってでも、ダイへの見舞い時間だけは獲得しようとする。 その癖、自分の体調をダイに知らせるのは極端に嫌がり、厳重に口封じするのは忘れないのだから、困ったものだ。 ダイに真相を伏せたまま、強引にポップを休ませようとしたせいで、なにやら誤解をされたようだし、自分まで風邪をひきこんでしまったのは失態だった。――が、基本的に結果を重視するヒュンケルは、途中経過などさして気にもしていなかった。 「オレの看病など、しなくていいぞ。おまえも病み上がりだろう」 「ヒュンケル……」 今は自分が風邪を引いて寝込んでいるのに、弟弟子の方を心配してくれるヒュンケルの優しさに、ダイはますます申し訳なさを味わう。 「でも、ヒュンケルも看病してくれる人、いないと困るよね?」 ヒュンケルが病気と知れば、本来ならエイミが駆けつけてつきっきりで看病してくれるはずだった。 エイミ自身は駆け付けたいと心から望んでいるものの、身分と王室の決まりが阻んでいる。 「オレより、ポップのところに行けばいい」 「ポップなら、アバン先生もついてるし、マァムが看ててくれてるからいいって」 ダイとしても、ポップの看病をしたい気持ちは山々だ。 ダイ以外は知っているその事実を、ダイ本人だけは知らなかった。
なにより、今のポップに必要なのはゆっくりと休養することだと聞かされては、邪魔をする気にもならない。 自分のわがままのせいでポップに風邪をうつしてしまったという負い目がある分、寂しいけど今度こそ我慢するつもりだった。 「本当にごめんね、ヒュンケル……」 もう一度、ダイは彼に深々と頭を下げる。 さらには、これはダイのせいではないとはいえ――ポップの看病が優先され、ヒュンケルがほとんど放ったらかしにされているという実に気の毒な事態を、謝らずにはいられない。 「気にするなと言っただろう。オレなら、すぐに治る」 ダイもそうだったように、この風邪は体力のある成人男性には、さほどのダメージにはならない。 一応、アバンが薬を届けに来たし、マァムも心配してポップのついでに面倒をみようかと申し出たものの、それを断ったのはヒュンケルだった。 ダイと違って、ヒュンケルはポップの体調をほぼ正確に把握している。それを思えば、アバンとマァムにはポップの手当てに専念してもらいたかった。 「でも、治るまでおれ、ヒュンケルの看病するよ! こないだまで、ポップがしててくれたから、だいたいは分かるし」 熱心にそう言いはるダイを見て、ヒュンケルは苦笑しながら頷いた。 「分かった。じゃあ、頼むとするか」 ダイの責任とはヒュンケルはかけらも思ってはいないが、この純真な弟弟子が精一杯謝罪してくれようとしている気持ちを、無下にはしたくないとは思う。 それに、ポップの病気を心配しているだろうに、側で看病出来ない寂しさを紛らわす役に立つのなら、しばらくはダイの好きなようにさせてもいいだろうと思ったのだ。 後の話になるが、額のタオルを取り替えようとしては水をぶちまけられたり、食事の度に赤ん坊よろしく『あ〜んして』食べさせられたり、薬の味以上に苦手な甘いお菓子を口に放り込まれたり、たどたどしい絵本の朗読につきあわされたり……。 心だけは籠ったダイの手厚い看病を文句一つ言わずに一身に受けつつも、ヒュンケルが自分の発言をちょっぴり後悔したのは、彼だけの秘密である――。
《後書き》
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