『其は竜の神を崇める者達 ー前編ー』

  
 

「すみません。少しばかり、お話をしてもよろしいでしょうか?」

 控え目に、だが、どことなく媚びを含んでかけられた女性の声に、ラーハルトは内心うんざりする。

(まったく、これだからパーティに参加するのは嫌なんだ)

 パーティに参加するのも、その場で女性に声をかけられるのも、ラーハルトにとっては面白いものではない。
 昼間ならば、別にいい。
 肌の色が明らかに人間と違うラーハルトの側に、わざわざ寄り付く人間は少ない。

 だが、夜に行われるパーティでは少しばかり事情が違う。
 パーティの中心から外れ、広間の隅に佇んでいる時は、照明の関係で肌の色までは分かりにくいらしい。

 ラーハルトのすらりとした長身、細身に見えて逞しい体付き、なによりも端正な顔立ちに惹かれて、積極的に声をかけてくる女性は少なくはない。
 今夜はとりわけその数は、多かった。

 なにせ、今日のパーティは特別だ。
 ベンガーナで主催する、平和祈念祭への前夜祭。
 勇者一行が世界を救った日を記念して、ベンガーナ王国は必ずそれに関わった一行を呼び集めて大々的に祝う。

 しかも、関係者を集めて開く大規模なパーティをメインにした、前夜祭。
 パレードや儀式をメインとした、本番の祭。
 さらには、儀式が終了した後に庶民達が屋台や出店などを楽しむ後夜祭と、まさにお祭り騒ぎな二日間が続くのだ。

 それは世界が救われてからというもの、人間達がひどく熱心に行っている祭りの一つであり、大行事だ。
 それに関しては、ラーハルトは賛成する気も反対する気もない。

 もはや魔王軍になんら未練もなければ義理もないし、それとは逆に勇者一行には少なからぬ恩義と、好感を抱いている。
 そして、ダイを初めとする彼らの仲間が掲げている「人間と怪物達が共存できる未来」に、ラーハルトはどちらかというと賛成している。

 積極的に自分から協力する程の熱意はないし、半分魔族の血を引く自分がでしゃばるのは僣越だろうと思って表立っては動いてはいない。
 だが、ダイの望みを叶えるために役立てるのなら、いつでも手を貸す覚悟はある。

 だからこそ、ラーハルトはダイにどうしてもと頼まれれば、嫌であろうともパーティへの参加は断らない。
 ……まあ、その頼み事の裏には、紛れもなくパプニカ王女の思惑や、彼女の傍らで政務補佐を行っている大魔道士の思惑が混じっているだろうが。

 だが、それを見通していたとしても、ラーハルトは主君からの頼み事を軽視する男ではなかった。
 内心嫌だとは思っていてもダイに頼まれるままベンガーナに同行し、パーティに参加している。

 もっとも、ラーハルトの役割ははっきりいって頭数に近いものがある。要は、勇者一行のメンバーがベンガーナや他国の意向を尊重していることを示すために。
 なおかつ、ベンガーナ王と初めとする各国王達が出自を問わず、怪物も魔物も差別せずに歓迎する姿勢を示すためのデモンストレーションに近い。

 そのため、最初の挨拶が済んだ後は、ラーハルトはもう役割は済んだとばかりに隅の方に引き込んで、パーティが終わるのをひたすら待っていた。
 引き下がりたいのは山々だが、パーティを途中で辞するのは招待主への失礼になる。それは主君への迷惑に繋がるため、そうもできない。

 退屈を持て余しながら佇んでいる美青年は、パーティの華やぎに浮かれた若い娘にとってはかなり魅力的に写る様で、隅の方にいるにもかかわらず何度も声をかけられる。
 それらの娘達はラーハルトが人間でないのを知ると、ハッとしたように目を逸らし、気まずそうに去っていく。

 いくら夜だから目立ちにくいとはいえ、間近まで来ればラーハルトの肌の色の差にはさすがに気がつく。
 だから、ラーハルトは娘が十分に近寄ってくるのを待ってから、立ち去る言い訳を与えるためにそっけなく答えを返すことにしている。

「悪いが、断る。パーティを楽しみたい気分では、ないからな。今夜を楽しみたいのなら、別の相手を探すことだな」

 普通の娘なら、ラーハルトの肌の色に気がつくか、あるいは冷たく拒絶されたのにショックを受けてそそくさと立ち去る。
 だが、今、彼の側に近付いてきた娘は引き下がらなかった。憶することなくさらに歩を進めてきて、婉然と笑う。

「あら……奇遇ですこと。私も今宵のパーティを少しも楽しんではおりませんの」

 意表を突いた言葉に、思わずラーハルトは彼女に目をやった。
 近付いてきたのは、さっきまでの娘達の様に、恋に恋しているような年頃の女性ではなかった。

 見た目は十分に若々しいが、彼女には年若い娘にありがちな浮ついたところが少しもない。
 もっと年上……おそらくはラーハルトよりも十歳以上は年上だろう。身体のラインをあらわにするぴったりとしたドレスに身を包み、髪を高く結い上げた妙齢の貴婦人だった。


 若々しさの代わりに成熟した色香を放つ貴婦人は、優美な仕草で手にした扇を広げる。それで口許を隠しながら、彼女は聞こえるか聞こえないかの声で囁きかけてきた。

「そして、私はラーハルト様と一度お話をしてみたいと、以前より切望しておりましたわ。竜の騎士様についての、忌憚のないお話など……ね」

「…………」

 わずかに目を見張り、ラーハルトは突然現れた貴婦人を見返す。
 その視線の鋭さには、歴戦の戦士とて怯むだろう。
 だが、彼女は眉一つ動かさなかった。
 かえって、挑みかける様に挑発的な流し目を投げ掛けてくる。

「いかがかしら、決してあなた様にとっても損になる話ではありませんことよ?」

 貴婦人の言葉に答える前に、ラーハルトはしばし沈黙する。彼女を見定める様に何度も見返し、静かに問いかけた。

「……おまえは、何者なんだ?」

「それをお知りになりたいのなら、ご覧になって」

 くすりと笑ってそう言いながら、貴婦人は扇の角度を変えて胸元を隠す。そうしながら、もう片方の手で大胆に胸元をくつろげて見せた。
 傍目からは扇を広げて胸元を煽いでいるとしか見えないが、すぐ真横にいるラーハルトにだけは、彼女の胸の谷間までもがはっきりと見えてしまう。

 普通の男だったら、たわわな乳房や、双丘の間にくっきりと刻まれた谷間に自然に目がいくだろう。だが、ラーハルトの目に留まったのは、彼女の乳房に刻まれた入れ墨だった。 そう大きなものではない。

 コインほどの大きさのその入れ墨は、普通にドレスを着ていれば隠される位置に彫られている。
 だが、そのデザインが問題だった。
 それは明らかに、ダイやバランの持つ竜の騎士の紋章を模した物だった。

「いかがかしら? 私達の仲間は、必ずこの証しを身体のどこかに刻みつけていますの。 我らの誓いと、崇高な思いを証明するためにね」

 ラーハルトが入れ墨を見たのを確認すると、貴婦人は服の乱れを直した。
 それと同時に背筋を伸ばす彼女から、色香が消える。代わりに、気高い騎士か戦士のような強固な意志が、彼女を輝かせた。

 色っぽい貴婦人から、不屈の闘志を持つ女戦士へ――だが、ラーハルトの目には、今の彼女の方がよほど自然な様に見えた。

「私は――いえ、我々は、竜の騎士様を至上の存在と崇める者。竜の騎士様の忠実なる僕……つまりは貴方様と志を共にする者ですわ」

 竜の騎士とは、古代より変わらずに人の世に現れ、神の遣いとも伝えられる存在だ。その相手を神と崇め、信仰する者達が発生するのは、むしろ自然な成り行きと言うものだろう。

 現在ではその信仰は廃れてきたものの、かつては狂信的なまでに竜の騎士を崇め奉る者達も存在したという。
 自分達はその流れを汲む者の子孫であり、その思いを受け継ぐ者だと、彼女は淡々と語った。

 かなり歴史のありそうな、なおかつ少なからぬ人数の組織を想起させる彼女の話を聞きながら、ラーハルトも淡々と答える。

「それで、オレに何の用だ。ダイ様への取次でも、オレにしろとでも言うのか」

「まさか。
 竜の騎士様に直接近付くなど、恐れ多いこと……。神とは崇め、敬うものであり、決して擦り寄るものではございませんわ。
 現在に蘇った竜の騎士様を影から支援することこそが、我らが使命と心得ております。あなたのご助力を得たいのは、別の問題についてですわ」

 扇を音を立ててパチリと閉じた彼女は、その扇である一方向を指した。
 意味ありげな彼女の視線は、パーティ会場の中心にいるダイとポップに向けられている。 正確に言うのなら、勇者であり竜の騎士であるダイの頭を、ちょっと乱暴に撫でているポップに。

 それは勇者一行や彼らを尊敬する者達にとっては、見ていて微笑ましくなる光景だっただろう。

 偉大なる伝説を持つ勇者とその魔法使いのごく人間的な一面を目の当たりにするのは、大半の人間にとってはホッとできるものであり、彼らを身近に感じられるものなのだから。 だが――そうとは受け取らない者達も、存在するものだ。

「……許しがたい行為とは、思いませんか?」

 冷ややかな言葉に明らかな敵意を込めて、貴婦人は手にした扇に力を込める。ほっそりとした指が力を込め過ぎて真っ白になり、小刻みに震えていた。
 押し殺した、だが、強い怒りの感情。

 それを察っせない程、ラーハルトは鈍くもなかった。
 彼らから見れば、ポップは許しがたい存在なのだろう。

 神の眷属である竜の騎士を人間の一員と認めさせ、貶めているとさえ思っているのかもしれない。
 貴婦人がポップを見つめる目は、ひどく冷ややかなものだった。

「あの人間めは、ダイ様には相応しくありませんわ。抹消されるべき存在……そうは思われませんか?」

 貴婦人然とした微笑みを浮かべたまま暗殺計画を仄めかす彼女に対して、ラーハルトは驚き一つ見せずに、不敵に笑う。

「……なるほど、こんな退屈なパーティなんかよりはよほど楽しめそうな話だな。詳しく聞かせてもらおうか」

 

 


「単刀直入に言いましょう。
 竜の騎士様を、あの魔法使いの小僧めから引き離していただきたい……それが、我々があなたへと望む協力です」

 そう言いながらわざとラーハルトに見せつけた男の手の甲には、入れ墨が刻まれていた。ちょうど、ダイと同じ場所にある入れ墨を眺めながら、ラーハルトは目を動かさないまま周囲を伺う。

 パーティの後、貴婦人に誘われるまま連れて行かれたのは、町外れの館だった。
 特にこれといった特徴もない上、やけに埃っぽさが漂うその館は、おそらくは普段は使われていない空き家なのだろう。

 急遽、取り繕われた感の強い館の広間には、ラーハルトをここにつれてきた貴婦人も含め十数人ほどの男女がいた。
 年齢や性別はバラバラだが、目をマスクで隠していること、そして身体のどこかに竜の紋章を象った入れ墨を施している処だけは共通している。

「……そんなことだけで、いいのか?」

「ええ、それこそが重要なのです」

 リーダー格だと名乗った男は、穏やかな口調のままで淡々と語る。

「もちろん、我らとて竜の騎士様を攻撃に巻き込む気など毛頭ありませぬ。だが……、竜の騎士様はあの魔法使いをずいぶんとお気に召している様子。
 常に一緒におられるので、なかなか機会が巡ってこないのです」

 彼らがポップの暗殺を試みる上で、最大の障壁となるのは、皮肉にも彼らが最大限に尊敬するダイの存在だ。
 勇者ダイと大魔道士ポップが親友同士であるのは、世間に広く知られた話だ。ダイやポップを実際に知っている者ほど、それが噂や誇張抜きの真実だと知ることになる。

 少しでも調査すれば、ダイとポップが一緒にいる時間の多さに驚くだろう。
 そして、二人が一緒にいる時に事件が起きたのなら、必ずダイはポップを庇う。ほんのわずかでもダイやポップと関わった人間ならば、すぐに分かることだ。

 ポップを助けようとして、ダイが自ら攻撃範囲に入ることは、充分にあり得る。
 無論、いくら暗殺を生業とする者達が放った矢とはいえ、ダイに通用するはずもないだろう。だが、竜の騎士を崇拝する彼らにとっては、それはあってはならないことだ。
 仮にも、神と崇める存在に対して攻撃をしかけるなど、許されることではない。

「竜の騎士様の御身を思えば、危険の芽は可能な限り排除したい。
 ご助力いただけますでしょうか?」

 真剣に依頼するリーダーの言葉を、メンバー全員が固唾を飲みこんで見守っている。それを理解した上で、ラーハルトの口から漏れたのは失笑にも似た言葉だった。

「ダイ様さえ、引き離せばそれでいいとはな。
 ……聞くが、おまえ達にあの魔法使いに勝つだけの力があるのか?」

 疑惑の目を隠しもしないラーハルトの問い掛けに、その場にいた者達の大半が、ムッとした様な表情を見せる。
 だが、さすがにリーダーはラーハルトの皮肉などに顔色一つ変えなかった。

「お疑いは、ご尤も。
 なにしろ、相手はあの大魔道士ポップでございますからな」

 世界最高の魔法使いの名をあげろと言われれば、今や十中八九の人間がポップの名をあげるだろう。
 勇者の右腕として大戦で活躍し、戦後もパプニカの重臣として、また世界各国の王達の信頼を得ているポップは、知名度では師匠のマトリフ以上なのだから。

 また、外見や若さに似合わず、彼の実力は折り紙付きだ。
 ダイの護衛があろうとなかろうと、ポップを暗殺すること自体が難作業だ。

 魔法使いとしてトップレベルの実力を持ち、高いレベルの回復魔法を自在に操るポップを、暗殺するのは至難の業と言える。
 だが、竜の騎士を崇める者達はそんな問題はたいしたことはないとばかりに忍び笑った。


「しかし、問題はありません。
 物事には何事も、潮目があるというもの。時を慎重に選びさえすれば、なんの問題もありませんとも」

 穏やかなその言葉は、普通に聞けばただの一般的な精神論と聞き流せたかもしれない。だが、大魔道士について詳しく知ってる者にとっては、別の意味を持って聞こえる言葉だった。

「……なるほどな。おまえ達はどうやら、かなりの情報網を握っているらしいな」

 感心したとも、皮肉ともつかない口調で、ラーハルトは言う。
 世間には秘密にされているが、大魔道士と言えども魔法が使えない時期というものは存在する。
 例えば世界会議の期間中は、大魔道士と言えども魔法を封じられる。

 世界会議の最中は全ての者が武装を全て外すと言うルールに従って、魔法を使える者はその魔法を封じられるのだ。
 ポップも、その例外ではない。

 本人も望み、魔法抵抗力をぎりぎりまで下げた状態で、複数の術者によってかけられる魔法封じの呪文は、ほぼ一週間弱続く。
 そのせいで、ポップは世界会議の前後には武装解除されたも同然なままなのだ。

 ポップにとっては最大の弱みとも言えるこの期間は、周囲の人間には厳重に口止めされ、警戒が強められている。
 各国の上層部、しかもごく一部しか知らないはずの秘密だが、それを竜の騎士の狂信者達が知っていることに、ラーハルトは驚かなかった。

 どんなに秘密にしようとしても、いつの間にか漏れる。どんなに固い約束も、口止めにも、絶対の効力の保証にはならない。
 人間とはそんなものだと、ラーハルトはそう理解していた。
 だからこそ、ラーハルトはリーダーの男が細かい日時を指定したのにも驚かなかった。


「お願いしたいのは、明日。
 大魔道士が祝福の儀を行う際、竜の騎士様を抑えていただきたいのです」

「よく調べているものだ」

 今度は心からの驚きを交えて、ラーハルトは言う。
 魔法が使えない期間、ポップは普通は世界会議以外はあまり外にでない。と言うより、身の安全を慮った周囲の意向により、外出を制限されるのだ。

 だが、今回の記念式典は特別だ。
 ベンガーナから是非にと請われ、各国の使者が寄せられるこの平和記念の式典を、パプニカ側も断ることはできなかった。

 本当なら、ポップの魔法が明日いっぱいは封じられたままな以上、旅行自体を避けたかった。
 だが、今回の儀式に魔法は必要ない上、ポップの警護には万全を期するとまで言われているのに、その誘いを蹴っては友好関係にひびが入る。

 それだけにパプニカ側は念を入れて、情報操作やら護衛に気を使っていたと聞いていたが、それはかなり穴があったようだ。

「お褒めいただいて光栄ですな。
 さて、このお話はご協力いただけますか?」

 物柔らかな誘いだが、周囲にピリピリとした緊張感が走る。
 それも、当然だろう。
 ここまで暗殺の計画を部外者に聞かせた以上、交渉決裂は有り得ない。暗殺計画を聞かせて断った相手を、そのまま「では、また機会に」と送り出すなど、考えられない。

 もし、ラーハルトが拒絶すれば、この場で戦いは始まるだろう。
 自分に迫る見えざる刃の存在を感じながら、ラーハルトはゆっくりと首を振った。

「……無理だな」

 その返答に、周囲の空気がサッと張り詰めるのに気付かないでもないだろうに、ラーハルトは拒絶したのと全く同じ口調で淡々と語る。

「儀式の場でのダイ様達の立ち位置は、すでにずいぶんと前から決められている。それを無理やり変えようなどとしたら、それだけでちょっとした騒動になる」

「それは存じていますが、我らはこの時が最適な狙い目かと考えております。
 大魔道士が魔法を封じられ、しかも人前にでる機会など、限られておりますからな」

 食い下がるリーダーの言葉を、ラーハルトはあっさりと否定した。

「いいや。狙うのなら、もっといい機会があると言っている。それよりも狙うのなら、後夜祭の方だろう。
 知っているか? あの魔法使いが、どんなに無茶で馬鹿な奴なのか」

 整いすぎて無表情に感じられる半魔族の顔に、皮肉めいた笑みが浮かぶ。

「あいつは馬鹿にも程があることに、魔法が使えなくなっても普段と対して変わらない行動を取る」

 そこまで言って、わずかに舌打ちするラーハルトの表情には、演技とは思えない苛立ちが宿っていた。

「そして、あいつは普段からこっそり城を抜け出して、息抜きをするのも珍しくはない。……本当に、馬鹿な奴だ」

 ラーハルトの言葉に、その場にいた者達は互いに顔を見合わせ、小声で囁き合う。それが、情報を確認するためだと分かっていたから、ラーハルトはそのさざめきが収まるのを待った。

 ポップがお忍び好きで、ちょくちょく城を抜け出してうろついているのは、限られた人間だけが知っている情報だ。
 だが、ここまでの情報網を持っている連中になら、きっとそれも伝わっているだろう。


 ラーハルトのその確信通り、彼らはその噂を耳にしていたらしく、それだけにラーハルトの情報を信憑性のあるものと見なしたらしい。
 全員の注目が集まるのを待ってから、ラーハルトは話を再開した。


「儀式が終わった後、あいつは一般人のふりをして後夜祭に紛れ込むつもりだと言っていた。これは、本人から直接聞いた話だから間違いがない」

 その言葉に、一同の間に小さなどよめきが上がる。
 それは、思いがけない幸運に恵まれた人間が、思わず上げる声に酷似していた。

「あの馬鹿は、そんな時はいつも護衛の目を盗んで撒こうとする。
 ――ならば、いつ狙うのが最適かは、明白だと思うが」

 突き放す様なラーハルトの言葉に、もはや一同は歓喜の表情を隠しもしなかった。最初の頃と比べても、ずっと友好的な態度でにこやかに礼を述べてくる。

「それはそれは……! 耳寄りな情報をありがとうございます、ラーハルト様。
 まさか、そこまでのご協力をいただけるとは、思いもしませんでしたよ」

 揉み手せんばかりに頭を下げる竜の騎士の信仰者達を前にして、ラーハルトは淡々と言葉を結んだ。

「後夜祭は、ダイ様は城から一歩もでないように説得しておく。
 ダイ様のことは、オレが責任を持って必ず引き止めよう」
                                    《続く》
 
 

中編に続く
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