『其は竜の神を崇める者達 ー後編ー』

 

 城から、マント姿の人影が出てきた時、彼らはすでに準備を終えていた。
 ほんの少し前、城に忍び込ませた侍女から大魔道士が城の裏門から出てくると合図を送られた時――いや、もっと前から、彼らは城周辺に潜んで機会を窺っていたのだから。

 大魔道士抹殺を目論む、暗殺者達。
 厳密に言うのであれば、彼らは本職の暗殺者とは言えない。普通の暗殺者が金銭のために殺しをするのに対し、彼らは信仰のために殺しを行うのだから。

 だが、彼らは全員が竜の騎士を信仰する者であり、現役の兵士か、そうでなくてもそれに継ぐ訓練を受けてきた者達だ。
 自分達の信仰の目的にそぐわない者を殺した経験も、一度や二度ではない。ゆえに、彼らはこれから行うべき凶行について、微塵の迷いもなかった。

 打ち合わせや目配せすら必要ない程、暗殺者達の意思は統一されていた。
 ここで彼らがやるべきことは、ただ一つ。
 不意打ちを仕掛けて大魔道士を拉致、無理な様ならばこの場で殺すこと。

 その後で祭りの騒ぎに紛れ、裏通りなどあまり目立たない、だが後になれば必ず見つかる様な場所に彼の死体をほうり出しておけばいい。
 祭りに誘われて夜遊びへと出かけた若い男が、喧嘩に巻き込まれて運悪く死亡してしまった……暗殺者達が描こうとしているシナリオは、それだった。

 祭りには喧嘩は付き物だし、若い男がそれに関わって怪我をするなど、少しも珍しいことではない。その際、打ち所が悪く死亡してしまう不幸な事故なども数年に一度の割合で発生する有り触れた事件だ。
 それが、今年はたまたま運悪く、大魔道士であっただけのこと。

 そのシナリオを成立させるために、今、町では竜の騎士を崇める者達が祭りのあちこちに紛れ込み、他人に絡んでは喧嘩を多数勃発させている。
 衛士や兵士にとっては、目が回る程忙しい夜となっているだろう。だが、翌朝の騒動は今夜の比にもなるまい。

 それを確信しながら、暗殺者達は同時に目的に襲いかかった。
 手順はすでに、打ち合わせ済みだ。一人が大魔道士の背後から襲いかかり、腕を取り押さえながら口元を塞ぐ。

 魔法が使えない今なら、いかに天下の大魔道士と言えどもただの青年にすぎない。やっと少年から青年になりかかったばかりの若い男など、十分に訓練を積んだ兵士にとっては赤子も同然だ。

 無力化させてこの場から連れ出し、適当なところで頭でも強く打って撲殺する。できるだけ手早く済ませることだけを考えて目標の腕を掴みかかった暗殺者は、目を見張った。 マントの男はまるで背後に目がついているかの様にスッとわずかに右に動いて暗殺者の腕を交わし、逆に掴み上げて捻り上げる。

 それも、単に捻られただけではなかった。
 関節をきっちりと狙い、相手に激痛を与える捻り方は、防御や護身術にしては的確で攻撃的すぎた。

「……っ」

 声になりきってない呻き声と、骨と骨が立てるゴギリと言う鈍い音が響く。肩を抑えながら暗殺者がその場に蹲ったのを見て、彼らは何が起こったのかをやっと悟った。
 不意打ちにかかるどころか、見事に反撃をしてきたその手並みにさすがに驚いた暗殺者達が、態勢を立て直す暇すらなかった。

 マントを翻しながら放った蹴りは、間近にいた暗殺者を一掃する。二人がその足払いに引っ掛かって態勢を崩したが、暗殺者達とて素人ではない。さすがに残りはサッと距離をあけ、全滅は避ける。

 その際、深くかぶっていたフードごとマントが外れ、目標の顔や姿が露になる。それを目の当たりにした途端、驚愕の声を上がる。

「貴様は……っ?!」

 闇の中でさえそれと分かる、不自然な肌の色と尖った耳。
 そもそも、長身で逞しい身体付きは目標だったはずの大魔道士とは似ても似つかない。なにより、それは見知った顔だった。

 かつての魔王軍竜騎集が一人、そして現在はカール王国の食客として遇されている、魔槍戦士ラーハルト。

「……遅いな!」

 ニヤリと笑う表情が、残像となって消える。
 神速とさえ呼べるスピードで動くラーハルトを目で追える者は、この場には一人もいなかった――。

 

 

(やったのかしら?)

 城の廊下の窓にはりついたままで、侍女は外の暗がりを気にしていた。この位置からや暗さではまったく外を見ることはできないと分かっていたが、気になって離れられなかったのだ。

 大魔道士の死が確定したのなら、それはすぐに伝令役の仲間に伝えられるはずだ。
 町中に散った仲間達への合図として、特別な花火が打ち上げられる手筈がついている。 それを待ち望んで胸をときめかせている侍女の背後から、穏やかな声がかけられた。

「残念ですがね、お嬢さんの待ち望んでいる花火は上がることはありませんよ。――永遠にね」

 ハッとして振り向いた侍女の真後ろには、眼鏡を掛けた男がいた。
 かつて世界を救った大勇者であり、現在のカール王、アバン。
 王族つきの侍女が、その顔を知らないはずがない。そして、彼の後ろにいるまだ少女の顔と名前も知っている。

 勇者一行の一員である、拳聖女マァム。いや、今は女騎士マァムと言うべきか。だが、マァムの姿よりも、罪人の様にマァムに腕を取られ、俯いている貴婦人の方の姿の方が侍女には衝撃だった。

 取り押さえられる時に抵抗したのか胸元が乱れ、竜の騎士の紋章を模した入れ墨がかすかに見えている。

「く…っ、竜の神に、栄光あれ……っ!」

 計画の失敗を悟った途端、侍女は懐に隠し持っていた毒薬をとりだし口に含もうとした。だが、アバンはそれを許さなかった。

「おっと、おやめなさい。若い身空で、何も命を粗末にすることはないでしょう。それに、あなた達に聞きたいことは山ほどあるんですから。
 それに今更無駄なことです」

 アバンのその言葉の意味を、問うまでもなかった。

「アバン先生、今、ヒュンケルから連絡がありましたわ。町で乱闘を起こしている者の中から、例の入れ墨が発見された者はただちに城へ搬送するそうです」

 そう言いながらこちらにやってきた気品溢れる少女は、パプニカ王女レオナだ。

「で、マァム、その女性を牢に入れてからでいいから、こっちも手伝ってくれる?
 メルルが今、占いで例の入れ墨の持ち主を捜しているの。城の中にもまだ何人かいるみたいだから、抑えたいのよ。
 この際だから、こんな物騒な連中にはまとめてきつ〜いお仕置をしないとね」

 見惚れる程の美貌の割に、苛烈なことを言ってのけるレオナ姫に、アバンも笑顔のまま頷いた。

「全くですね。ここは一つ、手加減抜きで徹底的にやらせてもらいましょうか」

 その言葉を聞きながら、侍女も貴婦人も力が抜けた様にその場に座り込む。今になってから、彼女達は自分達の愚を悟った。
 自分達が、アバンの使徒達をそろって敵に回してしまったことを。手を出してはいけない人間に手を出してしまった愚かさを、彼女達はしみじみと思い知らされた――。

 

 

「おとなしくしていろ。今頃、おまえ達の仲間も抑えられている頃だ」

 ラーハルトがそう言うまで、数分とは掛からなかった。敵に武器を抜かせるどころか、自分自身ですら武器を使いさえもしない、早業だった。

 潜んでいた暗殺者達を全員叩きのめし、抵抗できない様に縛り上げるなど彼には簡単過ぎる作業だった。
 無様に地べたに転がされた暗殺者達は、悔しげに顔を歪めて叫ぶ。

「貴様……っ、よくも裏切ったな!」

 怒りを込めた恫喝に、ラーハルトは眉一つ動かさなかった。

「裏切ったなどと言われるとは、心外だな。第一、オレは一言もおまえらに賛成したなどと、言った覚えはない」

 飄々としていると言ってもいい口調でそう言ったラーハルトに対して、暗殺者達は怒りを隠せない。
 これが本職の暗殺者ならば、そうではなかっただろう。

 仕事は仕事と割り切り、失敗した場合は沈黙を通すのが暗殺者のやり方だ。だが、彼らはあくまで本職の暗殺者ではなく、竜の騎士を崇める者達だ。
 自殺も封じられた屈辱に耐え兼ねたのか、ラーハルトを糾弾し続ける。

「だが、我らの話に興味深いと乗ってきたのはおまえではないか!」

「そうだ! あれは嘘だったのか?!」

 怒りに任せて吠える暗殺者達を、ラーハルトは歯牙にもかけなかった。
 それどころか、ふてぶてしくも笑う。

「ああ、興味深い話だったさ。
 あの魔法使いを殺そうとなど企む輩を一掃できる、いいチャンスだったからな。
 それに、嘘などついていない。パーティでも儀式の場でもあの魔法使いを見る度に、苛つかされている。
 ましてや、お忍びで町中へ遊びに行く時など、尚更だ」

 そこまで言ってから、初めてラーハルトの顔が感情を見せた。
 苛立ちに眉を潜め、不満を露にした表情で、ラーハルトは吐き捨てる。

「あんなに無防備に人前にのこのこ現れて、もし万一のことがあったらどうする気なのかと、いつも気を揉まされる。
 まったく、厄介な奴だ」

 今まで、全く感情を見せなかった男の苛立ちや悪態は、不快さよりも彼が隠し持っていた人間味を引き出したようにみえた。
 悪し様に文句を言っている様でいて、その口調にはどこか親しみを感じさせるものだ。 気のおけない仲の友人だからこそ、気安く文句を言う雰囲気がある。

 それを見て、暗殺者達は自分達の――いや、ラーハルトを仲間に引き入れようと考えた者達の愚を悟った。
 そもそも、この男を自分達と同列と考えたのが間違いだったのだ、と――。

 

 

(全く、こんな奴等と一緒にされるとは心外にも程がある)

 口には出さず、だが侮蔑を込めてラーハルトは竜の騎士を崇める者達を見下ろしていた。 確かにラーハルトもまた、竜の騎士を崇めていると言えるかもしれない。ダイのためになるのなら、そしてダイが望むのであれば、命を捧げても構わないと思っている。

 だが、それは彼らのような我欲を伴った信仰などでは、断じてない。
 ダイをこの上なく悲しませるようなことは排除するのが、部下の勤めと心得ている。それに――部下としての心構えだけではなく、ラーハルトにはもう一つポップを助けたいと思う理由があった。

 人間にほとんど無関心で、どうでもいいと思っているラーハルトにだって、例外と思える人間ぐらいはいる。
 死んでほしくない……もっと言うのなら、彼が危険な目に遭うと分かっていて、見過ごすことなどできない。

 彼を殺そうとする相手に対して腹を立て、黙って放置できないぐらいには、ラーハルトはポップが気に入っている。

 だからこそラーハルトはアバンに予め相談して、今後の憂いを断つことにしたのだ。自分らしくもなくムキになっていると思ったが、まあ、たまにはそれもいいだろうとラーハルトは言い訳する様にそう考えた。

「くそ……っ、あの大魔道士はどこにいったんだ……?!」

 まだ悔しさが収まらないのか、そう呟く暗殺者に応えてやる義理などなかったが、ラーハルトはなんとなく視線を城門の中へと向ける。

 暗さと距離のせいでよくは見えないが、この裏庭の先に城からでるための扉があるのは、知っていた。
 城門からでは見えない扉の方向を見やりながら、ラーハルトは呟く。

「あの魔法使いなら、今頃は世界で一番安全な場所にいるさ」

 

 

「……ん……っ」

 少し、苦しそうな声がポップの喉から漏れる。だが、ポップを抱きしめている腕は、彼を手放すどころかますますしっかりと抱きしめてくる。
 吐息やかすかに漏れる声すらも奪おうとするように、ポップの口内を熱く、柔らかい感触が侵食していく。

 乱暴ではないが、どこかがっついているように、熱心に上顎や歯列をなぞっていく下の動きに、口内を犯されているようでゾクゾクする。
 ポップは、こんな風にキスをされるのは嫌いじゃない。

 嫌いというわけではないが、少しばかり苦手だとは思っている。理由は簡単――感じてしまうからだ。
 相手の熱に煽られる様に、ポップの中に眠っていた熱も高められていく。それをもっと導こうとするかの様に、腰に回されていた手がまさぐる様に動きだすのを感じる。

 そこまでは黙ってされるがままにされていたポップだが、その手がボタンを外しだしたのに気づいて、さすがに抗議した。

「こら…っ、何、脱がそうとしてんだよ?」

 キスをいったんやめさせるため、ポップは相手――ダイのほっぺたを掴んで引っ張る。昔に比べれば成長して皮膚が堅くなったのか、ちょっとやりにくいのが悔しいが。

「ひ、ひはいよ、ぽっふ〜。手ェ、ははして〜」

 とても勇者とは思えない口調で情けないことを言うダイに気を良くして、ポップは一応は手を放してやる。
 だが、ダイはいっこうにポップを手放す気はない様だ。

 ダイの部屋の、ダイの腕の中。
 ポップは一番安心できる上に、世界一安全な場所にいた。
 最も、それをそのまま言うような素直さなど持ち合わせないポップは、膨れっ面を崩さない。

 大体、ポップ的にはこの展開は不本意だ。
 こっそりと城を抜け出すのは、ポップの楽しみの一つだ。
 今でこそ英雄の一人としてVIP扱いされているものの、所詮ポップは庶民出身だ。畏まった儀式やパーティなどよりも、大勢の人が集う祭りの光景の方に心引かれる。

 珍しい出店を冷やかしたり、屋台の料理に舌鼓を打ったりと、そんな風に気楽に過ごすのを楽しみにしていたのだ。
 なのにそれをダイに邪魔されて、ポップは少なからず不機嫌だった。

「だったら、おまえだって手を放せよ。
 ったく、先回りするなんて趣味が悪いぜ」

 城の裏口から一歩出た瞬間、ポップはいきなり誰かに掴まえられた。おかげで城門に辿り着くどころか、裏庭さえ抜けることはできなかった。
 あの時は驚いたが、ポップを抱いたまま空に飛び上がった相手が誰か、すぐに分かったから別に怖いとは思わなかった。

 他人を抱え上げたまま飛翔呪文を使える人間なんてそうはいないし、なにより抱き締められた感触で、相手がダイだと分かった。

 だから抵抗もせずじっとしていたのだが、そのまま部屋に連れ戻されるとは思わなかった。
 しかし、ダイはダイはポップを見つめて、わずかに拗ねる様な声を出す。

「でも、ポップだって嘘つきじゃないか。ひどいや、おれをおいてっちゃおうとするなんて」

 置いてきぼりにされた子犬のような目でそう言われると、ポップも弱い。
 だから、ポップは譲歩して説得することにした。

「あー、置き去りにしようとしたのは悪かったって。謝る、悪ィ。
 コレ……だって、後でならちゃんと付き合ってやっから、先に一緒に町に行こうぜ、ダイ」

 そう言った一瞬、ダイはパッと目を輝かせた。
 この餌になら、ダイは必ず食いつくだろうと予想していた通りだ。ダイだって祭りは楽しみにしていたのだし、寝るのだって後でと保証したのなら互いに安心して遊べるはずだ。
 ダイにとっては申し分のない好条件の誘いだったが、彼はちょっと考え込むように首を傾げてから、ぶんぶんと首を横に振る。

「ううん、ここにいようよ、ポップ」

 そう言ったかと思うとポップの足下に屈み込んで、靴を脱がせにかかった。

「は? なにしてんだよ?」

 これがまだ、さっきの流れのままに服を脱がされるのならポップも、それほど戸惑わなかっただろう。
 なんと言っても、ダイは元気の有り余った思春期まっさかりの年齢だ、一度そんな方向に持ち上がったら最後までやりたいと思うのは頷ける。

 だが、それならなんで靴を脱がせたいだなんて思うのか。
 戸惑い過ぎて思わず無抵抗になったポップの足をがっちりと掴んだダイは、得意そうに言い切った。

「だって、クツを脱いだら外に行けないよね」

「はぁあ?」

 さらに意外な返事に、ポップがきょとんとしている間に、ダイはポップをヒョイとお姫さま抱っこの形で持ち上げ、ベッドの上に下ろした。
 そして、跪いてブーツを脱がせにかかる。

 普段の服を脱がせる手順とは全く違うその行動に戸惑いながらも、ポップはジタバタと足をばたつかせて抵抗した。

「だから、靴を脱がせるなよっ。
 つーか、なんでいきなり靴なんだよっ?!
おまえ、いつからそーゆー変態趣味になったっ?!」

「え? なんでクツ脱がせるのが、ヘンタイなの?」

 手早くクツを奪い去り、ぽーんと部屋の向こうに放り投げながら、ダイは不思議そうに聞く。
 本気で理由が分からないとばかりに尋ねてくるダイときたら、いまだにどうにも子供っぽい。

 そのくせ、暴れるポップを押さえ付けて、乱暴にしない様に衣服をはぎ取るコツだけは飲み込んだ大人びた手際の良さが腹立たしいが。
 靴を真っ先に奪って安心したのか、今度は上着を脱がせにかかるダイに、ポップはなんとか身を守ろうとする。

「だ…っ、だから、脱がせるなっての! だいたいおめえだって楽しみにしていたくせに、なんだって急に城にいようだなんて言い出したんだよ?!」

「さあ?」

「『さあ』ってのはなんなんだよ、『さあ』ってのは?! って、ズボンは下ろすなーっ?!」
 

 ポップとしては目一杯気を配っているつもりだが、ちょっとした会話の間もダイはせっせと手を動かしては、スルスルとポップの服を剥いでいく。

「だって、ラーハルトに言われたんだもん」

「あいつがぁ? なんだよ、ヒュンケルじゃあるまいし、なんだってあいつが急にそんなのに口だししてくんだよ?」
 

 パプニカ王国の近衛兵隊長であり、城の警護責任者であるヒュンケルが、ポップのお忍び癖に文句を言うのは珍しくないし、実際に何度も邪魔をされたこともある。

 だが、ラーハルトは別にパプニカに勤めているわけでもなし、そもそもポップを守らなければならない義務があるわけでもない。
 ポップには訳が分からなかったが、ダイもそれは同様らしい。

「さあ? よく分からないや」

 そう言いながら、ダイはむき出しになったポップの首筋に唇を当てる。その感触に思わずポップが動きを止めた隙に、下着に手をかけられてしまった――。

 

 

(そういや、どうしてなんだろ?)

 正直、ダイにしてみれば理由は良く分からない。
 ただ、ラーハルトから、今夜だけは絶対に城から出ない様にと言われた後、ポップも外には出さないようにと忠告されただけなのだから。

 無口なラーハルトは、聞かれもしないのにいちいちと細かい説明をする男ではない。それでも生涯の主君と心に定めたダイに命じられたのならば、彼は命令に従って説明をしてくれただろう。

 だが、それが分かっているからこそ、ダイはあえてラーハルトには命令しなかった。
 ラーハルトが説明しないということは、言わない方がいいと彼が判断したということだ。 自分よりも年上でバランと長く接していたラーハルトを、部下というよりも兄のように思っているダイにしてみれば、彼の判断は尊重できる。

 理由など聞かなくても、従うのに文句はなかった。
 彼がわざわざ忠告するからには、きっと、なにか意味のあることなのだろうから。それに、別にダイとしては理由が分からなくても少しも構わなかった。

 というか、もうそんなことはどうでもいい。
 ダイの目の前には、下着一枚しか身に付けていないポップがいるのだから。
 最初はポップがどこにもいかない様にと、ただそれだけのつもりで服を脱がせたにすぎないが、今となっては別の趣旨が生まれてしまった。

 ポップの下着に手をかけながら、ダイは細い足の間に膝を割り入れる様にして、直接刺激を与える。

「……やっ、な、なにする気だよっ?!」

 途端に足を閉じようとするポップが可愛くて、ダイは笑ってもう一度首筋を狙ってキスをした。

「分かってるくせに」

 耳にすぐ側で囁くと、ポップがびくりと身を震わせるのが分かる。彼の耳元や首筋が敏感で、どこに触れれば一番反応するのか知り抜いているダイは、何度も首の辺りに唇を当てながら、ポップの下半身に刺激を送り込む。

 膝でちょっと悪戯するだけで済ませる気なんて、最初からない。
 ついでに手も伸ばして、布地の上からゆっくりとその膨らみを揉みしだき、敏感な茎を成長させていく。

「や……っ、やめ…っ、ダイ……っ」

 ポップの声がうわずりだす頃には、すでにそこは力を得て立ち上がり始めていた。特に敏感な先端の部分をいじると、布越しとはいえ切っ先が震え、ポップが甘い声を放つ。

「ポップ、ここんとこ……なんだか湿っぽくなってきたよ? 脱がないと、これ、濡れちゃうんじゃないかなぁ?」

 そう言いながら顔を下着へと近付けると、ポップはただでさえ上気させていた顔を真っ赤にさせる。

「み、見るな、よぉ……こんなの、や…だ……」

 ポップ自身はそう言うが、いやいやと首を振りながら恥ずかしがるポップが可愛くて、とても目を離せない。
 しっかりと目を見開きながら、それでもダイは下着の前の部分をいじるのをやめてあげた。

「なら、濡れないように脱がせてあげるから、腰を浮かせて?」

「う……っ」

 一瞬、悔しそうに顔をしかめたものの、下着の中に放出してしまうよりはその方がましと思ったのだろう。ポップはおとなしく、腰をわずかに浮かせる。
 だが、身体に力が入らず、うまく上がらないらしい。

「そんなんじゃ、脱がせられないよ、ポップ。もう少し、あげられる? 枕を入れてあげるからさ」

 手伝うふりをして、ダイはポップの腰の下に枕を入れ込んだ。それで完全に腰が浮いたものの、恥ずかしさに耐え兼ねたのか、ポップはギュッと目を固く閉じてしまった。
 ずいぶんと高く腰を浮かせたその姿勢が、いかにもどうにでもしてくれと言わんばかりで、ダイの下半身にまでズキンと響く。

「じゃ……脱がせる、よ?」

 ごくりと生唾を飲み込み、ダイはそろそろと下着を下ろしていく。滑らかな肌とほぼ同じ色合いの分身は、ポップ本人と同様に細くて、一応青年のはずなのにどこか子供っぽい印象がある。

 すでに透明な蜜に塗れたその部分は、ダイの目にはいかにも美味しそうで、魅力的に見える。

 茎から滴り始めた先走りの蜜は、会陰の方までも流れ始めていた。その下の、秘められた部分までもが見える今のポップの姿は、どう見ても据膳を差し出してくれている様にしか見えない。
 我慢できず、ダイはそのままポップにむしゃぶりついていた。

「あ……っ?! ぁっ、ああっ、やぁっ?! ど、どこ舐めてんだよっ?! やめ……ひっ……っ」

 腰にはめ込んだ枕のおかげで、もがこうとする足を掴んで持ち上げれば、まさに絶好の姿勢だった。
 普段は汚いからとか恥ずかしいからとか言ってなかなかさせてくれないが、ダイはポップの後孔を舌で責めるのも好きだ。

 指で責めるよりもずっと反応がいいし、早くほぐれる気がする。滴る蜜と自分の唾液を塗り込める様に、ダイは丁寧にほぐしていく。

 抵抗するポップの声が間遠になり、喘ぎ声しかでなくなり、狭い孔がうねるように動きだし、濡れた水音を立てる様になるまで準備を進めてから、ダイはおもむろに自分の服を脱ぎにかかる。
 だが、とても全部を脱ぐ余裕なんてない。

「ふぁ……あ……ぁあっ……、も…、もう……っ」

「ポップ、そろそろ苦しいよね? 一緒にいこうよ」

 そう囁きながらズボンごと下着だけをずりおとすと、ダイは性急にポップの上に覆いかぶさった――。

 

 

 窓の外では、花火が上がりだしていた。
 花火特有の音がする度に、空にパッと花火が上がって大輪の花を咲かせる。
 それを眺めやりながら、ポップはなんだか不機嫌そうだった。

「なー、ダイ。いい加減、服返せっつーの!」

 ちょっとむくれたようにそう言うポップは、まだ裸のままだった。
 だが、シーツにしっかりとくるまっているから、全裸と言うわけではない。むしろ、肌を見せないようにときっちりとシーツを巻きつけているせいで、普段よりも露出が減っている。

(全く、ポップってホントに恥ずかしがりやだよなぁ)

 何度も肌を合わせているのに、ポップは未だに裸をダイにみせるのを嫌がる。それに、ついさっきまではあんなに乱れて、可愛い声を出していたのに、終わってしまえばポップはいつもこうだ。

 ちょっと残念なぐらいあっさりと、いつものポップに戻ってしまう。
 だが、それはそれでいいとダイは思う。結局、ポップがポップならダイはそれでいいのだ。

「ダメだよ、ポップ。だって、服を渡したら、町に遊びにいくつもりだろ?」

 ポップの隣でベッドに寝転んでいるダイもまた、裸だ。
 途中で暑くなった時に、上着もついでに脱いでしまった。が、ダイの方は別に裸は恥ずかしいと思わないし、そのままだ。

「もう終わったんだし、いいだろ、そんぐらい。せっかくの祭りなのに全然外に出れねえなんて、つまんないじゃねえかよー」

 普段のダイなら、ポップにこんな風にねだられたらなんでも許してしまうだろう。だが、一度交わした約束は守ろうとする律義さが、ダイにはある。
 それに、ダイにしてみればつまらないとは全然思わない。

「祭りに行けなくても、おれはポップと一緒にいられれば、それでいいけど?」

 どこに行くかよりも、その方がダイにとってはよっぽど大切なことだった。
 ポップと一緒に居れるのなら、そこがどこだろうと構いはしない。
 なぜか顔を赤くしたポップにキスをしながら、ダイは彼の耳元に囁いた。

「遊びに行くよりも、もっと楽しいことをしようよ、ポップ。外になんか行きたくなくなるぐらい、さ」

「に、二回戦めかよっ?!」

「いや? ポップが許してくれるなら、おれ、二回どころか三回でも、ううん、何回でもできちゃうんだけど」

 熱っぽい視線でそう訴えながら身をすり寄せてくるダイを前にして、ポップはわずかに身震いした――。

 

 

(……そりゃ、どっちにしろ外になんか行きたくなくなるだろうけどよ〜)

 少なからぬためらいを感じながら、ポップは躊躇する。
 ポップにしてみれば、ダイと寝る時は一回だけでも十分だ。それだけで十分おなかいっぱいだと思うし、もっと欲しいと思う時などほとんどない。

 本気のダイに抱かれたら、ポップにとっては結構なダメージになる。なんというか……相当に腰にくるのだ。

 立て続けに絶頂にいかされまくったりした日には、腰が抜けてしまいかねない。翌朝、立てなくなって半日ぐらいベッドで寝っぱなしなんて珍しくもない。
 なのに、ダイの方はいつだって元気いっぱいで、もっともっととねだってくる。

「寒い? なら、おれが暖めてあげる」

 そう言いながら、ダイはポップを抱き締めてくる。その口調といい、まるで女の子をかばいながら抱きしめるしぐさといい、堂に入った態度なのがポップにはちょっとむかつく点だ。

(……どこでそんな言葉を覚えた、この天然タラしめ!)

 そう思ったものの、口に出してまで文句を言う気にならなかったのは――悪い気はしないせいだ。
 むしろ、なんとなく嬉しいような気がしてしまう点で、自分は終わっているとポップは思う。

(くそっ、ダイのくせに……! 昔はおれよりずーっとチビで、ぱふぱふも知らないお子様だったのによ!)

 文句ばかり浮かぶものの、本気で腹が立っているわけじゃない。
 抱き締められていることに対しても、そうだ。

 朝晩こそは多少の肌寒さを感じるようになったとはいえ、ポップはちゃんとシーツにくるまっているんだし、肌を寄せ合ってまで暖を取らなければならないほどは寒くはない。――だが、ポップはダイの手を振り払いはしなかった。

「……言っとくけどな、手加減はしろよ」

 きっちりと身を包んでいたシーツから手を放し、ポップもまたダイを抱き締め返し、今度は自分からキスをしかけた――。
                                     END



《後書き》
 222222hit 記念リクエスト、「『勇者』または『竜の騎士』の狂信的な崇拝者がポップを排除しようと企み、計画にラーハルトを引き込もうとするが、実はポップをかなり認めているラーハルトにザックリと拒否られた挙句、アバンにチクられ、結果、使徒全員に話が伝わりそれぞれからフルボッコ。ただしポップの耳には一切伝わらず、ダイとのラブラブ生活を堪能中」でしたっ♪

 最初、これは前後編の予定でした。実際、途中までそのつもりで書いていたんですが、はたと気がつきました。
 前後編だと、ダイとポップのベッドシーンが朝チュンレベルで終わってしまう、と。

 せっかくめったにないR18ご指定なキリリクがきたというのに、うっふんシーンを省略していいものか、いや絶対によくない! よろしい訳がない、ラーハルトの活躍シーンを削ってでも(<-マテ)いちゃラブシーンだけは確保したい!

 つーか、ダイにポップの服を脱ぎ脱ぎさせたい!(<-どこから生まれた、この野望)
 と、言う訳で、急遽三部作になりました(笑)

 

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