『猫と遊ぼう 5』 |
「ねえ、ポップ、オレの猫になる決心はついた?」 ひどく楽しげなその声は、無邪気な子供らしさに満ちていた。声変わりをしても尚、色濃く残る少年っぽさがその声にはあった。 「……ぁっ、っぁあ、……や…っ、はぁ……ひいいっ!?」 幾度も出し入れされる球の連なりが、幾度となくポップの体内で最も敏感な部分を嬲る。 体内に存在するその小さな部位のことは、おそらくほとんどの人間は知らないままで終わるだろう。女性にはそもそも存在すらしない部位だし、また男性であっても普通に過ごすのならば、一生触れることすらない。 しかし、特殊な性癖を持つ男性にとってだけは、その部位は大きな意味を持つ。 不本意ながら今までに何度となくダイにその場所を触れられたポップは、言ってしまえばすっかりと『開発』されてしまっている。最初は嫌でたまらなかったはずが、いつしか、そこは自慰以上の快感をもたらす場所へと取って代わった。 指でそっと触れられるだけでも、全身を震わせるような快感を迸らせるしこりを、器物で連続的に蹂躙される感覚に気が狂いそうになる。 それは、指とは天と地ほども違った。 ポップの主観ではゴリゴリとものすごく固く、とてつもなく大きな物が容赦なく体内を抉っているとしか思えなかった。それが激痛を伴うものならば、まだしも救われたかもしれない。 だが、ポップに埋め込まれる球の連なりは、決してポップに痛みを与えなかった。 確かにその太さで息が詰まりそうな圧迫感を与え、柔い人体の粘膜を引き裂くのではないかと言う恐れをもたらす。しかし、尖った部分などない球形の物体は、ポップを肉体的に傷つけることはない。 結果、ポップを苛むのは、痛み以上にタチの悪い甘美な地獄だった。 連続して与えられる絶頂に、とっくに身体は音を上げていた。呼吸が追いつかなくて息苦しさに目眩すら感じているのに、それでも快感は止まってくれない。 脳髄までも痺れさせんばかりの快感に、ポップはもはや拒否の意思を示すことすらままならない。ひくひくと痙攣しながら、言葉すら発することもできず、喘ぎ続けるしかない。 しかし、ダイの責めが休まることはない。ポップの後孔をいじり回すだけでは飽き足らないとばかりに、前の方にも手を這わせる。途端に、ポップは身をのけぞらせる。 「…やぁ……っ、や……、も…、で……、なぁい……っ」 あれから、何度イカされたか。 二回、三回と数を重ねると、そんなことすら気にしていられなくなる。残り少なくなったものを無理矢理絞り出されるような感覚に、ポップは恐怖すら感じていた。 「えー、そうかなぁ? ポップのココって、まだまだ元気って感じだけど。だって、オレが触る度にビクビクッてしてさ、すっごく濡れているもの。あはっ、まるでお漏らししちゃったみたいだね」 そんなことを言いながら、ダイは敏感な先端部分を狙って、ぐりぐりと指を押しつける。 「や……っ!?」 自分でも意識すらしないごく小さな孔を、まるでこじ開けるのような刺激は鮮烈だった。じわっと、先端から熱い液体が漏れるのが自分でも分かる。 だが、それは射精とはほど遠い。 「あ、今、イッたのかな? うーん、もうすっかり色がなくなっちゃって、よく分かんないや。精液っていうより、愛液みたいだね、ポップ」 言葉だけではなく、音でもポップに思い知らせようとするかのように、ダイはやたらとぬちゃぬちゃと音を立てて、ポップの茎をいじり回す。 「も……っ、らっめ……ぇっ」 呼吸が苦しい。あまりの快感に、目の前がチカチカと激しく点滅する。いっそ、このまま意識を失いたいと何度も思った。だが、悪辣な球の連なりは、ポップにとてつもない快楽を与えながら天国と地獄を行き来させる。 「ねえ、休ませて欲しい? なら『にゃー』って、可愛く鳴いてよ。素直に鳴くなら、休ませてあげるからさぁ」 耳を舐めながら囁かれ、同時に球に攻められる。 「……っ、や、ぁ……っ、あっ――に、にゃああぁあー!」 「――!?」 その瞬間、刺激が止まった。 それをしばらく繰り返してから、ポップはやっと、安堵したように大きく息をついた。 (…………ああ……、きもち、い、い……) 火照った身体を受け止めてくれた柔らかなベッドが、途方もなく気持ちが良かった。それに、自分の体液で濡れまくった肌を、さらっとしたシーツが吸い取ってくれるのも心地よい。 訳が分からなくなるまで高められた熱は、まだ身体にくすぶっているとは言え、それを解放する以上にこのまま横になっていたいと思う。 「ポップ? ポップ、起きてよ。起きてったら」 少し焦ったようなその呼びかけに、ポップはしぶしぶ目を開ける。 (なんだよ、るっせえなぁ……寝かせろよ、ダイ) そう言いかけたのは、少し焦ったその声が、いつものダイそっくりに聞こえたからだ。 だが、目を開けてみると、紅い目をしたダイがそこにいた。 だからだろうか。 「……にゃー」 「えっ?」 ひどく、驚いたような顔をするのがおかしかった。 ポップにしてみれば、そんなのは屈辱以外の何物でもない。たとえ、相手が本物のダイだったとしても、そんな一方的な要求など飲むのはまっぴらごめんだった。 でも、今日の要求は違う。 これまでと違って、今度はポップの方が相手の不意をつけたような気がする。それが何やら嬉しくて、ポップは意識せずに笑う。そして、引き込まれるだるさに耐えかねてそのまま目を閉じた。 「え、えーと、ポップ?」 なのに、妙に焦ったような声で呼びかけながら、ダイの手がポップを再び揺さぶろうとする。 (るっせえなあ、ねみいのに!) 「みゃあっ!」 内心の苛立ちのまま鳴き、ポップは軽く手を振り回す。目を瞑って、猫を模した手袋をはめたままでは、相手を押しのける効果など期待できないが、正直、今はそれさえどうでもよかった。 「いや、って言われても。だいたい、このままじゃポップだって辛いんじゃないの?」 目を閉じて聞くその声は、当然ながらダイのものに間違いなかった。闇の中でも光るあの紅い目も、目を閉じた闇の中では見ることはない。 刺激を与えようとしているのか、誰かの手がポップの下腹部に触れるのが分かる。まだ大人になりきっていないから小さめで、そのくせ県の稽古を欠かさないせいでゴツゴツとした手――それがダイのものだと分かりきっているからこそ、ポップは警戒しなかった。 その手で触れられることに、あまりに慣れていたから。 なにより、今は気怠さと眠気が強い。 むしろ本能に従って、ポップはわずかに身をその手に擦りつける。たったそれだけの仕草でも、張り詰めきった彼の雄茎が震える。あまりの心地よさに、我知らず声が漏れた。 「にゃぁ……」 敏感になるだけ敏感になったそこを、思いっきりこすり立てればどんなに気持ちがいいだろう。 だが、同時に動くのがかったるすぎて目を開けることすら面倒だった。まして、局部にこれ以上刺激を与えるような気力も元気も無い。しかし、それでいて、刺激は欲しい。 相反する葛藤を、ポップは自力で解決しようとさえ思わなかった。面倒事を押しつけるように、軽く身体をその手に擦りつける。 「ポ、ポップ……!?」 少し、慌てたようなダイの声。引きかけた手を引き留めるように、ポップは鳴く。 「にゃああ!」 明確な不満を込めて。さっさとやれ、と言わんばかりに。 「どう? 気持ちいい、ポップ? 良かったら、にゃーって鳴いて」 「にゃあ〜」 もう、鳴くことに抵抗感などなかった。 (気持ちいいから、もっと……) 「にゃにゃにゃ、にゃー……」 本来なら、絶対に口にしたいとは思えない恥ずかしい言葉。それを実際に口にするのは、自分の中にある何かをねじ伏せるだけの覚悟が必要だった。 しかし、猫の鳴き真似という適当さが、ポップからその覚悟や気構えを奪っていく。本物の猫に似せる気すら無い、適当な鳴き声を羅列するのは、口笛を吹くのにも似た気楽さがあった。 「……気持ちがいいんだね、ポップ」 「にゃー!」 当たり前のことを何度も聞くより、さっさとイカせろとばかりの意味合いを込めて、ポップは鳴く。会話にすらなっていないそんなやり取りでも、ダイは的確にポップの本心を読み取っていた。 「ああ、そうだね、イキたいんだね。うん、イカせてあげるよ。約束したもんね」 そう言いながら、ダイは片手をポップのお尻……埋め込まれた人工的な尻尾の付け根に這わせる。その部分をくいくいといじられると、全身に甘い疼きが広がった。 「ふ……にゃぁああああんっ」 今までで一番、甲高い声が喉を突いて出る。 「あ、ビックリしちゃったかな? でも、大丈夫だよ、ポップ、そのまま身体の力を抜いていて……もっと、もっと気持ちよくしてあげるから……」 ダイの囁きに、従ったわけでは無かった。 それなのに、感度だけはいつも以上に張り巡らされていて、普段だったら気づきもしないような箇所が異常なまでに敏感になっている。 「にゃ……っ、にゃぁあんっ」 本来なら入るべき場所ではない孔を、ダイの指がやわやわと揉む。その動きで否応もなく、内部に入り込んだ球の形を意識させられる。その球の動きは、目の前で行われているかのように鮮明に分かった。 完全に体内に潜り込んでいる球が、尻尾ごと引っ張られることによってぐぐぅと大きくなる。いや、実際に大きさが変わっているのではなく、引き出されることにより球の直径の大きさを実感しているだけの話だ。 内部にあれほどのものが埋め込まれているだなんて嘘のようにすぼまった蕾が、じわじわと広げられるのが分かる。 慣らされている過程では異物感を強く覚え、それ以上に屈辱感に打ちのめされたその行為は、張り詰めた意志という障壁が取り除かれた今、ひどく甘美だった。 身体に全く力が入らないのが逆に幸いして、抵抗なく球の動きを受け入れられる。 さすがに球の最大直径部分が取り出される時は、ギリギリまで広げられた孔の周辺がチリチリとし、薄皮一枚をくすぐられているようなおちつかなさを味わったが、それを過ぎれば天国だった。 「にゃ……っ」 じわじわと体内を広げる動きから、一気に排出される動きへと変わる。内部の物を外へ出すという人体の正しい使い方に反応して、心地よい排泄感があった。 他人の手で強制されたという認識さえ持たなければ、それもまた、立派な快感の一つだ。それに、たった一つでも体内を占領していた異物が無くなったという開放感も、大きかった。 「にゃあぁー」 もっと、今の快感を与えてくれと、ポップは鳴く。 それを指一本動かさないまま成し遂げるため、ポップはダイに動けと催促する。 「……しょうがないなあ、ポップは」 苦笑混じりに、ダイは望み通りの物をポップにくれた。次々に球が出て行く感覚に、ポップは何度となく鳴く。 「にゃっ、にゃ、にゃ、にゃあっ」 声を抑えなくてもいいのも、快感だった。 尻尾ごと、最後の球を引き抜かれた瞬間、ポップはダイの手のひらの中に己の欲を吐き出していた。 「……にゃ……あ〜……」 圧倒的な満足感と、心地よい疲れにも、ポップは抗わなかった。 「ポップ?」 紅い目のダイの呼びかけに、ポップは答えない。すでに寝入ってしまったのは、一目で分かった。だが、そんな状態にも拘わらず、ポップはまるでダイに応じるように、軽く身体をすり寄せてくる。 しっとりと湿った肌の温かさに欲情を煽られてから、ダイは声を立てずに笑った。 「……本当にずるいなあ、ポップは」 何度も達して満足しきったポップとは正反対に、ダイの下腹部が痛いほど立ち上がり、刺激を求めている。だが、今のポップがそれに応じてはくれないだろう。 まるっきり無防備な上、身体の準備は完全に整っているのだからこのまま挑みかかるのも悪くは無いな、と思いはした。しかし、そう思いながらも、ダイは自らの欲望を果たすためにではなく、ただ、優しくポップの髪を撫でる。 強情な癖っ毛の割にはポップの髪は意外なぐらいしなやかで、さわり心地がいい。 (ホントの猫みたいだよね) ひどく強情で。こっちが抱こうとすると、決まって暴れまくって抵抗して。それでいて、たまに気まぐれを起こした時にだけ、自分からすり寄ってくる。 するりと、しなやかに。こちらが接近に気がつきもしないうちに、足音も立てずに寄り添ってくる。まるで、こここそが自分の居場所と言わんばかりの自然さで。 自分からは何もしないくせに、こちらに奉仕させて当然と言わんばかりの傲慢さ――だが、そんな仕草さえ愛らしく見えるのが猫というものだ。 (猫の真似なんて、させなきゃよかったかな) 普段はあれだけ強情なポップは、気持ちがいいかと尋ねても、素直に答えたためしがない。だが、今回は猫の鳴き声でいいと言ったせいか、驚くほど従順だった。 ポップ的には、猫の鳴き声に意味なんか無いと適当に鳴いていただけだったのかもしれない。意味のある言葉を口にするより、よっぽど気が楽だったのだろう。 だが――言葉を持たない怪物とさえ意思疎通ができるダイにとっては、他の生き物を真似た鳴き声であっても、全く違う意味に聞こえた。 ――気持ちがいい。おまえの手が、一番気持ちがいい。 ――もっとだよ。もっと、触って。 ダイにとっては、そう、声に出してねだられた続けたようなものだ。甘くねだるポップの素直さに、ダイは抗えなかった。自分の欲を解き放つことよりも、ポップを気持ちよくさせることを優先させずにはいられなかった。 たとえ、ポップが『自分』ではなく『ダイ』に甘えているだけだと分かっていても、それでも構わないと思えるほど、幸せな気分だった。
いつものように腕の中にポップを宝物のように抱きしめ、ダイは『自分』のベッドに横たわっていた。今のポップは、きちんとパジャマを着ている。身体もきれいにしたし、たっぷり楽しんだ玩具もきちんと片付けた。 今のポップの姿を見て、ほんの少し前までの淫乱さを感じ取れる者はいないだろう。 昏々と眠るポップとは対照的に、ダイは寝入りそうな自分を叱咤しつつ、少しでも眠りにつく瞬間を遅らせようとしていた。 猫じゃなくて、自分を見て欲しい――そんな一言さえ言うことが出来ない、臆病な『自分』に。本当はポップに惹かれているくせに、それを認めようもしない『自分』に。 しかし、そんな風に『自分』を責めながら、『ダイ』は自覚していた。 猫よりもポップが欲しいと、言う代わりに強引に手を出した。身体だけでも、手に入れようとして。 だが――それでも、『ダイ』は幸せだった。
や、やっと書き終わりましたっ、紅目ダイの「猫で遊ぼう 5」をっ。 難産だった……というわけでもなく、じ、実は……このお話を書いていたことを、コロッと忘れていたんですーーっ。 基本的に筆者は、シリーズ物は好き放題に時間をかけますが、連載作品はは必ず仕上げる方向性で書いていますし、それが密かな自慢だったりするのですが、書いている最中なのをコロッと忘れていた作品があったとは(笑) 久々に小説フォルダをチェックしていたら、書きかけの「猫で遊ぼう5」を発見して青ざめましたとも。う、うわー、前回の話で止めたっきりの作品に対して、催促一つしなかった閲覧者のみなさまの寛大さに頭が下がる思いです。 す、すみませんでしたっ(スライディング土下座)
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