『VS酒樽』  タオル星人様作

 皆さん、こんばんわ。今夜の異酒格闘技戦、通称『VS酒樽』はロモス南部、魔の森よりお送りいたします。解説はおなじみ、パプニカのバダックさんです。バダックさん、今夜もよろしくお願いします。

「こんばんわ。こちらこそ、よろしくですじゃ。」

 ここは魔の森、魔法のランプの光に誘われて酒好きな男たちが寄ってきます。さて、今夜の主役は先週、無表情で呑みに呑んだ『青い酒樽』陸戦騎ラーハルト!

「先週の呑みっぷりは見事じゃった。ワシの若い頃は・・・、」

 おぉっとぉ、闇に紛れてやって来ました、『青い酒樽』なんと!傍らには世界を救った小さな勇者、ダイを引き連れています。いや、勇者の後から付いてきているようです。情報によると青い酒樽、勇者ダイの部下だそうです。部下の晴れ姿に勇者も誇らしいことでしょう。ねぇ、バダックさん。

「いや、そんなこと、誰でも知っとる。」

「ダイ様。ここはあなた様のような方がいらっしゃる場所ではありません。」

 ラーハルト、困惑しております。勇者ダイはまだ14歳、未成年です。未成年を連れて飲酒、というのもいかがなものでしょうか?

「だって、心配なんだ。魔の森で『いしゅかくとうぎ』なんて。」

「ただの酒の呑み比べです。どんな奴が来るか分かりません。私から離れないでください。」

 やれやれとため息をつき、ラーハルトはテーブルの端の椅子をひいて腰掛けます。隣にダイも座ります。さぁ、対戦相手は誰だ!なお、今夜のお酒はパプニカ産のワインです。大魔王のちょっかいもありましたが、葡萄が豊作の年でした。めいっぱい呑んでください!

「パプニカのワインは最高ですじゃ。そもそも・・・。」

 うわぁ、地震です。ロモスの森が揺れています。ズシン、ズシンという地響きも起こっています。何だぁ?いや、地震ではありません。巨大なリザードマンです。元獣王クロコダインが現れました!最初の挑戦者は獣王クロコダインだぁ!ラーハルト、この体格差のある相手とどう戦う?見物です!

 クロコダインとラーハルト、しばらくの間睨み合っています。沈黙を破ったのはクロコダインです。

「ラーハルト、久しいな。元気そうではないか?」

「見ての通りだ。今はダイ様と旅をしている。」

「今夜は無料(ただ)で酒が飲めるイベントがあると聞いたから寄ってみたのだが・・・。」

 ラーハルト、嘲るようににやりと笑っております。一触即発の空気が漂ってきます。

「お前も騙されたな?」

「騙された?」

「そうだ、オレも同じ謳い文句に騙されてこのザマだ。」

おや?久しぶりの再会のようですが、水を差すように給仕が現れたぁ。

「おつまみ、何になさいますか?」

「「いらん!」」

「おれ、唐揚げが食べたいな。」

 おぉ、勇者の好物は唐揚げのようです。給仕が笑顔を浮かべ、下がっていきました。体格差のハンデを埋めるため、クロコダインは一樽を一杯と計算いたします。さぁ、時間無制限一本勝負、どちらが多く呑むか・・・勝負!

 2人はグラスと樽を軽く合わせて呑み始めました。クロコダインが目を細めています。

「美味いな・・・。」

「当ったり前じゃ!パプニカのワインは世界一!クロコダイン、いっぱい呑んでくれ!」

「おぅ、じいさん、ありがとう!」

 クロコダイン、一樽を一気にぐいっと空け、息をつき、満足そうな笑みを浮かべています。

「パプニカのワインは絶品だな。まさに『大地の恵み』だ。」

 おぉーーーっと、何とも詩的な表現を繰り出す元獣王。いいですねぇ、バダックさん。

「おぉ、さすが我が友クロコダイン、違いが分かるよのう。」

 おや、元獣王、樽を置いて徐に立ち上がりました。

「ここで仕舞いだ。明日、ロモスに国賓が来る。国王に恥をかかすわけにはいかん。バダック殿、美味かったぞ。ありがとう!」

 クロコダイン、バダックさんに一声かけて立ち去っていきました。何とも紳士です!明日はロモス城外での警備の任務だそうです。いやぁ、バダックさん、あっさりした勝負でしたね。

「クロコダインはただ酒を楽しみに来ただけのような気が・・・。」

 あ〜〜〜〜っと我々がしゃべくってる間に次の挑戦者がやって参りました。美しい!月の光がそのまま人の形になったような美しい男性です。

「ヒュンケルじゃないか?」

おや、バダックさん、お知り合いですか?

「何をおっしゃる?このお方は大勇者アバン様の一番弟子、闘志の使徒のヒュンケルじゃよ。」

 ため息をついた青い酒樽、向かい側に座るヒュンケルを睨みつけております。

「お前もか?」

「たまには無料(ただ)でうまい酒を飲みたくてな。」

 ・・・何だかせこい理由ですが、ここに集まる漢(おとこ)たちには理由などありません!あるのは酒が飲みたい!この欲求だけ!ヒュンケルがラーハルトの隣に座っている勇者に優しい視線を向けます。あぁ、この視線は少年じゃなく、女性に向けた方がいいと思いますが・・・。

「ダイ、久しぶりだな。旅はどうだ?」

「うん、楽しいよ。時々こうして美味しいゴハンも食べられるし。ヒュンケルは今、一人なの?」

「ああ。」

「じゃ、おれ達と一緒に行かない?」

「それもいいかもな・・・。」

 何とも罪作りな微笑を浮かべています。 だから、その微笑みは世の女性たちに向けなさいってば。
 おや、ラーハルトがジョッキを二つ持ち出した。一つは自分の前に、一つはヒュンケルの前に置いてます。グラスでは足りないとばかりに、二つのジョッキにワインを注ぎ始めた〜〜〜〜〜〜!何という掟破りな!

「飲め。格好をつける必要もあるまい。」

 二人はジョッキを合わせ、一気にあおります。

「うわ、ワインはそうやって飲むものではない。罰当たりどもめが。」

 バダックさん、具合悪そうに頭を抱えております。『大地の恵み』を惜しげもなく胃袋に流し込んでおります。まるで、酒ガメの中に首を突っ込んでぐびぐび飲んでいる八又の大蛇(やまたのおろち)のようです!おぉっと二杯目もほぼ同時に飲み干しております!二人の戦士の肝臓は一体どうなってしまうのかぁ〜〜〜〜〜〜!

 それにしてもラーハルトの傍らの槍が気になります。槍自体が凄まじい気を発しているようですが、呪われているわけではないですよね?

「ああ、奴の槍は、『鎧の魔槍』といって魔界の名工、ロン・ベルク殿が作ったものなのじゃ。ラーハルトは一旦死んでいた時期があってな、その間、ヒュンケルが奴の槍を使っ
ていたのじゃよ。」

 ちょ、ちょっと待って下さい。一旦死んでいたってどういうことですか?

「話すと長くなるからいいじゃろ?あの槍は二人にとっても互いの想いを託し合った唯一無二の武器なのじゃ。」
 いや、ですからラーハルトは何故生き返ったのですか?蘇生呪文?教会への寄付?どちらですか?

「だから、話すと長くなる、といったじゃろ?ほれ、我々がくっちゃべっている間に奴らは既に二杯飲みおったぞ。『大地の恵み』に感謝しとるのじゃろうか?」

 それにしても、顔色一つ変わっておりません。まさにウワバミです。

「久し振りにどうだ?」

 どういう事なのでしょう?ラーハルトは槍をちらつかせて不敵に笑っております。

「望むところだ。」

 ヒュンケルが応じました。凄まじい気が沸き起こっています。あぁ、これが「闘気」なのですね。二人がふらりと立ち上がります。

「あー、いかん。今夜は『異酒格闘技戦』じゃ。武器での決闘は禁じているはず。」

 何と、この二人は、あれだけ酒を飲んでいるにもかかわらず、戦いを始めようとしてるようです。血気盛んな若者と言えば若者らしいが、よろしくないです。今夜は酒で勝負です。ラーハルト、舌打ちして再び座ります。

「ヒュンケル、何やってるの?」

 お〜〜〜〜っ!予想外の闖入者!アバンの使徒、慈愛の天使マァム!どこで「異酒格闘技戦」の噂を聞きつけたのでしょう?女人禁制のこの場に可憐な乙女が現れました。どうやらヒュンケルを連れ戻しに来たようです。

「私の家が近くにあるの。こんな所でお酒飲んでないで帰るわよ!ダイも!旅の途中とはいえ、夜更かしは駄目よ。」

 慈愛の天使がヒュンケルの腕を無理矢理ひっつかみ、連行して行きました。何なんでしょう、今の。百戦錬磨の戦士が有無を言わされず連れて行かれましたよ。止めなくていいんですか?とりあえず、今の勝負、ラーハルトの勝利、ということにはなりますが・・・。何とも間の抜けた闘いです。まるで、気の抜けたビールであります。さて、次の挑戦者は現れるのでしょうか?

 おっと、勇者ダイ、青い酒樽・・・いえ、陸戦騎ラーハルト、同時に席を立ったぞ。ダイは背中に背負った剣の柄を握りしめている。ラーハルトは槍を構えている。剣呑とした雰囲気がそこら中にたちこめています!一体何が起こっているのか?あ〜〜〜〜っ!何と、何と!勇者ダイが倒したはずの大魔王バーンが音もなく現れた〜〜〜〜〜〜!

「そう、いきり立つな。余もたまには何もかも忘れ、息を抜きたいときもある。」

 大魔王バーン、私も初めてお目にかかりました。ぱっと見は年老いた魔族のようでもあります。しかし、しかしっ!周囲を圧倒する気配をびんびんに振りまいております。実は私も逃げ出したい位ですが、そこは押しとどまって最後まで実況を続けたいと思います。

「オレは大魔王とテーブルを共にする気はない。ダイ様、まいりましょう。」

 おぉ、ラーハルト、勇者ダイを促し、立ち去ろうとします。ついにリタイアするのか?

「え?ちょっと待って。おれ、まだごはん食べ終わってないよ。『出されたものは残さず食べましょう』って言ってるのラーハルトじゃないか?」

 勇者ダイの申し出にラーハルト、ぐっとつまっております。ジョッキにワインが残っています。青い酒樽、ジョッキを握りしめ、残ったワインを一気にあおります。

「・・・これでよいのですか?」

「うん、でも、おれもう少し食べたいな。ラーハルトは飲んでていいよ。あのー、次はピザが食べたいな。」

 給仕の男がはい、喜んで、と満面の笑みを浮かべて応えました。よっぽど暇だったんでしょう。

「ふふふ・・・。ラーハルトよ。お前の主はここから離れる気はないらしいぞ。しばらく余に付き合ってもらおうか。」

 不敵に笑う老大魔王。ラーハルトはこめかみをひくひくと引きつらせて椅子に座り直しました。

「次、持ってこい!」

 あー、ヤケはいけません。杯を合わせることなく、二人は呑み合っています。こんな緊張感びりびりの勝負も初めてです。それにしても大魔王バーン、何て美しい動作なんでしょう。無駄のない動きで優雅にグラスを傾けております。ただ、青い酒樽を鼻で笑っているのは若干気になりますが・・・。

 さて、この「VS酒樽」夜の屋外での呑み比べであります。さっきからランプの光に誘われて、漢(おとこ)たちだけではなく、虫たちもふらふらとさまよってきます。あっ、大魔王のグラスに虫が飛び込んできた!しかし、大魔王、眉をわずかにひそめ、静かに声を上げます。

「替わりをもて。」
 残念。おかわりはグラスを空けてから、というルールです。これではリタイアとなります。

「何だと?」

 この場の空気が一気に変わりました。わ、私は知りませんよ。ルールですから、ルール。
わ〜〜〜〜〜〜!勇者ダイ様、何とかしてください。のんきにピザを食べてる場合ではないですってば!

「おい、ダイ、何やってんだよ。こんな所でメシ食ってんじゃないぞ!」

 何と、この空気を砕いたのは大魔道士ポップ!トレードマークの黄色いバンダナがまぶしく見えます。以前、酒場に入ってラーハルトとヒュンケルを翻弄させたという『言霊使い』ポップ!しかし、彼は未成年です。いけません。飲酒はオトナになってから〜〜〜〜!

「ポップ?どうしたの?お酒、飲みに来たの?」

「ちが〜〜〜う!お前を捜しに来たんだ。突然『ラーハルトと旅に出る』って書き残していなくなって。姫さんも心配してるし、おれの仕事は増えるし。そんな事、今はどうでもいい!」

 大魔道士ポップ、何やらいきり立っています。何があったんでしょうか?地上の危機?まさか、そんなことは・・・。

「マァムの家に行くぞ。マァムとヒュンケルが二人きりなんだぜ。こればっかりは許せない!」

「・・・竜(ドラゴン)に、いや、馬に蹴られて死ぬぞ。」

 おや、ラーハルト、得意の諺を間違えています。ちょっと酔っぱらってきてますか?

「ラーハルト、お前も来い、ヒュンケルを酔いつぶしてくれ。」

 大魔道士ポップ、ものすごい勢いで二人を急かしています。ポップはダイの手を取り、ラーハルトは・・・あ〜〜〜〜〜っ!酒樽を担いで強奪しようとしている!

「貰っていくぞ。どうせ無料(ただ)だろ?」

 二人の少年の後を付いて青い酒樽が退場して行きます。もう、これはリタイアといっていいですね。バダックさん。

「そうじゃの〜、最後まで罰当たりな呑み方をしおって・・・。新しい『酒樽』は・・・。」

 残されたのは、しかめ面・・・いえいえ、渋面を浮かべた大魔王!たった一杯で今週の『酒樽』に輝きました。おめでとうございます。大魔王バーン・・・様。

「やはり地上は滅ぼさねばならぬ。くだらん。」

 物騒な言葉を残し、大魔王が去って行きます。来週はどうなる?「VS酒樽」は開催されるのか?何やら不穏な空気をはらみ、今週の異酒格闘技戦、「VS酒樽」はロモス南部の魔の森よりお送りしました。解説、ワイン提供のバダックさん、今夜はありがとうございました。

「ふぅ、もう、懲り懲りじゃよ。」

 また、来週お会いしましょう。皆様、ごきげんよう、さようなら。

                                                         おしまい


 タオル星人様から頂いた、素敵SSです!

 ラーハルトをメインにした、楽しくも愉快な漢達の酒飲み合戦! 天然勇者様に、礼儀正しいワニ男、全メンバー中でトップの描写褒めが目立つ不幸剣士や、お節介聖母娘、ヘタレ大魔道士に、更には死んだはずだよ大魔王まで登場するという、実に豪華なメンバーでの楽しい飲み比べ♪ せっかく平和になったのだから、戦いなどよりこんな風に皆でワイワイ楽しんで貰いたいものですね。揃いも揃って酒豪というイメージがあるキャラがこれだけ揃うと、圧巻でしたv

 主要メンバーだけでなく、バダックさんととある某有名プロレス実況者様をモデルにした実況の名脇役っぷりがツボです♪ でも、毎週、こんな飲み比べをしたら、あっと言う間にパプニカ城の酒蔵が空っぽになりそうですね(笑)

 


 ◇神棚部屋に戻る

inserted by FC2 system